2021年のレースを振り返る、その3。注目された若手や意外な活躍を見せた中堅など。大きく飛躍し、今季も活躍が期待される選手たちをピックアップ。彼らはまだ発展途上。これから主役になる可能性は十分。覚えておいて損はない。長すぎる文章は控えようと思ってるんだが、また長くなっちゃった。笑 あれだな、「主な成績」が文字数食ってるんだな(たぶんそれだけじゃない)。それでも読んでもらえると嬉しいです。
※年齢と所属チームは2021年12月時点。成績は20位以内のレースを中心にピックアップ。
ソンニ・コルブレッリ
★UCIランク106位 → 6位
パリ〜ルーベ初優勝。ゴール後の歓喜の姿は2021年のベスト級。
ニューフェイスという言い方は相応しくないが「覚醒した」と言えるだろう。スプリンターでありながら集団スプリントではそれほど勝てない、登れる「中堅スプリンター」という印象を大きく変えた。2020年はカテゴリーが下のクラスで1勝しただけ。ツールではポイント賞は72位。クラシックレースも5つ出場して最高位は47位。それが2021年はモニュメントを含む8勝だ。秋は主役の一人だった。
6月にイタリア王者のジャージを着てからが特に凄かった。直後のツールで驚いたのが、クライマーに引けを取らない「登坂能力」。第9ステージはポガチャルやカラパスらが付いていけない先頭集団に入り3位。あれ?コルブレッリってクライマーだったっけ?明らかに今までと違う凄みを感じた。その勢いは増し、ベネルクスツアーではなんとステージレースで総合優勝。スプリンターという括りから完全に逸脱した。欧州選手権は、全員を置き去りにしようとするレムコのアタックに唯一最後までくらいつき、最後はスプリントで貫禄の勝利。イタリア王者の上に欧州王者のジャージを着ることになった。世界選手権でも10位ではあったが終盤まで存在感を発揮していた。
そしてシーズンの白眉は、悪天候で文字通り地獄と化した『パリ〜ルーベ』だろう。ファンデルプールが繰り返すアタックにプロトンは破壊されファンアールトでさえ遅れた展開で、やはりコルブレッリはしつこくついていく。フェルメールシュと3人でもつれるようにゴールのヴェロドロームに入った時、コルブレッリは勝利を確認していたに違いない。あの歓喜の姿は見てる方も込み上げるものがあった。★勝者の歓喜の雄叫びとごろごろ(笑)はこちら。多くのビッグポイントを稼ぎ、最終的にUCIランクは6位まであがった。スプリントではない勝ち方を覚えたシーズン。この調子が保てれば、2022年のクラシックは優勝候補の一角だ。
◆2021年の主な成績
・ミラノサンレモ 8位
・ヘントウエルヘルム 4位
・ツール・ド・ロマンディ ポイント賞1位/ステージ1勝(第2ステージ)
・クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ ポイント賞1位/ステージ1勝(第3ステージ)
・イタリア国内選手権RR 優勝
・ツール・ド・フランス ポイント賞3位
・ベネルクス・ツアー 総合優勝&ステージ1勝(第6ステージ)
・欧州選手権RR 優勝
・世界選手権RR 10位
・パリ〜ルーベ 優勝
ヨナス・ヴィンゲゴー
★UCIランク327位 → 18位
ツールでの総合2位の成績はもちろん、山岳で唯一ポガチャルを置き去りにしたのは衝撃的。
2019年、プロデビューした一年目にポローニュでワールドツアー初優勝。2020年はブエルタでグランツールデビューし、ログリッチの連覇に貢献した。順調にステップアップしていく若者には、2021年春先から飛躍の兆しはあった。開幕戦のUAEツアー第5ステージ、ポガチャルに先行して優勝。続くイツリア・バスクカントリーでは、ログリッチに次ぐ総合2位。その順位はポガチャルを上まわっていた。ポガチャルはヴィンゲゴーを要注意人物として記憶していたかもしれない。
そしてツールでは総合2位でパリの表彰台にあがった。ログリッチのリタイア後、チームのエースとして堂々と走りきり、総合3位のカラパスに2分近い差をつけた。中でもふたつのステージはヴィンデゴーのポテンシャルを象徴する。第11ステージの超級山岳『魔の山』モンヴァントゥーの登りでポガチャルを置き去りにした。山頂を通過するときに40秒も離したのは衝撃的な出来事。★ポガチャルを置き去りにしたシーンはこちら。第20ステージのTTでは、ポガチャルはもちろん、欧州王者のキュングやビッセガーを上回る3位。ポガチャルを倒す可能性を示すには十分だろう。これで総合エースとしてチーム内の序列は、ログリッチに次ぐ2番手になったと思われる。ジョージ・ベネットは去り、クス、クライスヴァイク、デュムランも抜いた。何よりTTの速さが強味だ。
2022年は1月早々に、ツールへ出場予定とチームから発表された。ログリッチとダブルエースで。今年のツールはデンマークで開幕する。彼の故郷だ。やる気に漲っているはずだ。これからはどこのチームにもマークされる存在。彼も望むところだろう。
◆2021年の主な成績
・USEツアー 総合46位/ステージ1勝(第5ステージ)
・コッピ・エ・バルテッリ 総合優勝/ステージ2勝(第3・5ステージ)
・イツリア・バスクカントリー 総合2位/ヤングライダー1位
・ツール・ド・フランス 総合2位/ヤングライダー2位(一桁フィニッシュ7回)
・ジロ・デッミリア 12位
・イル・ロンバルディア 14位
トム・ピドコック
(22歳/イギリス/イネオス・グレナディアーズ)
★UCIランク480位 → 33位
オリンピックでの金メダル。シクロクロス界からの3人目の男はMTBで頂点に立った。
三人目のシクロクロスからの刺客。ロードレース界で大暴れする怪物二人に続く存在の選手、そんな印象だった。イネオスと契約したルーキー(イネオスと契約するルーキーはほぼ優秀)。しかも最近のトレンドであるU23を飛ばす才能。とはいえまだ若いし、あと数年したら面白い選手になるのかな、なんて思っていたらいきなり飛ばした。
大物選手が数多く出場したストレーデビアンケで5位。未舗装路の多い道はシクロクロッサーには追い風だったようだ。期待が高まる中、サンレモからフランデレンに続くクラシックレースはそれほど上位に絡めず、苦労も見える。と思っていたら、またやってくれた。
アルデンヌクラシックの前哨戦ブラバンツ・ペイル。石畳で有力選手たちが振り落とされる中、残り27kmからトレンティンが単独アタック。ピドコックはファンアールトとともに追走を始め先頭は3人に。ゴール前、スプリントをはじめたファンアールトにトレンティンはついていけない。ところがファンアールトを抜いて先にゴールしたのはピドコック!これがエリートカテゴリーでの初勝利。
すぐ後のアムステルゴールドレースも衝撃的だった。僅差でファンアールトに敗れたが、その差はわずか数ミリ、時間にして0.01秒。こんなに僅差のゴールは初めて見たし、ファンアールトにスプリントで勝負できることが驚きだった。★アムステルゴールドレースのゴールシーン。
MTBで出場した東京オリンピックでは見事金メダル。彼の才能に疑いはない。現在行われているシクロクロスでも好成績をあげている。ブエルタではステージレースへの適性はあまり見られず、基本的にはクラシック中心になっていくだろう。ワンデーレースではいまひとつ強さが感じにくいイネオスでは重要な戦力。
◆2021年の主な成績(シクロクロス含まず)
・ストレーデビアンケ 5位
・ミラノ〜サンレモ 15位 ・E3サキソバンククラシック 25位
・ドワーズ・ドール・フラーンデレン 43位 ・ロンド・ファン・フラーンデレン 41位
・ブラバンツ・ペイル 優勝
・アムステルゴールドレース 2位
・フレッシュ・ワロンヌ 6位
・ブエルタ・ア・エスパーニャ 総合67位
・世界選手権RR 6位
イーサン・ヘイター
(23歳/イギリス/イネオス・グレナディアーズ)
★UCIランク128位 → 28位
ツアー・オブ・ブリテンではファンアールトと真っ向勝負。総合優勝を僅差で争った。
イネオスに所属して2年目、実質初年度といっていい。一気に開花したオールラウンダー。ロードレースで実に9勝をあげた。イギリス代表クラスのトラックレーサーという顔も持つ。東京オリンピックではトラックレースで出場し、マディソンで銀メダルを獲得。秋にルーベで行われたトラック世界選手権ではオムニアムで金メダル。走力に関してはすでに文句無しにトップクラスの力量だろう。弱点の少ない脚質は、様々なレースで勝つ力があり、常勝軍団イネオスの中でも、すでに1軍メンバーとして十分な戦力であることを証明できただろう。
総合系のエースが乱立するイネオスの中で、ステージレースを6つも走っていて、ノルウエーでは総合優勝、うち5つで総合一桁でフィニッシュしだ。ツアー・オブ・ブリテンは総合優勝したファンアールトと僅差の2位。ファンアールトに果敢にスプリント勝負を仕掛ける活きの良さも好印象。レースの特性でいうと一番得意なのはTTだが、激坂も登り、石畳も難なくこなし、スプリントでも勝負できる。登坂力と長期間のステージレースをこなす経験値を身につけたら、一気にイネオスの総合系ライダーのエースになりうる存在かもしれない。地元イギリス出身というのも、Gトーマスの後釜としてイネオスには魅力があるはず。
余談だが、2つ年下の弟レオ・ヘイターはチームDSMのユースにいて、2021年はU23カテゴリーで3勝し、イギリス国内選手権で8位に入っている。兄弟ともに次代の有望な選手。
◆2021年の主な成績
・コッピ・エ・バルテッリ 総合4位/ステージ1勝(第4ステージ)
・ドワーズ・ドール・フラーンデレン 11位 ・ロンド・ファン・フラーンデレン 54位
・ボルタ・ア・アルガルベ 総合2位/ステージ1勝(第2ステージ)
・ブエルタ・ア・アンダルシア 総合7位/ステージ2勝(第2・5ステージ)
・東京オリンピック チームパシュート 7位/マディソン 銀メダル(トラック)
・ツアー・オブ・ノルウェー 総合優勝/ステージ2勝(第1・2ステージ)
・ブルターニュ・クラシック 4位
・ツアー・オブ・ブリテン 総合2位/ステージ2勝(第3・5ステージ)
・世界選手権TT 8位/RR 35位
・イギリス国内選手権TT 優勝/Crit 優勝/RR 3位
・トラック世界選手権 チームパシュート 3位/オムニアム 優勝/マディソン 4位(トラック)
マティ・モホリッチ
★UCIランク86位 → 12位
スロベニアチャンピオンジャージでツール2勝。喜びの涙は印象深い。
2020年も強い選手だとは思っていた。いや、強かった。優勝こそなかったもののリエージュの4位やストラーデビアンケやミラノ〜サンレモでも上位に絡むような、それなりの存在感はあった。そもそもジュニア次代とU23のカテゴリーで世界王者になっているのだ。2021年は4勝をあげた。うちワールドツアーは2勝のスロベニア王者だ。またしてもトップクラスの選手が出てくる、なんなんだスロベニア。笑
それでも一皮むけたと感じるシーズンだった。春のクラシックを10位前後でこなし、調子の良さを感じさせながら挑んだジロ。第9ステージの下り途中で回転し、頭から地面に落ちる。幸い軽い脳震盪で済んだがリタイアとなる。あわや悲劇かと感じる衝撃的なシーンだった。その後の活躍は見事だった。スロベニア王者になった後、ツールで2勝。どちらも鮮やかに逃げきった勝利。そのタイミングの良さと勢いに磨きがかかっている。欧州選手権、世界選手権も20位以内で終え、地力と安定感を感じさせる。UCIランクも12位まで上げた。世界ランクの12位までに3人もスロベニア人がいる。羨ましいぞスロベニア。笑 2022年は、チームメイトのコルブレッリとともにクラシック戦線では大暴れしてほしい。
◆2021年の主な成績
・トロフェオ・ライグエリア 16位
・ストレーデビアンケ 56位
・ミラノサンレモ 11位
・アムステルゴールドレース 9位
・リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ 10位
・ジロ・デ・イタリア(DNF)
・スロベニア・ツアー/ポイント賞
・スロベニア国内選手権RR 優勝
・ツール・ド・フランス 総合31位/ステージ2勝(第7・19ステージ)
・ツール・デ・ポローニュ 総合2位
・ベネルクス・ツアー 総合2位/ステージ1勝(第7ステージ)
・欧州選手権RR 13位
・世界選手権RR 14位
マイケル・ストーラー
(24歳/オーストラリア/チームDSM)
★UCIランク380位 → 121位
ブエルタでのステージ優勝。2度続けばそれは「まぐれ」じゃない。
少年のようなあどけない顔をしている。パッと見はティーンエイジャーのようだ。ブエルタ第7ステージでフラフラになりながら逃げ切った。★ゴール後フラフラのストーラーはこちら。ワールドツアー初勝利がグランツール。面白い若手の選手だなと思っていたら、すぐにまさかの2勝目もあげた。しかもエースのロマン・バルデを押しのけて山岳賞まで手に入れた。興味を持って調べてみると、ブエルタの前のツール・ド・ランが久しぶりの優勝。それは4年前にユースで2勝して以来だったらしい。全然パッとしない選手だったのである。一度勝ち方を覚えると急に強くなる選手がいる。何度もアタックを繰り返す“若さ”溢れる走り方と、登坂力を備えた独走力。ちょっと放っとけないような守ってあげないといけないような雰囲気があるのだ。笑
2022年はグルパマFDJに移籍した。チームからは早速ツールのメンバーに選ばれたことで期待の高さがわかる。どんな役割を課せられて、彼がどう答えるのか、楽しみである。補足としてグルパマのツールメンバーは、ピノ、ゴデュ、マディアス、キュングとストーラー。
◆2021年の主な成績
・ボルタ・ア・カタルーニャ 総合57位
・ジロ・デ・イタリア 総合31位
・ツール・ド・ラン 総合優勝/ステージ1勝(第3ステージ)
・ブエルタ・ア・エスパーニャ 総合40位/山岳賞/ステージ2勝(第7・10ステージ)
・ミラノ〜トリノ 15位
・イル・ロンバルディア 25位