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ロードレース観戦ガイドのブログ

【2022】有終のレジェンドたち。

 

2022年の展望、その2。今年はかなり特別な年になるだろう。これほどのレジェンドクラスがいっぺんにラストシーズンになったことは、過去になかったんじゃないだろうか。2022年は、それほどの特別な一年になる。彼らの走る姿を見逃してはいけない。

紹介するのは長い間レースの第一線で活躍を続けてきて、今年が最後になる選手たち。100年以上にわたるロードレースの歴史上の名選手と比較して遜色ないその偉大な成績。どうぞ彼らの走りを目に焼き付けてください。そして彼らが無事に一年走りきってくれることを願って。

※年齢と所属チームは2022年1月時点。成績は優勝した主なレース中心に。赤文字はグランツールとモニュメントと世界選手権。

 

 

アレハンドロ・バルベルデ

(41歳/スペイン/モビスター チーム)

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37歳の時に掴んだ待望のアルカンシェル。4連覇を阻止されたサガンが握手をしてきた。

◆主な成績

UCIランク11位(2021年)/通算138勝/オールタイムランキング7位

世界選手権RR:2018年優勝、2003年・2005年2位、2006年・2012年・2013年・2014年3位

UCIワールドツアー:2006年・2008年・2014年・2015年総合首位

ジロ・デ・イタリア:2016年総合3位、区間通算1勝

ツール・ド・フランス:2015年総合3位、区間通算4勝

ブエルタ・ア・エスパーニャ:2003年総合3位&複合賞、2006年・2019年総合2位、2009年総合優勝&複合賞、2012年総合2位&ポイント賞&複合賞、2013年総合3位&ポイント賞、2014年総合3位、2015年ポイント賞、2018年ポイント賞、区間通算12勝

リエージュ~バストーニュ~リエージュ優勝:2006年・2008年・2015年・2017年

フレッシュ・ワロンヌ優勝:2006年・2014年・2015年・2016年・2017年

クラシカ・サンセバスチャン優勝:2008年・2014年

クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ総合優勝:2008年・2009年

バスク一周優勝:2017年

ブエルタ・ア・ブルゴス総合優勝:2004年・2009年

ブエルタ・ア・アンダルシア総合優勝:2012年・2013年・2014年・2016年・2017年

スペイン選手権RR優勝2008年・2015年・2019年

スペイン選手権個人タイムトライアル優勝:2014年

グランプレミオ・ミゲル・インデュライン優勝:2021年

 

まず、この壮大な成績に驚く。偉大なるレジェンド。積み上げてきた成績は史上最高クラス。グランツールは20回トップ10フィニッシュし、うち9回は表彰台だ(7回は特にこだわる地元のブエルタの表彰台)。世界選手権だって7回表彰台に上っている。ステージレースに強さを発揮するオールラウンダーな選手ながら、ワンデーレースでも上位に入る力もあるので、世界ランクは年間1位に4度もなっている。長年レースに出続けて且つ入賞し続ける。つまりタフである。現在ワールドチームでは最年長で、4月には42歳。驚くのはこの年齢でトップクラスの成績を上げていること。2021年のUCI世界ランクは11位。こんな選手は再び現れることはあるだろうか。しかもアップダウンコースの激坂でのパンチ力はいまだに衰えず、クラシックレースでも勝利を重ねた。中でも「ユイの壁」で有名なフレッシュ・ワロンヌでは4連覇を含む5勝。2021年も3位に入っている。今年も優勝を狙える力は十分だ。

それにしても、この年齢で見せる強さは異常だ。体力の限界まで挑戦するこの競技では、一般的には30歳前後が選手として一番強い時期だと言われる。30歳を過ぎると深まる経験値に反比例して体力は徐々に落ちていく。一瞬の判断力が遅れて落車をしたり、ステージレースでは後半に体力が続かないなど、選手としての衰えが出てくるものだ。もちろん本人はかつての力はないと感じているのだろう。2021年がラストシーズンになると宣言していたが、年末に撤回。ブエルタでの下り坂で路面の割れ目にタイヤを取られて崖下に転落、鎖骨骨折してリタイアした。逆にそこで発奮したのかもしれない。その10日後にはトレーニングでバイクにまたがる姿をSNSで見せてくれた。DNFでキャリアにピリオドを打つような不完全燃焼は許せなかったに違いない。そういう意味ではあの事故はファンとしては歓迎である。

ここ数年は「若手を育てたい」とも常に語っていて、エースよりもサポートするようなレースが増えていた。チーム内では同じスペイン人のマスたちへの期待が見える。マスは昨季ツールで総合6位、ブエルタで総合2位。バルベルデの後方支援は確実に身を結んでいる。「2022年は本当に最後になる」と宣言したバルベルデ。現状ではクラシックとジロ、ブエルタを出場予定とのこと。特に地元ブエルタでのラストランは熱くなるはずだ。グランツールの総合優勝は厳しくても、ステージ優勝なら余裕で狙える。何しろ今季のシーズンがはじまったばかりなのに、もう優勝してしまった。主要選手は少ないとはいえ、その調子の良さは今季の活躍を十分期待させる。

個人的な一番の思い出は2018年のさいたまクリテリウム優勝。アルカンシェル姿で目の前を駆け抜けたバルベルデは、僕の記憶に鮮烈に残っているし、これからも薄れることはないだろう。

 

 

 

◎ヴィンツェンツィオ・ニバリ

(37歳/イタリア/トレック・セガフレード→アスタナ・カザフスタン

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すべてのグランツールを制した男だが、ニバリにはやっぱりジロが一番似合う。

◆主な成績

UCIランク135位(2021年)/通算53勝/オールタイムランキング35位

ジロ・デ・イタリア:2013年・2016年総合優勝、2019年総合2位、区間通算7勝

ツール・ド・フランス:2014年総合優勝、区間通算6勝

ブエルタ・ア・エスパーニャ:2010年総合優勝、区間通算3勝

イル・ロンバルディア優勝:2015年・2017年

ミラノ~サンレモ優勝:2018年

ティレーノ~アドリアティコ総合優勝:2012年・2013年

イタリア選手権RR優勝:2014年・2015年

ジロ・デ・シチリア総合優勝:2021年

 

グランツール制覇。これだけで彼の偉大さを表すには十分かもしれない。現役では二人、過去をさかのぼってもニバリを含めてたったの7人しかいない。ステージ優勝をひとつするだけでも栄誉と言われるグランツールでは16回ステージ優勝し、総合トップ10以内に15回入っている。特に地元であるジロには強くて表彰台に6回も上っている。もうひとつ特筆すべき成績は、モニュメントでも3勝していること。大舞台に強いのはスーパースターの証拠だ。そういえば、上記の成績に記載しているロンバルディアもサンレモも、ティレーノもシチリアも全てイタリアのレースだ。熱狂的なロードレースファンが多いイタリアで人気が高い理由がわかる。

メッシーナの鮫」と呼ばれる偉大なライダーは、スリリングなダウンヒルでも有名だ。ニバリはロードの前はMTBをしていた。MTBダウンヒルでテクニックと勇気を身につけたと思われる。時に下りで落車してしまうこともあるが、その勇敢な走り方は見るものを熱くさせる。ニバリの印象的なレースをひとつあげるとすれば、2016年のジロだろうか。終盤にトップから5分近く遅れる総合4位に位置は優勝は厳しいと思われた。しかし、そこから第19・20の二つの難関山岳ステージでタイム差を逆転。二度目のマリアローザを掴んだ。盟友スカルポーニに引かれて奇跡の逆転を果たした二人のドラマはロードレースの素晴らしさを教えてくれるものだ(この二人の話はまた別の機会にしたい)。2021年のジロは直前のレースで落車し腕を骨折しながらもギプスをつけて出場。見事に完走し、10月の地元シチリアのレースでは2年ぶりの優勝をする。ニバリをコールする観客の中で涙を流していた姿に、これほどの選手でもひとつ勝てなくて苦しむことを知り、自転車選手の抱える孤独に胸が痛くなった。

2022年は古巣のアスタナに戻る。チームは大幅に選手を入れ替え心機一転。不安をのぞかせるチームを立て直すには、リーダーシップを備えたニバリの存在と役割は大きい。2017年に新チームを作ったバーレーンにもニバリはエースとして迎えられた。グランツールもモニュメントもバーレーンの初勝利はニバリだった。2021年に飛躍したバーレーンの基盤を作ることにニバリが貢献した役割は大きい。そしてイタリアのレースには愛着もあるし強い。ジロでもう一花咲かせる可能性は十分ある。

個人的な一番の思い出は2018年のさいたまクリテリウムでの勇姿。当時バーレーンのエースとして来日し、終盤残り2周で先頭からユキヤが遅れ始める。そのユキヤを抜きながらアイコンタクトしたニバリは、自滅覚悟で引いてユキヤを先頭まで連れ戻した。日本のレースだからユキヤに花をもたせてくれていた。エースがアシストを引いて優勝を狙わせる姿に、完全に惚れました。

 

 

 

マーク・カヴェンディッシュ

(36歳/イギリス/クイックステップ・アルファヴィニル)

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もう過去の選手だとは言わせない。2021年に4勝し、ツール通算34勝で史上最多に並ぶ。

◆主な成績

UCIランク32位(2021年)/通算156勝/オールタイムランキング27位

世界選手権RR:2011年優勝、2016年2位

ジロ・デ・イタリア:2013年ポイント賞、区間通算15勝

ツール・ド・フランス:2011年・2021年ポイント賞、区間通算34勝

ブエルタ・ア・エスパーニャ:2010年ポイント賞、区間通算3勝

ミラノ~サンレモ優勝:2009年

イギリス選手権ロード優勝:2013年

アブダビ・ツアー ポイント賞:2017年

トラック世界選手権マディソン優勝:2005年・2008年・2016年

リオオリンピックトラックオムニアム銀メダル

 

あだ名は「マン島のミサイル」。歴代でも最強のスプリンターのひとり。決して大柄ではないが、ゴール前を猛烈なスピードでつんのめるような低姿勢で突き進む姿からミサイルと称されている。そのトップスピードとコースを嗅ぎ分けるセンスはライバルたちでさえ脱帽していたほど。

カヴのキャリアはトラックレースから始まった。20歳で世界選手権マディソンで優勝。翌年からロードレースも始める。トラックレースでは現在まで3度世界一になっている。ロードで頭角を現したのは23歳で出場した2008年のツール。そこでグランツール初勝利を挙げると4つのステージを勝ち、翌2009年には6つのステージで優勝する圧巻のパフォーマンス。ツール・ド・フランスの最終日に設定されるシャンゼリゼのゴールは全てのスプリンターの憧れと言われるが、カヴはこの年から4年連続で制した。全グランツールでステージ優勝をあげ、ポイント賞を獲得。積み上げたステージ勝利は通算52勝。ロードレース全体での通算156勝も、もちろん現役最多。2016年までのカヴェンディッシュは手がつけられないほどの強さだった。そんな彼が2017年・2018年ともにわずか1勝に終わる。さらに2019・2020年は未勝利。何度も落車し怪我に見舞われたこととエプスタイン・バール・ウイルス感染症を患ったためだった。年齢も30代半ばにさしかかり、往年の爆発的な速さは鳴りを潜め、シーズン最後になるレースはリタイアし、会見で「キャリアを終えるかもしれない」と涙を流した。

そして年が明けた1月、ほとんどのチームが開幕ロースターを発表する中、古巣のクイックステップに加入することが発表された。最後の花道を飾らせてやろうとする親心とも思われたが、契約金は最低額でカヴ自らがスポンサーを見つけてくることが入団の条件だったと報道され驚く。2021年シーズンは若手や2軍選手が走るようなレースから始まった。それでもステージ2位になるなど、復活の可能性を感じさせながら迎えた、4月のツアー・オブ・ターキー。そのレースの主役のひとりはチームメイトのヤコブセンだった。ヤコブセンにとっては生死の境界を彷徨うほどの事故から生還し、はじめて出場するレース。まだ万全ではない体調を徐々にレース仕様にしていくための調整として出場し、プロトンではチームの垣根を越えて暖かく迎えてくれた。そんな後輩の姿を見てカヴの心に火がついたに違いない。第2ステージに力強いスプリントで優勝した。じつに3年ぶりの勝利。レース後に涙交じりで抱き合うカヴとヤコブセン。この時に完全に何かを吹っ切ったのだろう。ここから3連勝し、トルコから4つのステージ優勝を持ち帰った。4年間で2勝しかできなかった選手が1週間で4勝。その後の怒涛の勝利ラッシュ。終わってみれば年間で10勝を挙げた。特にツールでの4つのステージ優勝は、通算で34勝となり、伝説の選手エディ・メルクス御大に並ぶ史上最多タイ記録。ちなみに現役で2番目に多いのがペーター・サガンの12勝と言ったら、その勝利数の偉大さが伝わるだろうか。

2021年は笑顔をよく見せたシーズンでもあった。その延長上の涙も。特にツールではチームメイトやスタッフと勝利後に抱き合う姿と、発射台となるモルコフやデクレルクを護衛隊のように従えて苦手な山岳ステージを一緒にゴールする姿は印象的だった。過去に山岳ステージではタイムアウトになったこともあり、仲間の存在が心強かったことだろう。若い頃は気難しいやんちゃなイメージもあったので、素直に喜びを分かち、感謝を口にすることは彼の成熟を感じさせた。

2022年は、はっきりと引退を口にしてはいないが、おそらく最後のシーズンになるだろう。そもそも2020年で引退する可能性が高かったのだ。今年は通算勝利記録を単独最多に伸ばすためにツールを走りたい気持ちは大きいに違いないが、チームには現在最強のスプリンターのひとりヤコブセンがいる。お互いに一緒にリハビリをして辛い時期を励ましあった二人は、ともに再起した姿を知っているだけに、どちらも応援したくなる。全てを握ってるとも言えるチームGMのルフェーブル氏は「その話は時期尚早」と明言を避けた。つまり、カヴが走る可能性は否定していない。僕はまだ期待している。去年だってカヴがツールを走る姿は想像できなかったのだ。今年も熱くなるドラマが待っているに違いない。

カヴェンディッシュには復活に関する記事も書きました。

jamride.hateblo.jp

 

 

 

フィリップ・ジルベール

(39歳/ベルギー/ロット・スーダル)

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クラシックハンターとして10年前は無敵の選手だった。

◆主な成績

UCIランク168位(2021年)/通算80勝/オールタイムランキング28位

UCIワールドツアー:2011年総合首位

世界選手権RR:2012年優勝

ジロ・デ・イタリア:2015年総合敢闘賞、区間通算3勝

ツール・ド・フランス区間通算1勝

ブエルタ・ア・エスパーニャ区間通算7勝

イル・ロンバルディア優勝:2009年・2010年

リエージュ~バストーニュ~リエージュ優勝:2011年

ロンド・ファン・フラーンデレン優勝:2017年・2018年3位

パリ~ルーべ優勝:2019年

パリ~トゥール優勝:2008年・2009年

アムステル・ゴールドレース優勝:2010年・2011年・2014年・2017年

フレッシュ・ワロンヌ優勝:2011年

クラシカ・サンセバスチャン優勝:2011年

GPケベック優勝:2011年

ベルギー選手権RR優勝:2011年・2012年、TT優勝:2011年

ツアー・オブ・北京総合優勝:2014年

E3・ハレルベーク2位、グランプリ・ディスベルグ 優勝2018年

 

モニュメントを4つ手にしている。現役では最多。残すのはミラノ〜サンレモだけ。クラシックタイトルは14個。凄まじい勝ちっぷり。特に2011年は尋常じゃない。年間18勝、一桁フィニッシュがさらに5回。勝利数にはクラシック・セミクラシックレースが6個含まれる。生まれ育ったアルデンヌ地方のクラシックを得意とし、アップダウンコースにおける激坂のアタックはすべての選手を蹴散らす破壊力があった。まさにパンチャーという脚質で最強の選手。その最強だった全盛期でも石畳で勝てるとは思えなかった。例えば、登りが特徴のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュでは出場選手の平均体重は65-6kgであるが、パリ〜ルーベになると75kgにもなる。それほど、全モニュメントを制するには困難なことなのだ。

2013年は年間で1勝に終わり、少しづつ衰えが見え始める。翌年は7勝をあげてやや復活とも思えたが、レースによってムラがあり、ビッグレースを勝ってきた姿からは遠のいていく。そこで彼は「新しいチャレンジ」の決意をする。2017年に年棒の大幅減を受け入れてクイックステップに移籍し、クラシックレースを狙うチームにとっての重要なピースとなる。石畳中心の違う脚質が求められるモニュメントレースを勝つために肉体改造まで行い体重・筋肉量を増やした。結果はすぐに出る。まずは「クラシックの王様」ロンド・ファン・フラーンデレンで優勝。2019年には、とうとう「クラシックの女王」パリ〜ルーベを制する。当時36歳。これで、ミラノ〜サンレモを制すれば全モニュメント制覇だ。

しかも、彼は漢だ。2018年のツールでの落車シーンは有名だ。第16ステージで2級山岳をトップ通過した後、ダウンヒルでカーブを曲がりきれずに崖下へ転落してしまう。ちょっと目を覆いたくなるような映像だったが、彼はこの後スタッフに引き上げられて戻ると、膝から血を流しながらカメラに向かってサムズアップとウインクをしてバイクにまたがり走り始めた。そしてゴールまでなんとか走りきり、敢闘賞を受けたこのステージ、ゴール後の治療で膝の骨折が判明、リタイアとなる。彼がアタックしていたのはチームメイトのアラフィリップの山岳賞のため。ライバルがポイントを取れないためのアタックだったのだ。熱い漢だ。

全モニュメント制覇者は過去に3人しかいない。グランツールを全て総合優勝するよりも困難なのだ。44年間も誰も達成していない。それだけ特別な2022年はミラノ〜サンレモに全てを懸ける。他のレースはすべておまけ。チームメイトも全力でサポートするだろう。やり残すわけにはいかない。2020年はトップと2秒差の9位で走っている。チャンスはある。ちなみに過去に達成したのは全てベルギー人だ。ジルベールもベルギー人である。

 

 

 

◎リッチー・ポート

(36歳/オーストラリア/イネオス・グレナディアーズ

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イネオスに戻ったときにフルームは他のチームに移籍したが、アシストの時のポートが一番輝いていた。

◆主な成績

UCIランク29位(2021年)/通算36勝/オールタイムランキング118位

ジロ・デ・イタリア:2010年総合7位&新人賞

ツール・ド・フランス:2016年総合5位、2020年総合3位

パリ~ニース総合優勝:2013年・2015年

オーストラリア選手権個人TT優勝:2015年

ツアー・ダウンアンダー総合優勝:2017年・2020年

ツール・ド・ロマンディ総合優勝:2017年

ツール・ド・スイス総合優勝:2018年

クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ総合優勝:2021年

 

こうやって成績を載せると、他の4人より少し見劣りすると感じるかもしれない。他が凄すぎるだけで、ポートの成績も相当なものである。だけど、少しの不運もあったかもしれない。例えばエースとして出場したツールでの2年連続の落車リタイア。どちらも第9ステージで、ポートには「第9ステージ」が鬼門となる。個人的に、報われなくても情熱は負けない、そんな熱い走りをする選手は応援したくなる。ポートは僕の中のアイドルなのだ。

背もひときわ小さい。リッチー・ポートといえば『ツアー・ダウンアンダー』。オーストラリアで開催されるシーズンの開幕を告げるレース。真っ青な海を背景に繰り広げるコースは開放感に溢れ、シーズンが始まるドキドキもあって毎年楽しみにしている。ポートは名物の激坂「ウィランガヒル」を5年連続で制した。ステージレース終盤でコースに組み込まれる坂は、選手がひとりまたひとりと遅れて集団が絞られてくる頃に、ポートは爆発的な加速をする。2−3人が必死でついていこうとするが、ポートは蹴ちらす。ダンシングを続ける単独アタックは、そのままゴールへと駆け抜ける。残念ながら今年もコロナの影響で開催は見送られてしまったが。

彼は最高のアシストを教えてくれた存在でもあった。もっと優秀なアシストの選手はいるが、彼が見せてくれた熱さが忘れられない。それを象徴するレースとして思い出すのは、最強チーム『スカイ』でのアシストの頃。中でも2013年のツールだろう。第18ステージでエースのフルームがハンガーノックになりかかり失速。総合優勝に手が届こうとしている中、失速したフルームを見てライバルが加速する。フルームは苦しそうにするだけで、ペダルを回す脚に力強さが全くない。このままだと総合成績が逆転してしまう致命的な状況を見かねたポートは、ペナルティ覚悟で先頭集団からひとり後退して後ろにいるチームカーまで戻る。補給食を受け取り、山岳をものすごい勢いで登ってフルームに追いつき、補給食を差し出す。体力が限界に近づいているはずの山岳ステージでこの行動。おかげでフルームは持ち直し、ポートはその後もフルームのすぐ前を牽引し、何度も振り返って確認しながら、ゴールまでサポートし続けた。残り20kmを過ぎてから補給を受けたことで、レース後にポートはペナルティを受けた。このステージは先頭に追いつくことはなかったが、被害を最小限に食い止め、フルームの総合優勝を引き寄せた。フルームのマイヨジョーヌのうち2度はポートの献身が支えていたと言える。ちなみにその後、ポートは他のチームへ移籍しエースとなってフルームと対決したが、時々フルームを牽引しているかのように思えるシーンが度々見られた。

2020年は、トレックで走ったツールで念願の総合表彰台に登った。最後まで諦めずに走り続け、第20ステージで逆転した。ツールで走っている間に子供が誕生した。妻からは「あなたがいるのはここじゃない。レースで頑張って」と言われたことへの有言実行。ツールの前に「エースとして走るのは最後だろう」と語っていたポートは、翌年、請われていた古巣イネオス(旧スカイ)に移籍した。その経験や魂を後進に引き継ぐため。同チームに加入したルーク・プラップは母国オーストラリア期待の新星。ポートの魂を引き継いでほしい。

2022年は「最後にジロを狙いたい」と語った。先日イネオスから発表されたジロメンバーは「カラパス、ピドコック、ゲイガンハート、スウィフト、ヴィヴィアーニ、そして、ポート」。普通に考えればカラパスがエース。それでも、ポートがピンクのジャージを着たっていいはずだ。意外に似合いそうな気がする。

 

 

 

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すんません、気付いたら過去最高の文字数です。少々暑苦しく語りすぎたけど、彼らの活躍はこれでもほんの少ししか伝えきれない。そもそも僕自身、ロードレースをリアルタイムで観ているのはここ数年のことなので、過去映像でしか知らないことも多いが、ロードレースを知れば知るほど彼らの偉大さが身にしみてくる。彼らが走ることをリアルタイムで見れた幸運に感謝している。

ここ数年は、多くの若手が派手に活躍している。新型コロナの影響もあり、世代交代が一気に押し寄せている印象だ。若手が加入するということは、それだけやめていくベテラン選手がいるということだ。ここで紹介した選手たちが集結するジロは、特に見逃してはいけない。

 

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