3月19日開催された【ミラノ~サンレモ】。モニュメントにふさわしい顔ぶれの選手達が揃い、最後まで目が離せない熱いレースが繰り広げられた。
例年、勝負所になる残り30kmからのチプレッサは不発、残り10kmからのポッジオの登りで抜け出したのは4人、しかし決定的な差がついたのはポッジオからの“下り”だった。第3のスロベニア人が、新たなダウンヒルの可能性を見せてくれた。
*選手のUCI世界ランクと年齢は2021年12月時点。
モホリッチの変わったガッツポーズは自らのシートポストを指差していた。
◎レース結果:トップ10
◎予想結果:優勝候補
【予想文面】→ 本命はファンアールト、対抗がユアン。そして今季も絶好調のポガチャルが怖い存在。ストラーデビアンケであんな独走勝利を見せられたら優勝候補にはあげない手はない。スプリンター勢では、ニッツォーロ、クリストフ、ピーダスンは実力も好調さも十分。初出場のヤコブセンは長距離といくつかの坂をどれだけこなせるか。ゴール前まで先頭集団として動ければスプリント力は一番。パンチャー勢のモホリッチ、セネシャル、クラシック巧者のファンアーヴェルマートは終盤の坂で仕掛けてスプリンターたちを置き去りにしたい。マシューズ、サガンも調子を上げてきているので上位に絡む可能性は十分。そして、あの男がついに帰ってくる。怪物ファンデルプール。腰痛からの回復程度はどのくらいなのか、最終盤でポガチャルがアタックし、ファンアールトとファンデルプールが追走なんて展開になったら歴史に残るレースになる。他の上位候補は下記表を参照。
なお本来なら優勝候補にあがるだろう選手が数人体調を崩し、残念ながら出場回避。(世界王者のアラフィリップは気管支炎、昨年王者のストゥイヴェン、欧州王者のコルブレッリ、昨年ロンド制覇のアスグリーン、トレンティン、サム・ベネットも病欠)*ユアンの欠場が発表されました。
【結果】→ 優勝はモホリッチ。2位テュルジス、3位ファンデルプール。ファンアールト、ポガチャル、ピーダスン、マシューズはトップ10に入った。ニッツォーロは落車で、サガンはメカトラでチャンスを失い、ヤコブセン、クリストフ、ファンアーヴェルマートはトップ集団のペースについていけなかった。セネシャルは14位と健闘した。
優勝したモホリッチについてのトピックをひとつ。自身のバイクに『ドロッパーシートポスト(MTBなどで使われるシートの高さを油圧式で変える機構)』を使用してシートを下げ、姿勢を低くして下ろうと最後のアタックに賭けていた。つまりあのダウンヒルは、走る前からのプラン通りだったということ。使えるバイクもレースも限定されそうだが、今後ひとつのトレンドになるかもしれない。このミラノ〜サンレモでのモホリッチの勝利は最高のダウンヒルのひとつとして語り継がれそうだ。モホリッチのアイデアとテクニックと勇気を讃えたい。
ポッジオの頂上を越えた後、得意のダウンヒルでトップを追いかけるモホリッチ。
◎優勝候補(激推し)
【予想文面】→ 以上、優勝候補についてごちゃごちゃ言ったが、今年に関しては最大限応援する別格の選手がいる。このブログを読んでくれる人がいるなら、一緒に応援してほしい。フィリップ・ジルベール(ベルギー/39歳/ロット・スーダル)その人である。彼の自転車レーサーとしての最大にして最後の野望が、このタイトル。20年に及ぶプロキャリアで通算78勝、うちワンデーレースは36勝し、最強のクラシックハンターの称号も受け、5大モニュメントの4つを手に入れているレジェンド。難しいと言われていたパリ~ルーベは体重を増やして(もちろん筋肉だ)選手生命を賭けてまで(自転車選手が体重を増やすことは自らに負荷をかける最悪のやり方だ)手に入れた。唯一とっていないのがミラノ~サンレモ。過去17回出場し、トップ10には5回も入っている。全モニュメント制覇をしているのはロードレースの100年を超える歴史の中で過去に3人しかいない。今季限りで引退をするジルベールは、ラストチャンスに全てを賭ける。チームのエースは優勝候補のユアンかもしれない。*ユアンの欠場が発表されました。
【結果】→ 残念ながらジルベールの全モニュメント制覇はならず。パリ〜ニースの後に気管支炎になり、今日も呼吸が苦しかったらしい。トップコンディションで走らせてやりたかった。それでも彼は残した成績の偉大さは変わらない。夢を見させてくれたことに感謝したい。
◎その他の注目選手の結果と雑感
【予想文面】→ 厳選したいところだったが、このブログを見てくれる人への情報提供の意味合いも含めて掲載しようとしたところ、かなりの人数になってしまった。上記優勝候補にあげた選手以外で上位に絡みそうなのは、スプリンター勢では、デマール、バウハウス、コカール、ヴィヴィアーニ、フィリプセン、ブアニ。パンチャー及びクライマー勢では、コスヌフロワ、シャッハマン、トマ、ヘイター、ピドコック、アランブル、バジォーリ、テュルジス。展開によっては(エースが遅れるなど)ラポルト、コンソンニ、スウィフト、ギルマイ等にも上位を狙う力はある。*シャッハマン、トマは欠場。
個人的に注目するのは、ロットの二人の若手、ファンヒルス(サウジツアー総合優勝)、フェルメールシュ(昨季パリ〜ルーベ2位)。ユアン、ジルベール、どちらにとっても心強いアシストだ。読めないのがログリッチ。ファンアールトがいるので優勝を狙うとは思えないが、パリ〜ルーベでのファンアールトへの恩返しでアシストに徹するならばこれほど脅威な存在はいないし、ポガチャルへの対抗心メラメラならば、それも面白い。あとはガンナが「狙ってる」発言をしているのは興味深い。イネオスはビッグネームが多いがミラノ〜サンレモを勝てるイメージの選手はいない中、UAEツアーで脅威の登坂力を示したガンナなら優勝を狙ってもおかしくはない。新型コロナからの復帰レースとなる新城幸也も頑張ってほしい。
【結果】→ 注目していた中で結果を残した選手に言及します。バーレーンのカルーゾ(15位)とトラトニック(9位)は、モホリッチを最後までサポート。終盤まで引き続けたユキヤも含めてバーレーンのチームとしての働きぶりは優勝にふさわしい。パンチャーでは、2位に入ったテュルジス、7位のクラーウアナスンが素晴らしい。テュルジスはチームメイトになったサガンの影響で覚醒するのではと期待していたので、これからもより一層の活躍を願う。13位のアランブルも過去2回トップ10に入っているので安定して成績を残し、11位のアルバネーゼも大健闘、チームスポンサーのエオロコメタも大喜びだろう。苦戦したスプリンターの中(上記優勝候補以外)では、デマール(10位)、ギルマイ(12位)の健闘が光る。
ゴール後にモホリッチと喜び合うカルーゾとトラトニック。トラトニックもスロベニアだ。
以下、レース展開で気になったことのメモ。
ポガチャルとUAEチームの攻撃。ゴール前のスプリントに持ち込ませたくないため、チプレッサとポッジオでかけたアタックとハイペース牽引は効果的で、ヤコブセン、フィリプセン、ヴィヴィアーニ、クリストフといったスプリンターをふるい落とす。しかし上り坂でファンアールトやファンデルプール、クラーウアナスンらを引きはますことはできず、勝利には結びつかなかった。
マチュー・ファンデルプールはやはり怪物だった。オリンピックで負った怪我の回復が長引き、半年近くレースを走っていなかったため、サンレモは来月のロンドへの試走だと誰もが思っていた。300km走り続けた後のスプリントで集団の先頭で走りきった。マシューズよりもピーダスンよりもファンアールトよりも速く。マチューはすでにトップコンディションに近づいていること、この春の主役の一人であることを示した。
またミラノ〜サンレモはスプリンターが勝てなかった。今回はポガチャルがいたことが大きな原因だが、今後もスプリンターが勝つのは苦労するレースになりそうだ。
ポッジオでアタックをかけるポガチャル。エース達が付いていき、不発に終わる。