7月1日に自転車大国デンマークから始まった【ツール・ド・フランス】は、9つのステージを終え、選手たちは最初の休息日を過ごした。プロトンが3日間を過ごしたデンマークの人々の熱狂的な出迎えは、想像以上だった。特に地元選手への声援は熱く、チームプレゼンテーションでのヴィンゲゴーへの大声援、涙ぐむ彼の姿に見てる側も胸に込み上げるものがあった。連日アタックし水玉ジャージに袖を通したコルト、ゴール前で果敢に攻めたピーダスンと、デンマークの選手たちも大いに張り切っていたのは印象的だった。
フランスに移動してからも熱いレースは続いている。主役たちの目の覚めるような活躍、苦労人のベテランたちの復活勝利、様々なドラマを見せてくれた選手たちの、ここまでの成績を簡単に振り返ってみる。
*表内の選手のUCI世界ランクと年齢は2021年12月時点。
◎総合成績上位
一週目から本命ポガチャルがマイヨジョーヌに袖を通した。初日個人TTで総合エースたちからアドバンテージを奪うと、多くの選手が苦労したパリ〜ルーベステージもすいすいとこなして自らアタックしタイム差を拡大。その翌日のステージで登坂スプリントを制するとはやくもマイヨジョーヌを獲得。翌日の激坂ラ・ブランシュも制してステージ2勝。連日のポガチャル劇場を繰り広げ、今のところ隙はない。
それでもまだヴィンゲゴーが頑張ってポガチャルの独走を阻んでいる。stage7でゴール10m手前でポガチャルに差し切られたものの、一瞬ポガチャルを千切る加速を見せた登坂能力はこれから本格化する山岳で可能性を感じさせた、残念ながらログリッチがアクシデントによる落車に巻き込まれ肩を脱臼、大きくタイム差をつけられた、それでも、まだ諦めていない発言をしているのが、ヴィンゲゴーのアシストをしながら調子を上げられるなら頼もしいことは間違いない。
トップ10に3人顔をそろえるイネオス勢もまだまだ勝負がかけられる。アダム、Gトーマスの2人に加え、ピドコックの奮闘は想像以上で、2週目に人数を生かしたチーム戦術を見せて欲しいが、どうなるか。ダニマルが遅れたのはやや計算外かもしれない。誰で総合を狙うのかはっきりしないのが素人目線では悩ましいと思うが、いまのところ山岳を一番登れているGトーマスがエースをにないそうに感じる。
ゴデュ、バルデのフランス勢の活躍は好ましく感じる。二人とも調子はよい。2週目以降も崩れないで続くと面白い存在だが、どちらもTTが弱いためマイヨジョーヌは厳しく感じる。ポーレス、キンタナも調子はよさそう。少しタイム差は開き気味なのでどこかで逃げることも期待したい。
期待されていながら遅れた選手では、ウラソフが遅れている。直前にかかったコロナの影響がありそうでボーラは総合系に降ってきたメンバーだったが全体に厳しい印象。健闘しているのはAG2R。エースだったオコーナーは落車により脱落したが、パレパントルと復活勝利をあげたユンゲルスが頑張っていて、総合トップ10は十分射程範囲。メインティスも調子は悪くないので、トップ10以内を狙ってアタックや逃げに入ることを期待。
他にトップ20に名前がない選手で有力候補だったのは、シャッハマン(44位)、ヨン・イザギレ(45位)、ウッズ(49位)、ヘイグ(DNF)、マルタン(DNF)、オコーナー(DNF)。タイム差を考えると総合上位はもう難しいだろう。バーレーンの苦戦は警察の捜索が入った影響もあるのだろうか。総合成績は厳しそうなので、逆にステージ優勝は積極的に狙っていってほしい。モホリッチ、Dトゥーンス、カルーゾらが狙えばいくつか取れそう。
◎各賞上位
各賞の5位までを表にした。
ポイント賞はファンアールトがこれ以上ないほどの抜群のスタートダッシュを見せている。ピュアスプリンターは苦労するステージが多めなので、かなりの確率でファンアールトがとれそうな雰囲気である。2週目も複数優勝してもおかしくないステージがあり、場合によってはポイント賞を確定しそうな勢いだ。もちろん最後まで完走することが必要だが、トラブルがなければ余裕だろう。2位以降はヤコブセン、フィリプセン、サガンらの争いになりそうだが、ポガチャルとラポルトがすでにかなりの点数を積み上げているのも見逃せない。
山岳賞争いはこれから争いが始まる段階で、まだまだ混沌としている。4級山岳が続いた初期はコルトが11個連続で取るなど張り切っていたが、数日水玉ジャージを着たので満足しているだろう。ゲシュケ、ピノー、ユンゲルスは狙ってくるかもしれない。他にシモンズ、ベロナ、ラトゥールあたりも積極的に逃げる姿勢を見せて候補になりうるし、総合成績を落としたエースも上位に絡んでくるだろう。もちろんポガチャルは狙わずとも絡んでくる。
ヤングライダーは、現状ポガチャル1択だろう。2位につけてるピドコックはここまでは大健闘。未経験の3週間のステージレースにどれだけ対応できるか、難関山岳は遅れてしまいだろうが、ここまで総合上位を狙えるほどの走りを見せているのは好印象。マクナルティはポガチャルのチームメイトだし、4位以降はすでに30分近く遅れていて、逆転は不可能。ポガチャルがリタイアしない限り盤石。
チーム総合はイネオスとユンボがしのぎを削っている。このまま2チームが終盤まで競う可能性が高い。バーレーン、ボーラはもっと頑張るかと思ったが失速。UAEとグルパマはこのままの順位でいきそうな雰囲気で、それだけの選手は揃えている。
◎各ステージ優勝選手
ここまでは、ファンアールトとポガチャルが勝ちすぎて少ししらける印象はあるのは正直なところ。この二人が強いのはもちろん理解しているが、他の選手たちにはもっと奮起して欲しいとどうしても感じてしまう。そんな中、ベテランたちが印象的な勝利を挙げているのは好印象。サプライズになるような新戦力の台頭はまだないのもちょっとした閉塞感を感じる要因かもしれない。また個人的には2位になる選手が印象深いレースが多い。3連続2位のファンアールト、2回僅差で2位になっているマシューズ、昨年のツールから数えて4回目の2位のフィリプセン(3位も4回ある)、初出場ながら大逃げからの惜しい2位のタコさん。
stage1は雨の個人TT。そのためか結果的に悪路に強い選手が成績をあげた印象。ガンナやキュングが失速する一方。CX王者のファンアールトが2位、マチュー5位、ピドコック15位。3位のポガチャルもCXスロベニア王者。勝利したのは伏兵ランパールト。昨年のベルギーTT王者でもあり、直近のベルギーTTでも2位だった実力者ではある(優勝したのはエヴェネプール)。
stage2のハイライトはゴール前の18kmにも及ぶグレート・ベルト橋での海上の戦いと思われたが、懸念された横風はそれほどでもなく無事に通過。残り3kmを切ってから集団落車が発生、そこを残った30名ほどの集団スプリントでヤコブセンが貫禄の勝利。2位のファンアールトがボーナスタイムを手にしてマイヨジョーヌを獲得。
stage3は序盤からコルトが単独でエスケープ。地元デンマークのファンたちの歓迎ムードは最高潮に。ゴールは集団スプリントになり、勝利したのはフルーネウェーヘン。ファンアールトは3日連続の2位で、92年ぶりの記録だそう。
stage4は、残りおよそ10kmの登坂からひとりでアタックしたのはマイヨジョーヌのファンアールト。そのまま60km/hを超える驚異的な独走でゴールし、今大会一つ目のステージ優勝。前日まで全て2位だったのが悔しかったとコメントしたが、恐ろしささえ感じる走りと成績だ。彼以外にこんなことは不可能だ。
stage5は、前半の目玉のひとつ、パリ〜ルーベステージ。序盤の逃げグループによるスプリント勝負でサイモン・クラークが涙の初ツールステージ優勝。残念ながら波乱はあった。ここまでひとりも欠けてなかったが、ヘイグをはじめ3名が落車による怪我でリタイア。他にも落車やメカトラで成績を落とす選手が多く発生する中、ポガチャルは総合争いでリードを奪う。
stage6は前日で疲労を抱えている中、220kmものロングコースにも関わらず序盤から激しいアタック合戦。ようやく決まった逃げ3人にはマイヨジョーヌが入った。ファンアールトはそのまま200km以上全力で逃げ続け、終わってみればツール史上4番目の速度で走ったステージになるという驚きの展開。最終的に小集団による登坂スプリントでポガチャルが勝利し、はやくもマイヨジョーヌをてにした。
stage7は有力クライマーを中心に11名の逃げが決まる。途中抜け出したケムナがそのままいくかと思いきや、ゴール前の最大勾配24%にもなる激坂ラ・ブランシュ・デ・ベル・フィーユで加速したヴィンゲゴーとポガチャルの一騎打ちに。ゴール前10mでポガチャルが抜き去り勝利。2ステージ連続の勝利で強さを見せつけた。
stage8の丘陵コースは3名が逃げてややのんびりとした展開ながらも、ゴールに向けて加速する集団からはピュアスプリンターたちは遅れ、パンチャーと総合勢が競う小集団でも登坂スプリント勝負に。勝ったのはマイヨヴェールのファンアールトで、今大会2勝目。
stage9はコースの大半はスイスを走る二つの1級山岳超えの逃げ向きコース。20名以上の逃げグループから残り30kmでユンゲルスが単独で抜け出し、追いすがるピノーらを振り切り4年ぶりの勝利は嬉しい初ツールステージ優勝。エースのオコーナーが総合優勝争いから脱落したチームに喜びをもたらした。
休息日明けは、stage10からアルプス三連戦から始まる。3日目のstage12は名峰ラルプデュエズ。総合優勝争いはさらに激しさを増すはず。総合成績はまだ何も決まっていない。
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