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ツール・ド・フランス 2022|成績まとめ(最終成績)

 

サイクルロードレース世界最大の祭典ツール・ド・フランスのは、7月24日、無事に幕を閉じた。今年も多くのドラマを生んだレースと選手たちの3週目の成績を簡単に振り返ってみる。苛酷なレースを戦い抜いた全ての選手たちに感謝と拍手を。

*表内の選手のUCI世界ランクと年齢は2021年12月時点。

 

↓stage9までの成績まとめはこちらから。

jamride.hateblo.jp

 

↓stage15までの成績まとめはこちらから。

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◎総合成績上位

マイヨジョーヌ争いは実質ヴィンゲゴーポガチャルの一騎打ちになった。stage11でタイムを失ってからのポガチャルはアタックと攻撃を繰り返し、少しでもタイム差をなくそうとするが、ヴィンゲゴーはその攻撃を全て受け止め、逆にタイム差をつけてしまう総合力の高さを存分に見せつけた。クスファンアールトをはじめとするユンボのチーム力の勝利でもあるが、ヴィンゲゴー個人の力でポガチャルを上回るというのは当初想像もしなかった。終わってみれば2年前の悲劇を乗り越えたユンボの盤石の戦いぶり、ログリッチもクライスヴァイクもアクシデントで失ってもなお彼らの強さとマイヨジョーヌにかける想いの深さが際立つレースだった。ただし個人的にはグリッチが最後まで完走できていたらと切なく残念に思う気持ちは拭いきれない。

一方ポガチャルは2位とはいえ、最強の選手だったことは間違いない。マイヨブランを持ち帰り、3年連続でツールの3つのステージを勝ち総合表彰台に上がったことは偉大な記録であり、安定した強さはもちろん、次々にアタックを繰り出すアグレッシブさも、負けても全部を出し切った清々しさすら感じさせたことも素直に褒め称えたい。これからの伸び代も感じさせてくれたポガチャルはもっと強くなる。

3位Gトーマスも3度目のツール総合表彰台。キャリアの終わりも見えて来る年齢で、この成績はさすがである。体調不良ながらアシストに徹して10位に入ったAイエーツ、最年少でラルプデュエズのクイーンステージで優勝し総合でも17位に入って適正も感じさせたピドコック、イネオスとしてはまずまずのツールだったのではないか。本来ならここにベルナルがいれば、2強にも食い込む強さが見られたと思う。

自己最高位の4位ゴデュ、総合11位マデュアス、同15位のピノが活躍したグルパマもチームとしては大成功といえるだろう。ジロはスプリンターで、ツールは総合系でと選手をはっきりと分けた戦略がきれいに嵌まった。SNSでもスタート前のポディウムや休息日に仲良くしている様子がよく見られて、とても好印象のチームだった。地元フランスのプレッシャーはかなりキツい印象だが、それすら楽しんでいるようにも見えたほど。ウラソフも体調不良のため厳しいレースを過ごしたが3週目に順位を上げてなんとか5位に滑り込んだ。山岳で輝きを見せたキンタナ、終始アグレッシブなレースをしたメインティス、なんだかんだありながらトップ10に入ったバルデルツェンコは成功といっていいだろう。EFの総合エースの地位をものにしたポーレス、復活し今度に期待のユンゲルス、他にもまだまだ多くの選手が活躍したツールだった。

 

 

◎各賞上位

各賞の5位までを表にした。

ポイント賞ファンアールトが独走。2位以降に倍近い点数差をつけるほど。現行のポイントシステムになってから過去最高得点というおまけつき(これまでの最高はサガンの477点)。完全な平坦ステージが少なくピュアスプリンターたちが苦戦するコース設定だったとはいえ、全てにおいて破格の活躍ぶりは他の選手が束になっても敵わない強さがあったのはたしか。逃げでもポイントを稼ぎ、さらに難関山岳ステージでヴィンゲゴーをアシストまでし、スーパー敢闘賞も全員一致で獲得。大会のMVPといえる活躍をしながらまだ強くなりそうな気配を見せてくれる。フィリプセンはパリ・シャンゼリゼで両手を上げてピュアスプリンターの意地を見せた。そのシャンゼリゼではヤコブセンは残り数百メートルでチェーントラブルに陥り見せ場を作れなかったが、名アシストのモルコフを失いながら難関山岳でタイムアウトぎりぎりで走る姿に見てる側も本気でハラハラした。彼らがまたツールに帰ってくることも願いつつ、もう少し平坦ステージを増やしてあげてほしいとも思う。

 

山岳賞争いは多くの選手に最後まで可能性を残す接戦になった。最終的には最後の山岳になったstage18のゴールで点数を獲得したヴィンゲゴーが赤玉ジャージも手にした。後半はずっと山岳賞ジャージで走っていたゲシュケが流した涙も印象的だった。賞狙いでゲシュケを追いかけ続けたチッコーネと、ヴィンゲゴーと1-2フィニッシュが多かったポガチャルも大きくポイントを稼いだが、何よりも驚くのはファンアールトの5位。stage18を最後まで逃げた後にヴィンゲゴーのアシストをし3位になったが、彼がステージ優勝していたら山岳賞ジャージも手にしていたという恐ろしい事実。マイヨヴェールで難関山岳の先頭を走る姿の異様さはもう見れないだろう(来年見れるかも)と思いながら、緑と水玉の同時受賞という偉業もつい期待したくなる。

 

ヤングライダーは、ポガチャルが順当に獲得したが、ここ数年の流れでいうと若手の活躍は少し大人し目にも感じる。ここ1-2年の若手の活躍が少し異常だったのかもしれないし、ベルナルポガチャルヴィンゲゴー(今年は年齢があがり資格なし)たち数人の選手が別格の強さだったともいえる。

 

チーム総合イネオスグルパマユンボにの3強といえる成績だった。本来ならここに食い込んでくるはずだったボーラバーレーンあたりは少し残念だった。またトップ5にも入れていないあたりはUAEのチームとしての弱さも感じる(マイカ等の離脱もあったが)。例えばイネオスもグルパマも8人全員が完走しているし、ユンボは移籍してきたラポルトやベノートがしっかり働きチームとして結果を残している。ラポルトに至ってはステージ優勝(フランス人唯一の)もし、彼らがいなかったらファンアールトもここまでの活躍はできなかったかもしれない。一方UAEは移籍組のジョージ・ベネットもソレルも早々にリタイアし肝心なところでポガチャルの援護ができていない。チームの準備段階でユンボに遅れをとっていると言わざるをえない。

 

 

◎各ステージ優勝選手

3週目も印象的なステージばかりだった。

stage16は、休息日明けのピレネー三連戦の初日。山岳賞を狙うゲシュケらを含む30名ほどの逃げグループを形成。メイン集団とは8分程度のタイム差をつけながらアタック合戦が繰り広げられる。残り30kmを切った1級山岳で単独アタックしたユーゴ・ウルがそのままダウンヒルも飛ばしステージ優勝。意外にもロードレース初勝利だったウルの、天国にいる弟を指差しながらのゴールは多くのロードレースファンの涙を誘った。総合争いはトップ3以降は数人が遅れて順位がシャッフルされる。

stage17は序盤から逃げが決まらない落ち着かない展開から、山岳で数人が逃げるもタイム差がつかず。メイン集団を高速で牽引し続けたのはビョーグマクナルティ。このポガチャルのアシスト2人にほとんどの選手がついていけずに次々に脱落。そのまま先頭はマクナルティポガチャルヴィンゲゴーの3人になり、最後の激坂を先頭でゴールしたのはポガチャル。だがヴィンゲゴーは全てのアタックに遅れることなく、ボーナスタイム以外でタイム差を許さなかった。UAEの少なくなったアシスト全員がかりでの攻撃でも崩せなかったヴィンゲゴーのしたたかさが光り、ステージ優勝はポガチャルにあげるけどマイヨジョーヌは渡さないという堅牢な意志を感じた。

stage18は、ピレネーの最終決戦。前日の攻撃を耐え忍んだユンボが攻勢に出る。スタートからファンアールトがアタックし、山岳賞狙いの選手たちが合流して30名ほどの逃げが決まる。次第に人数を絞る逃げグループはファンアールトダニエル・マルティネスピノの3人に。メイン集団では逆転にかけたポガチャルが渾身のアタックを繰り出し、総合争いの選手たちが次々に千切れていく中、ヴィンゲゴーは全て対応し二人はダウンヒルへ突入。ここでポガチャルは焦ったのか珍しく落車。しかしヴィンゲゴーはアタックを仕掛けることなく冷静にライバルが追いつくのを待ち、握手をして最終対決に臨む。最後の超級オタカム登坂は逃げていたマイヨヴェールのファンアールトが前待ちで合流し、クスから牽引を引き継ぐとヴィンゲゴーを引き連れてポガチャルを置き去りにする。そのまま残り3kmでアタックしたヴィンゲゴーがポガチャルに1分以上の差をつけてステージ2勝目。マイヨジョーヌをほぼ手中にしたが、レース後のインタビューでは「まだ意識していない」と慎重な姿勢を崩さず。2年前のトラウマがチームに根強いことも感じた。

stage19は、タコを含む5人の逃げグループをスプリンターのいるチームが追いかける展開に。横風を懸念したメイン集団からはタイム差は広がらない。途中分断もありながら逃げも追走も合流しひとつになった集団から残り30kmあたりで3人が抜け出す。そのわずかなギャップを埋めきれないままラスト1km手前でジョイントしたラポルトが、先頭の3人をかわした勢いで嬉しいグランツール初ステージ優勝。フランス人が誰も勝っていないと嘆く人々の溜飲を下げさせた。後ろの集団スプリントではフィリプセンが2位に。

stage20は、長距離個人TT。優勝候補のガンナがトップタイムをマークし、ホットシートに座る。レッド・ライトモレマらが中間計測でガンナを上回るもフィニッシュタイムでは抜けず。それを抜いたのは昨年の個人TTを制したファンアールト。ガンナを40秒以上上回る驚異的なタイムでトップに立つと、最後の総合表彰台3人がそれを追う。結果的に優勝はファンアールト、ヴィンゲゴーポガチャルトーマスと続き、4人がガンナを上回る好勝負になった。個人のステージ3勝目とヴィンゲゴーの総合優勝を実質確定し男泣きするファンアールトを見て彼も苦しみ抜いていたことを知り、2年前の個人TTのトラウマをようやく払拭したのだと思った。

stage21は、華やかで安堵感の漂うプロトンはいつ見てもいいものである。マイヨジョーヌとマイヨヴェールとマイヨアポアまで獲得したユンボシャンパンで祝いながらのパレードラン。戯れるようにアタックしたファンアールトポガチャルに反応するヴィンゲゴーたちを中心にパリを目指す。ユンボは並走しながらリタイアしたグリッチクライスヴァイクファンホーイドンクのゼッケンを掲げながらチーム力をアピール。デンマークの選手たちも並んで記念写真を撮る等、和やかにレースは進む。最終周回は50km/hを大きく上回るスピードでスプリンターを抱えるチームが牽引し、久しぶりの集団スプリントで勝利したのはフィリプセン。昨年シャンゼリゼで勝ったファンアールトは、先頭から1分遅れてユンボのチーム全員で横並びでゴール。

表彰式では素朴な人柄を感じさせるヴィンゲゴーの(かなり長めの)スピーチも感動的だった。黄色いジャージで凱旋門をバックにして、レース運営、チーム、家族、ライバルたち一人一人に感謝を伝えた。

 

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さて、少し気がはやいが「さいたまクリテリウム」に来ることが濃厚なヴィンゲゴーファンアールトが楽しみだ。過去2年中止だったためにマイヨジョーヌながら来日できなかったポガチャルも参戦してほしいと願うのは贅沢かな。既に決まっているカヴェンディッシュはおそらくクイックステップとしての最後のレースになる。

 

 

↓レース前の出場選手まとめはこちらから。

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