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ワールドチームの残留争いについて【8月16日時点】

 

ブエルタが始まり、毎年この時期になると選手の移籍や契約更新などのニュースも増える。来季へ向けたチームの体制作り、スポンサーへのアピール、選手の就職活動が活発になっていく印象がある。そして今年については「ワールドチームの残留争い」というロードレース界全体にも影響が及ぶ話題がある。ブエルタでのポイント獲得も切実である。その現状をまとめてみた。

 

 

 

 

◎ワールドチームの降格について

ロードレースにはワールドチームプロチームというカテゴリーがあり、基本的に出場するレースが違う。サッカーでいうJ1、J2の違いでイメージしてもらうとわかりやすいだろうか。

UCI国際自転車競技連合)は2020年に構造改革を行い、2020年から2022年までの3年間にチームが獲得したUCIポイントの合計で、上位18チームにトップカテゴリーであるワールドチームの資格が与えられることになった。今シーズンも残り二月ほどになり、昇格及び降格する可能性が高いチームが見えてきた。チームポイントについては、そのチームに所属する上位10人が獲得したポイントの合計になる。11番目以降はどれだけポイントを稼いでもチームポイントには反映されない。

以下、2022年8月16日時点でのチームごとの獲得したUCIポイントの表である。ブエルタのポイントは反映されていない。ポイントランキング順で、それぞれのポイントは左から3年間の合計→2022年のポイント→2021年→2020年、現状のチームカテゴリー(WT=ワールドチーム/PT=プロチーム)。注)アルケアについてはキンタナのツールにおけるポイント剥奪分は反映されていない。実質400ポイント以上ここから減少する。

上位18チームは来季のワールドチームになる。現状では、プロチームからはアルペシン・ドゥクーニンクアルケア・サムシックが昇格することが濃厚で、ロット・スーダルイスラエル・プレミアテックが降格することになる。18位モビスターと19位ロット・スーダルとのポイント差は504点。20位イスラエル・プレミアテックは670点

ロットの場合はまず2020年も2021年も振るわず、それにも関わらず今年の体制が不十分であった。昨年チーム内で主力だった10人のうち4人もが移籍し(ファンデルサンデ、デゲンコルプ、オルダーニ、タイッセン)、代わりの選手をカンペナールツくらいしか補強できなかったから、この結果は残念ながら必然といえた。チームの稼ぎ頭は今年株チームから加入したばかりのアルノー・デリーで1570ポイント。これは大きなサプライズで、彼の活躍が降格を免れる可能性を首の皮一枚残している状態。他の選手の奮起が必要だ。

イスラエルは昨年は多くのポイントを獲得したのだが、夏頃まで全選手が軒並み成績が振るわなかった。7月以降持ち直しているものの昨年末の段階では17位にいたことを思うと不調が長引いたことは痛い。移籍では中堅どころのオフステテール、デマルキ、ルナール、ダン・マーティンがいなくいったが、代わりにフルサン、ニッツォーロ、サイモン・クラーク、ユーゴ・ウルを獲得しているので戦力的には決してマイナスにはなっていない。クラークとウルはツールでステージ優勝し調子を上げているのは心強いが、ウッズやフルサンなど主力はこれからかなりのポイントを稼がないと厳しい。

 

13位のDSMまでは安全圏といっていいだろう。14位以降は降格の可能性はあると考えられる。15000ポイントは安全圏(現実的には14500ポイントあたりが降格ライン)と想像される。14位アルケアは、キンタナのポイントが剥奪されると実質バイクエクスチェンジとほぼ同じポイントになる。それだけにキンタナのツールのポイント剥奪はかなりの痛手。15位コフィディスは今年は奮闘している。今年のはじめに19位だったうえに、稼ぎ頭だったラポルトとヴィヴィアーニが移籍してしまい(ふたりで2000ポイント以上)降格候補筆頭であったが、加入したヨン・イザギレ、ベンジャミン・トマ、マックス・ヴァルシャイドがカバーし、アレハールトやザングル等の若手の台頭と、ゲシュケ等のベテランの奮起により一時は15位まで上がっていたほど。まだ安心できる位置ではないがなんとか留まれる可能性は十分ある。16位バイクエクスチェンジは、6月頃には18位前後にいたが、ここ二ヶ月間で多くのポイントを稼ぎ、安全圏に近づいている。チャベスの穴は大きかったが、今季加入したフルーネウェーヘンとソブレロはその穴を埋めて、グローブズ、コッレオーニ、シュルツらの若手も成長し昨年よりポイントを稼いでいる。サイモン・イエーツとマシューズのエースふたりが昨年を上回る活躍をしているのも心強い。この3チームは、ワールドツアークラスのレースをあと2つ勝つか、表彰台に10回くらい上がれば大丈夫そうなイメージ。残りのレース数を思うと簡単ではないが、そのくらいのポイント獲得を目標にしたい。

17位EFは、イギータの抜けた穴はチャベスが埋めているが、ヴァルグレン、ウラン、カーシー、コルトと主力のほとんどの選手が昨年よりも成績を落としているのは不安材料。ここ2ヶ月ほどで少し持ち直しつつあるが、まだ安心には程遠い。

18位モビスターはかなり危ない状態。特にマスの不調が大きく響いていることと、バルベルデ以外にポイントを稼ぐ選手(勝てる選手)がいないのだ。バルベルデが宣言を撤回せずに昨年で引退していたらぶっちぎりで降格圏内だった。彼一人で今年だけで1427ポイント。レジェンドのチームへの最後の貢献を無駄にしてはいけない。

 

 

◎降格の影響についての考察(今後の展開・来季について)

実際降格についてどの程度の影響があるのだろうか。またこれからキーになる選手などを考察してみた。現状、上位2つのプロチームは自動的にグランツールへの出場資格を得られるため、ロットとイスラエルは降格してもプロチームとして来年もグランツールへは出場できる(今年のアルペシンやアルケアのような状況)。となるとステイタス感だけなのだろうかという疑問はある。ただし、チームに残る選手、スポンサーへの影響は少なからずあるはずだ。
ワールドチームが降格した場合、所属選手には「予告なく、損害倍賞責任を負うことなくチームとの契約を終えることができる」という権利が保障されている。現状ではロットの大物ではユアンは降格してもチームに残ると発言している。個人的にはユアンの今季の不調も降格に関わるひとつの原因でもあると思っている(ユアンが昨年並みにポイントを取っていれば免れた可能性が高いからだ)。ウェレンスはすでに来季UAEへの移籍が発表された。
ロットは降格圏内にいた今年の初め頃から「ポイント稼ぎのためにレースをすることはしない。勝利を目指すレースと違うからだ」とかっこいい発言をしてきたし、個人的には尊重したい姿勢だが、メインスポンサーであるスーダル社が来季スポンサーから外れてクイックステップのスポンサーになるというのは降格の可能性が高いことと無関係とは思えない。
イスラエルは降格がスポンサー問題に大きな影響はないかもしれないが、カチューシャ・アルペシンを買収してライセンスを獲得しただけに、ワールドチームからの降格はある種の屈辱だ。今月、バーレーンからDトゥーンスがシーズン途中で移籍してきた。この異例のタイミングは、8月以降で彼が獲得するポイントを期待し、来季ワールドチームに残留したいという意図が見えるし、(イスラエルへの移籍が既定路線であった)Dトゥーンスもワールドチームで走りたいという意志が強いのだろう。
モビスターもかなり苦しい状況だ。バルベルデが抜ける来季は、このままの体制では今年よりも厳しくなる可能性が高い。ジロで活躍したフアン・ペドロ・ロペス、イネオスの若いスペイン王者カルロス・ロドリゲスの加入が噂されながら発表されないのは、二人とも降格するならば移籍しないというような条件があるのではないかと想像している。地元スペイン人の人気者で実力者の二人の加入は低迷しているチームにとっては大きな投資。歴史がある名門チームで、スペイン唯一のワールドチームが降格することはなんとしても避けたいはずだが、現状の選手たちの成績をみると非常に苦しい。
 
なお9月に開催予定だったベネルクスツアー、10月のツアー・オブ・グアンシーは中止になったため、ワールドツアーはブエルタも含めてあと6つ。プロシリーズはあと16。最終戦は3年ぶり開催のジャパンカップである。正式発表はされていないが、渦中のロットも出場予定だ。

 

◎チームランキングはこちらで毎週更新されるのでご参考に。

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このシステムにはもちろん長所も短所もある。チームや選手たちからの批判も多く、課題も多い。例えば、そもそものUCIポイントの配分がおかしいとしてダン・マーティン(昨年引退)が「ワールドツアーのワンデーレース2勝分がツール総合優勝と同じ点数なんてありえない。全員に公平なシステムなんて不可能だが1.1の優勝ポイントがツールのステージ優勝と同じなんておかしい」といった発言をしていた。

それは多くのポイント獲得を狙ったアルケアがジロの出場を辞退し、同時期に行われた下部カテゴリーのレースに主力選手を出場させてトップ10に4人も送り込みUCIポイントを荒稼ぎする(*1)といった事態も引き起こし物議を醸した。もちろん現状のルールの範囲内で行っているのでアルケアはうまく立ち回ったという言い方もできるが、プロ野球の1軍のレギュラーが社会人野球で試合して勝ち星を増やしたような後味の悪さも残した。

来年からはまた降格システムは見直される部分もあるだろうが、今年の残りのシーズンは残留争いの渦中にあるチームの動向は注視していきたい。個人的にはモビスターにはワールドチームのポジションを死守してほしい。ロットにも頑張ってほしいが、魅力ある選手は減ってきていて、やむをえないとも感じる。

(*1)1.Proのトロブロ・レオンで460ポイント獲得。ちなみにツール総合5位で475ポイント、ステージ優勝が120ポイントである。