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ブエルタ・ア・エスパーニャ 2022|成績まとめ(stage9終了時)

 

8月19日に自転車大国オランダから始まったブエルタ・ア・エスパーニャは、9つのステージを終え、最初の休息日。オランダで過ごした3日間は、地元であるユンボが活躍し大成功。スペインに移動してから今年はスペイン人の活躍が続いている。ベテランの復活勝利、フレッシュな選手の活躍、様々なドラマを見せてくれた選手たちの、ここまでの成績を簡単に振り返ってみる。

*表内の選手のUCI世界ランクと年齢は2021年12月時点。

 

 

◎総合成績上位

初日から6日目までは日替わりでマイヨロホが変わる目まぐるしい状態だったが(うち4人はユンボのチーム内で移動)、stage6の山岳でレムコグランツールの初リーダージャージを着用すると、そのまま4日間キープ。しかも6位以下に3分、8位以下には5分以上の差をつけるという圧倒的な強さ。着用することは想像できたが、想像の遥かに上の強さには驚くばかり。ポガチャルやヴィンゲゴーに匹敵するほど総合系の選手として覚醒したのか。休息日明けは得意の個人TT。このまま着用することはもちろん、さらに2位以下にタイム差を広げる可能性が濃厚で、ここまでの3つあった山頂フィニッシュの全てで総合勢では一番先頭でゴールしていることを考えると、最後までマイヨロホを着ている可能性もありえる。ただし問題はアシストするチーム力の不足と3週間どこまで好調を維持できるかクイックステップのチーム順位は11位、総合成績では48位のファンウィルデルが最高と、頼れる山岳アシストがいないのはこれからのステージは苦しい。集団コントロールでも疲弊していくはずで、難関山岳ではレムコ個人の力頼りの状況に加え、どこかで必ずくるバッドデイをどれだけ小さく済ませられるか。個人的には大好きな選手なので応援しているが、決して楽観視できない。

グリッチはレースが始まる前に思っていたよりは頑張っている印象。まだ万全ではない様子だが、少しづつ調子を取り戻せれば4連覇の可能性も十分ありそう。ただしスーパーな山岳アシストのクスのDNFはユンボとしてはかなり痛い。

好調なのはマスカルロス・ロドリゲスアユソのスペイン勢。マスは降格争い中のモビスターのためにも総合上位の成績をあげたいし、何より来季からはバルベルデが去るチームのエースとしての存在感を示しておきたい。今のところはレムコについていってる唯一の選手といえるほど好調ではあり、上位の選手では豊富な経験値も優位な点。スペイン勢は他にバルベルデラクルスのベテラン二人もトップ20に入って健闘している。

トップ20に3人そろえるイネオス勢もまだまだ勝負がかけられる。シヴァコフゲイガンハートの2人に加え、カルロス・ロドリゲスの奮闘は想像以上。このままエースとして最後まで走り切れると面白いし、2週目に人数を生かしたチーム戦術を見せて欲しいが、どうなるだろうか。カラパスが早々に遅れたのは痛い所だが、個人的には想像の範囲内。チーム力は今大会一番なのは間違いないが、毎ステージ誰かしら遅れるなど全体的に不安定さを感じるのは否めない。アユソも同様で、彼がエースになるようではUAEとしては少し厳しいかもしれない。本来ならアルメイダがトップ5くらいに入り、それを支えるサブエース的な存在であればいいのだが、19歳に初めてのグランツールでエースのプレッシャーを与えるのはこの後の2週間もつのか心配なところ。

サイモン・イエーツMAロペスヒンドレーはまずまずの位置にいる。順位は悪くないが、総合優勝を狙うにはタイム差はこれ以上は離されたくない。どこかで挽回したいところだが、2週目の後半が勝負どころか。アレンスマンは健闘しているといえる。得意の個人TTでなるべく順位を上げておきたい。オコーナーは期待していたが、やや厳しいか。

面白いところでは、トップ20にEFの選手が3人いる。残念ながらチャベスは大きく遅れてしまったが、降格争いをしているチームにあってはこのあたりの順位を複数の選手がキープすることは非常に重要。少しでも粘っていくところを応援したい。降格争いの中では、ウッズが落車によりリタイア。イスラエルはもう赤に近い黄色信号か。

他にトップ20に名前がない選手で有力候補だったのは、イギータ(21位)、ケルデルマン(23位)、ランダ(28位)。タイム差を考えると総合上位はかなり厳しい。個人的に期待していた選手ではヒルがDNF。バーレーンマーダーの19位が最高と総合成績では厳しい状況が続いているが、好調なライトやブイトラゴとステージ優勝を狙える選手もいるので期待したい。ジロで好成績をあげたフアン・ペドロ・ロペスは83位と全くいいところがない。母国スペインのレースだけに奮起を期待したい。

 

 

◎各賞上位

各賞の5位までを表にした。

ポイント賞はステージ2勝を上げて好調のサム・ベネットを僅差でピーダスンが上回っている。ステージ2位3回、山岳ステージの後半にあるポイントも先頭で通過するなど、ピーダスンの登坂力は驚異的。昨年のコルブレッリのような強さを感じる。この二人を中心にポイント賞争いはハイレベルな争いになりそう。

 

山岳賞争いは、ここまではかなり偏った展開。上位3名がアルペシンの選手で、特筆すべきはヴァインの40ポイント。山岳ステージの2勝、特にstage8は途中の山岳ポイント全てを1位通過するという離れ業。このまま好調が続けば山岳賞本命といっていいだろう。2週目には多くの山岳ポイントがあるので、総合成績が遅れた選手からも狙ってきそう。有力選手がそろうとポイント差は大きいがまだ行方はわからない。

 

ヤングライダーは、かなり面白い展開。絶好調のレムコを新鋭のスペイン人二人のカルロス・ロドリゲスフアン・アユソが追う展開。その後ろにつけるのがアルメイダシヴァコフという実力者。どちらも若いスペイン人のチームメイト。まだまだ動きがありそうで、総合争いにも直結する可能性も十分なハイレベルの戦いに。

 

チーム総合イネオスUAEが1位を争っている。このまま2チームが終盤まで競う可能性が高い。バーレーンの3位、EFの5位、どちらも総合上位にいるべきエースが失速している中、チームとしては健闘しているといえる。ボーラユンボはもっと頑張るかと思ったがやや苦しいレースが続いている。

 

 

◎各ステージ優勝選手

ここまでは、少し意外な選手の活躍が目立つ。それというのも逃げでの勝利が多いからだ。チームTT以外の8つのステージのうち4つが逃げ切りでの勝利。それは今年のツールでのユンボUAE、昨年のブエルタでのユンボのような圧倒的な総合優勝を狙うチームがないからとも思えて、この傾向は最後まで続きそうな気配である。

 

stage1は久しぶりのチームTTユトレヒトの市街地中心のコースは大勢の観客が集まった。事前に想像した通りのチーム力の差がそのまま結果になったような順位。それにしてもユンボは強かった。最後にヘーシンクを先頭にしてゴールし、彼にマイヨロホをプレゼントするあたりも心憎い。長年アシストとしてチームに貢献したオランダ人選手を母国で祝う最高の勝利だった。

stage2は真っ平らな平坦ステージ。序盤に形成された逃げグループをアルペシン中心の集団が追い、残り60kmで捕まえる。集団スプリントで勝利したのはサム・ベネット。不調が続いていたエースに今季2勝目をプレゼントしたのはDファンポッペルの好リードアウト。4位のテウニッセンがゴール順位の関係でマイヨロホを獲得。今大会、母国でリーダージャージをまとう二人目のオランダ人になった。

stage3(平坦)デヘントを含むプロチーム中心の選手たちが逃げ、スプリンターチームが追いかける展開。ハイペースで進むプロトンは集団スプリントになり、サム・ベネットが2連勝。今大会のナンバーワン・スプリンターに名乗りを上げた。ピーダスンは2日連続の2位。マイヨロホはアッフィニに。再びユンボのチーム内で移動。

stage4(中級山岳)は、スペイン・バスク地方に移動し、ブエルタらしい起伏が始まる。逃げグループは中盤で早々に吸収され、パンチャーたちがアタック合戦をしながら最後の3級山岳を登る。ダウンヒルをこなし人数が絞られた先頭グループによる上り坂スプリントを制したのはグリッチ。そのままマイヨロホも獲得し、怪我の影響もほとんどないように思える走り。スプリントで追いかけたピーダスンが同タイムで3日連続の2位。驚異の登坂力を見せた。

stage5(中級山岳)は、20人近い逃げ集団が高速ペースを刻み、ユンボもマイヨロホを手放すつもりで追わず。逃げグループ内でアタック合戦がはじまり、抜け出したソレルが先頭でゴール。移籍後初勝利は2年ぶりの母国ブエルタのステージ優勝。4位に入ったモラールがマイヨロホを着用。

stage6(山岳)は、中盤から悪天候に見舞われ、逃げグループとメイン集団の激しい追いかけっこになり、残り10kmでアタックしたヴァインが嬉しいワールドツアー初勝利。アルペシンはこれで今年もグランツール全てで勝利をあげることに成功。霧に包まれた今大会初の山頂ゴールは総合勢の対決になった。急坂をぐいぐい登るレムコが2位に入り、グランツールで初のリーダージャージに袖を通す。彼のハイペースに着いていけたのはマスひとりだけだった。総合勢は思わぬタイム差をつけられることになった。

stage7(中級山岳)は、序盤で逃げた6人が先頭で長い1級山岳を登りきると、追走するメイン集団はスプリンターを抱えたチームを中心に山頂通過後に必死に追いかける。協調した逃げグループは最後まで逃げ切ることに成功し、5人によるスプリントで勝利したのはエラダ。ベテランが久しぶりの母国での勝利に涙する。マイヨロホはレムコがキープ。日替わりだったリーダージャージは今大会初の連続着用に。

stage8(山岳)は、スタート直後からの登りで有力選手が集まった強力な逃げグループが形成される。メイン集団はマイヨロホ着用のクイックステップが終始コントロール。逃げグループでは説教的な走りで、全ての山岳ポイントを1位通過したヴァインが山頂ゴールに向けて単独で加速。そのまま先頭で今大会2勝目、山岳賞ジャージも手に入れる。メイン集団ではハイペースで登ったレムコについていけたのはクスグリッチのみ。

stage9(山岳)は、序盤から逃げたグループに、クイックステップ率いるメイン集団はタイム差を許す展開に。レムコは他のライバル選手がボーナスタイムを取るよりは、逃げグループに譲ることを選択。逃げグループからアタックしたバッティステッラらを最後の激坂区間で抜き去ったインチェが嬉しいグランツール初ステージ優勝。レムコはひとり異次元のペースで登坂し、総合タイム差をさらに広げる。

 

休息日明けは一気に南下し、地中海沿いの暑いアンダルシア地方で熱いレースがくりひろげられる。stage10は個人TT、総合勢にも動きがありそう。後半のstage14・15はクイーンステージ。総合優勝争いはさらに激しさを増すはず。

 

 

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