リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ 2023|リザルト
4月23日に開催された【リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ】は、レムコが母国レースで大勢の観客の前で見事に連覇を達成した。それにしても、レムコにとっては、今回はアンラッキーだった。その理由は「その他・雑感」で語ります。
*表内の選手のUCI世界ランクと年齢は2022年12月末時点。
◎レース結果:トップ10
レムコはやっぱりレムコだった。彼らしいスタイルで30kmソロライドの圧勝劇。演出したのはウルフパック。集団をコントロールして厳しい展開に持ち込み有力候補たちを次々に脱落させ、チームメイト全員がレムコの発射台になった。我々が見ていたのはロードレースというよりも、新型ロケットの打ち上げだったのだろうか。チームメイトたちが燃料が尽きるまで先頭を牽引して一人また一人と脱落していく様は、まるでロケットが打ち上げで切り離すブースターのようで、レムコの全身真っ白のワンピースはロケットでいえばフェアリングだったのかも。最後の一人、同い年のベルギー人ファンウィデルから放たれたレムコ・ロケットは重力と無関係に加速しながら後続との距離を伸ばし、あっという間に成層圏に超えて慣性飛行に移行した。「打ち上げ、成功です」
ピドコックが一人だけ少し抵抗したけれど、他は全員見守るしかできなかった。最後の30kmの間は何人かが集団からアタックしたけれど、それは追走のアクションというよりも2位争いのアタック合戦という雰囲気で、レムコは一人で異次元を走っていた。レース後ピドコックがインタビューで「一か八かでついていくか、2位争いのために力をセーブするかで迷ったんだ。先頭交代を断ったら引き離されたけど、単純についていくのが辛かった」と語った言葉は生々しい。2位争いに徹したピドコックは賢明な判断だった。モニュメントでは自身初の2位になれたから。ゴール前のスプリントで敗れたものの3位ブイトラゴ、4位ヒーリーも立派な成績。4位まで全員が23歳以下というフレッシュな顔ぶれだ。ヒーリーは、この春のクラシックで一番株を上げた選手になった。3位ブイトラゴと8位コンラッドは予想外だったが賞賛に価する。二人とも2日前までツアー・オブ・ジ・アルプスを走っていたのだ。それでこの成績はほんとに驚いた。《バーレーン、EFは多くの選手が勝負に挑めそうな布陣で、積極的に仕掛けてくれるとレースは面白くなる》→ブイトラドとヒーリーの活躍はこの予想には即していたので嬉しい。5位以降は小集団で、マドゥアス、マルタン、ベノート、コンラッド、スケルモース、ヒルシと実力者たちが入った。マドゥアスはこの春のクラシックで3回のトップ10入りで、トップクラスのクラシックレーサーとしての意地を見せたし、スケルモースはアルデンヌクラシック3連戦で全てトップ10に入り(今年は唯一)トレックでのエースの座は揺るぎないものになった。ヒルシもエースのポガチャルの離脱があっても結果を出したのは拍手。これでLBLを4年連続トップ10というのは非常に好相性のレースだ。
またトップ10からは外れたが同タイムでフィニッシュした11位のファンヒルスもまた大きく株を上げた。アルデンヌクラシック3連戦でみればスケルモースに注ぐ好成績で、今後も要注目である。12位のウッズ、13位のチッコーネ、14位シヴァコフ、15位バルデも状態はよい。ジロでも好成績を期待できそうだ。
◎予想結果:優勝候補ほか
うーん、ひどい結果です(苦笑)。トップ10のうち4人しか当たらず、次点でも一人、その他注目選手で3人と、8人しか当たらない。ここしばらくあまりの的中率の低さに罪悪感にかられています。今回で予想はやめようかな。読者の方には申し訳ないが無責任な情報垂れ流しブログになってしまうのは心苦しいのです。
でも「ワールドツアー全部の出場選手紹介やるぞ」と言っておいて途中で止める方が無責任かも…。悩ましいところです。数少ないけど貴重な読者の方のためには続けていくべきか。うん、ツール・ド・ロマンディを最後に、しばらくはツイッターやブログ村での告知はやめてひっそりとやってみる。紹介の仕方もちょっと変えるかも。ご意見あればお知らせくださいな。
今回の個人的予想面ではゴデュとマスはやはり体調不良があったことと、パウレスとイギータとアラフィリップも万全には程遠かった様子。そしてポガチャルはアクシデント、とここまではしょうがないで済ませられるけど、ヒーリーとマルタンを上位にリストアップしていなかったこととブイトラゴとコンラッドを「その他有力候補」にもあげていなかったのは落ち度としかいえない。ブイトラゴもコンラッドに関しては直前まで走っていたツアー・オブ・ジ・アルプスと中1日での移動で疲労が残ってると想像し、チームメイトも強力なのでエースはないだろうと考えて外していたんですね。いやー、自転車選手の体力ってほんとにすごいっす。そも分を「注目選手」の表から誰か落とすと考えても、なかなか落とせる選手はいません。悩ましいところです。
◎その他・雑感
冒頭でレムコはアンラッキーだったと書いた。僕にはそうとしか思えない。誰もが見たいと願っていた「過去最強のポガチャルとの対戦」は、中盤に起きたポガチャルの落車リタイアによって叶うことはなかった。その勝負は、僕たち無責任な観戦者よりもレムコ自身が一番望んでいたことだったのだ。「最強に勝ってこそ最強になれる」と、自身のバイクに掲げていた言葉を証明する機会すら失われてしまったのだから。
それでも、レムコはやっぱりレムコだった。約30kmの一人旅で、2位に1分以上の大差をつける圧勝劇。それでも「ポガチャルがいたらどうなってたかわかんないよ」という周囲の雑音が聞こえてくることは想像に難くない。しかし、そこに価値がある。つまり“レムコが圧勝したこと”が、ポガチャルの価値をさらに高めたことになるのだ。レムコの圧勝によってポガチャルは“救われた”と言ってしまおう。
そういう意味で、ポガチャルはラッキーだった(かなり乱暴な言い方だが)。レムコに負けたわけではない。もちろん、仮に落車もせずにレースでレムコに負けたとしてもポガチャルの価値が下がるわけではなく、レムコの価値がもっと上がるだけだろう。あれだけ圧勝しても最強と呼ばれないことが、レムコにとってアンラッキーな結果だったのだ(レムコ・ファンの戯言です)。
ポガチャルの手首骨折は、幸い自転車選手としての彼の能力を奪うものではなかった。あとはツールに向けてどれだけトレーニングをしっかり積めるかだけで、必ず、しかも余裕で復活するはずだ。世界選手権、あるいはイル・ロンバルディアで二人の再戦の機会は訪れるだろう。どちらも更に今よりも強くなって。
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◎ポガチャルとレムコの比較記事はこちら。