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ツール・ド・ロマンディ 2023|リザルト

 

4月25日から30日まで開催されたツール・ド・ロマンディ。タイトライアルを上位でこなして、クイーンステージの山頂フィニッシュをトップで登坂したアダム・イェーツが移籍後初のステージレース総合優勝。UAEチームエミレーツに大きな勝利をもたらした。

*表内の選手のUCI世界ランクと年齢は2022年12月末時点。

 

 

 

 

◎レース結果:総合トップ10

総合優勝は、クイーンステージで差をつけて勝ったアダム・イェーツ。これがUAEに移籍してから初のステージ総合優勝になり、UAEツアーでの悔しさを晴らした形。ワールドツアーのステージ優勝はおよそ2年ぶり(2021年カタルーニャ以来)なので、結構遠ざかっていたこともあり嬉しいと思われる。それほど得意ではない個人TTでも登坂力を生かしてステージ3位に入ったことも総合を引き寄せた。サイモンとの兄弟対決が実現しなかったことだけが残念である。

2位は成長著しいヨルゲンソン。クイーンステージでアダム・イェーツに食い下がっていた登坂力は大きな武器でありながら、こちらも個人TTの好成績も立派。さらに総合ライダーとしての価値を高めたといえる。ユンボへの移籍が噂されるが果たしてどうなるのだろうか。3位に入ったカルーゾはさすがの安定感。エースとして期待していたメーダーの調子がいまひとつと見るなり、しっかりエースらしい走りを見せた。この後のジロへもいい状態で臨めそう。4位に入ったマックス・プールはこの大会の最大のサプライズだろう。直近のアルプスで総合11位に入りレース前から当ブログでも注目と言及していた若手だったが、予想以上の好成績。期待の若手が多いDSMでも、TTの強さもあり総合系では一番の注目株。7位に入ったバルデのアシストをしながら、最終的にはバルデを上回る総合4位は、彼を始めて注目した人も多いはず。DSMではこの大会で総合23位に入ったオスカー・オンレー(20歳)も含めて覚えておいて損はない。

5位ピノは個人的に嬉しい成績。クイーンステージでアダム・イェーツを単独で追い上げた走りは熱かった!個人TTの成績がもう少しよければ総合順位もあがる。ジロでも期待していいでしょう。6位アイデブルックスも見事な成績。もうGCレースではエース格として認識したほうがいいレベルに仕上がってきた。7位バルデは、もう少し上位に入りたかったか。集団スプリントになったふたつのステージで4位・3位と根性のスプリントを見せたのは凄かったが、その分少し無理をして脚を使ったようにも思える。8位のベルナルは、個人的には今大会一番に讃えたい。それについては後述する《その他・雑感》でも触れておく。9位ダンバーもポジティブな成績。エースのサイモン・イェーツが離脱する中で、しっかりと好成績を残せた。不調にあえぐチームでは少しでもポイントを取りたいところ。今季、期待を受けて移籍加入して、ようやくひとつの結果を残せた。10位イカは、なんというか、さすが。アダムとアユソのアシストをしながら、自らの結果を残す。今年も予定しているツールでのポガチャルのアシストとしても安心感のある存在。

 

 

◎ステージ優勝者

◆Prologue:4月25日/個人TT

優勝:チェルニー/2位:フォス/3位:カヴァニャ

初日のプロローグは平坦基調のレイアウトのためTTスペシャリストたちが秒を争うレースになった。優勝したのは元チェコTT王者のチェルニーで、リーダージャージも獲得。3位にカヴァニャも入りウルフパックは好調さをアピール。チェルニーはこの後出場するジロでのレムコのアシストとしても心強い。フォスヘイターは総合上位に絡むか不明だが順調に上位に入り、他の総合優勝候補もまずますのタイム。

 

◆Stage1:4月26日/丘陵

優勝:ヴァーノン/2位:ティボー・ネイス/3位:メンテン

中盤の山岳でイネオスが牽引をはじめると、複数のスプリンターたちが脱落。残った集団でのスプリントをヴァーノンが勝利し、クイックステップは連勝。2位には注目していた新人ティボー・ネイスが入り早速の活躍。4位にはバルデがスプリントで入るサプライズで、やる気を感じる。また、Covjd陽性によりDNSになったルツェンコ、他にも優勝候補の一角だったサイモン・イェーツカヴェンディッシュルイ・コスタが体調不良や怪我で早くもリタイア。

 

◆Stage2:4月27日/丘陵

優勝:ヘイター/2位:アユソ/3位:バルデ

この日はユンボの高速牽引で前日同様に有力スプリンターたちは脱落。残った集団で五月雨にアタックがあるも決まらず、最後は残った集団でのスプリントでEヘイターが勝利。バスクカントリーに続くワールドツアーの勝利で調子は戻ってきた印象。故障からの復帰レースとなったアユソが2位に入り元気な様子で安心。前日に続いてバルデが3位に入るサプライズ、スプリンターを目指すのか?笑 DSMは5位にオスカー・オンレーも入り面白い。リーダージャージはEヘイターに移動。

 

◆Stage3:4月28日/個人TT

優勝:アユソ/2位:ヨルゲンソン/3位:アダム・イェーツ

登りが設定されたコースでTTスペシャリストが苦戦する中、調子をあげてきた総合勢が上位に入る。前日も好走していたアユソがトップタイムを出し復活勝利、リーダージャージも獲得。ヨルゲンソンアダム・イェーツが好タイムで続いた。UAEは1位・3位・7位ビョーグと3人がトップ10に入り、モビスターも2位・4位オリヴェイラ・5位バルタと3人入れて、この2チームが抜きんでている印象。

 

◆Stage4:4月29日/山岳

優勝:アダム・イェーツ/2位:ピノ/3位:カルーゾ

厳しいクイーンステージの山頂フィニッシュは、リーダージャージのアユソが遅れはじめるとエース交代とばかりにソロアタックをしたアダム・イェーツが制した。追走グループから猛追したピノがステージ2位に入り総合でも5位にジャンプアップ。3位以降は総合でも上位に入るカルーゾに、プールヨルゲンソンアイデブルックスと期待の若手が続いた。他にも総合順位が大幅にシャッフルされた。前日まで調子のよかったアユソもこの日は続かず。8位にはベルナルが入り、復帰以降では一番の好成績。

 

◆Stage5:4月30日/丘陵

優勝:ガビリア/2位:アルント/3位:ヘイター

中盤にある登り区間で有力スプリンターたちが遅れて、平坦区間で追いつく展開を繰り返し、追いつ追われつのスリリングな展開に。最終的には集団スプリントになり、早駆けしたガビリアが勝利、次戦のジロに向けて好調をアピールした。総合上位は前日と変わらず、アダム・イェーツが総合優勝を果たした。

 

 

◎予想結果:総合優勝候補ほか

優勝候補のうち半分近くが怪我やCovid陽性などでリタイアする状況の中では、予想はそれほど悪くなかったと感じる(当社比)。トップ10のうち優勝候補枠から6人、その他注目選手から3人、記載していないのが一人(ダンバー)だった。今回は及第点、というかこれ以上当てるのは難しいと感じるほどリタイア者が多かったのは残念であり、体調不良者が多く出ているのは今後のグランツールを控えて心配である。春の大一番だったクラシックレースを走った多くのライダーたちも披露が溜まっている時期でもあり、リタイアした中ではこの後ジロに出場予定のライダーも何人もいたり、改めて未だ終息していないCovidの不安も感じる大会になった。

総合4位プール、6位アイデブルックス、11位グローグは、新しい世代の総合系ライダーとして、好成績。彼らは今年のブエルタで昨年のアユソのような存在になれるだろうか。特にアイデブルックスは最大限の注目を。それにしても若手は活躍し過ぎじゃないか、と思ってしまう傾向はこの後もきっと続くのだろう。

 

 

 

◎予想結果:スプリンター

スプリンターには予想通りなかなか厳しい大会だったが、ステージ優勝したガビリアヴァーノンは十分な活躍をし、上位に入ったアルント、メンテンも健闘したといっていいだろう。イネオスはスプリントはEヘイターで勝負していた。その他の選手はちょっと厳しい結果だったが、仕方がない。*リザルトのブルーの数字はポイント賞の順位。ポイント賞1位はEヘイター、2位はアユソである。

 

 

◎その他・雑感

ベルナルにとっては、大きなステップとなるレースだった。様々な意見があると思うが、彼が復活を期する大きな一歩になると思う。

それにしても、ロードレースとは因果な競技だ。そもそもスポーツ全般が人間の運動機能を限界まで駆使するものが多く、肉体を酷使することや怪我についてもつきものでもある。中でもロードレースは他の競技と比較しても大きな怪我の危険がつきまとう。競技者も運営側もその危険性に声を上げたりプロテクターをつける選手が出てきたりもしているが、まだまだ危険を回避する動きは全然足りないといわざるをえない。

ベルナルは2022年の1月、オフシーズンでのTTトレーニング中にバスに衝突し、救急搬送された。事故の状況については言及しないが、大腿骨や脊椎ほか20カ所あまりを骨折し、普通なら運動機能を回復することすら難しいレベルで、手術からわずかの間に退院しリハビリに励む様子が報道されるたびに彼の“生命力の強さ”には感心していた。レースに戻ったのは昨年の8月で、その時期にレースに出場しただけでも驚きである。トップシーンに戻ることは無理なのではないかと思うこともあった。同じように怪我をしたクリス・フルームが未だにコンディションが戻らないように。このレベルのレース(ワールドツアー)で総合8位は本人もチームもようやく少し安心しただろうか。おそらく過去の成績からくる過度の期待や怪我に至る経緯も含めて外野の声も騒々しいはずだが、そのプレッシャーを受けながら確実に前進している。本来ならレースをしないで調整(リハビリ)が必要な段階で、まだ完全復活には時間がかかるだろう。もしかしたら以前のようには戻れない可能性だってある。チームでは総合系の優秀な若手(ベルナルだってまだ26歳なのだが)の突き上げもある。焦らずにじっくりと調子を上げていってほしいと願っているが、彼にはどれだけ猶予が与えられているのだろうか。過去にはツール総合優勝の後の過大なプレッシャーで壊れかけていたのだ。ようやく見えてきた光は、これから次第に大きくなっていくと僕は確信している。

今シーズンも多くのライダーたちがレース中やトレーニング中に怪我を負っている。つい先日はLBLの落車でポガチャルが手首を骨折した。ロマンディはアユソの復帰レースになり、ヴォークランが怪我を負いリタイアした。女子も含めると今年になってレースを離脱するほどの怪我を負ったのは120人を超える。打撲や擦過傷は数に入れていない。彼らの元気な姿や笑顔を見れることの素晴らしさを、僕らはもっと感じるべきじゃないだろうか。すべての選手に、幸あれかし。

 

 

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