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総合エースたちの現在地 〜ツール・ド・フランス2024〜

 

世界最大の自転車レース、ツール・ド・フランスがいよいよ迫ってきた。ジロ・デ・イタリアを終えたこの時期にマイヨジョーヌにまつわる考察をしてみたい。

ジロは現在最強のGCライダーであるポガチャルの歴史的といえるほどの圧勝に終わった。stage2で区間優勝して着用したマリアローザは、ゴール地点のローマに至るまで着続けた。区間6勝し、しかも2位以下に10分近い大差をつけるという近年のグランツールでは記憶にないほどで、2年連続でイタリアの隣国スロベニアから王者が誕生した。

 

 

 

 

◎マイヨジョーヌの条件

マイヨジョーヌに最も近い選手は誰か。各チームの総合エースたちである。ここ数年のグランツールで表彰台に上がった選手たちを筆頭に、様々なファクターから総合リーダー候補たちを考察した。

個人的に考えているのは、ライダーのスキルとコンディションが7割。この場合のスキルとはライダー個人がステージ総合を争える資質をどれだけ兼ね備えているかと言い換えられる。まず必須なのは登坂能力とタイムトライアル能力がともに優れていること。ステージレースでタイム差がつきやすい山岳ステージやタイムトライアルでの優位性は総合成績に直結する。

またスキルに含まれるものとして、基本的にリカバリー能力に優れた身体と適切な食事やマッサージなどのメンテナンス、3週間の過酷なレースに耐えうる体と精神のタフさも重要だ。雨や風はもちろん、高地の低気温や低濃度の酸素にも耐える一方でツールは真夏の灼熱の太陽にも晒される。グランツールは毎日4-5時間(レース以外のウォームアップやクールダウンも入れて)もそんな状態でバイクを漕ぎ続けるのだ。その上で勝つためには最終日まで見据えたレース全体のマネジメント力、リーダーとしてチームをまとめる求心力(つまり人間的な魅力=知性や性格すらも問われる)、ライバルたちとの駆け引きの巧みさや洞察力、レース展開を見極めるセンス、トラブルなどに対応する冷静さやなどもあげられる。それらも全てライダーやチームに必要な“スキル”と考えている。そのスキルを100%活かせるようにコンディションをどれだけ整えられるか。バッドデーにならないように、仮になったとしても被害を最小にとどめられるか。

残る2割がチームの総合力(レースにおける戦術面とそれらをこなす実行力、アシストの能力やスタッフの構成も含めて)で、最後の1割が運である。どれだけ集中していても避けられない落車やメカトラもあるし、展開の有利不利もある種の運である。

 

 

◎総合エースたちの現在地

ざっくりと言ってしまえば、ヴィンゲゴーの3連覇はなるのかポガチャルのWツールは達成できるかこの二人に挑戦するライダーは誰になるのか。客観的に見ようとすればするほど、論点はこの3点に絞られると思う。それほどヴィンゲゴーとポガチャルの強さは抜きん出ている。では、それに続く総合系ライダーは誰なのか。各チームの総合エース(一部アシストも含む)たちを一覧表にしてみた。情報量が多くて少々見づらいかもしれないが、できるだけ包括的にライダーの強さを示したかったので、ご容赦ください。ライダーのセレクトは悩んだが正解はないと割り切ってます。(例えばクスやマイカは総合エースではないがグランツールでトップ10に近い成績をあげるので選んでいるし、ピドコックは総合系ではないが好成績を狙うこともあり外せないかな、とか。同様になぜ入れたか、或いは外したか疑問に思うライダーもいると思いますがご容赦を)

【表の見方】上からUCIランキング順で3つの階層に分類し掲載。上段は100位以内(各チームのエース級。総合トップ20くらい)。中断は101〜200位(サブエース級もしくは山岳アシスト)。下段は201位以下のめぼしいライダー(かつてのエースやこれからの若手、怪我等で少し成績が落ちている)。左からUCIランク(2024年5月末時点)/名前/国籍/所属チーム/脚質/年齢、ここまでは基礎情報。次に前哨戦となるドーフィネとスイスに出場するライダーの記載と、ここまでのステージレースの総合成績(ワールドツアーのみ)。最後に総合成績での強さレベルをスキルとコンディション面で5段階(S/A/B/C/D)で評価した(あくまでも個人的な評価です)。またツールに出場予定(5月末時点、変更の可能性あり)のライダーはUCIランクの数字を黄色にしています。



個人に言及すると5万字くらいになりそうなので自粛します。笑 ただし、この表から見えて来る傾向について少しだけ触れておくと、総合の強いチームがはっきりしていること。UCIランキング200位以内(計74人)に多く入っているのは、UAE10人、ヴィスマ7人、ボーラ8人、イネオス5人、そしてクイックステップからも5人。ここまではステージ総合が強いチームといえるだろう。バーレーンデカトロンdsmが4人で続く。

ワールドチームではアルペシンアンテルマルシェが一人も入っていないが、チームが弱いのではなく、ステージ総合以外で勝負すると振り切っているチーム方針によるもの。

*スキルとコンディションの5段階評価について補足。どちらも最終的には主観による個人の感想レベルですが、過去実績に基づいて半ファンしています。目安としては、S=ほぼ表彰台に絡む実力/A=総合トップ10に安定して入るレベル/B=トップ10に入るか当落線上/C=総合30位以内/D=それ以下という具合。コンディションは2024年の調子の良さで、S=昨年より成績が大幅に向上/A=成績上向き(ムラあり、成長中の若手等も)/B=同レベル/C=成績が下降中/D=ピークを過ぎている、もしくは怪我などにより満足に走れていない状態。ただし、これらはレースをこなすことで変動していきます。

 

*なお、前哨戦の成績との因果関係は別記事も作成したのでご参考に

>coming soon

 

 

◎結局誰がマイヨジョーヌを着るのか

巷で『BIG 4』と呼ばれているポガチャルヴィンゲゴーログリッチレムコがマイヨジョーヌ争いの中心にいるのは間違いないが、それぞれに問題を抱えている。

本来なら優勝候補最右翼になるヴィンゲゴーは、バスクカントリーのレース中でも落車で大怪我を負った。コース横の側溝に落ちた落車による複数箇所の骨折と肺挫傷等は一歩間違えば選手生活どころか生命の危機にも及ぶほどの重大な事故だった。現在はリハビリトレーニング中であるが、チームは「万全の状態でなければ出場しない」と明言していて、そもそも出場するかどうかも不透明な段階だ。ただし、出場できれば100%とは言わなくても95%以上のコンディションと仮定すれば、彼以上の成績を出せるライダーはいないだろう。ツール2連覇中で、実力と実績ともに最強のライダーである。特に昨年のstage16の鬼気迫る個人TTとクイーンステージのstage17での登坂力は、彼個人のとんでもない能力を見せつけたし、今年のティレーノでの圧勝劇もライバルたちは戦意喪失するほどの強さだった。また彼のコンディションとともに不安要素は、ヴィスマのチーム状態が芳しくないこと。つい先日のドーフィネの集団落車により、出場予定だったファンバーレクライスヴァイクという重要なベテランアシスト二人を失った。平坦路から2級程度の山岳までを先頭で牽引していく汗かき役として、集団コントロールにも長けている経験豊富な存在は簡単に替えは効かない。最重要アシストのクスもいまひとつコンディションは良くなさそうだ。他の予定メンバーは、ヨルゲンソンベノートラポルトトラトニクで、残り2名。チーム自体はどこよりも優秀なスタッフとライダーを有し、昨年全グランツールを制覇した実績も優位とはいえ、今年はトラブルが続出していて気の毒である。ファンアールトとヴィンゲゴーの大怪我による離脱で始まり怪我人続出で、ジロでは完走できたのは半分の4人だった。それでも他のチームよりは強力とはいえる。

もうひとりの優勝候補ポガチャルは、今年はすこぶる好調である。ここまでは過去最高の成績をあげていて歴史的な記録を作りそうな勢いである。初出場したジロではマリアローザをあっさりと獲得。TTではガンナにあっさり勝ってしまう衝撃的な勝利もあり、昨年ヴィンゲゴーに突きつけられたTTのスキル差は克服している。怪物がさらに魔物に成長している。チームの誰一人離脱することなく、それぞれが役割をほぼ完璧にこなしたチームワークの良さもUAEの充実ぶりと本気度を感じさせる。ジロもツールもスプリンターはメンバーに入れず、全員がポガチャルを支える体制である。ツールではお母さん役のマイカはいないが、昨年総合3位のアダム・イエーツを筆頭に、アユソアルメイダシヴァコフソレルウェレンスポリッツとチーム史上最強の布陣で臨む。総合トップ10に3人くらい入りそうなメンバーだ。アダムが最終山岳アシストで、アルメイダとシヴァコフが山岳で他チームを振るい落とすための強力な牽引役。ポリッツは主に平坦路での牽引役で、ソレルとウェレンスはアタックつぶしも集団牽引もなんでもこなす万能アシスト、アユソはポガチャルにトラブルがあった時には代役でエースになる存在、そんな風に見ている。唯一最大の懸念点はWツールに挑戦するリスクか。彼にとって未経験であり、常に全力でいくスタイルのポガチャルにはジロから蓄積されるダメージは特に終盤には失速する可能性がある。直後にパリ五輪を控えていることも少しだけ不安要素か。でもそんな一般人の心配など軽く蹴散らしてしまう爽快で凶悪な破壊力をポガチャルは兼ね備えている。

ログリッチレムコもヴィンゲゴーと同じくバスクカントリーの落車で怪我を負った。ログリッチは手術を要するような怪我はなかったが、レムコはかなりの重傷であった。どちらもドーフィネでレース復帰したが、雨中のダウンヒル中での集団落車に巻き込まれてしまった。幸い大きな怪我には至らなかったが、レムコはいまだにリハビリ中という印象である。ログリッチは長年過ごしたユンボを離れて今季からボーラに移籍した手探りの状態も懸念された。今季初戦だったパリ〜ニースでは総合10位で終わるなど。不安を感じる部分もあったが、現在出場しているドーフィネではウラソフヒンドレーというグランツールで表彰台を狙える強力なメンバーによるアシストは、強力である。新しいバイクにも慣れてきたのか、TTも本来の力を取り戻しつつあり、悲願とも言えるマイヨジョーヌは十分狙えそうなポジションだといえそうだ。チームではレッドブルがメインスポンサーとして、チーム名もチームキットも変更するだろうし、相当な気合いが入っていることは想像に難くない。ログリッチの心配は不要な落車が多いことだけ。ツールとブエルタでは過去2回リタイアしている。

レムコは、個人的な印象ではまだグランツールの総合リーダーになるタイプではないと思う。仮に怪我がなくてもマイヨジョーヌは無理だったのではないかと。どちらかといえばワンデーレーサーの方が真の実力を発揮できる。それでもクイックステップの状態として総合系アシストはパワーアップしている。今季加入したランダは実力はもちろんレムコとの相性も良さそうだし、最終盤まで先頭集団についていけそうなヴァンウィデルもいる。ただし、上記3チームと比較するとやや見劣りするか(3チームがすごすぎるだけで、決して悪いわけではない)。個人TTは誰よりもタイムを稼げるが、グランツール終盤の激しい山岳はまだピュアクライマーとは登坂力の差を感じるし、今年はグラベルのステージもあるということもレムコには厳しいといわざるをえない。本気でマイヨジョーヌを狙うよりも経験を積むことがまだまだ必要で、ヴィンゲゴーとポガチャルとの差を肌で感じることが大事だ(本人もチームもわかっていると思うが)。であれば昨年のブエルタのように早々に総合争いからは脱落して、逃げからのステージハントに注力した方が面白い。ツール直後にあるパリ五輪に向けての準備も必要である。ロードもTTも金メダルのチャンスがBIG 4の中では一番ある。

 

BIG 4以外の選手では、個人的には数年前から言っているが、ポガチャルを超えるポテンシャルを感じるのはアユソだと思っている。同じチームにいることが悩ましいが。また過去にグランツールでトップ10に複数回入っている実力者(アダムサイモンイェーツ兄弟やオコーナーGトーマスなど)以外に、昨年から今年にかけて成績が急上昇中の要注目の若手について名前だけあげておくと、スケルモースカルロス・ロドリゲスレニー・マルティネスヨルゲンソンティベーリウィリアムズファンイートフェルトバルト・レメンリポヴィッツピガンゾーリ。そして今年衝撃デビューを飾ったイサーク・デルトロ。彼らはまだまだ成長中で、これまで以上の成績を残すこともありえる。そして復調気配が濃厚なベルナルにも期待したい。あの大怪我がなければBIG 4にも全く引けを取らなかったはずだから。

 

 

 

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余談にはなるが、こういうまとめ記事はいつも情報の選択に悩む。なるべく読み取ってもらいたいので文章少なめで表などを中心に端的に短時間でチェックできるようにまとめたい反面、片手落ちにしたくないのでできるだけ多くの情報も盛り込みたいとも思ってしまう。今回でいえばGCライダーの序列もUCIランクや最終的な5段階評価だけで単純に優劣を決められるものではないからだ。より多くの情報を掲載した方がいろんな楽しみ方ができると思うがどうだろうか・・・。

 

◎参考までに、ポガチャルとヴィンゲゴーの比較、ポガチャルとレムコを比較した過去記事もリンク貼っておきますので、よろしければご覧ください。