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パリ五輪ロードレース 2024|出場選手まとめ(男子)

 

8月3日にフランスで開催される【オリンピック ロードレース・男子】以下、国別に有力選手を簡単にまとめた。事前に準備しながらレース直前のアップになってしまって予習時間がとれなかったことはお詫びします。

*情報は8月2日現在、出場選手は変更されることがあります。表内の選手のUCIランクは7月31日現在で、年齢は2023年12月時点。

 

 

 

 

◎レース概要

コースの総距離は275km(オリンピック史上最長)でありながら獲得標高は2833mと、難易度はそれほど高くない。特徴をざっくりというと、アップダウンの多いアルデンヌクラシックと石畳などの古い道を走る北クラシックを足したようなプロフィールで、様々なタイプのライダーに勝つチャンスがある。多くのライダーにチャンスがあるということは、それだけ勝利するのは大変なコースということ。最後まで気を抜けないハードな展開になりそうな気配が漂う。

トロカデロ広場(地図上の右上の青い丸)をスタートし、エッフェル塔やセーヌ川沿いを走る華やかなオープニングでフランスの旅気分を一気に高めてから、黒い線を反時計回りに大きく迂回するルートに入ると逃げのアタック合戦が始まりレースは本格化する。ベルサイユ宮殿やシェブリューズ渓谷などフランスの著名な観光名所を多く巡るので、中継を見ているだけでも贅沢な観光気分も味わえるだろう。序盤から中盤は10以上の峠を休みなく登り降りする。一つ一つは距離1km前後で平均勾配も5-6%とそれほどでもないが、登坂力のないライダーや実力の劣る国の選手たちはこの区間で脱落するだろう。その後ツールでも走るルーブル美術館のピラミッドを超えてからの残り50km辺りからパリ近郊の周回コース(右上の赤い線:1周18.4km:右下の囲み内に拡大図)を2周する。勝負どころはアートでも有名な石畳の坂“モンマルトルの丘”。距離1km・平均勾配6.5%と激坂ではないが街中の狭い道はパンチャーが差を作るには十分といえる。また周回コースの道幅は全体に狭くテクニカルなコーナーも多いため、位置取り争いも重要。先頭から30分以上遅れると周回遅れになり強制的にリタイアするはずで、ここから先は強い選手しか残れない。3回目のモンマルトルの丘登坂後は9.5kmの平坦路を走りスタート地点と同じフィニッシュ地点に向かう。勝利するのは、登りをこなせるスプリント力のあるパンチャー系の選手、テクニカルでタフなレースに強いワンデーレーサーと予想する。

 

◎有力選手

今回のコースは様々なタイプの選手に可能性があり、実績もトップクラスの選手たちが集まった。表は上からゼッケン順で、左からゼッケン・氏名・国籍(チーム)・年齢・UCIランキング・脚質・注目度の項目を記載した。なおゼッケンは基本的に国別のランキング順になっているので、ざっくりと上から強い国の順番(強い選手順ではない)と考えていい。ただし、1番は現世界王者のマチューが出場するオランダで、次は前回東京五輪の金メダルのエチオピアである。UCIランクはレースによって1年間に獲得したポイントによるランキングで、番号が若いほど強い選手と考えて間違いではないので参考までに。また記載したのはプロチームに所属する選手のみで、下位にあたる国はざっくりと割愛したことはご了承ください。*全選手のスタートリストが見たい方は公式webサイト等で確認ください。

注目度は、過去の実績や今年のコンディションから予想される強さを★で示した。★の色は青=集団スプリントに強いライダー赤=登坂にスピードのあるパンチャー緑=逃げから勝利を狙うアタッカーに分類してみたのでレース展開によって参考にしてみてください(レース展開については次項参照)。多くの選手にチャンスがあるといいながら、クライマーやピュアスプリンターには厳しい。例えばツール・ド・フランスで総合上位を争った総合系の選手はほとんど出場していない。日本からは新城幸也が4回目のオリンピック出場で、39歳は出場選手中最年長。

 

◎レース展開の予想

レースは大きく3パターンの展開が考えられる。まず少人数に絞られた集団でのスプリント勝負によるフィニッシュ。いわゆる“登れるスプリンター”と呼ばれる脚質のクラシックレーサーたち。パンチャーが終盤のモンマルトルの丘でアタックしてもそれほど差をつけられることなくついていける、あるいは差がついても最後の10kmで追いついてゴール前に爆発的なスピードを出せるライダーが優勝候補。代表的なのはマッズ・ピーダスン。他にはワウト・ファンアールトラポルトマシューズメズゲッツストロング。ツールで区間3勝してマイヨヴェールを獲得したギルマイも勝負に絡めると面白い存在。ただしよくある集団スプリントにはならない。リードアウトができるアシスト役は最終盤には残れないからだ。もともと最大でも4名しかいないのでチーム力を活かしたスプリントは無理。300km近く走っても最後に力を出せるタフなスプリンターの個人の力勝負。下馬評ではファンアールトが一番評価が高く、石畳の登坂を含むテクニカルなコースは間違いなく彼向き。春に負った怪我からの回復具合が懸念されたが、先日行われた個人TTの走りを見ているとコンディションは悪くなさそう(銅メダル)。個人的にはピーダスンを本命視したいが、ツールで落車した怪我からの回復具合は気になるところ。

次に可能性がある展開は、モンマルトルの丘などでアタッカーが飛び出してそのまま数人(あるいは一人)でゴールしてしまう展開。現世界王者のマチュー・ファンデルプールや元世界王者のアラフィリップが得意とするパターン。“パンチャー”と呼ばれる脚質の登坂での爆発力があるライダーが今回は多く出場し、モンマルトルの丘で仕掛ける勝負を狙っているはず。他にはアランブルヒルシピドコックナルバエスベノートスケルモースあたりは登坂で差をつけられるクラシックレーサーである。アランブル、ナルバエスは上記のスプリンターたちとの集団スプリントになっても互角の勝負ができそう。ピドコックは先日行われたMTBダウンヒルで金メダルを獲得し好調ではあるが、今回のメンツではさすがに厳しいか。

3つ目に予想される展開は残り50kmを切ってから(周回コースに入ったあたり)抜け出してロングアタックで逃げ切るパターン。元世界王者のレムコ・エヴェネプールが一番得意とする勝ち方で、2年前の世界選手権ではわかっていても誰もついていけなかった。先日行われた個人TTでも金メダルを獲得しコンディションは良さそう。はまってしまったらレムコの独走になってしまう可能性もある。彼のアタックに最後までついていけそうなのが、ヨルゲンソンヒーリーラスカノベッティオールデレク・ジーあたり。モホリッチマドゥアスルツェンコウィリアムズも逃げが得意な実力者だが、平坦でもローテーション無視でガンガン引き捲るレムコのパターンにはまると分が悪そう。

最終的には上記3パターンが混じり合うような展開を想像している。レムコやヒーリーがロングアタックをかけるが逃げ切れず、モンマルトルでアタックするマチューやアラフィリップにピーダスンやファンアールトがついていって、10人未満での精鋭による小集団スプリントでピーダスンが勝つ、みたいな。そして大穴として気になる存在がストゥイヴェン。レムコが吸収された後残り4-5kmで唐突にアタックして、ファンアールトを警戒したライバルたちが牽制して追走が掛からずそのまま逃げきり、なんて十分ありそう。

 

◎過去の結果(2021年、2022・2021・2020年)

参考までに前回東京オリンピックと過去3年分の世界選手権の上位10位を記載。レースによってコースが大きく変わるので、過去の成績はあくまで参考程度と思ってください。ちなみに東京五輪は獲得標高が5000mを超える完全にクライマー向きのコースで今回とは活躍する選手のタイプが違う。金メダルのカラパスは強いクライマーだが、今回出場しても上位には入れないだろう。

そういう意味では昨年のグラスゴーで開催された世界選手権は石畳の激坂を含む市街地の周回コースだったので、リザルトは参考になるかもしれない。ただしパリはグラスゴーほど激坂はなくテクニカルでもないので、登れるスプリンターには今回の方がよりチャンスがありそう。

出場選手中、過去の五輪金メダリストはいないが世界選手権の優勝経験者は現役のほとんどのライダーが集結した。マチュー(2023年)、レムコ(2022年)、アラフィリップ(2021・2020年)、ピーダスン(2019年)、ルイ・コスタ(2013年)。*2014年優勝したクフィアトコフスキはコンディション不良により変更された。

 

 

◎初心者向けの補足解説

今回はオリンピックということで観戦経験の少ない方もいると思われるので、最後に少し補足解説をします。まずロードレースとは長い距離を自転車で(つまり人力で)走る過酷な競技です。大勢の選手がライバルでありながら、彼らの最大の敵は“風”(時速40kmを超える速度で走る空気抵抗はママチャリの3-4倍あると考えてください。50km/hで走行中の車の窓を開けるとすごい風が入りますよね)であり、個人競技でありながらチーム戦という特徴があります(エースとアシストという関係)。彼らは一般人なら押して登るような坂を軽々と登り、下りでは時に100km/hを超える危険な速度で走ります。総距離の275kmとは東京から名古屋の手前まで行ける距離。1レースで消費するエネルギーは7000kcalを超えるというとんでもない超人たちの集まりです。

オリンピックはトップレーサーが集まりますが、普段のロードレースとは様相が異なります。特徴としては国別選手権になり、普段は別のチームで戦う選手がチームメイトになったり逆に普段のチームメイトが敵になったりします。サッカーなどをイメージするといいかもしれません。参加する国を多くするための出場枠です(例をあげるとツール・ド・フランスは8人×22チームで計176人が参加。今回のオリンピックは55カ国計90名が参加で、1カ国最大4人まで)。何が変わるかというと、まず選手の実力差がかなりあります。上位の選手はみなトップクラスの実力者ですが、中には成績よりも参加することに意義があるという選手もいて(ロードレースに限らないオリンピックの特徴ですね)、集団走行でも乱れが生じたりします。またチームカーが50台以上も走るとなれば混乱は避けられません(不慣れな国もあります)。また選手はただ走るだけではなく、補給食やドリンク等の補給を頻繁に受ける必要があります。普段は使用できる無線も使えないことで緻密な指示は困難になるためチーム戦でありながら選手個人の裁量に委ねることが多くなります。通常のレースでは逃げグループを追いかけるメイン集団で牽引役を担ったりアタックをチェックする汗かき役のアシストがいるのですが、集団コントロールをするには難しく、追走の足並みが揃わなかったり、有力チームのアシストが疲弊しやすい等、混乱や波乱が生まれやすいことも特徴ともいえ、レース展開の予想が難しく、それだけ面白いレースを期待できるともいえるでしょう。

国別ではベルギーがどんな展開にも対応できる経験豊富で強力なメンバーを揃えた印象で最大の優勝候補。4人とも世界選手権でトップ10に入ったことがある実力者(上記過去の結果参照)。続いてフランスデンマーク、スロベニア、イギリスが最大枠の4人出場。特にフランスは母国開催で意地もあり、ここ数年積極的にレースを動かすチームなので要注目。次いでオランダスペインイタリアアメリカオーストラリアが3人出場と多い。また6割以上にあたる35カ国が1人だけの出場である(日本も)。

 

 

◎ロードレースの基礎知識はこちらも参考にどうぞ。

jamride.hateblo.jp