波乱のジロ。逆転のジロ。【ジロ・デ・イタリア 2025】は今年も最後まで一筋縄では終わらなかったし、多くの印象的なレースを魅せてくれた。彼らの成績をざっくり振り返りながら、今年はどんな大会だったのかを自分用の覚え書き的に記しておく。
◎総合成績上位

マリアローザは総合争いの最終決戦となったstage20で、総合3位につけていたサイモン・イェーツが大逆転での戴冠。群像劇を見ているような複雑に錯綜する心理戦が繰り広げられる中、勇敢なアタックを繰り出したサイモンが逆転後に流したエモーショナルな涙。サイモンにとっては“7年前の忘れ物”を取り戻した。2018年のジロでstage18を終えて総合1位にいた彼は、このステージと全く同じフィネストレ峠で大きく遅れて、クリス・フルームにマリアローザを奪われていた。最終盤の三つ巴の展開には様々な賛否の声はあると想像しているが、終わってから冷静に振り返ると個人的には起きるべくして起きたとしか思えない。それについては長くなりそうなので別記事を書きます。
総合2位はデルトロ。エースだったアユソを失ったチームで最後まで走りきった溌剌とした姿は心から賞賛したい。次は彼がサイモンのように“忘れ物”として再びマリアローザに挑戦することを願う。3位はカラパス。厳しいステージが続いた第3週に勝負をかけてリーダーをギリギリまで追い詰めるような走りを見せながら最終的に牽制で栄冠を逃したのは、それもまたある意味彼らしい終え方といえようか。総合4位はジー。表彰台に届かなかったのは残念だが、この厳しい山岳を他の屈強なGCライダーたちに混じってのこの順位は、間違いなく総合系の選手として一目おく存在になった。総合5位のカルーゾも見事。初日に遅れてしまったビルバオと3週目で力尽きたティベーリに変わってエースとして最後まで奮起した姿は数年前に総合2位にはいった姿を思い出した。同様に総合6位に入ったペリッツァーリはレッドブルの絶対的なエースのログリッチを失っても最後まで諦めずに戦う姿は21歳とは思えない威厳を感じさせた。多くのファンに名前を覚えてもらえただろう。
3週目はstage16から激しく順位が入れ替わった。前週までトップ10にいたメンバーからはアユソとログリッチが失意のリタイア。ティベーリとアレンスマンは大きく順位を落とした。最終的にUAEがトップ20に4人も送り込みチーム力の高さを見せたが、それでもデルトロを守り切れなかったのはこの競技の厳しさと難しさでもあり、サイモンの想いの強さとヴィスマのチーム力が勝利を引き寄せたのだと思う。先週予想していた通り、ルビオ、ストーラー、プールは山岳で順位を上げた。
*なおこれは個人的な感覚ですが、総合16位以下は1位から30分以上のタイム差があり総合成績を争ったとは言い難いと考えているので言及しません。
◎各賞上位

各賞の5位までを表にした。こちらは2週目を終えた時点の1位が全てキープ。それだけ1位の選手の力が突出していたと感じる。
ポイント賞は、ピーダスン。ステージ4勝をあげて文句なし。現在の“登れるスプリンター”No.1と言っていいと思う。終わってみればstage1から最後までずっとポイント賞リーダー。今回のように途中にスプリンターが振り落とされるような峠があったり、フィニッシュがそこそこの上り基調であれば無敵だった。春のクラシックシーズンからの好調をキープし、ピーダスンを支えたリドルのチーム全体の勝利。中でもヴァチェクの働きはスーパーで、ファンアールト味を感じたのは僕だけではないと思う。2位のコーイはステージ2勝を上げて平坦ステージでは一番速かったし(フィニッシュ前の他の選手の進路妨害がなければあと2勝してもおかしくなかったくらい)、不調であったにも関わらず最後までチームの仕事をこなしたファンアールトのヴィスマの二人も素晴らしい働きぶりだったと思う。
山岳賞争いは、フォルトゥナートが1位、スカローニが2位とアスタナの二人が席巻。他のチームが積極的に狙った選手が少なかったこともあるが、それも1週目からフォルトゥナートが他を圧倒するほどポイントを重ねた結果だと感じる。二人で稼いだ山岳賞1位と2位のUCIポイントは180点と130点。ジロが始まる前は降格圏だったアスタナはひと月後に2チームを追い越して残留に向けて大きな大きな活躍だった。
ヤングライダーは、デルトロ。残念ながら最後にマリアローザは逃したが、ヤングライダーのジャージは彼にとてもよく似合う。同い年のペリッツァーリが2位に躍進。3位のプール、4位のピガンゾーリも含めて今後の様々なレースの総合争いを活性化してくれる存在になると思う。この中では一番実績のあったティベーリは少々期待はずれに終わったが、彼がトレックでデビューしたばかりの頃に当時チームメイトだったニバリが「俺の後継者だ」と言っていたほどの才能の持ち主である。そして5人中3人がイタリア人であるのは、彼らが次世代のイタリアを背負っていく存在になれるよう期待したい。
チーム総合は、総合20位に4人を送り込んでいるUAEが2位以下にさらに大きく差を広げた。バーレーン、ヴィスマはチーム総合の常連としてさすがの順位。総合以上にはいないアスタナは逃げのステージを中心にタイムを稼いだ。そんな中で、5位に入ったチューダーはちょっとした驚き。グランツールにおいてプロチームでこの順位は立派。しっかりと力があることを証明したと思う。
◎各ステージ優勝選手



それぞれのステージ展開を記載すると膨大になってしまうので、全体の傾向だけコメントを(表は全21ステージをアップします)。集団スプリントは7ステージ、小集団スプリントは4つ、ロングアタックが1つ、逃げ切り勝利が7つ、個人TTが2つ。
個人別ではピーダスンが4勝、コーイは2勝&2位・3位。複数勝利はこの二人だけ。総合優勝のサイモン・イェーツは未勝利。ファンアールトは3つのグランツール全てで勝利をあげた。
チーム別ではリドルが6勝(うちピーダスンが4勝)と圧倒的。ヴィスマが3勝、EFとジェイコ、UAEが2勝で、6チームが1勝、未勝利が12チーム。
選手の国別ではデンマークが5勝、オランダが4勝、スペインとオーストラリアが3勝。イギリス、ベルギー、エクアドル、フランス、メキシコ、イタリアが1勝。母国イタリア人はなんとか未勝利を免れたのは良かった。
どれも印象的で良いレースのステージだったが、その中で敢えてベストステージをあげると、stage15のベローナの単独逃げ切り。前日に総合5位につけていたエースのチッコーネを落車の怪我で失ったチームで、献身的なアシストだったベローナの本気のチャレンジングな姿勢とやる気。11人もの逃げメンバーの中で、残り40km以上を残した山岳の入り口で単独アタックした勇気。フィニッシュまで高出力で踏み切って後続を全く追いつかせなかった超人的なパフォーマンス。全てが美しく素晴らしい勝利だった。彼はチッコーネがいれば自ら勝利を狙うことがなかった。応援していたチッコーネのリタイアは個人的に残念だったが、ベローナの勝利はその代償と思えば救われた気分になる。
次点ではヴァチェクの鬼引きに千切れそうになりながら最後に捲ってピーダスンが勝ちきったstage5、最後のフルもがきでギリギリ逃げ切ったアスグリーンのstage14(メイン集団の大きな落車でチッコーネがリタイアしたことがマイナス点)、劇的な総合逆転が起きたstage20(ステージ優勝と総合争いは別の勝負だったことと複数選手の失意も感じてしまったのがマイナス点)も捨て難い。
◎その他・雑感
個人的に考える今回のジロの主役は3人。初日に勝利して最終的にマリアチクラミーノを手にしたマッズ・ピーダスン。総合優勝に涙したサイモン・イェーツ、およそ半分のステージをマリアローザで過ごしたイサーク・デルトロ。彼らの活躍はここで述べる必要がないだろう。
Xでポストしたが、総合トップ10のうち7人が「非ヨーロッパ」であることと、フランス圏のチームの不調(ジロというよりも今シーズンの傾向なのだが)が気になっているが長くなりそうなので別記事を書きます。
*前回の成績まとめで触れていたワールドチームの昇格争いについては、近々別の記事を上げます。
◎レース前の出場選手まとめはこちら
◎stage15終了時の成績まとめはこちら
