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ツール・ド・フランス 2025|成績まとめ(stage10終了時)

 

1週目を終えた【ツール・ド・フランス】は最初の休息日。1週目といいながら例年よりも多いステージを消化し、折り返しともいえるほぼ半分のステージを終えた。ここまでの成績をざっくり振り返りつつ、注目したい選手やトピックスをまとめてみました。

 

 

 

 

◎総合成績上位

 

1週目はほぼ平坦と丘陵ステージだったにも関わらず、総合成績には明確な序列がついた印象。

マイヨジョーヌのベン・ヒーリーはサプライズ。最終的にマイヨジョーヌを争う相手ではないとライバルたちから認識されているとはいえ、ここまでの積極的且つエネルギッシュな逃げからの好成績は賞賛に価する。特に40km以上を単独で逃げ切ったstage6の走りは圧巻で、レース終了後に判明したレース中のケイデンスが98だったというのは驚異的。彼もまた“怪物クラス”の能力を示した(*ケイデンスとは1分間のペダル回転数で、多いことで有名なポガチャルが掛かっている時で95回。つまりポガチャルのトップスピード時と同じレベルで1レース中ペダルを漕いでいたとんでもない数値)

2位以降の上位は各チームの総合エースたちが中心で総合優勝候補がずらり。ポガチャルレムコヴィンゲゴージョーゲンソンの4人は最終的なマイヨジョーヌ争いの中心になる選手たち。6位ヴォークランと7位オンレーは、他の総合エースたちが遅れた厳しいステージでも終始安定して上位に入って大きな注目を集めている。特にヴォークランは母国かつ出身地の近くを通るコースが組み込まれていたこともあり沿道の歓声はかつてのアラフィリップを彷彿とさせるレベルで、フランスの新しいスター誕生を予感させる。8位リポヴィッツも含めてこの3人はまだヤングライダー対象選手でツールにおける総合争いに新風を強く吹きこんでいる。9位ログリッチはジロで落車リタイアした影響もあるのか本調子とは程遠い様子で、2週目以降のエースはリポヴィッツに移動しそうに見える。本格的な山岳が始まる前にすでに5分以上遅れている10位以降は実質マイヨジョーヌ争いからは脱落。何人かはヒーリーのように逃げから大きくタイムを稼ぐこともありえるが、総合争いが激化していく2週目以降はライバルたちからのマークも厳しくなるので容易ではない。ジェガットナルバエスグレゴワールブッフマンはここまで頑張っているとはいえるが、想像以上に遅れてしまった総合エースたちの恩恵を受けた順位と個人的には考えています。

また、残念ながらここまでで脱落した有力GCライダーはアルメイダが骨折からのDNF。サイモンアダムイェーツ兄弟レニー・マルティネスブイトラゴストーラーアレンスマンは大きく遅れている。彼らはアシストとして総合エースを支えたり、ステージ優勝あるいは山岳賞狙いにシフトしていくと思われる。

とはいえ総合争いはまだ始まったばかりで、2週目のstage12・13・14のピレネー3連戦が大きな山場であり、もっと大きな差がつく可能性が高く、順位も大きくシャッフルされることが予想される。個人的に懸念しているのは、2週目は大会半ばにしてマイヨジョーヌ争いは終結してしまうこと。そうならないことを願っている。2週目以降の総合争い《UAEとヴィスマの一騎打ち》については別記事で言及する予定。

 

 

◎各賞上位



 

各賞の5位までを表にした。こちらも1位争いは趨勢が見えてきた。

 

ポイント賞は、ステージ1勝・2位2回と実力を示しているミランがトップに。中間スプリントでもほぼ1位で通過して多くのポイントを稼いでいる。しかし不気味な存在なのが、2位につけているポガチャル。2週目以降は平坦ステージは3つで、他の丘陵と山岳ステージではポガチャルが相当のポイントを加える可能性が高いことを考慮すると、ポガチャルがマイヨヴェールも獲得する可能性は高い。3位ギルマイは平坦ステージではやや分が悪いので中間スプリントと昇りがらみのステージでどれだけポイントを上積みできるか。メルリールはステージ優勝狙いで、レムコの総合優先のチーム事情もありポイント賞への執着はなさそう。マチューもあまり興味を示していない印象。

 

山岳賞争いは、まだ全くわからない。実質stage10で獲得したポイントで順位が決まっている。2週目以降は山岳が多く設定されているので現在TOP5に入っていない選手にもチャンスはある。stage10で明確に山岳ポイントを獲得したレニー・マルティネスは2週目以降も同様に狙ってくると思われるし、ヒーリーもまた逃げからのポイント稼ぎをしそうなので有力候補の一人と想定される。他はポガチャルヴィンゲゴーの総合優勝候補は山岳ポイントを狙わずしてポイントを稼いでくるのも間違いない。2週目の状況(二人のタイム差)次第で山岳賞の趨勢も変わってくるだろう。

 

ヤングライダーは、ヒーリーが首位に立っているが実質レムコが1位と考える。そうするとヴォークランオンレーリポヴィッツまでタイム差はおよそ2分以内。アルカンシェルのレムコはもちろん、他の3人も個人TTも強かったため大きな差はついていない状況。これからの超級などの長く厳しい登坂への適性で順位が決まりそう。レムコ優位は揺るがないが、今後のGCライダーの勢力争いとしてもハイレベルな新人賞争いは注目したい。

 

チーム総合は、ヴィスマが2位UAEに少し差をつけている。この成績は得意のタイムトライアルではチーム全体が不調にも感じたヴィスマだが、チーム単位で見たときにはUAEよりもチーム力では上回っているひとつの証左ともいえるだろうか。3位以降はデカトロングルパマアルケアと今季低迷しているフランスチームが健闘しているのは好印象。ただし2週目以降は本格的に山岳ステージが始まるので状況は一変するはず。上位2チームの争いとともに順位はかなりシャッフルされると予想している。

 

 

◎各ステージ優勝選手

 

それぞれのステージ展開を記載すると膨大になってしまうので、ここまでの傾向だけコメントを。集団スプリントは3ステージ、小集団スプリントは4つ、逃げ切り勝利が2つ、個人TTが1つ。

個人ではポガチャルメルリールが2勝。他は1勝づつ。

チーム別ではスーダルが3勝で、アルペシンUAEが2勝、3チームが1勝、未勝利が17チーム。

選手の国別ではベルギーが4勝、スロベニアが2勝、オランダアイルランドイタリアイギリスが1勝。ここまでは、母国フランス人は未勝利。果たして…。

 

 

 

◎その他・雑感

個人的に印象的だった二つのステージについて、軽く。

ひとつめはstage6ヒーリーの40km以上に及ぶソロアタックの逃げ切り勝利は痛快だった。それまでのステージがクラシックのワンデーレースのような展開でポガチャルとマチューが中心になるレースが続いていただけに余計に鮮烈な印象であった。

◎“逃げ”についての考察はこちら。逃げ切り勝利の条件や有力な逃げの選手について

 

もうひとつはstage9。最終的に集団スプリントになってメルリールが勝利したのだが、強烈な印象を残したのはマチュー・ファンデルプールヨナス・リカールトアルペシンの二人が逃げ切り勝利を目指して走る姿だった。前のstage8は集団スプリントを目論むチームに対して誰も争うそぶりを見せず、終盤になってようやく飛び出したトタルの二人も言葉は悪いが“賑やかし”の扱いであった。そして翌日のstage9も山岳ポイントのないド平坦ステージで、他のチームは誰ひとり逃げない中スタート直後から飛び出した二人はあっけなく容認された。その意味するところは彼らは優勝候補としてみなされていないということ。これまでハードなステージを8日間も過ごしてきて、さらに翌日のstage10は今大会初の山岳というハードなステージが待っている。たった二人の無謀なランデブーは延々と170km以上に及び、リカールトが千切れて一人になったマチューは残り700mで集団に吸収されるまで抵抗をした。集団は彼らを甘く見ていたのだろうか。いや、追い風基調だったとはいえ平均時速が50km/hを超えていたのだ。これはツールにおける史上2番目の速さで、勝利したメルリールもメイン集団のコントロールを担っていたリドルのミランもレース後に「非常にハードなステージだった」と言わしめた。もっと言えば、集団コントロールでアシストを必要以上に使わされたリドルは万全のリードアウト体制が整えられずにコンソンニから早めにスプリントを開始するしかなくメルリールに敗れた一因にもなった。勝利は掴めなかったが、改めてマチューの能力の凄さと恐ろしさを知らしめた。

フィニッシュ後に明かされたリカールトの談話。前日に「ツールの表彰台に上がるのが夢なんだ」と冗談交じりに語った彼に「じゃあ、明日一緒に逃げようぜ」と言ったマチューは本気だった。さすがに勝利はできなかったが、リカールトは敢闘賞に選ばれて夢だったツールの表彰台にあがって涙ぐんだ。アルペシンで三番目に古株である31歳の典型的なドメスティークである彼はマチューのひとつ年上で、チームがプロチームになる前のコレンドン・サーカスだった2019年から所属している。これまでのキャリアでは580レースを走り、プロでの勝利は一度だけ。マチューとは今年はパリ〜ルーベで一緒に走って勝利を御膳立てした。これまでに走ってきた中で一番しんどかったと語ったレースは、彼にとって自転車選手としてのかけがえのない結果をもたらしたのだ。チームのアシストのためにこんなに全力で働く絶対的なエースがいただろうか。

この二人の挑戦には伏線もあった。チームのエースだったフィリプセンの不幸なリタイアである。stage1で勝利を挙げたトップスプリンターであるフィリプセンがいたら平坦ステージでアルペシンはチームとして逃げさせることはなかっただろう。そしてフィリプセンが去った後にスプリントエースを担ったグローブスも快く協力していたのはドメスティークとして従順だったリカールトに対しての好意に他ならない。素晴らしいチームワークである。

彼ら二人の勇敢な挑戦は諦めずに戦うことの大切さを示すとともに、「敢闘賞」の価値を高めた行為でもあった。改めて逃げた二人とともにアルペシンというチームを賞賛したい。

 

 

 

◎レース前の出場選手まとめはこちら


◎ワールドチームの残留争いはこちら

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