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黄色の綻び|ツール・ド・フランス 2025

 

1週目終了時の成績まとめ中、文章量が想定外に多くなったので、ここまでのレースで感じた「マイヨジョーヌ争い」についての考察の別記事です。実質的な総合争いはポガチャルとヴィンゲゴーの一騎打ち。2週目のstage12から始まるピレネー3連戦が今大会の最大の山場になると僕は考えています。

 

 

 

 

2強による異次元の戦い

総合争いにおける『UAE vs ヴィスマ』の2強の構図。ここまでおよそ半分のステージを終えて二人のタイム差は1分17秒。まだ何が起きるかわからない拮抗した状態と考えている。このタイム差は、個人TTとポガチャルが獲得したボーナスタイムを除けば、その差は“0秒”。本格的な山岳が始まっていないとはいえクラシックレースのような激しい展開続きで他の総合勢が全員タイムを失ったことを考慮すると、この二人が繰り広げている総合争いはやはり異次元の戦いなのだと改めて思う。残念ではあるが、他のチームが入り込む余地はここにはない。二人のタイム差は0秒、つまりポガチャルのアタックにヴィンゲゴーは全て離されなかった。そして、常にポガチャルが先着していることもまた事実である。

前哨戦ドーフィネの山岳で圧勝した結果を受けて、ツール前はポガチャル優位の思いを強くしていた。2週目から始まる山岳のピレネーでポガチャルが決定的なタイム差をつけてしまう可能性が高いとも。しかし1週目の状態からいくつか気になることが両チームに感じられる。

 

 

王者の綻びと焦り

ディフェンディングチャンピオンであるポガチャルは盤石に見えた。春のクラシックで過去最高の結果を残し、UAEのチームメイトも過去最高レベルのメンバーを揃えた。迎えたツールも1週目で早くも区間2勝しボーナスタイムも獲得。スプリントでも常にヴィンゲゴーに先着しライバルたちに強さを見せつけた。

しかし初日から微かな綻びもあった。横風分断を仕掛けられてもポガチャルは難なく先頭集団に残ったが、ウェレンス以外は後続集団に取り残された。平坦巧者を揃えたヴィスマに対して唯一UAEの弱点と感じる部分をつかれた。それ以降も山岳寄りのアシストを揃えたUAEは、ポガチャルのマイヨジョーヌの代償に平坦ステージではクラシックレースのような緊張感を強いられてチームは消耗した。

そしてアクシデントが起きた。最重要アシストのアルメイダが落車に巻き込まれて骨折しリタイアした。ポガチャルは会見やインタビューで何度もアルメイダの離脱を嘆いた。それは仲の良い同い年のチームメイトを失った悲しみよりも、総合争いにおいてキーになる最強のアシストを失った焦りの発言だったと感じたのは僕だけだろうか。昨年のように一週目から早々に着用したマイヨジョーヌを守ることはせずに手放そうとしていたのも、アシストたちの消耗とは無縁ではない。またポガチャルには珍しくヴィスマに対して口撃を繰り返しているのは、焦りや苛立ちが滲み出ているように感じる。

昨年から怪物級の走りを見せられているのでつい忘れがちだが、ポガチャルがヴィンゲゴーに敗れた時はいつも終盤で失速している。初日から慌ただしいレースが続く中、マチューと繰り広げた全開のスプリントはさすがのポガチャルも無傷のはずはない。2週目以降の本格的な山岳であるオタカムモンヴァントゥロズ峠かつてポガチャルがヴィンゲゴーに屈した因縁の峠である。

 

 

混沌と不協和音

チャレンジャーとして臨むヴィスマにも懸念が感じられる。チーム内で最強のメンバーを揃えたとはいえ、決してベストの状態ではない。ファンアールトは昨年からトップフォームは取り戻せていないし、ツール直前のベルギー選手権を直前で欠場したほど本調子とは程遠い。ジロでマリアローザを獲得したサイモンは疲労を抱えたままリフレッシュしきれていない。最重要山岳アシストのクスは登坂で遅れていく彼らしくない姿が目立ち不調が続いている。そして個人タイムトライアルではヴィンゲゴーとジョーゲンソンの二人が遅れた。それもポガチャルから1分以上の大差をつけられて。前哨戦のドーフィネの個人TTでポガチャルに28秒差をつけたことを考えると痛恨である。また彼ら選手の状態と別に気がかりなのはヴィンゲゴーの奥さんが公にチーム批判をしメディアから大きく報道された。チームにとってもヴィンゲゴーにとっても残念である。

ドーフィネの初日に見せたヴィンゲゴーのサプライズ的なアタックやアグレッシブな姿勢は概ね好意的に受け取られていたようだったけど、僕には追い詰められた彼らの“奇襲”に見えた。正攻法ではポガチャルには勝てないから、と。ツールでもヴィンゲゴーやジョーゲンソンが頻繁にアタックを繰り返す。しかし奇襲は成功していない。ポガチャルは動じることなく対応し、最終的にヴィンゲゴーに先着している。おそらくヴィスマの奇襲は勝つためというより心理的な揺さぶりだろう。UAEに奇襲のイメージを刷り込むことと常に緊張感を強いることが目的だったのではないか。本気でポガチャルを追い込むのであれば、逆にドーフィネではおとなしくしてツールのここぞという場面で繰り出す方が効果的だったはずである。この奇襲は逆転するための攻撃の伏線だったのか、答えは2週目以降にわかるだろう。

良い兆候もある。1週目の最後にステージ優勝したのはサイモン・イェーツ。彼の勝利によりチームに漂う暗いムードは改善されるし、山岳ステージに向けてサイモンの復活は単純に戦力として好ましい。また個人TTで遅れたヴィンゲゴーは悲壮感を漂わせることなく淡々とレースをこなし、自信なのか開き直りなのかわからないが常に笑顔なのだ。

 

 

黄色の境界線

stage10のフィニッシュ時にいくつかの気になる動きがあった。ひとつめはフィニッシュ時の登坂で逃げていたレニー・マルティネスを吸収しながらも彼を先行させてフィニッシュしたことである。これまでのポガチャルなら間違いなくヴィンゲゴーを振り切ろうともがいたはずで、ましてや格下のマルティネスを先行させることはいつものポガチャルなら見られなかった珍しい行動だ。もうひとつはフィニッシュ後のヴィンゲゴーとの握手。手を差し出したのはヴィンゲゴーで、手を握り返したポガチャルは目を合わさず笑顔もなかった。このシーンは現在の二人の心理状態を物語っているように感じた。ポガチャルはヴィンゲゴーに対して1分17秒差をつけてリードしているが、ヴィスマは総合30位以内に5人も揃えている一方で、アルメイダを失ったUAEはポガチャルとナルバエスの2人しかいない。チーム力はヴィスマに軍配があがる。

 

以下、ピレネー三連戦の概要である。

◆Stage12(7月17日/山岳):AUCH  >  HAUTACAM

距離180.6km|獲得標高3850m|超級×1(フィニッシュ)、1級×1、2級×1、4級×1

ピレネー山脈の初日はいきなり超級オタカムの山頂フィニッシュ。2000年代で5回目の登場となる名物峠で、記憶に新しいところでは2022年stage18に登場し、ヴィンゲゴーがポガチャルに1分以上の差をつけた因縁の場所。

 

◆Stage13(7月18日/個人TT):LOUDENVIELLE  >  PEYRAGUDES

距離10.9km|獲得標高650m|1級×1(フィニッシュ)

超級山岳ステージに挟まれた山岳個人タイムトライアル。距離は短いながら、スタート直後からフィニッシュまで延々登り続ける平均斜度が8%に迫る過酷なコースで、主催者は想定タイムを26分ほどと設定しているが、ずっと登り続けるので脚を休める場所がなく、わずかの登坂力の差が数分の差になりえる。

 

◆Stage14(7月19日/山岳):PAU  >  LUCHON-SUPERBAGNÈRES

距離182.6km|獲得標高4950m|超級×2(フィニッシュ)、1級×1、2級×1

4つの破壊力のある山岳が待ち受ける。中盤に設定された最初の超級トゥールマレーでこの日の勝者は決まるかもしれないし、どれだけ最終的にタイム差を抑えられるかが3週目に向けての希望になる。下りで追いつき登りで離されを繰り返しながら最後の超級シューペルバニエールに向かう。山岳で総合エースをサポートするアシストがどれだけ残れるかも勝負を分けるポイントで、チーム力が問われることになる。

 

2週目から3週目にかけての勝負どころに向けたピーキングや集中力はヴィスマの最大の長所であり、そう思うと1週目はそれほど痛手を受けてはいない。そしてポガチャルもまたチーム力が頼りないと言われながら圧倒的な個の力でねじ伏せてきた実績がある。『UAE vs ヴィスマ』の6年目の一騎打ちは、我々にどんなドラマを見せてくれるのか。今年もまた誰も見たことがない世界に連れて行ってくれることを期待している。

更に総合争いで個人的に注目しているのは、ポガチャルとヴィンゲゴーに続く若い選手が誰なのかということ。ここまで2チームの話に終始してきたことと矛盾するようだが、ポガチャルとヴィンゲゴーの2強時代に終わりを告げる世代の台頭が新しいロードレース界の創出になるのだと思う。候補になり得るライダーは多くいる。

 

 

 

◎出場選手情報はこちら

 

◎stage10までの成績まとめはこちら

 

◎ツールにおける“逃げ”の考察

 

◎ポガチャルとは何者なのか

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