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黄色の支配、白い野心|ツール・ド・フランス 2025

 

マイヨジョーヌを巡る争いは、実質stage12だけで決着した。ピレネー三連戦は全てポガチャルが支配し、残酷なまでに圧倒的な力の差を見せつけた。

2週目終了時点で感じた「マイヨジョーヌ争いの終結」と「激化したマイヨブラン争い」についての考察です。

 

 

 

 

ニ強から一強時代に

正直に言うと予想通りである。1週間前に総合争いでの『UAE vs ヴィスマ』の2強の構図を書きながら、ポガチャルの圧勝を予想していた。おそらく8割以上の方がそう思っていたと思う。前哨戦ドーフィネの山岳で圧勝した結果を見れば、順当な結果だったとさえ言える。ポガチャルは全力で無慈悲に黄色の指定席についた。“ポガチャルがヴィンゲゴーに敗れた時はいつも終盤で失速している”と前回書いたが、それは過去の話だ。昨年パワーアップしたポガチャルは更に進化している。「隙がない」というよりは「すべてを力でねじ伏せる」走り。ポガチャルは強くエネルギッシュで、冷静で賢く、楽しそうにも悲しそうにも見えた。

そして、少しばかりの運もあった。stage11の慌ただしい終盤でなんでもない所で不注意による落車があったが、体のダメージもなくタイムも失わずに済んだ。転んだ場所は路側帯やガードレールなどの障害物もなく大きな怪我には至らず。バイクも壊れず、外れたチェーンはシマノのサポートが迅速に対応し、メイン集団もレムコやヒーリーが中心になってポガチャルが復帰するのを待った。集団に追いつくために力を必要以上に使うこともなかったのは幸運である。また以前から感じていたが、ポガチャルは転び方がとても上手い。咄嗟の判断と身のこなしが優れている。スローのリプレー映像を見ると、バランスを崩した直後にシューズを外して踵を路面に当てて衝撃を軽減し、お尻から路面を滑るように落下した。落下時の姿勢は背を丸めて腕はハンドルを握りしめている。頭や背骨に衝撃を与えず、腕や肩の骨折を防ぐには最適の姿勢である。ダメージは最小限で済んだはずだ。

もうひとつの強運は、翌日のstage12でメイン集団を主に牽引したのはマイヨジョーヌのヒーリーがいるEFとウノエックスだった。ウノエックスにはトビアス・ヨハンネセンがいる。彼はポガチャルに接触して落車の原因としてSNSなどであらぬ攻撃を受けていた。総合上位にいて勝負をかけるというより、ポガチャルに対してなんらかの禊をしているように感じたのは穿ち過ぎだろうか。結果的に総合争いの最重要ステージで、UAEは必要以上にアシストの処遇を避けられた。

 

 

圧倒的な2位

結果論で好き勝手に言って申し訳ない。僕はライバルのヴィスマが自滅したと感じた。ただ強調しておくが、総合2位にいるヴィンゲゴーの総合力と精神力、ヴィスマのチームワークは素直に賞賛したい。現状は彼らが望んだレース結果ではないと思うが、初めから総合2位狙いでなくリスク承知で攻めた結果としての“自滅”であり、最後まで諦めずに全力を尽くす姿勢は誇るべきである。ポガチャルの弱点を突くのであれば、アルメイダを失ったUAEのアシスト陣を容赦なく攻めてポガチャルを孤立させるしかないと思っていたが、ツールの初日から常にポガチャルにストレスを与えるべく“奇襲”をかけたクス、ジョーゲンソンらはその攻撃的な走りによって自分たちがUAE以上に消耗してしまった。奇襲の見返りで、2週目に最も重要な山岳でヴィンゲゴーを孤立させてしまったのだから失敗といえる。ジョーゲンソンの総合上位からの脱落はヴィスマの勝負手を失うことになった。

そもそももっと勝率を高めたいのであれば、サイモンとファンアールトはジロに出さずにツールに向けてコンディションを上げて臨むべきだったが、それは愚策だろう。マリアローザという栄誉をもたらした彼らは間違いなく勝者である。レースはツールだけではない。ヴィンゲゴーとヴィスマは、ツールでポガチャルに勝てる可能性は高くないと現実的に判断したはずだ。今思えば、stage5の個人TTで遅れた時点でヴィスマのマイヨジョーヌは赤に近い黄信号で、stage10でのサイモンの逃げからのステージ優勝はチームとしてステージ勝利へ切り替えていたのかもしれない。総合2位は彼らでなければ誇るべき結果である。

ちなみにヴィンゲゴーは今シーズン2位が10回と一番多い選手だ。そのうち7回はポガチャルが1位だ。ポガチャルが“強過ぎる”のだ。

 

 

白い野心

決着したマイヨジョーヌ争いを他所に、マイヨブラン争奪戦は激しさを増している。stage17終了時点で、総合3位フロリアン・リポヴィッツ、総合4位オスカー・オンレー(2分1秒差)、総合6位ケヴィン・ヴォークラン(4分17秒差)の3人が僅差でしのぎを削る。非常にハイレベルなマイヨブラン争いで、本来ならここにレムコ・エヴェネプールもいたのだが、彼は残念ながら体調不良によりリタイアした。昨年末の事故による怪我からまだ回復できていないように感じる。心配が杞憂であることを願う。

2週目の印象だけで言うと、一番登れているのはリポヴィッツ。登りでポガチャルとヴィンゲゴーの二人に最後まで食らいついているのは必ずリポヴィッツだ。これは前哨戦のドーフィネでも同様であった。更にレッドブルのチームメイトには経験値では誰よりも頼りになるライダーのログリッチがいる。昨年のブエルタで総合7位に入ってログリッチのマイヨロホを支えて今年は総合エースとして飛躍する姿は、まるでヴィスマでログリッチからエースを受け継いだヴィンゲゴーの姿を彷彿とさせる。ちなみに僕の観戦仲間の何人かは知ってるが、彼は僕が今年一番注目したいと言っていた選手なので個人的にも期待値は高い。

 

この3人はキャリアやタイプがとても似通っている。キャリアと個人的な印象を記載しておきます。

 

フロリアン・リポヴィッツ

2000年9月21日生まれ24歳/ドイツ人/181cm/68kg/オールラウンダー/UCIランキング32位/プロ通算3勝(TOP10:46回/180レース)

2023年ボーラ・ハンスグローエでプロデビュー(2022年8月にトレイニーとして加入)。グランツールは3回目で、2024年ジロはDNF、ブエルタは総合7位で総合優勝したログリッチを支えて一躍注目の若手として台頭。今年はパリ〜ニース総合2位、バスクカントリー総合4位、ドーフィネ総合3位とトップクラスのGCライダーといって差し支えない好成績。登坂力が最大の強みでタイムトライアルも得意なので、デビューした頃のヴィンゲゴーと脚質的には被る。また控えめで「エースはログリッチだ」と常に発言しているあたり、キャラ的にもヴィンゲゴー味がある。

 

ケヴィン・ヴォークラン

2001年4月26日生まれ24歳/フランス人/176cm/69kg/パンチャー寄りのオールラウンダー/UCIランキング29位/プロ通算10勝(TOP10:78回/238レース)

2022年アルケア・サムシックでプロデビュー(2021年8月にトレイニーとして加入)。グランツールは3回目で、2023年ブエルタはDNF、2024年ツールは総合91位だがstage2で区間優勝し、一躍フランス中で注目度が高まった。今年はティレーノ総合12位、ツール・ド・スイス総合2位。激坂ユイの壁で有名なフレーシュ・ワロンヌは2年連続で2位になるなどワンデーに強い激坂ハンター。更に個人TTでもすでに2勝するなどタイムトライアルも得意で、今年のフランス選手権ではRR3位、ITT2位。脚質的にはデビューした頃のポガチャルに近い印象。3人の中では華のあるタイプで、ツールでは出身地の近くのコースを走ったこともあって最も注目された選手の一人。母国フランスの期待を背負って走る姿は、2019年にマイヨジョーヌ姿でフランス中を熱狂させたアラフィリップの後継者のようでもある。チーム存続が怪しいアルケアにおいてUCIポイントを一番多く稼ぎ、希望を繋ぐ存在として彼自身の価値を高めている。来季はいくつかのチームに移籍する噂がある(デカトロンとイネオスなど)。

 

オスカー・オンレー

2002年10月13日生まれ22歳/イギリス人/173cm/62kg/クライマー/UCIランキング27位/プロ通算3勝(TOP10:58回/210レース)

2023年DSMフェルメニッヒでプロデビュー(2021年より下部育成チーム所属)。グランツールは3回目で、2023年ブエルタはDNF、2024年ツール総合39位。今年はUAEツアー総合5位、ダウンアンダー総合4位、ツール・ド・スイス総合3位と安定して上位に入る。3人の中では最年少ながらUCIランクは一番上で、派手さはないが安定感は一番高い印象。脚質で例えるとアルメイダか。ツール期間中にGトーマスがオンレーのGCライダーとしての素質をベタ褒めしていたらしい。3人の中では唯一来季以降もチームと契約している。2027年までピクニックと契約をしているのはチームからの期待の高さを感じさせる。

 

 

他にも今大会では他に将来のトップクラスのGCライダーと期待されるのは、

マティアス・スケルモース(2000年生まれ/リドル/UCIランク28位)

ベン・ヒーリー(2000年生まれ/EF/UCIランク35位)

レナルト・ファンイートフェルト(2001年生まれ/ロット/UCIランク42位)

カルロス・ロドリゲス(2001年生まれ/イネオス/UCIランク53位)

パブロ・カストリーリョ(2001年生まれ/モビスター/UCIランク89位)

レニー・マルティネス(2003年生まれ/バーレーン/UCIランク62位)

ジョセフ・ブラックモア(2003年生まれ/イスラエル/UCIランク132位)

彼らは今大会のマイヨブランは厳しいが、3週目のアルプスステージで印象的な活躍をしてくれることを楽しみにしている。

 

ツールに出場していないヤングライダー(25歳以下)で総合系の有力な選手を上げておく(年長順&UCIランク上位から)

アントニオ・ティベーリ(2001年生まれ/バーレーン/UCIランク79位)

フアン・アユソ(2002年生まれ/UAEチームエミレーツ/UCIランク25位)

ダヴィド・ピガンゾーリ(2002年生まれ/ポルティ・コメタ/UCIランク142位)

マシュー・リッチテッロ(2002年生まれ/イスラエル/UCIランク223位)

ジュニオール・ルセルフ(2002年生まれ/スーダル/UCIランク233位)

イサーク・デルトロ(2003年生まれ/UAEチームエミレーツ/UCIランク14位)

マックス・プール(2003年生まれ/ピクニック/UCIランク48位)

ジュリオ・ペリッツァーリ(2003年生まれ/レッドブル/UCIランク101位)

キアン・アイデブルックス(2003年生まれ/ヴィスマ/UCIランク685位)

ポール・セクサス(2006年生まれ/デカトロン/UCIランク267位)

 

もうすでにどこかで名前を聞いたことがある選手ばかりだと思う。彼ら次世代の総合系が、ポガチャルやヴィンゲゴーのレベルに匹敵するようになる時代はすぐそこまで来ているように思えてならない。ポガチャルもヴィンゲゴーもツール初挑戦で一気に表彰台に上がった。トップになる選手は爆発的な飛躍をすることが多い。例えばデルトロ。今年のジロで最終的には総合2位だったものののマリアローザ姿は鮮烈だった。

彼らヤングライダーの台頭は今シーズンが終わったら、総合系以外の選手も絡めて改めて記事にしたい。

 

 

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◎stage10までの成績まとめはこちら

 

◎ツールにおける“逃げ”の考察

 

◎ポガチャルとは何者なのか

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