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ぶっちゃけ今年のツールは面白かったのか 〜ツール 2025 雑感〜

 

「2025年のツール・ド・フランスは面白かったのか」

これまで僕が見てきた8年間は、ツールは面白かったかなどと考えたこともありませんでした。それはとても面白かったから。つまり今回の記事は、今年のツールにおいて僕が感じた“不満”を書いています。ネガティブな話は読みたくないタイプの方は、ここで読むのをやめてください。基本的に僕個人の偏見に満ちた感想・考察です(そもそも偏見の全くない記事なんてこの世にはないと思うのでお許しください)。2025年のツールはポガチャルが強かった──そんなどこにでも書いてあること、誰でも知っていることについて記載してもしょうがないので、異論や反論も承知の上で僕の考えを書き残しておきます。

ちなみに少ないサンプル数で恐縮だが、Xでアンケートをとったら

「超面白かった!」=19%「まあまあ面白かった」=32%「ちょっと微妙かも」=29%「ジロの方が面白かった」=19% という結果であった。これは、多少なりとも不満を感じた方が多かったのではないか。およそ半数は「微妙」「ジロの方が面白かった」と答えています。「まあまあ」も不満を感じていると考えるとアンケートに答えてくれたおよそ8割の人が、何らかの不満を感じたともいえるでしょう。

そういう意味では、このページの考察も共感してくれる人もいるのだろうと推察します。

 

 

 

 

今年のツールは面白かったのか

まず前提として「面白さ」の基準は曖昧である。なるべく客観的になろうとしても、多数派の意見は大勢の個人による主観の寄せ集めに過ぎない。面白さの基準は、個人の経験値と感性や好みで決められてしまう。具体的に言えば、今年初めてツールを見た人はとても楽しかったと感じる人が多いと思う。それは知的好奇心をくすぐられたり興奮したりすることが「面白い」のだ。またポガチャルのファンにとっては、共感性や感情移入から「楽しい」と感じたはずだ。

今年のツールは面白かったか── 二択で問えば「面白かった」と僕は答えます。実際毎日楽しく観戦しました。しかし「満足度」で答えるならば満足には至ってませんでした。2018年からツールを見初めて(Gトーマスが勝った年ですね)今年が8回目になりますが、興奮も感動もサプライズも発見も、過去一番に少なかった。それが素直な実感です。

そう感じた理由は「総合優勝者との総合タイム差の拡大傾向」「ポガチャル一人に委ねられたステージ優勝」である。ポガチャルヴィンゲゴーという史上最高レベルの二人が作り出したロードレースにおける格差社会、UAEヴィスマという二つのモンスターチームが生み出した弊害は確実にあると感じています。

*格差社会と断じてしまったが、ツール以外のレースも含めたロードレース界全体を見渡すと、トップチームと下位チームの力の差が少なくなっているという矛盾する現象も起きている。近年勢力図が塗り変わっているのは間違いなく、それについては後日別の記事にしたいと思います。

 

 

二強が創出した「格差社会」

ツール観戦のメインテーマはマイヨジョーヌ争いである。総合争いにどれほどの熱量があったかがツールの面白さの半分くらいを占めるといっても過言ではない。まず、下の表を見て欲しい。ツール・ド・フランスの総合成績におけるタイム差をピックアップしている。直近5年間(2025〜2021)その前5年間(2020〜2016)の平均タイム差が別の競技かと思うほど、かけ離れたものになっている。

 

少し大げさに言ってしまうが、直近5年の総合3位はその前の総合10位に匹敵するタイム差があった。つまり、以前は今よりももっと多くの選手にチャンスがあって、最後まで上位勢で何人もが順位を入れ替える可能性があるほど力の差が拮抗していた。現状は明確に序列がはっきりし、「ポガチャルとヴィンゲゴーによるマイヨジョーヌ争いとその他による3位争い」になってしまっている。3週目に設定される“クイーンステージ”がマイヨジョーヌ争いの山場になることはなく、ほぼ2週目で決着がついてしまう。今年で云えば1週目でマイヨジョーヌ争いは終わっていた。総合成績で言えば、最も盛り上がるはずの終盤の総合争いは、表彰台争いとトップ10争いであった。ついでにいえば、山岳賞もポガチャルとヴィンゲゴーが1-2位を独占し、エーススプリンターの勲章であるマイヨヴェール争いもポガチャルとヴィンゲゴーが上位4人に入っていた。

総合タイムが30分も差がついたら、総合上位というのも抵抗を感じてしまうレベルである。逃げやアタックも全くマークされないし、チーム戦略もクソもない。以前は総合トップ10内のライダーが逃げグループに入ってもマイヨジョーヌは見過ごすなんてありえなかったのだが、近年はポガチャルとヴィンゲゴー以外は彼らにマークもされていないのが現状だ。

いくつか考えられる原因としては、ポガチャル(とヴィンゲゴー)が強すぎることがひとつ。近年のコース設定が彼らに優位に働いていること(山岳偏重、平坦及び丘陵ステージの難易度アップ)が二つ目。三つ目はライダー全体のレベルが飛躍的に向上してチームも高度に洗練されて、相対的に競技力が高くなったこと。

ツールを“競技”としてみればより万全にマイヨジョーヌを得るには、なるべくタイム差を多くしたいだろうし、手が届かないと諦めてしまえばタイム差が3分でも10分でも一緒だと感じる選手も出てくるだろう。しかし“娯楽”としてみれば、僅差で繰り広げられる総合争いの方が断然面白いのは間違いない。

あなたはこの「格差社会」をどう感じますか?

 

 

暴君の掌で転がされるステージ優勝

レースは初日から荒れたのも今年の特徴だろう。レース中継の解説者は「毎日がワンデーのクラシックレースのよう」と言って無邪気に賞賛していた。先の読めないスペクタクルな展開が北クラシックのようと言いたかったのだと思うが(舞台はベルギーに近いリール地方だったこともあり雰囲気はたしかに北クラシックであった)、僕はどうしても冷めた目で見てしまった。「クラシックのよう=ポガチャルとマチュー中心のレース」だったからである。もちろん、それで勝ち切ったマチューとポガチャルはすごいのだが、乱暴にいえば勾配がキツくなればポガチャル、少し緩めならマチュー。ガンナがリタイアしないでファンアールトが好調だったらもう少し変わっていたかもしれない。結果論を承知で言うと、ヴィンゲゴー(とヴィスマ)は、その二人ポガチャルとマチューのペースに無駄に付き合わされてしまった。stage5の個人TTでのヴィンゲゴーとジョーゲンソンの不可解な失速は、その前のステージで無駄に脚を使ってしまったことも原因のひとつに考えられないだろうか。

2週目以降は、1週目でマイヨジョーヌを纏ったポガチャルが容認するか追走するかで、逃げの優位が変わった。勝負どころと捉えられていたピレネー3連戦のstage12・13はポガチャルが圧勝した。ひとつの仮説がある。あくまで噂レベルではあるが、3週目はポガチャルはステージ優勝を狙わなかった。フランス国内における「勝ち過ぎ」といった多くの批難を憂慮したUAEの首脳陣がポガチャルに「勝つな」と諭したというのだ。真偽のほどは定かではないが、実際にstage12・13のピレネー連戦での勝利でマイヨジョーヌが揺るぎないレベルのタイム差をつけてからは、いつものようなポガチャルのアタックは鳴りを潜めて、マイヨジョーヌのキープに徹していた。3週目はずっと疲労感を見せていた表情のポガチャルは、ある種の嫌気もあったのかもしれない。UAEのアシストもとても疲労していた。

ピレネー3連戦の最終日とクイーンステージを含むアルプス二連戦の計3ステージの結果をもう一度見てみよう。

・stage14:1位アレンスマン/2位ポガチャル/3位ヴィンゲゴー

・stage18:1位オコーナー/2位ポガチャル/3位ヴィンゲゴー

・stage19:1位アレンスマン/2位ヴィンゲゴー/3位ポガチャル

この結果は偶然だろうか。ポガチャルは何らかの理由で1位を譲った意図を感じるのは僕だけだろうか。彼が本気でステージ優勝を狙っていたなら、この3つとも勝っていたのではないか。アレンスマンもオコーナーも十分強かったが、ポガチャルがステージ優勝を諦めるほど強かっただろうか。stage19ではフィニッシュ後に倒れこんだアレンスマンの横を涼しい表情でポガチャルがすり抜けていったのは印象的である。ポガチャルは確かに相当疲労はしていたように見えたし、stage11での落車による怪我の影響があったとも言われたが、限界に達してなかったことは最後のstage21のパリでの激走を見れば明らかである。言い方を変えれば、ポガチャルはステージ優勝に執着せずにチームとしての最大の目標であるマイヨジョーヌの獲得に専念したスマートな大人のレースをしたともいえる。しかしそれは全くポガチャルらしくない。

あくまでも性格が捻くれている僕の視点であることは強調しておく。しかし総合争いだけでなく、ステージ優勝すらもポガチャルの掌の上で転がされていた。僕にはそう思えてしまった。あなたはどう感じますか?

 

 

それでは、ジロはどうだったのか

総合優勝はサイモン・イェーツがstage20で逆転するドラマチックなレースだった。若手の急成長株イサーク・デルトロというシンデレラボーイに、手に入れるのはまだ早いよとばかりに百戦錬磨のベテランが華麗に持ち去っていった。サイモン自身が7年前の忘れ物を取り戻すという記憶に残るマリアローザ争いを繰り広げた大会だったといえよう。

だが最終的にレースが終わると、“満足”とは程遠い感情が僕の心の中を占めていた。理由は自分が見たいと思っていたレースとは違っていたからである。もちろんそれは、いちレース観戦者のエゴである。では僕はどんなレースが見たかったのか。それは「実力者が思う存分走りきった結果」に一喜一憂するレースである。具体的に言うと、総合上位勢にふさわしい人がもっと多くいたと感じているのだ。最終的な総合成績は、1位サイモン・イェーツ/2位デルトロ/3位カラパス/4位ジー/5位カルーゾ/6位ペリッツァーリ/7位ベルナル/8位ルビオ/9位マクナルティ/10位ストーラー、である。彼らはよく頑張ったと思うし賞賛することに異存はない。しかし、である。ここに名を連ねていたはずのライダーは他にもいたのだ。ログリッチアユソランダチッコーネヒンドレー、彼らがリタイアせずにいたら、どうだっただろうか。表彰台の3人がそっくり入れ替わっても不思議ではないメンバーである。特にログリッチとアユソはツールで言えば、ポガチャルとヴィンゲゴーに匹敵する。この二人がリタイアしたマイヨジョース争いは面白いものになるだろうか。もちろん優勝候補が不運によって不在になるのはどのレースでも起こっていることは承知しているし、勝負事に「たられば」は禁物である。それでも、彼らのリタイアはジロの総合争いを残念なものにした感じざるをえない。ちなみにマリアローザのサイモン・イェーツはツールでは1時間17分遅れの総合17位、総合10位のストーラーは2時間50分遅れの総合42位で終えた。もちろんアシストに徹していたので単純比較してはいけないのは承知の上で、今年のジロの総合上位のメンバーはどれだけの精鋭だったか。この10人がベストコンディションでツールに出場していたとして何人総合トップ10には入れただろうか。

そういう感情が渦巻いて、不完全燃焼感は拭えないのだ。

あなたはどう感じただろうか。

 

 

◎ツール2025の成績まとめはこちら

 

◎ポガチャルに対しての感情の吐露…今回の記事はこの伏線回収です。

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