2週目を終えた【ブエルタ・ア・エスパーニャ】。ここまでの成績を振り返りつつ、注目したい選手やトピックスをざっくりまとめました。《雑感》では総合争いにおけるヴィスマとUAEの違いと、ブエルタにおける「デモ行為」について言及しています。
◎総合成績上位

2週目は本格的な総合争いが始まり、順位がシャッフルされた。
マイヨロホは本命ヴィンゲゴーが着用。難関山岳ステージをしっかりとこなして、他の総合優勝候補の誰にも遅れることなく対応している安定感は流石の一言。アシストの働きも含めてここまでは盤石の出来。2位はアルメイダで、こちらもヴィンゲゴーにほとんど遅れをとらずに好位置をキープ。特にstage13の超級アングリル山頂フィニッシュで終始先行してステージ優勝を飾ったのはアルメイダの実力を見せつけたといえる。しかし1週目終了時からタイム差を更に10秒増やされたのも事実で、今の所ヴィンゲゴーを逆転できるかといえばなかなか厳しい。48秒というタイム差は決して小さくはない。
3位ピドコックと4位ヒンドレーの表彰台争いも最終週の見どころのひとつ。ここまでは短い激坂ではピドコックが優位性を発揮し、山岳が厳しくなるほどヒンドレーが先着している。現在の32秒差は個人TTで軽く逆転できるタイム差であり、ヒンドレーが崩れない限り優位に思えるのだが、成長中のピドコックの集中力も侮れない。5位ガルは、このままキープできれば御の字か。6位ペリッツァーリと7位リッチテロはヤングライダー争いの二人。どちらも賞賛に価する好成績であり、最終週はバチバチのバトルになりそう。*下記ヤングライダー争いの項目でも言及。8位クスは総合成績自体にはそれほどこだわりはなさそうだが、ヴィンゲゴーをサポートしつつチームとしてもなるべく上位はキープしたいだろう。9位ルセルフはstage15で大きくジャンプアップを果たし、ヤングライダー争いにも絡んできた。ランダが大きく遅れてアシストが二人リタイアしたチーム事情でよく頑張っていて、来季レムコが抜けるクイックステップにおいてGCエースの一人として存在感を高めている。10位トレーエンは大健闘で粘りを見せている。最終的に総合トップ10は彼らにとって目標と先週書いたが、キープできるか注目したい。それには11位ジョーゲンソンよりも、12〜15位にいるテハダ、チッコーネ、ベルナル、アルミライユのジャンプアップに注意が必要か。彼らとは5分以上タイム差があるとはいえ、stage15は逃げグループが10分差を縮めたように、3週目も逃げ向きのステージはあるのでバーレーンはチームとして対応できるか。16位バルデルストネ、17位グアルデニョのカハルラルの二人は興味深い。総合争いと呼ぶにはタイム差が離れすぎているが、正直なところ全くノーマークであった。同じプロチームのカテゴリーでも、ピドコックやリッチテロのようにワールドツアー常連で既に注目をされている選手と違い、中堅プロチームのほぼ無名の選手としてはとても誇らしい成績と考える。この後もう少しインパクトを残すようなリザルトが出せればワールドチームから声が掛かったりするかもしれない。ちなみにバルデルストネはスペインの現ITTチャンピオンである。
3週目で総合争いに大きな影響がありそうなのはstage17・20の山頂フィニッシュとstage18の個人TT。マイヨロホ争い以外にも表彰台争いやヤングライダー争いなど、僅差で順位が入れ替わりそうなライダーたちが多くいるので、最後まで楽しめることを期待したい。なるべく多くの選手が無事に最後まで走り切れることを願う(切実)。
◎各賞上位

各賞の5位までを表にした。
ポイント賞は、本命ピーダスンが大きく抜け出した。1週目を終えた時点で2位・3位につけていたヴァーノンとフィリプセンが2週目は1ポイントも加えることができなかったのを尻目に、山岳を超えた中間ポイントやフィニッシュでも何度もポイントを重ねた豪脚とレース巧者ぶりは文句無し。リドルとしてもチッコーネが総合で遅れたためピーダスンのポイント賞に全力サポート体制。トラブルがない限り決まったとみていいだろう。ヴィンゲゴーも3週目はポイントを積み重ねてもピーダスンには及ぶことはない。
山岳賞争いは、ヴァインがかなり有力。山頂フィニッシュの山岳ステージを2勝し、他にも積極的に逃げからポイントを稼いだ。ライバルとして山岳賞狙いで逃げに入るフェルヴァーケとはほぼダブルスコア、実質的なライバルと言えるヴィンゲゴーは山岳賞には興味はない状態。ヴァインも逃げるだけでなく総合争いのキーになるステージはしっかりとアルメイダをサポートし、逆にヴァインが逃げないステージではアユソとソレルが逃げて山岳ポイントを他のチームに獲らせない戦略はうまくはまった。4位アルメイダ、5位アユソ、表にはないが6位ソレルとUAEで山岳を独り占めするかのような展開はチームの底力か。
ヤングライダーは、1位ペリッツァーリ、2位リッチテロ、3位ルセルフまでわずかなタイム差で、最後まで3人の僅差の争いになりそう。全体的な印象では、登坂力ではリッチテロ、チーム力と経験値ではペリッツァーリ、意外性と勢いでルセルフだろうか。それほどの差はなく、3週目のコンディションと個人TTの出来が順位に影響するかもしれない。ちなみに3人とも個人TTは得意な方ではなく、総合争いとは別の次元だが面白い勝負になりそう。厳しい山岳でもしっかり上位でフィニッシュしたペリッツァーリとリッチテロに対して、ルセルフはstage14で彼らから10分遅れたが、翌日のstage15で逃げに乗って遅れた10分を取り戻した。総合上位から遅れたから見逃されたとはいえ、翌日にしっかり逃げに乗る根性と幸運は大したもの。少し驚きなのは4位バルデルストネ、5位グアルデニョのカハルラルの二人は想定外の好成績。上位3人とはタイム差が離れているので逆転は厳しいが、少しでも上の順位を目指したい。
チーム総合は、UAEが2位ヴィスマとの差を拡大した。逃げからのステージのステージ優勝を重ねて2強といいながらもUAEの積極的なレース運びがタイム差に表れている。3位にはレッドブルがジャンプアップ。総合上位に二人要して山岳ステージでの遅れを他のチームよりもタイム差を小さく凌いだ。4位デカトロンも総合上位のガルとアルミライユを中心に山岳ステージを好成績で終えた。5位カハルラルは総合で16位・17位に入った二人の好成績と複数ステージでの積極的な逃げによるもので、プロチーム最上位は大健闘といっていいだろう。メディアでは注目されない成績だと思うが、僕がオーナーなら特別ボーナス出すレベル。3週目も頑張ってほしい。
◎各ステージ優勝選手

それぞれのステージ展開は省略し、傾向だけコメントを。*数字は1週目を含めていますが、stage11がステージ優勝者を決めない処置がとられています。
集団スプリント:4、小集団スプリント:1、逃げ切り勝利:5(ソロアタック:3/マッチスプリント:1/小集団スプリント:1)、マッチスプリント:1、ソロアタック:2、チームTT:1。
個人ではフィリプセン、ヴィンゲゴー、ヴァイン、アユソが2勝。他は1勝づつ。
チーム別ではUAEが7勝(!!)で、アルペシンとヴィスマが2勝、グルパマ、イネオス、リドルが1勝、未勝利がなんと17チーム。2週目だけで4勝したUAEが目立つが、2位3回/3位1回のモビスターの健闘も讃えたい。
選手の国別では、スペインとデンマークが3勝、ベルギーとオーストラリアが2勝、フランス、イギリス、ポルトガルが1勝。
3週目はstage16・17が逃げ向きで、stage20も展開とメンバーによっては逃げにチャンスあり。山岳賞を狙う選手と総合から遅れた選手たちは積極的に逃げそう。特に総合10位代のテハダ、チッコーネ、ベルナル、アルミライユのジャンプアップを狙った逃げは注目したい。
◎その他・雑感
総合争いの2チームに感じた違いと、「デモ行為」について軽く述べたい。
前回1週目の成績まとめに書いていたが、総合争いでのヴィスマとUAEの一騎打ちは両チームの戦略が対照的で興味深い。ヴィンゲゴーの総合にチーム全体で集中しているヴィスマに対して、アルメイダの総合を狙いつつ、ヴァインの山岳賞と多くのステージ勝利を狙ってくるUAE。前回“UAEは四番打者ばかり集めた野球チームのような印象”と書いたが、その印象は変わらない。ただし彼らは総合を決して疎かにしているわけではなく、アルメイダ個人の技量にかなり頼りつつも、計4人でステージ7勝をあげたのは見事という他ない。少し言い方は良くないが、不確かな総合優勝狙いよりも(ヴィンゲゴーが強敵過ぎるという現実的な判断)チームの年間勝利数の記録を作るという目標によりフォーカスしているようなレース運びを高レベルでこなしていることは驚異的ですらある。例えばstage14でソロアタックで優勝したソレルをメイングループを牽引していたUAEのチームメイトは、追いつかない速度を絶妙にコントロールしていたと感じている。また日替わりで逃げに入るヴァイン、アユソ、ソレルは、マイヨロホを着ているヴィスマがメイン集団をコントロールせざるをえない状況も上手く利用している。山岳賞を狙うヴァインはおそらくstage16・20を逃げて、stage17はアユソが逃げるだろう。
そして、あまり触れたくない話題ではあるが、ブエルタにおけるパレスチナ問題の抗議行為にも敢えて言及しておきたい。僕個人は抗議における“主張”の正当性は判断できません。周囲の国家も巻き込んで何百年も続いている問題は宗教も絡み、容易に解決できるものではありえず、イスラエルに対しての敵対感情や抗議をすること自体には一定の理解をし、尊重しているつもりです。ただしブエルタでの抗議活動の“やり方”には疑問を抱いています。様々な報道によると彼らの主張はイスラエル・プレミアテック(以下IPTと略す)というチームに対しての反発である。そうならば、彼らはIPTというチームそのものか認可しているUCIに直接働きかけるべきではないのでしょうか。ブエルタにも選手にも危害を加えるのはお門違いと感じています。特に走行中の選手に向かって旗を振ったり、乱入することは選手を不必要に危険に晒す行為であり、レースの安全性を常に問題視している僕には看過できません。実際にレース中の複数のデモ行為によって何人もが落車に巻き込まれています。
同時に行われていたツアー・オブ・ブリテンにもIPTは出場していたがデモ活動がないのはなぜでしょう。ブエルタの方が目立つからで、世界中へアピールするのに注目度が高いから都合がいいというだけの理由でしょうか。それならば選手を危険に晒すレース中ではなく、例えばスタート地に大勢で集合してデモ活動をして中止に追い込めばいいのではないか。彼らのやり方は選手たちに危害を加えることが目的なのではないかと邪推すらしてしまう。
IPTはデモ行為に屈することなくレースを最後まで走るとチームとして声明を出し(不当で危険なデモ行為に服従する前例を作らないため)、複数メディアで来シーズンよりチーム名から「イスラエル」を削除する方針が伝えられている。それでもスポーツウォッシングも問題視されているならば、解決策はチーム名の表記では済まないだろう。IPTは来シーズンはワールドチームに昇格する予定である。今回のデモ行為は一過性のトラブルとして見過ごせない大きい出来事だ。公式に発表されていないが、デモ行為を危険視して最終日のマドリードステージをキャンセルするという動きもある。ブエルタの主催者は今後ビルバオやバスク地方ではレースを開催しないかもしれない。
SNSでも話題に上がっていた。J SPORTSの中継をしている実況や解説に毒を吐いている方もいた。とばっちりである。彼らはスポーツ中継のスタッフであり、国際問題の専門家ではない。彼らがパレスチナ問題(やイスラエルのチーム)に対して何らかの言及をするならば、そちらの方が問題視されるだろう。中には「デモは穏当な意義申し立てで、妨害になっているから意味がある」「虐殺行為を見て見ぬ振りする日本人」と我々ロードレースファンを非難している方もいたが、非難している方はIPTが参加する宇都宮ジャパンカップで同様にデモ行為に及ぶのだろうか。今回のデモ行為を容認している方数人に質問してみたが、誰も僕の問いには答えてくれなかった。まあ関わりたくない輩と思われたのだろう。仕方がない。もう一度言いますが、僕はデモ行為の“主張”を非難しているのではなく、彼らの“選手たちに危害を加える行為”に異を唱えてます。
どちらにしてもロードレース観戦者同士での不毛な対立は、僕は望んでいない。難しい問題は承知の上で、相互に歩み寄れる着地点が見つかることを祈っているし、選手たちがブエルタを最後まで無事に走り切れることを切実に願っている。
◎1週目の成績まとめはこちら
◎レース前の出場選手まとめはこちら
