【ジロ・デ・イタリア】は9つのステージを終え最初の休息日。*すみません、もう2週目はじまってますね・・・連日面白いレースが繰り広げられていて、個人的には満足度は高い。今大会を盛り上げてくれているライダーたちの、ここまでの成績を簡単に振り返る。*一昨日13日にアップしたかったができず、微妙なタイミングで失礼します。久しぶり過ぎてブログの書き方忘れています(^_^;)
◎総合成績上位
区間3勝、2分40秒差。マリアローザは、残念ながら実質決定と言っていいだろう。想像していた通りのポガチャルの独壇場である。もちろんまだ1週目を終えたばかりで、長い過酷なレースでは何が起こるかわからない。ただしポガチャルに致命的なトラブルが起きない限り彼がピンクのジャージを脱ぐことはないだろうし、そんなトラブルは誰も望んでいないはずだ。しかし2位以下の総合順位に目を向ければ、群雄割拠の状態で最後まで面白い争いは期待できそうだ。上位は総合争いに入ると想像していた選手でほぼ埋まっているが、最終的な順位を個人的に予想すると(それぞれの実力や勢いとチーム状態を考慮)、2位はオコーナー、3位はダニエル・マルティネスとティベーリの争い。以下順不同で、Gトーマス、アレンスマン、アイデブルックス、ルビオ、ザナがトップ10候補。他に気になる存在としてボーダンはサプライズあるかも。またバルデは総合順位よりもステージ優勝がほしいはずで、場合によっては敢えて遅れてタイム差をつけ、逃げに乗りやすくしたほうがいいようにも思うが、どうだろうか。2週目は若干の順位変動がありつつ、数人がバッドデイやトラブルで順位を下げていくだろうか。3週目は山岳連戦で大きく順位がシャッフルされる可能性があると思われる。
◎各賞上位
各賞の5位までを表にした。
ポイント賞はスプリンターたちで拮抗した争いになっている。ステージ1勝し安定して上位に入る本命ミランがトレインも優秀で頭一つ抜けているが、グローブス、コーイ、メルリールも追っていてまだどうなるかわからない。三人の中でもグローブスは有力か。アルペシンは彼が中心のチームであり、登りに強い適性を生かして登坂で他のスプリンターを振るい落としにかかる戦略はこの先も優位に働きそう。コーイはリードアウト役のラポルトの離脱は痛い。単独での勝負でどこまで好成績を残せるか。メルリールは登りが絡むと遅れてしまうこととグランツールの終盤は苦しむ傾向があるのは不安要素。面白い存在なのが5位に入ったピエトロボン。個人的にはこのジロまで認識していなかったが、逃げでポイントを重ねていって、その積極的な姿勢は昨年のデレク・ジーを彷彿とさせる。フーガ賞候補でもあり、ラッキーボーイになれるか。彼が活躍するとチームオーナーであるコンタドール氏の絶叫する姿も見れることも楽しみ。*14日にコーイはDNSになり、レースを去った。
山岳賞争いは、1週目にも関わらず総合上位の選手たちが上位に顔を並べていて、特に山頂フィニッシュで二つのステージ優勝をしたポガチャルが2位以下に大差をつけている状態。2週目は山岳ポイントを稼げるステージは少なく、3週目に厳しい山岳ステージが続くため、さらにポガチャルがポイントを稼ぐのは間違いなさそう。積極的に逃げに乗ってポイントを稼いだゲシュケとカルメジャーヌは頑張っていて、彼らに少し肩入れしたくなるが(特に来日も多く日本でもファンが多いゲシュケは今年で引退。一昨年ツールの山岳賞は最後にヴィンゲゴーに逆転されて2位だったり、東京オリンピックでは来日したもののcovid-19に罹ってホテルから一歩も出ないで帰国したり…)、ポガチャルを上回るのは現実的にはかなり厳しいか。
ヤングライダーは、フレッシュな顔ぶれのライダーたちが僅差で争っている。アイデブルックスとティベーリはどちらも実力者であり本命になると思うが、個人的な主観では二人とも素直に応援したくない選手である。*ここでは詳細に触れないが、二人とも昨年所属チームを移籍した経緯がとても印象が悪いことがその理由である。登坂力とチームのアシスト体制と母国レースであるモチベーションを考慮するとティベーリが優位と予想している。個人的にはレース前はアレンスマンを本命視していたが、stage2で失速し大きく後退。それでも得意のTTで挽回し調子は上向いている。ボーダンとザナはサプライズでワンチャンありそうに感じる。つまり、まだ全然わからない。
チーム総合は、デカトロンが今年の好調ぶりを見せつけて、最終的にこのまま1位になっても不思議はないほどチーム全体の良さが目立つ。2位につけているイネオスはTTでの強さも優位なところ。アスタナの3位は大健闘であるが、エースのルツェンコがリタイアし、この順位をキープするのはちょっと難しそう。ボーラとUAEは総合争いをするエースを中心にタイム差を稼いで順位を上げると思うが、1位になれるかというとちょっと無理そうな気がする。エース以外の選手がアシストに徹して力が落ちる印象であり、チーム総合はそれほど狙ってないと思われる。他に順位を上げる可能性があるのはバーレーン、ジェイコあたりか。
◎各ステージ優勝選手
ここまでは集団スプリントが3つ、小集団スプリントが3つ(うち逃げ切り勝利は2)、ソロが2つ。UAE(ポガチャル)が3つ勝った以外は全てチームもバラバラでレース展開の多様性が感じられて好印象。積極的なアタック(逃げ)が目立ち、2つの区間優勝以外のステージでもゴール直前に差し切られたり、プロチーム中心の目立つことが目的の逃げでなく、ワールドチームも含めて“勝つため”の逃げを選択していることがレースを活性化している(昨年も多かった逃げ切り勝利とは違う)。代表的なのはアラフィリップ。何度も繰り返すアタックは全盛期の切れ味はないが、捨て身覚悟の全力を尽くす姿勢は賞賛したい。バルデやキンタナなどの実力者たちも積極的に逃げて盛り上げてくれて嬉しい。ポガチャルの3勝については賛否はあると思うが、全てのレースを楽しみながら全力を尽くすスタイルは、彼には相応しいだろう。
stage1(丘陵)は、4級・3級・2級山岳が設定され、初日からなかなかの難易度。序盤から逃げたグループを残り10kmで吸収した集団はすでに40名ほどの少人数になっている。残り4kmの激坂でアタックしたポガチャルが他の総合エースたちも粉砕。唯一ついていけたナルバエスと追走で追いついたシャフマンの3人での小集団スプリントになり、クレバーに立ち回ってスピードでも上回ったナルバエスが勝利。マリアローザを手にした。最初のステージから総合争いをすると目されていた選手が数人脱落するほど激しい展開となり、波乱の幕開けになった。
stage2(山岳)は、3つの3級山岳を超えた後に1級山岳の山頂フィニッシュ。早々に総合争いが本格的に始まってしまった。最終登坂の残り4kmからアタックしたポガチャルには誰もついていけず。ジロ初出場でトリロジー(ツール、ブエルタと合わせて3つのグランツールで区間勝利)を達成し、早速マリアローザを着ただけでなく、2位以下に30秒近い差をつけてしまう独走は、ポガチャルのコンディションの良さと同時に他のライダーたちとの力の差を感じずにはいられない。ダニエル・マルティネス、Gトーマス以下総合エースたちが続き、このステージの結果がそのまま総合成績に直結するリザルトに。
stage3(平坦)は、今大会初めての集団スプリント。ゴール前の丘でポガチャルがアタック。Gトーマスが慌ててチェックに入りつつ、ゴール直前にスプリンター集団に吸収された。隊列が乱れながらも最後に抜け出したメルリールとミランがほぼ同時に駆け抜け、わずかにメルリールが先着。本命の二人はともにコンディションは良好。なおメルリールはこれでワールドツアーのステージにおける最初の集団スプリントでは10回目の勝利という偉業を成し遂げた。マリアローザは以降はポガチャルがこの後もずっとキープ。
stage4(丘陵)も、集団スプリントで決着。ミニ・ミラノ〜サンレモと呼びたくなるコースで、中盤の3級山岳を超えた後は海岸沿いの平坦な道。残り5kmで逃げを吸収したプロトンからガンナが飛び出すも、残り500mで集団に戻される。最後はコンソンニのリードアウトで発射されたミランが高速バトルを制した。ポイントでもトップに立ってマリアチクラミーノ着用したミランは、意外にもジロの勝利は二度目。前日も含めて5回も2位になっていて悔しい思いをしていたが、駆けつけた両親の眼の前で快勝した。
stage5(丘陵)は、今大会初の逃げ切り勝利。逃げグループから生き残ったトマとヴァルグレン、ピエトロボンの三人によるスプリントになり、トマが先着。コフィディスにとって嬉しい今季チーム初勝利は、トマにとってもワールドツアー初勝利(プロクラスも含むと10勝目)。ヴァルグレンは大怪我からの復活を印象づけたし、無名といっていいピエトロボンも大きな印象を残した。11秒遅れのメイン集団ではミランが先着。ユアン、バウハウス、メルリール、コーイと続いた。
stage6(平坦)も、二日連続の逃げ切り勝利。ミニ・ストラーデビアンケとも称された起伏と砂利道のステージで、残り100kmで仕掛けたアラフィリップにプラップとサンテェスが合流し、80km以上の距離を渾身の逃げを披露。プロ1年目のペラヨ・サンチェスが百戦錬磨のアラフィリップに競り勝つ大金星。一緒に逃げてきたプラップはゴール前のスピードはなかったが、3位に入って総合成績のアップに成功。早めにソロアタックしたピッコロが4位に入り、29秒遅れのメイン集団ではナルバエス、メスゲッツ、ヘルマンス、シュルツが続いた。登坂力を備えたスプリント力のある選手の顔ぶれといえる。
stage7(個人TT)は、衝撃の個人TTだった。タイムトライアル巧者の有力選手が好タイムを記録する中で異次元のトップタイムを出したのがガンナ。そこにアレンスマンとシェフィールドのイネオス勢が続いていく中、総合上位の選手たちがスタート。しかし途中の計測ポイントではタイムが伸びず、イネオスの表彰台独占も見えてきていたが、ポガチャルの登坂タイムは一人だけ異次元だった。結局逆転しステージ優勝。ただただ強かった。ホットシートにいたガンナとプラップが抜かれた後に呆然とする表情が(彼らには申し訳ないけど)今大会最高の絵だった。また総合順位も大きくシャッフルされた。
stage8(山岳)は、1週目のメインディッシュともいえる獲得標高が4000mに迫る一級山岳の山頂フィニッシュ。序盤から多くのライダーたちによる逃げ合戦が繰り広げられたが有力選手も多く逃げグループにいたこともあり、UAEは大きなタイム差は与えない。戦闘グループも必死の抵抗をするが次々に脱落し、総合エースたちによる精鋭集団に吸収され、ティベーリのアタックではじまった登坂バトルはやっぱりポガチャルが違いを見せつけて先着。これで早くもステージ3勝目をあげた。
stage9(丘陵)は、終盤にある4級山岳といくつかの丘による絶妙なコース。メイン集団は序盤から逃げたポルティ・コメタの二人をキャッチし、終盤の起伏でアルペシンの高速牽引で数人のスプリンターたちが脱落。アタックしたアラフィリップに数人がジョインして逃げ切り勝利を目指す。それを逃さないメイン集団からナルバエスが残り8kmで隙をつき単独でアタック。アルペシンとリドルが追いかける中、マリアローザのポガチャルもモラノの勝利のために高速牽引。最終的に残り10mで集団は追い抜き、数人のエーススプリンターがほぼ横並びでハンドル投げ。ジロデビューのコーイが念願のグランツール初勝利を遂げた。リードアウトでありチームリーダー役のラポルトがリタイアし、自らも落車による怪我を負いながら掴んだ見事な勝利だった。
◎その他・雑感
正直な感想。ここまでのジロはとても面白い。毎日楽しくて満足度は高い。
マリアローザ争いは予想通りポガチャル一択、それについては議論の余地すらない。しかし、ひとつひとつのステージレースは毎日スペクタクルに溢れていて、最後まで様々な選手にチャンスがある展開で、“レースとして”非常に面白い。昨年のぐだぐだだったジロとは大違いである(失礼)。いくつか理由を思いつくままに述べると、まずはビッグネームの出場が少ないこと(あくまでツールと比較してだが)。その分一般的な注目度は低くなりがちだが、ポガチャル以外は誰が勝つかわからない。僕は過小評価されていると感じているライダー(例えばナルバエス)や知名度の低い若いライダー(例えばサンテェス)などがジロという大舞台で輝く姿は大好物である。次にコース設定の絶妙さと天候の良さ、そしてリタイア者が少ないこと*1)。昨年は3週目の激難関ステージを含む厳しいコース設定のせいで選手たちが消極的なレースに終始したことに加えて、連日の大雨でレースが荒れてしまった。さらにcovid-19感染も追い打ちをかけてリタイア者が頻出。多くの有力選手が脱落して日を追うごとに興味を削がれてしまった(悪天候は誰のせいではないが)。あとはアラフィリップやバルデなどの人気者の実力者たちも積極的に本気で勝負にいっているのも好印象。願わくば最後まで大きな事故なく、全員が笑顔で走っている姿が見たい。
*1)一週目を終えた時点でリタイアした有力選手は、ギルマイ、ルツェンコ、ラポルト、ウッズ、ダンバー、サイモン・カー、リポヴィッツ(数えると結構いるな…)。
他にもいろいろと思うところがあるが、長くなりそうなので別の記事にします。
◎レース前の出場選手まとめはこちらから。