少し気が早いが、ワールドチームの残留争いの現状を確認しておく。前回の記事(2022年)は多くのアクセスがあり、関心は高いと感じている。
このカテゴリーの昇格・降格は2023・24・25年の3年間にチームが獲得したUCIポイントの順位によって決まる。つまりすでに半分を過ぎていて、降格が危ぶまれるチームはかなりはっきりとしてきた。ブエルタが始まって今期のレースも終盤に突入し、8月1日から移籍市場が解禁され、来季の移籍や契約延長が発表され始めた。降格圏内のチームにとっては今期の残りはもちろん、来シーズン多くのポイントを獲得するためには戦力の補強は不可欠であるし、ライダーにとっても降格する可能性の高いチームへの移籍はリスクが伴う。昇格を目指すチームと降格圏のチームはふた月後に迫ったジャパンカップに出場するメンバーにも少なからず影響もあるだろう。そのあたりも交えて考察してみたい。
*前回2022年の記事はこちら。システムについても記載してます。
◎残留争いの現状
まずは現状のチーム順位を確認しよう。ワールドチームは全18チームで、19位以下は降格になる。表は2024年8月15日時点の獲得したUCIポイントランキング(順位は昨年分も記載)。ポイントは左から2年間の合計 / 2024年(8月15日現在)/ 2023年のポイント(以下ptと表記)、現状のチームカテゴリー(WT=ワールドチーム/PT=プロチーム/CT=コンチネンタルチーム)。*2024年のポイントは大幅に向上傾向のチームはピンク、下降しているチームは薄いブルーにしています。
上位12チームは実質残留できると想像し、この記事では個別のチーム状況は言及しない(3年間合計で30000ptは安全圏、実際のボーダーラインは28000pt前後?)。興味深い傾向としては、スポンサーが変わったチームは成績が大幅に向上している。昨年はリドル・トレック、今年はデカトロンが顕著で、レッドブルがスポンサーに加わったボーラも来季はもっと期待できそう。資金が豊富になり強い選手を加入させて、スタッフや機材・環境などの体制を確立させることが強いチームになる近道である。そういう意味では来季大口のスポンサーと契約の噂があるアスタナも注目したい(メディアによれば中国企業が参加予定)。ただしここ2年で同じくスポンサーに変更があったヴィスマ、dsm、アルケアに関しては成績が下がっている(ヴィスマは昨年の成績が良すぎたともいえる)ので、スポンサーが変更しても資金が増えなければチーム強化には繋がらない。
順位については、プロチームから10位のロットと13位のイスラエルは昇格できる可能性はかなり高い。どちらも元々ワールドチームだったので昇格というより復帰といっても差し支えない。一方降格圏のワールドチームは19位アルケアと21位アスタナ。昇格圏とのポイント差はアルケアが1500ptだが、アスタナに至っては3500ptと大きな差がある。容易に逆転できる差ではなく、見通しは厳しいと言わざるをえない。同様に15位以下のジェイコ、アンテルマルシェ、コフィディス、dsmも余裕があるとはいえない。特にアンテルマルシェとコフィディスは今年は成績が下降していて、来季に向けたチーム強化は必須と言える。しかしながら、コフィディスはマルタンとジングレという稼ぎ頭のエース二人がチームを離れることが発表された。代わりにアランブル、Dトゥーンス、ブッフマンなどの実力者たちの加入など早々に手を打っているあたりチームにも危機感はあることが窺える。コフィディス、アルケアとフランス籍のチームが低迷していることは気になる傾向だが、因果関係は不明。
◎今後の予測と補足
ワールドチームを目指すと公言し、補強を重ねてプロトンでも存在感を高めているウノエックスとチューダーはチーム強化は確実に進んでいて好印象。18位以上になるにはまだハードルは高いが、どちらも更なるチーム力向上に本気である。ウノエックスは近年クリストフやコルトといった実力者を積極的に登用していて昇格圏に近づいている。来季はクロンの加入(噂ではアスグリーンの加入報道も)が発表された。チューダーは来季はヒルシとアラフィリップの加入が発表された。彼らはUCIポイントだけでなく人気面やチームの若手の教育係的な意味合いも含めて貢献度の期待値は非常に高い。ちなみに二人の2024年のポイントはアラフィリップは1618pt、ヒルシは3661pt。出場できるレースが変わるので単純比較はできないが、この二人だけで5279ptも加わる計算になり、一気に昇格争いに絡む可能性も出てくる。
シーズン最終盤のジャパンカップには、ワールドチームのEF、コフィディス、バイクエクスチェンジ、プロチームのロット・スーダル、イスラエル・プレミアテックと昇降格に絡むチームが多く参戦する予定。どこもしっかりポイントを取れる実力者を送り込んでくれそうな期待感がある。本気のレースが観れるのであれば、それだけでもこのワールドチームへの昇格システムを我々は歓迎したい。
◎来季の移籍状況は別の記事も作成しましたので参考にどうぞ。
補足として前回2020-2022年と比較してシステムや状況の相違にも触れておく。注意すべき点は3つ。ひとつ目は、UCIポイントの変更。グランツールやモニュメントなどのビッグレースが点数が高く設定された(例をあげるとツール総合優勝は1000ptから1300ptに、ステージ優勝は120ptから210ptに)。より大きなレースで勝利するライダーが高得点を稼ぐようになった。二つ目、チームの点数が上位10名から20名に拡大された。これはポイントを稼ぐライダーが多くいるチームが有利になった(下の表参照:わかりやすい例として、スーパーエースが高得点を稼ぐアルペシンよりもアシストも含めて全員でポイントを稼ぐデカトロンの方が高くなる)。三つ目は、前回はコロナ渦でレースが中止になったり、チームごとレースから撤退するなど純粋なチーム力以外にも不可避な特殊な状況があったことは考慮しておきたい。