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【2021年のレース】主役たち。

 

2021年の振り返り、その2。レースで主役として活躍した選手たち。彼らは2022年もレースの中心であることは間違い無い。彼らの活躍ぶりを振り返ろうとしてたら、言いたいことは半分も書いてないのに、それでもちょっと長くなっちゃった。笑

※年齢と所属チームは2021年12月時点。成績は20以内に入ったレース中心。

 

タディ・ポガチャル

(23歳/スロベニアUAEチームエミレーツ

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ツール2連覇。全く隙のない戴冠だった。どこまで強くなるのだろうか。

 

◆2021年の主な成績

UAEツアー総合優勝&ステージ1勝(第3ステージ)

・ストラーデ・ビアンケ7位

ティレーノ〜アドリアティコ総合優勝&ステージ1勝(第4ステージ)

イツリア・バスクカントリー総合3位/ステージ1勝(第3ステージ)

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ優勝

スロベニア・ツアー総合優勝&ステージ1勝(第2ステージ)

スロベニア国内選手権TT3位/RR5位

ツール・ド・フランス総合優勝&ステージ3勝(5・17・18)

東京オリンピックRR3位

欧州選手権TT12位/RR5位

世界選手権TT10位/RR37位

・ミラノ〜トリノ4位

イル・ロンバルディア優勝

 

2020年に続き、いや、それ以上に2021年は大暴れした。ワールドツアー開幕戦のUAEから10月のロンバルディアまで勝ちまくった。1年前までは怖いもの知らずの若い勢いで勝っていた印象もあったが、もはや凄味と風格すら漂う。春、リエージュのレースでは、ゴール前の小集団スプリントでアラフィリップを差す。世界王者の得意な展開を読み、それを上回る駆け引きの巧さとスプリント能力を見せ、ひとつめのモニュメントを手にいれる。

夏、ツール・ド・フランスの連覇。しかも山岳賞とヤングライダーも2年連続の独占。総合争いのライバルたちは早々にお手上げで2位争いをすると宣言するほど、圧倒的な勝利。ログリッチの早々なリタイアなど、運も含めた強さがあった。「実は暑さに弱いのではないか」などとそんなことに頼りたくなるほど隙がなかった。ツールの最終日、表彰台のあとはすぐに来日。休みのない強行日程もなんのその。東京オリンピックRRで銅メダル。あわやファンアールトにスプリントで勝つかと思うほどの余力を残していたタフさは呆れるほど。プライベートでは9月に婚約をした。彼女はバイクエクスチェンジのプロ選手。結構強い。★ポガチャルの婚約の様子はこちら

秋、ロンバルディアでは終盤の登りで単独アタック。ひとり大きく抜け出し独走に。ゴールの少し前にクイックステップのマスナダに追いつかれたが、最後は余裕のスプリントで勝利。ふたつめのモニュメントも手にした。年間でグランツールとふたつのモニュメントタイトルをつかむのは史上3人目だという。

2022年は誰がポガチャルを止められるか、そういわざるをえない。しかも「ダブルツールを狙うかも」なんて言ってる。獲っちゃうかもしれない。オフシーズンにチームは着々と、ポガチャルの優秀なアシスト補強として、他チームのエース格を加入させた。もはや弱点は「強過ぎる」ということかもしれない。もう少し弱さを見せてくれないと、悪役になってしまう、なんて余計な心配にもなる。

 

 

 

プリモシュ・ログリッチ

(32歳/スロベニア/チーム ユンボ・ヴィスマ)

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ブエルタ3連覇、前人未到の4連覇を狙うのか、それとも悲願のツールか。

 

◆2021年の主な成績

パリ〜ニース総合15位/ステージ3勝(第4・6・7ステージ)

イツリア・バスクカントリー総合優勝&ステージ1勝(第1ステージ)

フレッシュ・ワロンヌ2位

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ13位

ツール・ド・フランス(DNF)

東京オリンピックRR28位/TT金メダル

ブエルタ・ア・エスパーニャ総合優勝&ステージ4勝(1・11・17・21)

世界選手権RR48位

ジロ・デッレミリア優勝

ミラノ〜トリノ優勝

イル・ロンバルディア4位

 

ポガチャルを止める男の筆頭は今年も彼だろう。彼であってほしい。悲劇とも捉えられた2020年のツールの逆転劇から、満を持して臨んだ2021年のツール。前年は前哨戦のドーフィネで落車したこともあり、レースになじませて調子をあげるよりも、山籠もりしてトラブルが起きないことを選んだ。そこまでして勝ちたい気持ちは一年かけて以前よりも大きく膨らんでいたに違いない。

ところが、あっけなくツールは終わった。初日と第3ステージの二度の落車によりリタイア。またしてもマイヨジョーヌは掴めず。神様は彼にどれだけ試練を与えられるのか…。

それでも、この不屈の男は決してへこたれなかった。リタイア直後のオリンピック。ロードレースは怪我の影響か28位と低迷したが、個人TTでは2位以下を大きく引き離して金メダル。かなり狙っていたんだろう。アップダウンの多いコースにほとんどのTTスペシャリストたちが手こずる中、ひとり別次元の走り。ツールでの体の怪我も傷心も、もう直してしまったのか?いや、痛みに耐えているんだろうな。

ブエルタは3連覇。初日のTTからマイヨロホを着用し、最後まで危なげなく着るかと思いきや、第10ステージで無謀なアタックをし下り坂で落車。幸い大きな影響はなかったものの見てるすべての人がログリッチに小言の一つも言いたくなっただろう。しかし、彼はレース後にアタックを問われてこう答える。「No risk, no glory」・・・かっけえ。ですよね。それが彼を最高のサイクリストと呼ぶ人が多い理由ですよね。まさに不屈の男。

さて、本日ユンボツイッターで2022年もツールにチャレンジする予定であることが発表された。ヴィンゲゴーとダブルエースで臨むと。なるほど。ログリッチには背負いこませるのではなく、少し自由に走らせる方がいい結果が出るかもしれない。

 

 

 

ジュリアン・アラフィリップ

(29歳/フランス/ドゥクーニンク・クイックステップ

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実はそれほど勝っていないのだが、勝ったレースの印象は特大。スター性がはんぱない。

 

◆2021年の主な成績

・ストラーデビアンケ2位

ティレーノ〜アドリアティコステージ1勝(第2ステージ)

ミラノ〜サンレモ16位

ロンド・ファン・フラーンデレン42位

アムステルゴールドレース6位

フレッシュ・ワロンヌ優勝

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ13位

ツール・ド・フランス総合30位/ステージ1勝(第1ステージ)

ブルターニュクラシック2位

クラシカ・サンセバスティアン6位

・ツアー・オブ・ブリテン総合3位

世界選手権優勝

イル・ロンバルディア6位

 

2020年の世界王者として迎えた2021年。果たして「アルカンシェルの呪い」は発動されるのか?たしかにシーズン序盤は苦しいレースが多かった。2019年に優勝したストラーデビアンケは、最後にマチューにちぎられた。ミラノ〜サンレモアムステルゴールドも勝ちパターンに持ち込めず。やはり呪いか?

しかし、やはりスーパースターは違う。「持ってる男」だ。大好きなフレッシュ・ワロンヌでは「ユイの壁」でアタックしたログリッチにひとりだけ追いつき、ゴール直前に差し切った。その半年前のリエージュのお返しとばかりに。TTは確実に早くなり、ツール前哨戦のツール・ド・スイスは最終日を前に総合2位にまであがる。だが、最終日を棄権した。理由は妻の出産に立ち会うため。彼はパパになり、ツールを迎える。★パパになったアラフィリップはこちら。

そして大量落車で幕を開けた波乱のツール、初日に見事ステージ優勝。パパになってはじめてのレースで勝つ。アルカンシェルの上にマイヨジョーヌを着る。しかもこの勝利がクイックステップのチームとしてグランツール通算100勝目。まさに「持ってる男」。そういえば、2020年の第2ステージの優勝は亡き父に捧げて号泣してたな…。

その後もクラシックレースで一桁フィニッシュを続け好調を保ちつつ、ディフェンディングチャンピオンとして世界選手権に臨む。しかし本命ではなかった。ベルギーのコースは決して「アラフィリップ向き」ではなかったから。世界選手権は、ハイペースの展開で人数を絞られる。本命のファンアールト、コルブレッリ、マチューら精鋭たちで構成する20人ほどの先頭グループから、抜け出したのはアラフィリップだった。度重なるアタック。「ぼくのスタイルはデビューした頃から変わっていないし、変えるつもりもない。ロボットみたいになりたくないんだ。負けることだってあるけど、いつだって楽しみながら全力で走るんだ」そしてベルギー国民のブーイングの中、ひとり先頭でゴールし、2年連続の世界王者になった。美しいレースだった。

2022年もアルカンシェルで彼は走る。直近のインタビューでは「近い将来ジロを走る。それと一度ツールは本気でマイヨジョーヌを挑戦したい。チームと相談だけどね」なんて言ってる。全モニュメント制覇が夢だと思っていたけど、もしかしたらフランスの国中が熱望する自国のマイヨジョーヌを彼なら。正直獲るのは厳しいと思うが、3年前のマイヨジョーヌ・マジックは記憶に鮮明に残ってる。

 

 

 

マチュー・ファンデルプール

(26際/オランダ/アプペシン・フェニックス)

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とにかく絵になる選手。勝ち方がいちいちかっこいい。ストラーデビアンケは特に。

 

◆2021年の主な成績(シクロクロス除く)

UAEツアー(DNF)ステージ1勝(第1ステージ)

ストラーデビアンケ優勝

ティレーノ〜アドリアティコ総合32位/ステージ2勝(第3・5ステージ)

ミラノ〜サンレモ5位

・E3サキソバンククラシック3位

ロンド・ファン・フラーンデレン2位

ツール・ド・スイス(DNF)ステージ2勝(第2・3ステージ)

オランダ国内選手権RR(DNF)

ツール・ド・フランス(DNF)/ステージ1勝(第2ステージ)

東京オリンピックMTB(DNF)

・プリムス・クラシック8位

・世界選手権RR8位

パリ〜ルーベ3位

 

自転車界のサラブレッドにして怪物。2021年、本格的にロードレースに取り組むシクロクロスMTBでの世界王者は、一体どこまでいくのか。結論でいうとクラシックレースでは無類の強さを見せた。が、落車など、浮き沈みの激しいシーズンでもあった。

まずはシーズン初戦のUAEツアーで1勝目。しかし、チーム内に新型コロナ感染者が出て残念ながら棄権することになる。

迎えたストラーデビアンケ。僕が2021年で最も楽しかったレースのひとつだ。『白い道』と呼ばれる未舗装路が続くレースは人気が高まり、多くの実力者たちが出場し混戦になると思われた。パンクや落車が相次ぎ人数を減らしていくプロトンは、ファンアールトの加速で決定的に人数を絞られる。続けざまにアタックしたアラフィリップについていけたのはマチューとベルナルだけ。ファンアールトもポガチャルもピドコックも遅れる。残り1km、マチューがアタック。アラフィリップも置き去りにされた。

そしてツールでも千両役者ぶりを発揮。第2ステージで優勝し、「祖父と父」と三代に渡るツールでのステージ優勝。可愛がってくれた偉大な選手だった祖父がとうとう着れなかったマイヨジョーヌに初出場ながら袖を通す。おじいちゃんは天国で喜んでくれたに違いない。その後6日間マイヨジョーヌを着続け、オリンピックのMTBに出場するためツールは途中でリタイアしたが、強烈な印象を残した。

オリンピックのMTBはジャンプを失敗し転倒。背中を強打して、そのまま病院に向かう。その怪我が完治しないまま迎えた『パリ〜ルーベ』。雨の悪路で何度もアタックを繰り返したが3位に終わる(3位でもすごいんだけど)。これで、モニュメントすべてを10位以内入賞を果たした。史上2番目のスピードだったらしい。

年末からのシクロクロスでは腰痛が再発しシーズン途中で休場を決めた。シクロクロスでの連続表彰台は66で途切れた(とんでもないことなんだけどね)。早期の回復を願う。彼のいないクラシックシーズンは寂しいから。

 

 

 

ワウト・ファンアールト

(27歳/ベルギー/チーム ユンボ・ヴィスマ)

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異次元の存在。しかもまだ強くなってる途上の選手。ほとんど意味不明(ほめてる)。

 

◆2021年の主な成績(シクロクロス除く)

・ストラーデビアンケ4位

ティレーノ〜アドリアティコ総合2位/ステージ2勝(第1・7ステージ)

ミラノ〜サンレモ3位

ヘント〜ウェヴェルヘム優勝

ロンド・ファン・フラーンデレン6位

ブラバンツ・パイル2位

アムステルゴールドレース優勝

ベルギー国内選手権RR優勝

ツール・ド・フランス総合19位/ステージ3勝(11・20・21)

東京オリンピックRR銀メダル/TT6位

ツアー・オブ・ブリテン総合優勝&ステージ4勝(1・4・6・8)

・世界選手権TT2位/RR11位

パリ〜ルーベ7位

 

圧巻である。しばらくはファンアールトを中心にしたレースが続くだろう。野球で例えると大谷翔平のような存在だろうか。12月からはじまったシクロクロスで元世界王者は今季も10戦9勝中。唯一負けたのもバイクのトラブルのせい。意味不明の強さだ。

2020年の10月にロンド・ファン・フラーンデレン2位でロードを終えて、11月から1月末まではシクロクロスを14戦し5勝(全て5位以内)で、3月からロードに戻り、春のクラシックは7戦して全て11位以内で走り、2つ優勝した。その後盲腸でひと月ほどレースを休み、復帰戦のベルギー国内選手権を優勝。本調子でないながらツールを全力でアシストしつつ自らも3勝し、直後の東京オリンピックでRR銀メダル、TTは6位。一月ほど休んで復帰した9・10月は12戦5勝。世界選手権は2年連続の銀メダル。で11月だけ休んで12月からシクロクロス…。どうでしょう、意味不明ですよね。笑

しかも勝ち方が異常だ。ツールでの勝利がわかりやすい。3勝したステージが山岳(しかも超級モンバントゥーを2回も登る難コース)と、個人TT(しかもTTスペシャリストたちに20秒以上も突き放して)と、平坦(しかも最終日でピュアスプリンターたちが激しい集団スプリントを繰り広げるシャンゼリゼで)と、どれもが全く違う特性。一部で「脚質ファンアールト」と呼ばれる特別な選手。

これだけの強さだから、クラシックはもちろん、オリンピックも世界選手権も、すべての選手がファンアールトをマークし牽制する。大げさに言えば「ファンアールト対ほかの全選手」という構図がほとんどのレースで繰り広げられた。オリンピックでカラパスが金メダルを獲った原因のひとつは、他の選手はファンアールトをマークし逃げが容認されたから。そんなファンアールトだから2位が多い。2021年だけで2位が6回もある。一桁フィニッシュは29回。それだけマークされながら、2021年は全選手中トップの13勝もしている。

現在行われているシクロクロスでは、出れば優勝する確変状態にもかかわらず、世界選手権を不参加。その理由が「ロードレースに力を注ぎたいから」。2022年は「ツールでマイヨヴェーヌを狙いたい」と公言。楽しみしかない。