2023年グランツール展望
あと一週間後にジロ・デ・イタリアが始まる。
今年のグランツールの主役候補たちのここまでの成績に触れつつ、ジロとツールの出場予定の選手とレースの展望をざっくりと考察します。実はこの記事は2週間前に一度下書きしていたがうまくまとまらず放置していたものだ(自慢できることではない)。ジロの一週間前というタイミングでこの記事は微妙な気もするが、このままお蔵入りにするにはもったいない内容とも感じてるので、ちょっと中途半端な状態だけど公開する。
まだこれから選手の状態も変わってくることは前提であり(特にツールは)、あくまで今季ここまでの成績チェック程度と思ってほしい。また、出場選手も暫定なので変更はありえる(例えばチッコーネはCovid19の陽性が発表され、ジロへの出場は後日検査次第となっている)。
現時点で発表されている(一部噂も含む)出場予定の選手を表にした。
ジロ、ツールそれぞれGC(総合)とスプリンターのエース格を独断で選んでいる。成績には今年のパリ〜ニース(PN)、ティレーノ〜アドリアティコ(TA)、ボルタ・ア・カタルーニャ(VC)、ツアー・オブ・ジ・アルプス(TotA)の成績も記載。GCはTTの強さを3段階で入れ、ジロやツールの過去のベスト総合順位も参考として記載。
まずは、一週間後に迫ったジロから見ていこう。
ジロ・デ・イタリア 2023
日程:5月6日(土)〜28日(日)
総走行距離:3448.6km/全21ステージ(平坦x8/丘陵x5/山岳x5:山頂フィニッシュx4/個人TTx3)
開幕はオルトーナの個人TT。フィニッシュはローマ。TT合計70.6km。
◎総合優勝候補
今年のジロの大きな特徴はタイムトライアルが3ステージあることで、TTの得意なライダーがかなり有利になる。逆にいうとTTが苦手なクライマーは総合争いに加われないといえるレベルだ。マリア・ローザ(総合優勝)争いは昨年のブエルタ覇者レムコ・エヴェネプールとその前のブエルタを連覇していたログリッチの対決が注目を集める。ともにGCライダーでは1-2を争うTT巧者である。ログリッチは怪我による手術明けになったTAでは3ステージを勝ち総合優勝と、予定以上に順調にシーズンイン。方やレムコはUAEツアーで総合優勝した後は高地トレーニングを敢行し、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュでは独走による連覇を果たした。二人は20日からのヴォルタ・ア・カタルーニャで直接対決をし、結果はログリッチが総合優勝。積極的にアタックをするレムコに対して全てチェックして捌くなど、冷静に対応しながらも要所でステージ優勝するなど「勝ち方を知ってる」クレバーな走りは見事だった。とはいえ、そのままログリッチがジロで有利かというとそうとも言い切れない。総合タイム差は6秒と僅差で、先日のLBLを見てもレムコはコンディションを上げているうえに、カタルーニャではTTがなかったからだ。もちろんログリッチもその後さらにコンディションを上げてくるのは間違いなく、二人の対決はかなりハイレベルなものになると想像される。まずはレムコとログリッチがTTでどれだけ差がつくかが大きな焦点になる。レムコは昨年からITTは7戦して4勝し、全て表彰台に上がるという驚異的な強さ。一方ログリッチは6戦して2勝、表彰台には3回と成績にやや陰りがあり、ブエルタでのレムコの圧勝も記憶に新しく、現時点ではYYはレムコが優勢と思える。ちなみに二人のITTの直接対決はログリッチの4勝2敗。現在TTの対戦成績でレムコに勝ち越している稀有なライダー。
他の有力候補でTTが得意なのは、アルメイダ、Gトーマス、アレンスマン。アルメイダはTA2位、VC3位と連続して表彰台に乗り、間違いなく状態はよい。特に登坂力は向上していて、もともと定評のあったマイペース走法だけでなく爆発的な登りにも対応できる傾向が感じられる。UAEはジェイ・ヴァインも出場予定。安定さに欠ける印象はあるが、今年の初戦オーストラリア選手権TT優勝、ダウンアンダーでの総合優勝、と大きく成長。昨年のブエルタでは山岳ステージで2勝し登坂力は示している。落車リタイアがなければ山岳賞の有力候補だっただけに、アルメイダにとってはサブエース級の戦力になるだろう。懸念材料はUAEツアーで負った怪我の回復具合か。イネオスのGトーマスとアレンスマンはともにここまでのレースではアシストに徹していいる様子。今季好調なゲイガンハート(TA3位、TotA優勝)とシヴァコフ(PN3位、TotA7位)も出場するので、二人のアシストにまわる可能性が高い。ゲイガンハートは出場選手中唯一のジロ総合優勝経験者でもあり、前回優勝からしばらく低迷していたが、ここ数年では今が一番状態がよい。TTでは少し力が落ちるところが懸念点だが、表彰台を狙う力はじゅうぶん。ボーラのウラソフとケムナもTTは得意だ。基本的にはウラソフがエースだと思うが、今季は昨年ほどの強さはなく、逆にケムナは非常に状態がいい。二人の状態を見ながらエースが決まるのではないか。ちなみにウラソフの直近のアルプスDNFはLBLに参加するために急遽レースをとりやめたもので体調に関しての理由ではない。今季ここまでキャリアハイの成績で好調だったチッコーネは、残念ながらCovid陽性になり現在休養中。地元を走るコースが組まれていただけに過去いちくらいに張り切っていたジロだっただけに、落ち込みようは相当なもの。レースには参加できると思うが、どの程度回復できるか。現実的には総合は諦めてレースに出ながらコンディションを上げてステージ優勝狙いかも。チームとして面白そうなのはバーレーン。チームではサブエースクラスながら実力もあり好調をキープしている、カルーゾ、ヘイグ、メーダー、ブイトラゴと4人も出場予定。実質エースはヘイグだと思うが、チームとして様々な展開に対応できるのは強みになるはず。
若手成長株では、AG2Rのガル、モビスターのルビオは期待できる。どちらも総合トップ10は狙える力はあるが、TTでのタイム差をどれだけ少なくできるかが順位争いに大きく影響しそう。ウラン、ピノのベテラン二人も状態は悪くない。ピノは今季で引退するためこれが最後のジロになる。その他は表を参照。
◎エーススプリンター と TTスペシャリスト
ジロでは残念ながらエースクラスのスプリンターは少ない。その分総合成績を狙うチームが多くなってきそうな雰囲気ともいえる。マリア・チクラミーノ(ポイント賞)争いの中心はマッズ・ピーダスンになりそう。昨年はツールでステージ1勝をあげるとブエルタでは3勝してマイヨ・プントス(ポイント賞)も獲得。今年は勢いそのままに2勝してる他、ミラノ〜サンレモから出場したクラシックでも大暴れ。勝利こそないが、6戦して5回トップ10に入り絶好調といっていい状態。登りが厳しいステージも多いのは、ピーダスンにも追い風でもある。対抗馬はガビリア、マシューズになるだろうか。ガビリアはスプリントイメージがほとんどないモビスターへの移籍でトレインが心配されたが、ここまでは予想以上に機能している印象。登りが絡むと強いヴェンドラーメ、コルトにもチャンスはありそうだ。他には実績のあるライダーでは、カヴェンディッシュ、アッカーマン、ニッツォーロがいるが、3人とも調子があがらなく活躍するにはちょっと厳しい印象。他の有力スプリンターは下記表を参照。
スプリンターと比較するとTTスペシャリストはトップクラスが集結。TTのステージが多いということもあり、新旧アルカンシェルのフォス、ガンナ、欧州TT王者のキュングと、現在のトップ3といえるTTスペシャリストが揃い、フランスTT王者アルミライル、オランダTT王者モレマ、チェコTT王者チェルニー、ルクセンブルグTT王者ユンゲルス、元オーストラリアTT王者ヘップバーン、エクアドルTT王者カイセド、セルビアTT王者ラヨビッチ、また表以外の総合勢ではオリンピックTT金メダルのログリッチ、ベルギーTT王者レムコ、ドイツTT王者ケムナ、ポルトガルTT王者アルメイダ、元イギリスTT王者Gトーマス、オーストラリアTT王者ジェイ・ヴァイン、元ノルウェーTT王者レックネスン、他にもTTステージ優勝経験者のピーダスン、コルト、アレンスマン等々、TTの猛者たちの充実ぶりはあまり例がないほど。TTステージは総合争いだけでなく、白熱した面白い勝負が期待できそうだ。
ツール・ド・フランス 2023
日程:7月1日(土)〜23日(日)
総走行距離:3404km/全21ステージ(平坦x8/丘陵x4/山岳x8:山頂フィニッシュx4/個人TTx1
グランデパールはスペイン・バスク地方。そのままピレネー山脈に突入し、1週目から総合争いが勃発。中央山塊を超えてアルプス山脈に至り、ゴールはパリ・シャンゼリゼ。タイムトライアルは1ステージのみ(登り基調)で、距離も22kmと短い。
◎総合優勝候補
ジロとの比較もしながらツールも見てみよう。*全体的にコメント軽めです。
基本的に各チームの総合エースはツールに集結する。ツールではジロとは逆にTTの比重が小さくなる。1ステージのみで、距離も22kmとかなり短い。そのため、TTが得意ではないクライマーには今年は大きなチャンスだ。
PNでのポガチャルとヴィンゲゴーの直接対決は興味深いレースだった。結果としてはポガチャルの圧勝ともいえる成績だったが、チームTTを考慮したメンバー構成を組んだユンボはそこでUAEを含むライバルチームにタイム差をつける戦略だったが、思ったよりもタイム差が開かなかったのは誤算だっただろう。特に先頭のゴールタイムになるというルール変更がポガチャルに有利に働いたのは大きかった。現状では個人の力ではポガチャルの方が上回っていると思える。しかしツールではユンボにファンアールトやクス、クライスヴァイク等のアシストの猛者たちが揃うと状況は変わるだろう。一方UAEではアダム・イェーツも出場予定で、彼がアシストするならばポガチャルにはかなり強い味方になる。ただし、ポガチャルにとってはLBLでの落車による手首の骨折がどの程度の影響が出てくるか。2週間後にはインドアでのバイクトレーニングが再開できるとの報道もあり、ツールには十分間に合うと予想される。
今季好調なクライマーではゴデュ、サイモン・イェーツ、ミケル・ランダ。表を見ても好成績を残しているのがわかる。PNではポガチャルの再三のアタックにただひとりついていけたのがゴデュの走りは印象的だった。マス、ヨルゲンソンのモビスター、バーレーンはランダの他にビルバオも好調だ。またピノはここにあげたステージレースでは成績を残していないが他のレースでは好調な様子を見せていて、ゴデュのアシストとしては頼りになる存在だ。昨年ジロ覇者のヒンドレーは、いまひとつ調子は上がっていない。コンディションをピークに持ってきていないだけならばいいのだが。同様に昨年ジロ総合2位のカラパス、オコーナーもいまひとつ調子はあがっていない。イネオスのダニエル・マルティネスも不安定な印象。ツール初出場組では、カルロス・ロドリゲス、マティアス・スケルモースは台風の目になる可能性を秘めている若手だ。その他は下記表を参照。
選手たちはツールの前哨戦として、この後6月に行われるステージレース、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ、またはツール・ド・スイスに出場する。そこでの成績が参考になるだろう。
◎エーススプリンター
ツールではエーススプリンターも豪華な顔ぶれだ。ジロと比較してどれだけ違うか見てもらうとその差がよくわかるだろう。現在はフィリプセンが好調で、頭一つ抜けているだろう。昨年は最終日のシャンゼリセで優勝し、今年はマイヨヴェールも射程圏内だ。対抗はヤコブセン、ピーダスン、ファンアールトか。カヴェンディッシュはジロに続いての出場で、こちらがメインになる。なんといっても現役を続けている最大のモチベーションがツールのステージ優勝で、あとひとつ勝てば単独で史上最多の36勝になる。なかなか厳しいとは思うが、チャンスは必ずある。サム・ベネット、デマール、ユアンも実績あるトップスプリンターだが、いまひとつ調子は上がっていない。フルーネウェーヘンとマシューズは昨年のように登りのあるなしでエースが変わると予想される。スプリンターではないがギルマイも集団スプリントでも勝負でき、登り基調のステージでは有力な優勝候補になる。コカール、コルト、クリストフは力のある選手たちだが、普通の集団スプリントでは勝ち目はないだろう。登り絡みだったりゴール前がごちゃごちゃしているような少し癖のあるステージで勝利を狙うか、逃げグループによるスプリントで勝利を狙う伏兵的な戦い方になりそう。最後のツールに挑むサガンも、ここまでは全くいいところがない。それでも見せ場のひとつやふたつは作ってくれるに違いない。それは彼はスーパースターだから。その他は表を参照。
ただしスプリンターのエースを入れているチームは総合成績についてはハンデがあるとも言える。今回ではグルパマ、ジェイコあたりがそうで、その分アシストも含めて総合エースへのサポートは減る傾向があるからだ。スカイ(イネオス)全盛期にスプリンターがいないことはその象徴である。総合エースの表とスプリンターの表を比較するとどちらに力を入れてるチームかがよくわかるだろう。そのあたりの考察はまた別の機会に。(なおファンアールトは基本的にスプリンターではない。「スプリント勝負ができる選手」という括りでこの表には入れている)