個人的に今年一番楽しみにしていたグランツールだった【ジロ・デ・イタリア】。
9つのステージを終えた最初の休息日、衝撃的なニュースが飛び込んできた。マリアローザのレムコ・エヴェネプールのリタイア。……ただただ残念である。大会を盛り上げてくれたライダーたちの、ここまでの成績を簡単に振り返る。
*表内の選手のUCI世界ランクと年齢は2021年12月時点。
◎総合成績上位

レムコ・エヴェネプールがCovid-19陽性によりレースから去ることになった(レムコについては下記《その他・雑感》に後述する)。休息日明けのstage10はひとつづつ順位が繰り上がり、G・トーマスがマリアローザになる予定だ。
レムコの壁と目されていたもう一人の優勝候補ログリッチはまずまずの位置にいる。二つの個人TTのステージは無難にこなし(勝てなかったというよりタイム差を最小限に留めたと思う)、stage8でレムコへ攻撃を仕掛けた積極性とほとんどの選手を置き去りにした登りの優位性は、これから難関山岳ステージを控えて好印象である。個人的に少しだけ懸念するのは、やや気が逸りすぎていなかったか。例えばstage3でゴールの集団スプリントに参加して7位に入る姿は、登り基調とはいえ(また昨年のブエルタのように落車に巻き込まれたりしないか)と調子の良さよりも不安を覚えた。それもレムコのリタイアにより、もっと落ち着いてレースができれば心配ではなくなるかもしれない。またアシストたちもファンアールトのような牽引力や、クライスヴァイクのように常にケアするような存在(本来ならケルデルマンが担っていた役割)がいないのも、万全とはいえない状態か。
トップ20に5人も揃えるイネオス勢は、これからレースの中心になっていくだろう。G・トーマス、ゲイガンハートがWエース体制(実質総合1位・3位)のまま最後までいきそうな気配で、数年前の最強だったSkyのような存在感が日に日に増している。ともに登坂でもTTでも強く、チームワークも非常によい。stage1の個人TTで登坂区間に限ればゲイガンハートが一番速かったというのはstage20に向けて大きなアドバンテージ。2人に加え、シヴァコフは今季の好調をキープし、調子を落としていたアレンスマンも復調。ガンナを失ったこと(Covid-19陽性によりリタイア)は痛手だったが、チーム力は今大会一番なのは間違いない。他にチームとして状態がよいのは、アルメイダ、ヴァインを擁するUAE、ウラソフとケムナのボーラ、カルーゾ、ヘイグ、ブイトラゴのバーレーン。この3チームはレース前の予想通りエースたちを中心にうまくレースを進めている。
レックネスンはマリアローザを5日間着用し、すでに成功したといえる。このブログでも優勝候補の一人には上げていたが、実際のところはマリアローザは着せてもらった部分もあり、厳しい山岳ステージを迎えてどれだけ上位にとどまることができるか。ヤングライダーも狙える位置にいるので、彼のために頑張ったDSMのチームメイトたちに応えたい。同様にA・パレパントル、ダンバー、バルタも上出来。本格的に山岳がはじまると厳しいかもしれないが、少しでも上位に踏みとどまりたい。カーシー、ピノは得意ではないTTの分を考えれば、ここまでの順位やタイム差は想定内だろう。彼らがこれから山岳で積極的に攻めていくと総合争いはさらに面白くなる。
◎各賞上位

各賞の5位までを表にした。
ポイント賞はステージ1勝を上げた4人が上位のかをを並べる。中でも安定してスプリント勝負で上位に入ったミランはかなり好調。ただグランツール初参戦の彼にとっては2週目以降は未体験ゾーン。ここから厳しさを増す山岳でどれだけ走りきれるか。総合上位に複数の選手を抱えるバーレーンでは彼もそれなりにアシストとして貢献もしないといけないこともライバルたちよりも大変である。その点では、グローブス、ピーダスンは彼らが中心のチームであることは有利であり、厳しい山岳が増えてくる2週目以降は登坂力のあるピーダスン、マシューズがポイントを重ねていきそう。
山岳賞争いは、まだまだ行方は見えてこない。stage7で逃げて上位に入った3人(D・バイス、K・ヴァチェク、ペティッリ)がその時のポイントだけでランクイン。それ以外ではここまではピノが積極的に山岳ポイントをとり、ブイトラゴ(12ptで11位)が追いかける姿を眼にすることが多い。2週目以降は総合争いから遅れたクライマーたちが積極的にポイントを取りにいったり、山岳ステージの山頂ゴールで総合上位勢が大きなポイントを稼ぐことで山岳賞の行方も変わっていく。ヒーリー、モレマ、ルビオ、ロータあたりが積極的に逃げに入ると面白い存在になるとおもうのだが、どうだろうか。
ヤングライダーは、総合リーダーでもあったレムコのリタイアにより、アルメイダとレックネスンがタイム差なしで1位に並ぶことになる。その後ろに続くシヴァコフとブイトラゴはどちらも実力者であるがチームではアシスト的な役割のため、総合争いからは少しづつ遅れていく可能性が高い(逃げて総合ジャンプアップの可能性は否定できないが)。実力的にはアクシデント等で遅れない限りアルメイダが最有力。
チーム総合はイネオスが頭ひとつ抜けている印象。TTでも登坂でも強いメンバーが揃っているので隙はない。2週目以降山岳が増えていくと総合上位に複数入るバーレーン、ボーラ、UAEがそれに続くチームになっていくだろう。
◎各ステージ優勝選手

ここまでは3つのステージで逃げ切りでの勝利。さらにゴール直前に差し切られたステージもあり、プロチーム中心に“勝つため”の積極的な逃げがレースを面白くしている。TTが二つあったので、およそ半分のステージは逃げがステージ優勝に直結。この後は総合タイム差が開いて容認される有力な逃げグループが形成されやすくなるので、この傾向は続きそうな気配がする。ヒーリーにはあと二つくらいチャンスがありそう。
stage1は各チームの総合勢が力の入った個人TTだった。ゴール前には距離は短いながらも登坂区間があり、TTスペシャリストでは苦戦するライダーも。そんな中、レースは本命視されたレムコによる圧勝劇だった。2位ガンナには22秒、ログリッチには43秒もの大差をつけて今年最初のマリアローザ着用者になった。アルメイダが3位に入る好走で、チームではイネオスとUAEがトップ10に複数送り込み好調なスタート。
stage2(平坦)は集団スプリントで勝利したのはジョナサン・ミラン。母国イタリア最大のレースで嬉しいワールドツアー初勝利となり、マリアチクラミーノも獲得。ゴール後の弾けるような笑顔は見ている側も幸せな気分になった。急遽参戦が決まった新城幸也にとっても喜ばしい結果。グローブスは最後に少し失速したが、ゴール前のリードアウトトレインはアルペシンの強さは際立っていた。2位デッケルの他にもトップ10のうち6人が25歳以下で、若いスプリンターの飛躍を予感させる。
stage3(丘陵)はマシューズが登りスプリントでさすがの強さを見せて今季初勝利。途中の山岳でザナらチームメイトの高速牽引によって多くのスプリンターを脱落させるなど、ジェイコのチーム力とマシューズの登坂力が際立っていた。2位には同じく登れるスプリンターのピーダスンが入ったが途中の山岳では遅れるなど、登坂力ではマシューズが上回っている印象。グローブスは前日に続いて3位。マリアローザはレムコのまま。
stage4(丘陵)はstage1の後にレムコが「マリアローザはstage4で手放したい」と語ったこともあり、マリアローザ着用を狙うクライマーたちの少人数の逃げ集団の登坂勝負に。ゴール直前の登坂で差をつけたレックネスンに平坦区間で追いつきマッチスプリントで抜き去ったA・パレパントルがワールドツアー初勝利。2位に入ったレックネスンはノルウェー人として史上二人目のマリアローザに。
stage5(中級山岳)は、集団スプリントでグローブスがようやく勝利。しかも残り7km地点で落車したのを巻き返して。ミランとピーダスンが続いて、3人とも好調ぶりがきわダル印象。雨による路面状況もあり、多くの有力選手が落車し傷を負った。中でもレムコは序盤に乱入してきた犬を避けて落車し、ゴール前にも他の選手と接触して落車。ゴールではメカトラでバランスを崩したカヴェンディッシュが横転して滑りながらゴール(4位に入った)し、フィオレッリはフェンスにぶつかり腕を負傷(7位に入った)、巻き込まれてゴール後に転倒したヴェンドラーメはストレッチャーで運ばれる(8位に入り、翌日無事に復帰)など、大荒れのレースになった。
stage6(山岳)は最後までハラハラするスリリングな追走劇になった。逃げた二人をゴール手前150mで捕まえて集団スプリントを制したのはピーダスンで、これでトリロジー(グランツール全てでステージ勝利をすること)を達成した。最後まで逃げ続けたデマルキとクラークがお互いに健闘を称え合う姿は、勝者のピーダスンに負けず劣らずロードレースの醍醐味と呼べるものだった。現時点で今大会の個人的ベストステージ候補。
stage7(山岳)は、雪の残るグランサッソの山頂ゴール。総合争いも予想されたが、山頂での寒さと(気温1℃)強風により総合勢は消耗を避けて大人しく集団でゴールを目指し、大逃げしたグループで3人とも誰が勝っても初勝利となるフレッシュなメンバーでの勝負に。勝利したD・バイスは2年ぶりのエオロコメタの勝利でもあり、チームオーナーのコンタドール氏がスペインの中継での解説席でテーブルを手のひらで打ち付けながら激しく喜ぶ姿もちょっと和んだ笑。
stage8(山岳)は、逃げグループから単独アタックしたヒーリーが残り50kmを独走し、圧巻のワールドツアー初勝利。春のクラシックレースの好調さから、ほぼ全ての選手からマークされながらもこれだけ見事にアタックを決められるのは驚異的。2位争いは追走グループのデレク・ジー、ザナ、バルギルのスプリント勝負になった。またメイン集団では前日とうって変わり総合争いも発生。ログリッチのアタックについていけたのはゲイガンハートとG・トーマスのイネオスコンビのみで、遅れたレムコはタイム差を縮められ、落車の影響のように思える不安を残す結果に(これもCovid-19の影響だったのかも)。
stage9(個人TT)は、35kmの長めの平坦コース。またもや雨になったレースで、総合勢が1秒を争う激しい展開になった。レムコが初日に続き連続してTTを制しマリアローザの奪還に成功するが、レース後にCovid-19陽性が判明しリタイアが発表された。好タイムを出し総合2位に浮上したG・トーマスが休息日明けのstage10では繰り上がりでマリアローザになる。
休息日明けは北上し、アルプスに突入、本格的な山岳が始まる。特にstage13は獲得標高5000m超えの難関山岳ステージ。総合優勝争いはいよいよ激しさを増していく。
◎その他・雑感
レムコの話だ。繰り返すが、僕が一番楽しみにしていたグランツールだ。ステージの過酷さ(選手には気の毒だけど)、最後まで予断を許さない緊張感、そしてレムコとログリッチのファンだから、本当に楽しみにしていたのだ。その楽しみは半減した。
予兆はあった。4月中旬からCovid-19に感染して欠場する選手が明らかに増えていた。直前のツール・ド・ロマンディやツアーオブ・ジ・アルプスではルツェンコをはじめ合わせて10名以上もリタイアし、チッコーネ、フォスなども直前にジロを欠場、大会がはじまってから一週間の間にもガンナ、コンチほか7名もすでにリタイア。レムコと同日にウランも感染による欠場が発表された。ログリッチは特に顕著だったけど、公の場では必ずマスクをし警戒している様子が伺えた。残雪の残るグランサッソからの下山ではほとんどの選手が観客と一緒にロープウェーで過ごすなど、Covid対策は全く不十分だと感じたし、観戦も制限がなく大勢の観客がつめかけてマスクなしで選手に接しているし、マスコミやファン対応が多くなる選手は特に感染の危険は隣り合わせの状態だった。なお補足しておくが、Covid-19に関しては2023年になってから感染防止プロトコルは緩和され、ワクチン摂取や事前検査は不必要になっている。またチームが独自に行う検査で陽性反応が出ても主催者から出場停止になることはない。今回のテストも欠場を決めたのもあくまでもチームとレムコ本人の意思である。チームのオーナー、ルフェーブル氏は「マリアローザよりもレムコの健康を優先する」と語った。
レムコ(ウルフパック)にとっては、不運な落車を除けばプラン通りの展開だったはず。stage1のITTで手にしたマリアローザはstage4で一度手放し、stage9のITTで再びリーダーに返り咲く。2位以下には1分近いタイム差をつけていた。この後はライバルたちの動向に注意しながら2週目はタイム差をキープし、3週目は難関山岳で上位2-3人に絞られるメンバーに入るよう粘って、stage20のITTで勝負をかける、という展開は十分可能だっただろう。
うーん、やっぱりまだうまく考えをまとめられない。いちファンとして動揺しているのかな。そういえば、レムコは敵が多い。彼をライバル視する選手が多いのは強いからしょうがない。アンチも結構いるみたいだ。メディアにも取り上げられやすい人気選手で、派手なレースをするし、感情的になりやすい性格だからアンチにも叩かれやすいのかもしれない。彼はまだ23歳の若者で、年齢で言えば大卒一年目なんだけどね。
そしてこのジロでの最大の敵は“Covid-19”という見えない脅威だった。レムコにとっては2度目のジロも不完全燃焼で終えてしまった。彼の体もメンタルも心配だ。まだ23歳の若者なのだ。
でも、僕は信じている。これまでにも多くの試練を乗り越えてきた彼だから、こんなことくらいで挫けるはずがない、と。
レムコ、また来年。忘れ物を取り戻しにこよう。チャンスはいくらでもある。
◎レース前の出場選手まとめはこちらから。
