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ブエルタ・ア・エスパーニャ 2023|マイヨロホ争い(stage3終了時

 

ブエルタ・ア・エスパーニャの紹介記事第4弾(おまけ)は、総合争いの展開(妄想)です!ブエルタ史上でもあまり例を見ない豪華な選手が揃ったGC対決。過去のグランツール総合優勝経験者が4人もいる。そんなマイヨロホ争いをチームの戦略から予想する考察です。*あくまで妄想です。

*選手のUCI世界ランクと年齢は2022年12月末時点。

 

 

 

 

◎早くも動いた総合争い

今大会最初の山岳ステージstage3を勝ったのはレムコ・エヴェネプール。ゼッケン1番の昨年の総合優勝者が、ゴール前の登りスプリントでライバルたちを圧倒。激しく追走した2位ヴィンゲゴーを振り切ってタイム差までつけ、早々にマイヨロホを手にした。

しかしこのステージで見えてきたのは、レムコの強さよりもユンボのしたたかさだった。

 

個人的には総合優勝を争うのは実質3チームだと思っている。グリッチヴィンゲゴーを要するユンボ・ヴィスマレムコスーダル・クイックステップアユソアルメイダUAEチーム・エミレーツだ。それに続きそうなのは、Gトーマスアレンスマンイネオス・グレナディアーズウラソフアイデブルックスボーラ・ハンスグローエエンリク・マスモビスターだ。

この6チーム中ではモビスター以外は、初日のチームTTでプランが狂ってしまった。トップタイムを出したのはDSMフェルメニッヒで、同タイムで入ったモビスターは大健闘。6秒差のクイックステップも不満はあれど、イネオス(20秒差)、ボーラ(28秒差)、ユンボ(32秒差)、UAE(37秒差)と比較すればロスが少なく有利になったといえた。そこで迎えたstage3。上位チームの思惑ではまだリーダージャージを着るつもりはなかったはずだ。実際レムコもレース後のコメントでも「今日は逃げ切りだと思っていたが、メイン集団が追いついてしまったのでスプリントをした」と語っていた。これは「レムコにリーダージャージを着させてしまおう」というライバルたちの戦略に従わざるをえなかったのだと思う。終盤に逃げに追いつく動きをしたのがUAEで、ユンボのクスがさらにペースをあげて逃げを吸収。ここでヴィンゲゴーとアユソたちが動けば、レムコが先に行くのは必然である。レムコは最終的にマイヨロホを着るためには個人TTで可能な限りタイム差をつけて、そのまま最後まで逃げ切るしかないとから、せっかくついたユンボUAEとのタイム差を失いたくないのだ(理由は後述)。

前日の落車でログリッチに無理をさせたくないユンボはヴィンゲゴーを囮に使って、レムコを勝たせた。翌日以降にクイックステップのアシストを疲弊させるために。ブエルタはまだたったの3日しか終わっていない。総合争いが一番厳しくなる山岳連戦(stage13・14とstage17・18)にピークを合わせることが重要で、ユンボUAEもそこを見越していると感じる展開である。

 

stage3の先頭集団でゴールした11名と総合成績は以下の通り(総合成績はチームTTのタイム差が主な要因)。

 

 

 

ちなみに以下は、stage3で先頭から20人以内に入った選手の数。

クイックステップ:2人/ユンボ:4人/UAE:4人/イネオス:1人/ボーラ:3人/モビスター:1人

まだ序盤とはいえ、ある程度のチーム状況はうかがえる。ユンボUAEは、明確に山岳に強い。レムコとマスは単独勝負に持ち込まれる。ボーラはワンチャンある。レニーマルティネスとキアン・アイデブルックスグランツールデビュー組の飛躍の予感。しかしこの二人とも20歳という若さなのだが、アユソも同い年である。残念なのは序盤にしてイネオスの失速。Gトーマスは前日の落車の影響もあったのか定かではないが、総合優勝に絡むことはかなり厳しいといわざるをえない。(バーレーンDSMは現実的には総合10位に入れれば御の字だろう)

 

 

◎リーダージャージという負荷

リーダージャージを着るチームは名誉と同時に、かなりの負荷がかかる。ひとつは、メイン集団をコントロールしないといけないというレースの不文律で(ルールではないが、他のチームから協力を得にくくなったりする)、集団先頭で逃げ集団を追うのはアシストが大きく消耗する。さらにリーダージャージを着る選手にはレース後の各種対応(表彰式やメディア対応など)に時間を割かれて、補給やマッサージによるリカバリーが遅れるし、レース後には次のスタート地への移動もあるので渋滞に巻き込まれやすくなる等の状況によっては睡眠時間にさえ影響が出てくる。そのため大会序盤はできるだけ着用しないで2週目以降の勝負どころまでは避けたいというのが本音のはずだ。

それでも、stage3にしてレムコはリーダージャージを着ることになってしまった。ただでさえ他のチームよりも山岳アシストで不安を抱えているチームには喜ばしいことではないが、stage3の最終盤の展開でヴィンゲゴーやアユソに先行させてタイムを失うよりも、苦肉の策だった。これはユンボUAEの戦略なのはほぼ間違いない。

しかし、レムコにとって良かったこともある。登りスプリントで「レムコ強し」とライバルたち(特に登りスプリントの得意なログリッチ)に印象づけられたことは大きい。そしてライバルたちにタイム差を奪われなかったことも。例えばstage3で、1位ヴィンゲゴー、2位アユソで、レムコが4位以降でボーナスタイムが稼げなかったとしたら、ヴィンゲゴーと17秒差、アユソとも26秒差まで詰められていたのだから。

 

 

◎マイヨロホは結局誰が着る?

ブエルタの今年の大会のレイアウトを見ると、トゥールマレーやアングリルを含めた山頂フィニッシュが9つもあることから登坂力のあるクライマーが圧倒的に有利である。そういう点ではヴィンゲゴーの調子がよければ、おそらく敵はいない。ただ一人、アユソだけがその可能性を秘めていると思っている(マスが昨年の状態になればいい勝負ができるかも)。アユソの懸念点は3週間もの間好調さを維持できるかどうか。とはいえ、ヴィンゲゴーもツールでの消耗からのリカバリーは万全ではないはずで、これからどれだけコンディションを整えていけるか注意も必要か。

レムコが勝つには、2週目と3週目の厳しい登坂勝負の前に個人TTで圧勝し、できるだけタイム差をつけて最後までキープすることが条件である。他の選手は逆に言えばstage10を終えた時点でそれほどタイム差がついていなければ(目安としては1分程度)逆転できると思えるし、レムコにとっては可能ならば2分くらい差をつけたいところ。ちなみに昨年のブエルタでいえば、TTのタイム差をなくすとマス(総合タイムで2分3秒差)が総合成績ではレムコを上回る。

その点でも今年のジロとツールの個人TTステージで破格の活躍をしたログリッチとヴィンゲゴーはレムコにとって一番の脅威であり(ログリッチにはジロのふたつの個人TTで圧勝しているが)、ツール・ド・スイス個人TTでレムコを上回ったアユソも同様である。ちなみに今年行われたタイムトライアルにレムコは5レース出場し(世界選手権含む)3勝・2位2回で、彼を上回ったのはキュングとアユソしかいない。

stage10を終えてレムコが他とのタイム差がどれだけついているかが、総合争いのひとつの目安。ここで予想(妄想)すると、レムコに次いでヴィンゲゴーがおよそ1分差、そこから数秒以内でアユソが3位につける。他は2分以上の差がつく。最終的にマイヨロホを着るのは、個人的にはヴィンゲゴーだと思ってる。

 

 

以上、序盤とはいえ最初の山岳ステージを終えての個人的な感想である。お断りしておくが、初日からステージ優勝予想は全て外れている(笑)という僕の妄言である。ブエルタは始まったばかりで、初日から予測がつかないことばかりである。最後に誰がレッドジャージを着ているのか、まだまだ妄想は尽きないのだ。

 

 

 

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