2023年シーズン振り返り【個人成績/全体・集計】
シーズン振り返り第二弾は《選手の個人成績・全体》編。UCIランキング上位100人を表にして情報をまとめつつ、様々な角度から集計して見えてきた特徴や傾向を語ります。なかなか面白い記事になりました(自画自賛)。
*選手個別の成績には基本的にコメントしません。*UCIランキング・ポイント、勝利数は2023年11月10日現在。年齢は2023年12月時点。
◆個人成績・全体(UCIポイント)
◎年間1位〜30位まで
◎年間31位〜60位まで
◎年間61位〜100位まで
◆集計/その他雑感
例えば、「活躍する選手が年々若くなってきている」「デンマーク旋風」などがよく話題になるけれど、実際はどうなのか。ランキング100位までの選手について様々な角度から集計してみた(あくまで傾向としかいえないけれど、現状活躍している選手がイメージしやすくなると思う)。ワールドチーム及びプロチーム合わせておよそ1000名なので、ここに表記した選手は上位1割にあたる。ざっくり集計でほぼ主観の解説ですが、いくつかの興味深い傾向も発見できました。表はスマホではちょっと見づらいと思うけどご容赦ください。◎年齢構成
↓【表A】ロードレース界の定説として選手の旬は20代後半と言われるので、ランキング上位にはその年代が多いと仮定しつつ、ここ数年目立つことが多かった若手は実際どの程度活躍していたのか。TOP100を4分割し、それぞれ31歳以上/26〜30歳/25歳以下(ヤングライダー資格者)の年齢構成を調べてみた。なおTOP100の平均年齢は27.83歳で、昨年の28.44歳から、かなり若くなっている。
100人の内訳は、31歳以上=27人/26〜30歳=37人/25歳以下=36人(以下表参照)。これは想像以上に若い選手たちが活躍している(なお来年ヤングライダー対象から外れる25歳の選手=ポガチャル世代は12人もいて、特別この年代は強豪が多いとも考えられる。TOP20にポガチャル、フィリプセン、アルメイダ、ヒルシと4人もいて、しかも3人がUAE)。トップライダーと呼べる人たちにはポガチャルやレムコが例外的に強過ぎる、というわけでもなく、実際に好成績の選手の1/3以上がヤングライダーの年齢である。「若い選手の台頭」は少なくても間違いではない(若い選手の定義の問題はあるけれど)。そして意外に感じたのは、30代が頑張っているということ。仮説としては(あくまで2023年の成績上位100人についてだが)20代後半がピークというのは正確ではなく、20代前半から30歳を過ぎても活躍する選手は活躍して、強い選手はどの年齢にもいる、という状況が実態に近い。30歳を過ぎてから活躍するのも、20代前半がピークだった選手もいろんなタイプがいるということでもある。ちなみに最年少は20歳(グレゴワール、アイデブルックス、レニー・マルティネス)で、最年長は37歳(Gトーマス、ルイ・コスタ、マイケル・ウッズ)で、幅広い年齢の選手がいる。
またランキング外も含めた選手全体の平均年齢についても少しづつ若くなっていて、この傾向はまだ続くと思われる。ワールドチーム全体の平均年齢では2023年は27.6歳で2022年は28.5歳である(ランキング100までとほぼ変わらない)。ほんの数年前、アラフィリップがアルカンシェルだった頃は、トップ選手はサガン、ログリッチ、キンタナ、デュムランなど30歳前後の年齢層が中心だった。今年もサガン、ピノ、デニスたちが33歳という若さで引退したことを思うと、選手としての活動年齢は徐々に短くなっていて考えさせられる部分もある。
◎勝利数集計
↑【表B】基本的には勝利数が多いほど上位にランキングされるはずである。2023年に10勝以上したのは8人で、そのうち7人は上位50人に入っている。一人だけ入れなかったのはティム・ルリール(11勝・73位)で、理由としてはワンデーレースの勝利が少ないためUCIポイントが低かったからで、少々気の毒である。驚くべきなのは、8人中5人がヤングライダーであること。ただしそのうち二人ポガチャル(17勝・1位)とフィリプセン(19勝・9位)は来年からヤングライダーの資格がなくなる。ほかの3人はレムコ(13勝・3位)、ドゥリー(10勝・14位)、コーイ(13勝・30位)。もうすでに風格すら漂うこの3人は昨年から好成績が続いているので、怪我などがなければまだまだ勝利し続けるだろう。通算勝利数をどこまで伸ばすのか、また2024年はグランツールにも出場するはずなので、注目したい。意外な傾向では未勝利の選手が19人もいること。それだけ彼らは多くのレースに上位で安定して入っている証でもあるが、一年間未勝利はトップライダーと呼ぶには少し寂しい。勝利への渇望は強いはず。ちなみにランキング順で、ランダ(19位/2021年8月以来勝利なし)、ピノ(21位/2022年6月)、ウラソフ(26位/2022年6月)、Gトーマス(31位/2022年6月)、マルタン(36位/2022年8月)と続き、ほぼ30代以上のベテランたちである。この年齢になるとベテランならではの持ち味を発揮しつつ、瞬発力は衰えるということなのだろうか。2024年こそ、勝利を(あ、ピノ…)。調べていて、ちょっと面白かったのは、この中の3人が2022年6月以来の未勝利で、なんと3人ともツール・ド・スイスが最後。スイスでは勝ってはいけないというジンクスができるかも(そんなことはない)。
◎チーム別の集計・傾向
↓【表C】表は2023年のチームランキング順なので、基本的に上位ほどランキングに入っている選手は多くなる。チーム別にみるとTOP100で多いのはUAEが10人、スーダルが8人、ユンボ、バーレーンが7人、イネオス、グルパマ、ロット、ボーラ、コフィディスが6人と続く。少ないのは、DSM、AG2R、アスタナの2人と、アルケア、トタルの1人。ランキング下位のチームはやはり厳しい。また2024年にチームを移籍する選手を加味すると、増えるのは、リドル3人(2024年は計8人)、ボーラ2人(同8人)、ジェイコ2人(同6人)。減るのはイネオス2人(同4人)、バーレーン(同5人)。(スーダルは2人増、1人減=7人)。チームごとに見ていくと興味深い傾向も伺える。2023年チームランキング首位を争った2強のUAEとユンボのチーム事情である。UAEはTOP50=5人/TOP100=10人(うちヤングライダー5人)で、ユンボはTOP50=7人/TOP100=7人(うちヤングライダーはコーイ1人だけ)。ユンボは上位7人は飛び抜けたトップライダーだが、そのエースたちとアシストには少し隔たりがある。ピークから下り坂にかかっていく年齢も多く、実際に成績上位10名はコーイとヴァルテル以外は全員アラサーで、若い年齢層の突き上げ・成長が大きな課題。とはいえ育成もしっかりしているのでそれほど心配の必要もないとは思うが。対照的にUAEは若くしてエースとして働いている選手が多く(ヤングは、ポガチャル、アルメイダ、ヒルシ、アユソ、マクナルティ)長期契約をしていたり、さらに下の年代にも有望な若手もいて、いまのところ彼らの優位性はかなり強固といえそうだ。
他にはロットがTOP100=6人のうちヤングライダー4人と、多くの若手が好成績を残していて2024年も期待できる。ウーノエクスの4人も健闘しているといえる。またこの表ではDSMはTOP100=2人うちヤング0人と厳しく感じるが、101〜200位に目を移すと8人もいて伸び盛りの若手が多く、チーム状態は悪くないと感じたりもする。そのあたり個別のチーム状況は、今後別のページ《チーム別の成績まとめ》で言及していきたい。
◎国籍別の集計・傾向
◎脚質別の集計・傾向
↓【表E】脚質別という括りの比較は、ちょっと悩んだ。選手の特徴を便宜的に区分・理解するのに役立つのだが、最近は「脚質」を定義することに抵抗がある選手が増えてきたからだ。それは大げさに言えば、レースそのものが画一的になってきて同じような選手が毎回勝つことも原因の一つだと思う(必ず坂を入れて純粋な平坦コースが減る=登れるスプリンターが多くなる、ステージレースにパヴェやグラベルを取り入れる=ピュアクライマーが勝てなくなるなど、そのあたりは別途記事にする予定)。なので、ここでは「脚質」はあくまで仮の指針のひとつ、くらいの認識でご覧ください。ただ傾向としては想像通りの集計結果になった。
オールラウンダーとクライマーを合わせると半分以上になるのだ。TOP50=34人/TOP100=51人(ヤングライダー22人)で、これはステージレースの総合成績で得るUCIポイントが大きいことも大きな理由だ。 スプリンターは勝利数は多くてもUCIポイントは少ないので、ランキング上位には絡みにくい。そういう意味ではフィリプセン(19勝・9位)、ドゥリー(10勝・14位)、グローヴズ(7勝・24位)、コーイ(13勝・30位)の好成績は相当な好成績である。ただし、50〜100位ではスプリンターは多く、計22人と一気に増える。これはトップクラスのGCライダーは各チームのエース格2-3人程度と考えると20チーム分(40-60人)の次に入るのがスプリンターと考えれば納得のいく結果である。なおファンアールトはここでは「パンチャー」でカウントし、ピーダスンは「スプリンター」だが、所謂ピュアスプリンターではないと個人的に考えている。異論はあると思うがご容赦ください。パンチャー、ルーラーも基本的にワンデーレースでの成績を狙う対応の選手たちなので、必然的にランキング上位に入る選手は少なくなる。例外的に50位以内に入っているパンチャーは、ファンアールト、ヒルシ、マドゥアス、バジオーリ、ルイ・コスタ、アランブル。ルーラーは、マチューとフロリアン・フェルミールスのみ。
またTTスペシャリストとして4人ランク入りしているが、全員ワンデーレースに強い選手たちなので(ガンナ、キュング、アスグリーン、ヴァーレンショルト)、「TTスペシャリスト」という括りも一考の余地もあるかも(TTがいちばん得意な選手なのは間違いないが、ワンデーレースでも優勝を争うくらい強いとスペシャリストという言い方には抵抗もある)。悩ましい。
◎昨年との比較
↑【表F】多くの選手が2022年から順位を入れ替えた。これは調べてみて少し驚いた。TOP50では14人、TOP100では44人もが昨年の101位以下からランクインしている。それだけ今年成績が大幅に向上した選手と、昨年活躍していたのに不調だった選手が大勢いる。逆に言えば毎年継続して活躍することがそれだけ大変なのだということも数字が物語っている(一部は昨年とUCIポイントの設定変化の影響もあると思われる)。
今年TOP100から外れた主な選手は、イギータ(昨年12位→158位)、ダニエル・マルティネス(昨年14位→227位)、ギルマイ(昨年16位→113位)、コスヌフロワ(昨年19位→173位)、サム・ベネット(昨年27位→295位)、アレンスマン(昨年33位→142位)、Dトゥーンス(昨年34位→164位)、Eヘイター(昨年42位→157位)、ヤコブセン(昨年48位→131位)など。怪我や感染症などのトラブルがあった選手もいるが、若い選手も多いので衰えとは思えない。復活を期待したい。コロンビアは、キンタナ(2024年はモビスターで復帰)、MAロペスがいなくなったことに加えてイギータとダニマルがこれだけ成績を落としていれば、苦しくなるのも当然か。
またヤングライダーは昨年101位以下だった選手がやはり多く、ヒーリー(昨年397位→22位)を筆頭にグローヴズ(昨年213位→24位)、ガル(昨年296位→33位)、バジオーリ(昨年143位→34位)、ヨルゲンソン(昨年262位→35位)と、今年大きく成長した選手たちだ。さらなる成長が楽しみであると同時に、まだ一年しか結果を残していないのは楽観視もしてはいけない。他に大きく向上したのは、セップ・クス(昨年281位→16位)、ルイ・コスタ(昨年305位→38位)、フロリアン・フェルミールス(昨年271位→44位)、ヴァンウィルデル(昨年313位→54位)、デレク・ジー(昨年717位→67位)、ルビオ(昨年268位→75位)、ミラン(昨年714位→77位)、ヴェラスコ(昨年341位→93位)など。
また最年少20歳では、グレゴワール(昨年313位→72位)、アイデブルックス(昨年225位→84位)、レニー・マルティネス(昨年465位→99位)と粒ぞろいの若者達がいる。その一つ上の世代21歳では、アユソ(昨年25位→29位)、コーイ(昨年51位→30位)という2年連続で結果を残した怪物がいる。ちなみにアユソは少しだけ成績を落としたと見るのは大きな間違いで、アキレス腱の損傷により一年の半分しかレースを走れなくてこの成績なのだ。しかも未だ成長中で天井が見えない。ヴィンゲゴーとポガチャルからマイヨジョーヌを奪う可能性が高いのはアユソだと、ずっと思っている(UAEにいることが悩ましい)。
*《選手の成績まとめ・脚質タイプ別》は近日公開予定。
◆2023年チーム成績まとめはこちらから