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2023年シーズン振り返り【個人成績まとめ・脚質別】

 

2023年シーズンの振り返り第三弾。選手の個人成績を脚質別でまとめました。正確には脚質別ではなくレースの種類別というかんじでしょうか。PCSサイト上のポイント集計をもとにした順位に、参考になるレースの成績を表に加えてます。コメントは、個々へはあまり触れずに全体の傾向について言及します(つまり薄めです)。

*選手のUCIランクは2023年11月30日現在で、年齢は2023年12月末時点。

 

 

 

 

◎個人成績・脚質別(UCIポイント)

GCライダー(ステージレース総合)

 
ステージ総合成績のランキングに、2023年のグランツールの成績も記載した。ここに入るのは総合上位に入るライダー、つまり各チームの総合エースたちだ。例年通りの強豪中心の中で特に目立ったのはセップ・クスの飛躍だろう。エース格では全グランツールに出場した唯一のライダーであり、ブエルタの総合優勝はやや棚ぼた感もあったとはいえ、GT全てでTOP20以内に入っている。実力は間違いなくトップライダーの一人だ。引退したピノもキャリアの最終年でもなおトップクラスの実力があることを示した(フランス人全体で最上位である)。まだまだやれるといちファンとしてはつい思ってしまうが、昨年のバルベルデといい、これだけの成績をあげて惜しまれながら引退するのは、選手としては最高の花道なのかもしれない。
表を見て気づくのは、ユンボ・ヴィスマの3人のレベルが際立っていること。3人でグランツール全て制してしまったから、当然の結果でもある。チームとしてはUAEバーレーンが6人と多くのライダーがランクイン。上位カテゴリーのチーム数が20強という状況を考えると、TOP30では1チーム平均にならせば1〜2人になるので、GCにおいてはこの2チームの戦力が突出していたことがわかる。TOP10で限れば、この3チームだけで8人もいる。
また若い選手が多いことも目立つ。ヤングライダーがTOP30ではおよそ半数にあたる14人もいる。ブレイクしたファンウィルデルルビオヨルゲンソンは来年以降も活躍を期待できそうなほどの結果を残し、アイデブルックスガルも大きく飛躍したシーズンになった。個人的にあえてコメントしておきたいのは、アダム・イェーツアルメイダは非常に優秀な成績を残していること。彼らはもっと評価されてもいいと思う。
 
 
◆クラシックライダー(ワンデーレース)

 

クラシックライダーというネーミングだが、ワンデーレースで好成績だつた選手という括り。表にはモニュメントと世界選手権の成績も記載した。こうして表を見ると北クラシック(石畳系=MS、RVV、PR)とアルデンヌクラシック(登坂=LBL、IL)では出場する選手がきれいに分かれていて、タイプの違いが明確である。
モニュメントを2勝したポガチャルマチュー(世界選手権も優勝)の二人が別格感もあるが、世界選手権も含めて4つのレースで上位6位以内に入ったファンアールトMピーダスンはもっと称賛されるべき。彼らは優勝を望んでいただろうけど、ちょっと運がなかっただけに感じるほど実力は拮抗している。
やっぱりワンデーレースでもユンボの実績が際立っている。TOP30に4人もランクインし、アルペシングルパマが3人で続く。TOP10に限って言えば2人づつ入っているUAEアルペシンの破壊力は抜群。ワールドチームではほとんどのチームのエースがいるが、TOP50まで広げて唯一AG2Rだけひとりも入っていないのは寂しい。かつてファンアーヴェルマートやOナーセン、コスヌフロワらが得意だったクラシックでの苦戦の結果である。
TOP30では半数にあたる15人がヤングライダーと、若手の飛躍も目立つ。中でも、ドゥリーテイッセンジングレストロングコーイは、2024年はモニュメントやグランツール等のビッグレースに本格的に参戦してくるだろう。彼らがどこまで勝負できるか注目したい。
 
 
◆スプリンター

 

スプリンターも多くの勝利をあげたライダーが上位に顔を並べた。表には参考としてグランツールでのポイント賞順位と欧州選手権のリザルトも記載(欧州選手権は結果的にスプリンターは少なかった)。パッと気づくのは、トップクラスのスプリンターはグランツール出場者が少ないこと。これは2023年は特に厳しいコース設定のためスプリンターが回避したり途中リタイアを余儀なくされたことも要因としては大きいと感じる。出場していたのも“登れるスプリンター”と呼ばれる登坂も比較的こなしてしまうタイプが中心だ(Mピーダスン、グローヴス、コカール、ミラン、Mファンデンベルフなど)。2024年ツールはさらにスプリンターには厳しいコース設定で、パリ五輪の影響でシャンゼリゼフィニッシュもなくなったためツールを回避するスプリンターは多くなるかもしれない。個人的にはこの傾向には賛成できない。もっと普通の平坦ステージが多く設定されることを願う。
フィリプセンはシーズン最多19勝をあげて2年連続のランク1位。文句無しのNo.1スプリンターだ。総合狙いのライダーがチームにいないことも有利であり、このまま当分トップに座りそうな雰囲気も感じるほど。そこに勢いよく迫ってきているのはコーイドゥリーの若い二人。どちらも2年連続で好成績をあげ、強さは間違いなく本物。今年成績を上げたのは、デクラインウェルスフォードミランペンウィットMファンデンベルフジョージ・ジャクソン。大きく成績を落としたのはデマールクリストフカヴェンディッシュオフステテールなど。ファンアールトもランキングから外れた(今年はバンチスプリントしたレースは少なかった)。
他のカテゴリーのランキングと比較して傾向として顕著なのは、ほとんどのチームのエースがランクインしていることと(ワールドチームでひとりもいないのはイネオスAG2Rアスタナのみ*アスタナはTOP50では3人いる)、プロクラス以下のチームの選手も多いこと(ロットチューダーバルディアーニQ36.5タルテレット・アイソレックスボルトン)。チーム別ではクイックステップロットの3人が最多。他で猛威を奮っているUAEユンボがスプリンターでは1名づつというのもチームの特徴を表している。
ここでも若手はもちろん活躍しているが、他よりはベテラン多めの印象。ヤングライダーはTOP30では12人で、そのうち25歳(ヤングライダー最終年)が1位フィリプセンを筆頭に4人(TOP50では7人)もいるので、来年はヤングライダーは減るかもしれない。この年代は近い将来スプリンターの黄金世代と呼ばれる一大勢力になりそうである(一番多いのは29歳の9人)。
 
 
◆タイムトライアル

 

ランキングには世界選手権と欧州選手権でのタイムトライアルの成績も記載した。大半は例年通りのお馴染みのメンバー。

アルカンシェルを獲得したレムコがとうとうガンナを上回って1位になった。アルメイダマクナルティアユソUAEの3人も元々TTの強さには定評があったが、安定感と巧さが増して一段階レベルが上がった印象。この中で一番の驚きはプロ1年目で6位に食い込んだターリングだ。まだジュニア世代の19歳ながら世界選手権3位・欧州選手権優勝とエリートクラスの大舞台でもしっかり結果を残すあたり、とんでもない才能の若者の登場である。若手では他にもヴァインヴァーレンショルトファンウィルデルの活躍も目覚ましい。大きく成績を落としたのは、Eヘイターポガチャルソブレロモレマランパールトなど。

チーム別では、イネオス6人、ユンボ4人、クイックステップ5人のTT3強チームが例年通り他を引き離しているが、2023年はそこにUAE5人が急激に力を増して、4強といえる状況になりつつある。今後は更にTT能力が求められる傾向になりそうで、トップ選手との差も徐々に少なくなっていきそう。

 

 

 

◎タイプ別で集計したチームの特徴

表はチーム別に上記カテゴリーGC=GCライダー/CR=クラシックライダー/SP=スプリンター/TT=TTスペシャリスト)のTOP50を集計した人数を入れた。チームの順位は2023年のUCIチームランキング。

この表ではそれぞれのチームのストロングポイント(特徴)が感じられると思う。わかりやすい例でみると、イネオスGCとTTが強力で、クラシックレースもそこそこ強く、スプリントは弱い。ロットはクラシックレースが超強力でスプリントも強いが、GCはいまひとつでTTは弱い、といった様子だ。

2023年の傾向では、GCUAEバーレーンイネオスが最強で、ボーラユンボモビスターがその次に戦力が充実していた。一方でアルペシンアンテルマルシェイスラエルアスタナトタルGCではほとんど勝負できない。

同様にクラシックレースでは、ロットユンボが最強で、AG2Rトタルは勝負に絡めず。スプリントではクイックステップアルペシンロットボーラアンテルマルシェDSMアスタナが主導権を握り、イネオスAG2Rは諦観。TTUAEユンボクイックステップイネオスが4強で、およそ半数のチームは上位にも絡めなかった。

ちなみにTOP50での集計なので、1チーム平均は2〜3人に均されるはずで、10人近く入るのはかなり異常値である。1チームの人数は30人なのだ。UAEでいえばチームの1/3にあたる選手がGC上位10%に含まれるということ(*ワールドチームの人数がおよそ500人強なのでTOP50は上位10%にあたる)。そうみるとチーム間の戦力は想像以上に偏っていると感じる。

 

 

◎タイプ別で集計した国の特徴

表は国別で上記カテゴリーGC=GCライダー/CR=クラシックライダー/SP=スプリンター/TT=TTスペシャリスト)のTOP50を集計した人数を入れた。国の順位は2023年のUCIランキング順で(*参考で2022年も)

 最強国ベルギーの強さが全方位的に際立っている。質・量ともに間違いなくNo.1の自転車大国である。ランキングを大幅に上げたのは、2位デンマーク・4位イギリス・10位アメリ。他にも薄い赤の国がランキングを上げ、薄いブルーの国は下がった。コロンビアはかなり厳しい状況に(キンタナとMAロペスの不在も痛い)。スロベニアは特殊で、3位にランキングされるが、3人のスーパーライダーがほとんどを稼ぎ出していて(ポガチャル、ログリッチ、モホリッチ)、国として選手層が厚いとはいえない。逆にフランススペインイタリアは多くの選手がTOP50にいるが、本当のトップクラスの選手が少なくて、人数に比してランキングは下がっている状況。

(あくまでも人数だけで見れば)GCイギリススペインの6人が最多で、ベルギーフランスが5人で続く。クラシックレースは、ベルギーが11人とアタマふたつ抜けていて、次いで強いのがフランスの7人、少し離れてデンマークイタリアオランダの4人が続く。スプリントではベルギー10人、イタリア7人、オランダ7人の3カ国がほぼ占める(実情はTOP10にベルギーとオランダが4人づついて、両国で支配している状況→上記スプリンターの表参照)。TTではベルギーデンマークイギリスの5人で最多で、イタリアアメリが4人で続く。なかなか興味深い状況である。

 

*国の特徴はこちらの過去記事も参照

 

 

◎その他・雑感

選手個別にはほとんど触れなかったので、全体で気になった傾向について記載しておく。この4つのカテゴリー分類は勝利に必要な脚質タイプが異なる。そのため複数の表でランクインしているライダーはマルチな才能を持っているといえる。TOP30以内でいえば、3つのカテゴリーに入っているのは、レムコ(GC7位/CR18位/TT1位)とスケルモース(GC18位/CR12位/TT20位)、ピーダスン(CR6位/SP7位/TT21位)の3人だけである。ちなみにふたつのカテゴリーに入るのはヴィンゲゴー(GC1位/TT11位)や、グリッチアルメイダマクナルティファンウィルデルアユソカルーゾゲイガンハートなどがTTが得意なGCライダーで、GCも好成績をあげるクラシックライダーにはポガチャル(GC7位/CR1位)、ヒルがいる。

クラシックも得意なスプリンターでは、フィリプセン(CR7位/SP1位)、コーイドゥリーテイッセンクリストフペンウィットデマール。TTも得意なクラシックライダーはファンアールト(CR5位/TT10位)、キュング

 

こうして成績を相対的に俯瞰して見ると、マルチなライダーにも得意とするレースの傾向がはっきりしてくる。なので、このどんなレースを得意とするのかを、今後のライダーの分類方法にしたらどうかというのが、以下の提案である。

 

◎脚質に変わる新しいライダーの分類

これはこれでレースを楽しむためのひとつの方法だと思うので、よろしければご一読ください。

 

 

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*2023年の個人成績まとめはこちら

 

*2023年のチーム成績まとめはこちら

 

 

*2022年の成績はこちらにまとめています。

jamride.hateblo.jp