“脚質”を改めて考える 〜新しい分類の提案〜
ロードレースのライダーのタイプについて「脚質」という分類方法がよく使われる。しかし、個人的にはここ最近あまり有効ではないのではないかと感じることが多くなってます。例えばワウト・ファンアールトのように、どのタイプの脚質にしても、その概念からはみ出てしまう選手が多くなってきたことも原因であるように感じます。実際に一般的にはどう思っているのか、Xでアンケートをしてみたら圧倒的多数で「脚質ワウト・ファンアールト」になってしまいました・笑。まあ結論からいえば、選手の脚質を決めるのに正解はありません(いきなり全否定)。とはいっても、ブログを書いているとライダーやレースを説明するのに便利でもありつつ、時にはその分類が邪魔になることもあり、悩ましい問題に感じることもしょっちゅうです。
ということで、今回は“脚質”に変わる新しい選手の分類方法を考えてみました。
◎そもそも脚質という情報は必要か
「脚質」はなぜあるのか。それはレース観戦における指標のひとつとして便利だから、に尽きると思います。200人近いライダーが一斉に走る中で、誰に注目したらいいのかや展開を語るのにわかりやすくするためです。例えば「パンチャー向きのステージ」とか「逃げてる選手でスプリントに強いのは誰」といった会話に「脚質」を使うことで端的に伝わりやすくなります。知らなかった選手も脚質を知ればどんなタイプなのか傾向もつかめます。仮に「脚質」という指標がなかったら、説明しづらくてコミュニケーションがとりにくくなりますよね。ただし、あくまで目安として便宜的につけるおおざっぱな選手の特徴という程度の括りです。
◆通常よく使われる分類は、以下の6つのタイプ。
・オールラウンダー(苦手が少ない万能型)
・クライマー(登坂能力が高い)
・パンチャー(登りもこなせて瞬発力がある)
・スプリンター(トップスピードが速い)
・ルーラー(タフな牽引役)
・TTスペシャリスト(独走力が強い)
これを読む方はある程度「脚質」を理解しているという認識で、詳細は省きます。
*脚質については過去記事でもう少し噛み砕いて紹介してます
◎新しい分類方法
今までの「脚質」というライダーの“個性”よりも彼らの“役割”を基準にライダーを仕分けする方が、レース観戦には親切なのではないかと考えました。
サッカーでいえば、パッサーとかドリブラーという選手の“特徴”を表すのは個性を掴みやすいとは思うけど、ミッドフィルダー、ディフェンダーなどの“ポジション”の方がゲームを見るには役立つと感じます。もっといえば、センターフォワード、ボランチといった“チームでの役割”で括った方がより理解しやすくなると思うのです。
ロードレースもチームスポーツです。ライダーたちに“チームでの役割”を置き換えてみたい。それにはレースのタイプ別(ステージ総合/ワンデーレース/スプリント/TT)で、さらに“エース”と“アシスト”を担う選手に分かれると思うのです。
◎GCライダー
ステージレースで総合成績を争うライダー(GCは英語のGeneral Classificationの略で、総合成績を競うライダーの呼び名)で、チームで総合エースやサブエースの役割を担う。山岳ステージに強くTTもこなせる。従来のオールラウンダーとクライマーの中でも成績上位のライダーたち。例えばポガチャルはクライマーで、ヴィンゲゴーはオールラウンダーにしていたけど、どちらもGCライダーになる。
◎クラシックライダー(ワンデーレーサー)
ワンデーレースでエース格として勝利を狙うライダー(基本的にアシストは含まず)。従来のルーラーやパンチャーで上位に位置する選手が該当(クラシックに強いスプリンターは下記フィニッシャーに分類)。少々問題なのは、北クラシック系(石畳)とアルデンヌ系(山岳)のクラシックレースのどちらのエースもここに分類されてしまうこと。でもそれを更に分けると細かくなり過ぎるかなとも思い、とりあえずひとまとめに。
◎フィニッシャー
ゴール前の集団スプリントになるレースで勝利を狙うスピードのあるライダー。従来のスプリンターとほとんど同義です。登れるスプリンターや、平坦ステージでのリードアウト役も含みます。例えばマシューズは従来はパンチャーにしていたけど、フィニッシャーと考えてます。役割的に分類すると、山岳ステージで最後に抜け出すのもフィニッシャーといえそうだけど、山頂ゴールはちょっと違うかなと。
◎TTライダー
TT(タイムトライアル)能力が高く、独走力に優れたライダー。従来のTTスペシャリストとほぼ同義。「スペシャリスト」という言葉がTTに特化したイメージにつながりやすく(僕だけかな?)少し違和感があったため言い方を変更してみた。チームでの集団牽引役もこなしながら、独走力を活かした逃げも得意だったり、選手によってはクラシックレースも強い。*この分類は不要かも。
◎シェルパ
登坂(山岳ステージ)に強く、総合エースの山岳アシストをこなすライダー。従来の分類のクライマーの中で総合エースを担わない選手(山岳ステージで勝利を狙うライダーはクラシックライダーとも重なる)。ネーミングは登山のガイド役になる人たちから。基本はアシストだが展開によってはエースを担うことも。
◎ポーター
主にアシストの役割として集団牽引を中心に何でもこなすライダー。従来のルーラーとオールラウンダーのアシスト役がこのポジション。サッカーでオシム氏が喩えで使っていた「水を運ぶ人」のイメージでハードワークを厭わない働き者。ステージ終盤までエースをゴールや勝負所まで運ぶこと、時にはボトル運びをすることも。ネーミングは、ホテルなどで荷物を運ぶ人から連想。
他に悩んだのは、「エスケイパー」という逃げ屋もいれるかどうか。レースではかなり重要な役割でもあり分かり易いが、コースによって逃げる選手は異なることと、プロクラスのチームであればどんな脚質の選手でもエスケイパーになる可能性が高かったりするので、括ってしまうのは少々乱暴な気もしてやめた。
こうして分類しても、複数の能力に優れてどっちなのか悩む選手もいるが、より得意としている特徴を優先します。例としては、ポガチャルはGCもワンデーも強いけど、どちらかというとGCライダー寄りと判断。ファンアールトはスプリントもクラシックもTTも強いけど、クラシックライダーに分類。だけど、レムコだけは分類不能かも。現時点ではクラシックライダーと考えているが、TTのアルカンシェルでマイロロホも持つGCライダーでもあり、絞りきれない…。今後の成長度によって一考の余地あり。そういう意味では一番マルチな才能を持っているのはレムコなのかもしれない。
さて、長々と書いてしまったが、ライダーのタイプ分類の提案として、従来の脚質と6タイプの役割を掛け合わせてみたい。よりわかりやすくなると思うのだが、どうだろうか。試しに従来の脚質では分類しきれないライダーに当てはめてみましょう。
ポガチャル(GCライダー/クライマー)
ヴィンゲゴー(GCライダー/オールラウンダー)
バルデ(クラシックライダー/クライマー)
セップ・クス(シェルパ/クライマー)
ファンアールト(クラシックライダー/TTスペシャリスト)
マチュー(クラシックライダー/ルーラー)
マッズ・ピーダスン(クラシックライダー/パンチャー)
ラポルト(クラシックライダー/スプリンター)
フィリプセン(フィニッシャー/スプリンター)
マシューズ(フィニッシャー/パンチャー)
モホリッチ(クラシックライダー/オールラウンダー)
パウレス(クラシックライダー/クライマー)
・・・うーん、ややこしいか。笑
さて、どうでしょう。それなりに現状の脚質にフィットしないライダーの分類に役立つと思う一方で微妙なポジションもあるのは否めません。どちらの分類も一長一短あり、枠におさまらない選手は一定数存在するからですね。世の中全ての人間を血液型で4分割するのは無理なのと同様なのでしょう。…まあ、浸透はしないな。笑 ともあれ、いちファンの戯れの試みでした。いつかまた再考してみたいテーマです。
◎レースタイプ別(脚質別)の成績まとめはこちら