ロードレースみるひと

ロードレース観戦ガイドのブログ

【2021年のレース】印象的だった出来事とか

 

2021年の振り返り、その4。レース以外でも、ちょっとした騒動もありました。自分の記憶に残しておくためのメモです。

 

 

◎ルール改正の混乱

・スーパータックの禁止

・パピーパウの禁止

・指定区間以外ポイ捨て禁止(ビドンやサコッシュも)

★スーパータックとパピーパウについては用語解説参照

4月1日から上記内容の規制がUCIから発表され、違反をした場合には罰金及びポイント剥奪、さらに回数によってはレースを失格になる等、かなり重めのペナルティが課せられることになった。後に様々な少しづつルールに変更が加えられているが、概ねこのまま継続されるだろうと予測される。シーズン開始からならともかく、途中からのルール変更というのは選手たちがかわいそうだった。スーパータックに関しては違反(あるいはグレー)の選手がちらほら見えて慣れの問題もあったんだろうと感じる。スーパータックとパピーパウについては「レースの(選手の)安全のため」という見解は理解できるが、反対する選手の気持ちもわかる。

また観客(特に子供達へは)に渡されるビドン(ボトル)は、「ゴミ」ではなくて「ギフト」である。今まで多くの印象的なシーンがあった。ロードレースは観客と距離が近さが良い競技でもある。環境問題への懸念は理解できる。何かもう少しいい方法があるのではないかと感じている。

「喜びは奪わせない」ボトル捨て失格処分のシェアーが抗議 - 多くの選手が共感 | cyclowired

 

 

◎ツール初日の観客誘引による大量落車

競技の特徴でもある「観客との距離の近さ」が裏目に出た出来事。一般の報道でも話題になっていたので、ロードレース初心者でも知っている人はいるかもしれない。ツール・ド・フランスの初日に沿道にいた観客がテレビ中継に映ろうとして、道路にはみ出した看板が選手に接触し大量の落車を誘引した事故。もちろん許される行為ではないし、それが原因でリタイアした選手もいる。直接ぶつかったトニー・マルティンは引退した理由のひとつにすらなった(直接事故に言及はしていないが、レースを取り巻く安全性への懸念が理由だと語った)。女性はフランス警察に裁判にかけられ、1200ユーロの罰金刑になった。懲役どころか損害賠償もされなかったのは、観客の女性への罰というよりも今後のレースマナー向上のための見せしめ的な意味合いが強かったと思われる。

それにしても、ジロの山岳にいる旗を振り回す観客たちとか、ほんとに危ない。過去の映像で選手が危険な観客を殴ったのもいくつか見たが、見慣れてくるとあれも応援の一種だとつい思いがち。選手たちの前を横切ってぶつかった観客もいた。

実際に道のすべてを規制管理するのは物理上不可能だと思うが、なんらかの改善策は必要だ。少し話はそれるが、個人的にはゴール前のトリッキーなルート設定の方が早急な改善が必要だと思う。ポローニュの下り坂ゴールはスピードが上がり過ぎて危険だし、市街地のカーブやせまい道でのスプリントで落車する選手を2021年も多く見た。痛い目に会うのはライダーたち。何よりも選手を犠牲にしてはいけない。

 

 

バーレーン活躍し過ぎ問題

バーレーン・ヴィクトリアスが強かった。チーム史上、最強のシーズンだったと思う。まずはジロ。エースのランダが落車で早々にリタイアすると代わりにダミアーノ・カルーゾが大活躍。まさかの総合2位。最終盤の第20ステージの難関山岳ステージを勝ち切った姿はエースの貫禄だった。その後のツールでもエースのジャック・ヘイグが落車で早々にリタイアしたが、モホリッチとランダがステージ優勝。ブエルタでもツールをリタイアしたジャック・ヘイグがリベンジ。総合3位で表彰台にあがってしまった。さらに総合5位はジーノ・マーダー。ベルナルを抜いてヤングライダーまで手にする。ベネルクスツアーからパリ〜ルーベまでシーズンが終わるまで強さは続いた。★コルブレッリとモホリッチの活躍はこちらでも。

そのためか、ツール期間中にチームが警察の家宅捜索を受けるという事案が発生。ドーピングを疑われていた。おそらくバーレーンの活躍を妬んだ外部からのタレコミとかそんなかんじだったのだろうけど、単なる検査ではなくわざわざ警察が出動するとは、なかなかである。急に登れるようになったコルブレッリや勝ち始めたモホリッチも、ジロのカルーゾもブエルタのジャック・ヘイグも、全員急に強くなるのは不自然さも感じる人もいたことだろう。もちろん彼らはシロであったし、逆に秋以降は強さを増した。

そんな最強布陣のバーレーンにあって、早々に契約延長を決めた新城幸也。彼やトラトニックのような献身的な働きをしたアシストたちの勝利でもある。2022年もほとんどのメンバーが残った。活躍を期待し、ユキヤの笑顔を多く見れることを願う。

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2021年ジロではフェアプレー賞を獲得。最終日にリタイアした3人のゼッケンを持ち登壇し祝福された。中央の新城選手の笑顔が眩しい。

 

 

サガンの移籍

スーパースターが、ついにチームを移籍。2020年からボーラと契約の切れる今回でサガンが移籍するという噂はあったので驚きはしなかったが、大きな出来事である。近年は全盛期のような強さはなくなったものの、存在感や影響力はいまだに大きい選手。彼は2年以上前に「ロードは飽きた。MTBに戻ろうか思う」といった引退をほのめかす発言すらあったので、移籍で済んでよかったと少し安堵したぐらいだ。

チームメイトであるダニエル・オス、ボドナール、兄のユライ・サガン、他にもマネジメントスタッフ等も従えた「サガン・ファミリー」の大型移籍。更にバイクメーカー(スペシャライズド)もトタルエナジーズと契約した。スペシャライズドには何年も「サガン・コレクション」もあり、両者にとって蜜月の関係とはいえ、サガンの人気・影響力のすごさを改めて知らされた。移籍先を決めるにあたり、ファミリー全体を受け入れることが条件だったという。親分肌である。

問題はトタルエナジーズは「ワールドチーム」ではなく、下のカテゴリーである「プロチーム」なのだ。ワールドツアーでは出場できるレースは限られる。サガンを見る機会の減少は残念であるが、SNS等でも今まで以上に明るく振る舞う様子を見ると、彼にとっては楽しめる環境になったということかもしれない。先日、新型コロナに感染した報道が流れた。コンディション面に少し影響はあるかもしれないが、まだ老け込むには早い年齢。彼が活躍すると全体に活気づく。頑張ってほしい。

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2021年ジロではマリアチクラミーノを獲得。健在ぶりを示した。

 

 

◎チーム クベカの離脱

2021年12月、UCIはチームの来季のライセンス継続を拒否し、その後クベカはワールドチームから離脱した。

チームクベカ・ネクストハッシュは、2007年に設立した南アフリカのチーム。2013年にプロコンチネンタルチームに昇格し、2016年にはディメンションデータをメインスポンサーとしてワールドツアーライセンスを獲得した。2016年には早速ツール・ド・フランスでステージ優勝もしている。2020年はNTTがスポンサーになったが、一年で撤退。同時に加入した入部選手も一年で帰国、チーム存続の危機を報じられていた。2021年シーズンはウェアメーカーのアソスがスポンサーになり、6月にはツールから新タイトルスポンサーとしてネクストハッシュ社が5年間の契約を結んだと発表されたが、どうやらこのネクストハッシュ社はかなりトンデモ企業だった模様。この仮想通貨の会社は、一部報道ではアダルトトイや北朝鮮ハッカーとの繋がりを持ち実体不明である。給与の未払いが続き、10月には一部の選手たちが他チームへの移籍をはじめ、解散の噂は途切れなかった。

チームは今後、コンチネンタルチームとしての活動を継続する。「将来トップカテゴリーに戻ることが目標。これからもアフリカの才能ある選手の受け皿になり続ける」と声明を出した。「#BicyclesChangeLives(自転車が人生を変える)」のスローガンでアフリカの学生たちに通学用自転車を寄付するなど、社会貢献活動も多かったこういうチームがなくなるのは、残念である。

2021年はジロで3つのステージで勝利を挙げていた。2年前にも「CCC」というチームが消滅した。新型コロナの影響も無縁ではないと思うが、ロードレースにおけるチーム運営の難しさを実感する。

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2021年ジロではステージ3勝したチーム。その数ヶ月後にこんなことになるとは…。

 

 

 

◎2021年で引退した名選手

主な成績。チームは最終所属したチーム、年齢は2021年12月時点。

アンドレ・グライペルイスラエル・スタートアップネイション)

39歳/ドイツ/17年/通算158勝/グランツール・ステージ22勝、モニュメント22回出場、オールタイムランキング32位

トニー・マルティン(チーム ユンボ・ヴィスマ)

36歳/ドイツ/17年/通算67勝/世界選手権TT優勝4回、グランツール・ステージ7勝、モニュメント10回出場、オールタイムランキング73位

ダニエル・マーティンイスラエル・スタートアップネイション)

35歳/アイルランド/15年/通算22勝/グランツール総合一桁5回・ステージ4勝、モニュメント26回出場(リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ優勝・イル・ロンバルディア優勝)、オールタイムランキング152位

・ティジェイ・ヴァンガーデレン(EFエデュケーションNIPPO

39歳/アメリカ/14年/通算16勝/グランツール・ステージ3勝、モニュメント6回出場、オールタイムランキング333位

・ファビオ・アル(チーム クベカ・ネクストハッシュ)

31歳/イタリア/10年/通算9勝/グランツール総合一桁5回・ステージ6勝(ブエルタ総合優勝)、モニュメント8回出場、オールタイムランキング544位

別府史之(EFエデュケーションNIPPO

38歳/日本/17年/通算6勝/グランツール5回出場、モニュメント20回出場

 

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日本人の第一人者として長年本場のプロトンで活躍したフミこと別府選手。全グランツール、全モニュメント、世界選手権、オリンピックを全て走った選手は数えるほどしかいない偉業。