2022年シーズンも残すところあとひと月ほど。今年はいろんな意味で世代交代を強く感じている。直近ではブエルタでマドリードの最終ステージが始まる前に、バルベルデとレムコが握手するシーンは象徴しているように思えた。ブエルタは毎年若手が活躍することが多いが、総合優勝したレムコに加えて、3位に19歳のアユソ、5位アルメイダ、6位アレンスマン、7位カルロス・ロドリゲスとヤングライダーたちが上位に揃ったことは、一気に新しい世代が躍進している印象を強くした。
そんな中、今年(ワールドツアーを含む)プロツアーで初勝利をあげた2000年以降に生まれた(U23のカテゴリーにあたる)選手を調べてみた。すでにトップレベルの選手もいるが、来期以降主役候補になりえる彼らが最初の勝利をあげた年として覚えておくのもいいかもしれない。ちなみにポガチャルは1998年、ピドコックは1999年生まれで、彼らよりも若い世代になる。
- マテフ・ゴベカール
- イーサン・ヴァーノン
- マティアス・スケルモース イェンセン
- カルロス・ロドリゲス
- アントニオ・ティベリ
- アーチー・ライアン
- ベン・タレット
- バスティアン・トロンション
- アルノー・デリー
- フアン・アユソ
- マグナス・シェフィールド
- マティアス・ヴァチェク
*以下選手紹介のUCIランクは2022年9月16日現在、通算勝利数はUCIレースのみ。
マテフ・ゴベカール
2000年4月生まれ/スロベニア/バーレーン・ヴィクトリアス
UCIランク284位(2021年12月は576位)通算2勝
初勝利はブエルタ・ア・ブルゴスstage4。今年6月に加入したネオプロがわずか数レースで結果を出してしまった。スロベニアからまた新たな才能が出てくるのか。バーレーンでは今年3勝をあげたサンティアゴ・ブイトラゴ(1999年生まれ)、国内レースで初勝利をあげたマーメド・マダン(2000年生まれ)、未勝利ながらブエルタでは8つのシングルリザルトでいつ勝ってもおかしくないフレッド・ライト(1999年生まれ)と、有望な若手がこぞって活躍し、ベテラン揃いのチームに新しい風を送り込んでいる。
イーサン・ヴァーノン
2000年8月生まれ/イギリス/クイックステップ・アルファヴィニル
UCIランク353位(2021年12月は1979位)通算4勝
初勝利はボルタ・ア・カタルーニャstage5。トラック出身でスプリント力もあるネオプロ。個人的にモルコフのような存在になってくれるとありがたいと思える、そんな可能性を感じる選手。
マティアス・スケルモース イェンセン
UCIランク86位(2021年12月は173位)通算2勝
初勝利はツール・ド・ルクセンブルグstage4で、そのまま総合優勝も成し遂げた。昨年から上位入賞の常連になりつつあり、レムコと並ぶ2000年生まれの戦闘を走る選手のひとり。登れてTTも速い、トレックの総合系のエースを担うかもしれないの有望株。
カルロス・ロドリゲス
2001年2月生まれ/スペイン/イネオス・グレナディアーズ
UCIランク39位(2021年12月は158位)通算3勝
初勝利はイツリア・バスクカントリーstage5。上位入賞も多く、スペイン国内選手権でも優勝した。初グランツールだったブエルタ・ア・エスパーニャでは総合7位と総合系での適正も見せ、落車しながらも根性で走り抜く姿も印象的。
アントニオ・ティベリ
2001年6月生まれ/イタリア/トレック・セガフレード
UCIランク489位(2021年12月は598位)通算2勝
初勝利はツアー・オブ・ハンガリーstage4。情報が少なくて、まだどんな選手なのかいまひとつつかめていない。現状ではTTもそこそここなすクライマーで、エリッソンドのようなアタッカーをこなす山岳アシスト的な存在を目指してるように思えるがどうだろうか。
アーチー・ライアン
UCIランク503位(2021年12月は順位なし)通算1勝
初勝利はスロバキアツアーstage2。ユンボのデベロップメントチーム所属ながらエリートカテゴリーで参加したレースでいきなり勝ってしまったラッキーボーイ。今年のラヴニールでも総合4位になるなど実力を兼ね備えてそう。
ベン・タレット
2001年8月生まれ/ベルギー/イネオス・グレナディアーズ
UCIランク202位(2021年12月は274位)通算1勝
初勝利はコッピ・デ・バルタッリstage1。今季アルペシンから移籍したシクロクロッサー。クラシックレースでも上位に入るなど、若いながらタフなレースに強い楽しみな存在。イネオスでは総合系の若手が多いので、ピドコックのようなワンデー向きの選手になってほしいと思う。
バスティアン・トロンション
UCIランク1542位(2021年12月は1749位)通算1勝
初勝利はブエルタ・ア・ブルゴスstage3。今年8月に加入したばかりのトレイニーが初レースでシヴァコフをマッチスプリントでくだし勝利を挙げてしまった。まだどんな選手なのか情報が少ないが、勝ち方を見ると同じチームの先輩コスヌフロワのようなパンチャー系をイメージする。
アルノー・デリー
2002年3月生まれ/ベルギー/ロット・スーダル
UCIランク7位(2021年12月は628位)通算14勝
間違いなく今年の主役のひとり。鮮烈なデビューを飾った新世代のスプリンター。初勝利はトロフェオ・パルマ。そこからあれよあれよとあっという間に9勝し、UCIランクはなんと7位まで上昇。デマール、メルリール、ユアン、カヴ等、一流スプリンターたちに力勝負で勝つ姿はとてもプロ一年目とは思えない。プロ野球で例えるなら高卒一年目の選手がいきなり本塁打王争いをしているような活躍(たぶん違う)。彼の今季残す成績はシーズンを終えたら別の記事を書く予定。
フアン・アユソ
UCIランク23位(2021年12月は199位)通算7勝
9月16日に20歳になったばかり。昨年ベイビージロの総合優勝をひっさげて8月にUAEに加入。ワールドツアーを走るようになると、すぐに好成績を連発。今季プロ初勝利もあげた。初勝利はシクルイト・デ・ゲチョ。予定を早めて初グランツールとなったブエルタでの総合3位は驚異的。10代でのグランツール総合表彰台は100年以上前にひとりいるだけ。走るたびに様々な記録を作りそうな「ネクスト・ポガチャル」。
マグナス・シェフィールド
2002年4月生まれ/イギリス/イネオス・グレナディアーズ
UCIランク96位(2021年12月は1200位)通算3勝
初勝利はブエルタ・アンダルシアstage3。その後もセミクラシックのブラバンツペイルに勝つなど好走を連発。TTも強く、リードアウトもこなし、ワンデーにも総合にも様々なレースへの適応力も見せ、若い才能がひしめき合うイネオスにおいてもトップクラスの可能性を感じさせる伸び盛りの選手。
マティアス・ヴァチェク
UCIランク332位(2021年12月は732位)通算3勝
初勝利はUAEツアーstage5。ただし、その時はガスプロムに所属していた。その後チームは活動停止になったが8月1日からトレックに加入し、8月の欧州選手権U23RRでは銀メダル。ワンデーレースで力を発揮するトレックが合いそうな選手。
チームとしては、トレック、イネオス、ユンボが若くして結果を残した選手が多い印象。彼らが順調に育てばチームの将来も明るいと言える(UAEあたりに横取りされなければいいが)。
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以下、参考までに同年代のすでに以前から活躍している選手も記載しておく。
クイン・シモンズ
UCIランク418位(2021年12月は220位)通算2勝
オラフ・コーイ
2001年10月生まれ/オランダ/ユンボ・ヴィスマ
UCIランク49位(2021年12月は172位)通算19勝
ミック・ファンダイク
2000年3月生まれ/オランダ/ユンボ・ヴィスマ
UCIランク246位(2021年12月は196位)通算5勝
ビニアム・ギルマイ
2000年4月生まれ/エリトリア/アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ
UCIランク10位(2021年12月は76位)通算9勝
レムコ・エヴェネプール
2000年1月生まれ/ベルギー/クイックステップ・アルファヴィニル
UCIランク3位(2021年12月は14位)通算36勝
多くの早熟な選手たちの成績を比較しながら、レムコの圧倒的な数字には今更ながら驚く。2019年に19歳でプロデビュー、1年で8勝をあげた。その中にはサンセバスティアンも含まれワールドツアーの史上最年少勝利者になったり、今までに積み上げた勝利数は36。今年はリエージュ〜バストーニュ〜リエージュでモニュメント初勝利をすると、ブエルタで初グランツールステージ優勝と総合優勝も遂げた。これでも橋から転落して8ヶ月もリハビリをしていたわけで、それがなければもっと多くの勝利を手にしていたと思うと、恐ろしい子としか思えない。
若手については今年の初めに書いたアユソやギルマイたちのブログもどうぞ。