サントス・ツアー・ダウンアンダー 2023|出場選手まとめ
1月17日からオーストラリアで開催される【サントス・ツアー・ダウンアンダー】で、ロードレース2023年シーズンは幕を開ける。今回で23回目とまだ歴史の新しいステージレースは、2021・2022年はコロナ渦で中止になっていたので、3年ぶり。まだ寒い時期の北半球を避けて温暖なオーストラリアで開催されるレースは、明るい自然や街並み、賑やかな観客の雰囲気とアデレード近辺の鮮やかな海も見所で、癒し効果も絶大(当社比)。気持ちよい景観が続くのは昨年の世界選手権の雰囲気も思い出すだろう。またシーズン開幕戦は、チーム名の変更や昇降格、新しいジャージやバイク、移籍した選手たち等もあり、我々にも観戦の準備運動にもなるレースだ。また時差が少ない国のレースなので、平日リアルタイム観戦のハードルが高めなのは少々難点でもある(情報をシャットアウトして夜に観戦かなあ)。
ステージはショートコースのITT、平坦が1つ(ただし登り基調)と丘陵が4つで、周回コース多めの構成。レース自体は、今までと少し様子が変わりそうだ。ダウンアンダーの代名詞ともいえた名物の山岳ウィランガヒルがなくなってしまったのだ(『ウィランガヒルの王様』ことリッチー・ポートの引退に合わせたわけではないだろうが)。超級山岳含め、アルプスのような難易度の高い坂はないので、総合争いはクライマー以外にも多くの選手にチャンスがあり、最後まで優勝争いがもつれる緊張感のあるレースになるだろう。コンディションをピークに持ってくる選手が多くない中、中心になるのはオーストラリアとニュージーランドの選手、母国開催で気合いが入るチーム ジェイコ・アルウラ(旧バイクエクスチェンジ)の選手たちだ。以下、各ステージと注目選手を簡単に紹介する。
余談だが、このツアー・ダウンアンダーは現地観戦したいと思うレースのひとつ。オーストラリアの温暖な気候(38度あるという噂も)、清々しい風景以外に、アデレードを中心に割と近めにコースが設定されているので全ステージにアクセスが容易なこと、周回コースが多いので何度も選手たちを観れて満足度が高いはずだ。お正月休みを2週間ほどずらしてくれないかな。
*なお、今年からは優勝候補は10人まで(本命は3人)、有力スプリンターも10人、それ以外のその他有力選手は30人まで絞ることにした。泣く泣く外す選手も多くいることはお詫びしておく。*選手が変更の可能性あり。表内の選手のUCI世界ランクと年齢は2022年12月末時点。
◎ステージプロフィール
◆Prologue(1月17日):Adelaide - Adelaide|5.5km|獲得標高39m(ITT)
アデレードの市街地(ほぼ公園沿い)を走る個人TTから幕を開ける。コーナーもそこそこあるショートコースなので大きなタイム差はつかないが、総合優勝を狙う選手はタイム差を最小限に留めておきたいので気は緩められない。高低差もほとんどない平坦なコースなので、いわゆるTTスペシャリスト向き。ただし全てのチームはTTバイクを持ち込めず、通常のバイクで走るという情報もあり、そのあたりの影響は懸念材料か。
◎独断のステージ優勝候補:
Eヘイター、プラップ、デニス、ダーブリッジ、ヴァイン
*TTが得意な選手は《その他の注目選手》の表の下部に記載しているので参考までに
◆Stage1(1月18日):Tanunda - Tanunda|150.1km|獲得標高1715m(丘陵)
stage1は4級山岳を5周するコースでゴールは平坦。スプリンターをふるい落とすほどの坂ではない。今シーズン最初のレースになるので、各チームともライバルの状態を探りつつ、自分たちのコンディションと連携も確認するようなレースになると予想。つまり、そんなに派手な展開にはならず、おそらくスプリンターとパンチャーたちの集団スプリント決着。以降のステージに備えて、トレインを揃えているチームをチェックしておきたい。
◎独断のステージ優勝候補:
ユアン、グローブス、バウハウス、タイッセン、ストロング
◆Stage2(1月19日):Brighton - Victor Harbor|186km|獲得標高1803m(丘陵)
stage2も丘陵ステージながら、集団スプリントの可能性が高い。中盤にある2級山岳と終盤の1級山岳(といっても丘レベル)が勝負どころで、ここで遅れを喫してしまうスプリンターは何人かいるかも。またコースは序盤からほぼ海岸沿いなので、横風にも注意が必要か。
◎独断のステージ優勝候補:
ユアン、グローブス、バウハウス、ストロング、オフステテール
◆Stage3(1月20日):Norwood - Campbelltown|118.5km|獲得標高1931m(丘陵)
stage3も一見平坦ステージのようだが、細かいアップダウンが続き、118kmしかないコースのでの獲得標高1930mはかなりパンチがある。どこかのチーム(イネオスやユンボをイメージしている)の仕掛けによっては、息を抜く暇がない強度の高いレースになるかもしれない。その上、ゴール直前にある1級山岳(というか丘)が曲者。標高差は200m強だが斜度9%は確実にふるい分けされる。ピュアスプリンターにはきつく、登れるスプリンター、例えばマシューズのためにあるステージといってもいい。
◎独断のステージ優勝候補:
マシューズ、コカール、オフステテール、Eヘイター、ベッティオール
◆Stage4(1月21日):Port Willunga - Willunga Township|135.3km|獲得標高1103(平坦)
stage4は名物のウィランガヒルはなくなったが、その近くのウィランガタウンを周回し、ゴールになる4級山岳を3回通過するレイアウト。フィニッシュ直前の400mは8%を超えるまあまあの傾斜で、スプリンターよりもパンチャー向き、場合によってはボーナスタイムを狙う総合勢が先頭になる可能性もあると見ている。この日を終えても総合争いは大きなタイム差はつかないはずだ。
◎独断のステージ優勝候補:
マシューズ、コカール、ヴァイン、ヒルシ、ホノレ、(ユアン)
◆Stage5(1月22日):Unley - Mount Lofty|114km|獲得標高2224m(丘陵)
最終日のstafe5は走行距離は短いながら、マウント・ロフティを5回登るタフなコースのクイーンステージ。スタート前にはタイム差はそれほど開いていないはずで、総合10位内でも順位が激しくシャッフルされることが予想され、緊張感のあるレースになるだろう。フィニッシュ地点に4回目に登りはじめる残り40kmあたりで、総合を争いをするクライマーたちが仕掛け、激しい総合争いは最後まで目が離せない展開になりそう。
◎独断のステージ優勝候補:
サイモン・イエーツ、ヒンドレー、オコーナー、ジョージ・ベネット、ビルバオ
ステージプロフィールはこちらの動画で紹介されている。
◎総合優勝候補
予めお断りしておくが、今回の予想は自信がない(笑) シーズン開幕戦で、選手の調子の良し悪しやモチベーションがわかりにくく、想像(や願望)に頼ってしまうためである。みなさんも勝負に一喜一憂せず、穏やかな気持ちで開幕戦を楽しむのがいいと思います(予想を外す予防線)。表では、オーストラリア(ピンク)とニュージーランド(薄いブルー)の選手には色を付けた。彼らのモチベーションは確実に2割増し。
優勝候補は3人挙げたい。そのうち二人は母国開催レースでやる気マックスのGCライダー、ベン・オコーナーとジャイ・ヒンドレー。コースの相性的にはオコーナー、アシストなどのチーム力ではヒンドレーに分があるだろうか。もっとキツめの山岳があるなら迷わずヒンドレーにするのだが、スピード勝負ではそれほど強い選手ではないので総合優勝には一歩足りないように思える。なので(個人的)本命はサイモン・イエーツ。オーストラリアのチームとしての使命感は半端ではないはずで、調子さえよければ表彰台には間違いなく入る。最終日にキレのいいアタックで先頭を走る姿が見たい(願望)。
もう一人優勝候補に悩んだのは、伏兵のルーカス・プラップ。正直なところ、イネオスは誰がエースなのかわからない。実績でいえばGトーマスが一番手で、次にイーサン・ヘイターなのだが、Gはこの時期にピークを持ってくるとは考え難いし、ヘイターはステージ狙いとみて、母国レースであるプラップに将来的な成長を踏まえて総合優勝争いの経験を積ませるのではないかと考えた(オーストラリア選手権RRで優勝したからもういいかとも思ったが)。次に有力なのは、ジョージ・ベネット、ローハン・デニス。このあたりは総合優勝してもおかしくない実績の持ち主で、UAEもユンボも強力なメンバーを連れてきているのも好印象。他は、昨年のGCの実績では一番のペリョ・ビルバオ、昨年の成長曲線の上昇具合が著しいマウロ・シュミット、母国開催で燃えているサイモン・クラーク(オーストラリア選手権RRでも2位と好調)、そして優勝はチームメイトに譲っても総合10位以内に入りそうなEヘイターをあげておく(イネオスのエースはやっぱり悩む)。
◎スプリンター
トップクラスのピュアスプリンターは不在だが、昨年成長を見せた有望株の若手スプリンターが揃い、なかなか見どころのある勝負を期待できそうだ。ネームバリューでは母国オーストラリアの二人は強力。一人目は「ポケット・ロケット」ことカレブ・ユアン。降格したチームのロット・デスティニーではなく、オーストラリア選抜チームでの出場になり、リードアウトにはやや不安はあるが、本人のモチベーションは高いはず。14日に行われた前哨戦のシュワルベ・クラシックでも優勝し、調子も良さそう。そして登れるスプリンターのマイケル・マシューズ。チームが一番力を入れるレースといっても過言ではなく、登りが絡むコースも多いこともあり活躍する要素は揃っている。オーストラリアからはケイデン・グローブズも楽しみな若手成長株。アルペシン移籍後の初レースだが、リードアウトには定評のあるチームなので早速優勝に絡む活躍をしても不思議ではない。昨年大きく成長したコービン・ストロングは個人的に期待は高め。登れるスプリンターではブライアン・コカールにも勝機はある。抜群の安定感ではユーゴ・オフステテールも忘れてはいけない。またイネオスはベン・スウィフトをリストに入れたが、展開によってはEヘイターも勝負できるステージはありそうだ。他にもヨルディ・メーウス、ヘルベン・タイッセンも今季の成長が望まれる若手としてチェックしておきたい。
◎その他の注目選手
有力選手が多く出場し、人数を絞るのに苦労した。リストから漏れていてもステージ優勝する可能性がある選手もいるのはお断りしておく。20チームも出場する中で30人に絞るのは少し無理があるのかもしれない。とはいえ多く紹介するのであれば、スタートリストのせるのと変わらない気もするので、しばらくは「30人」限定で紹介するスタイルにしてみたい。
個人的に気になる選手からあげていくと、総合上位にも絡む可能性がありそうなのは、オーストラリア出身で独走力のあるクライマーマイケル・ストーラー、他には、Gトーマスとマグナス・シェフィールドのイネオス軍団と、パトリック・ベヴィン、やや贔屓目に応援しているルーカス・ハミルトン。登りフィニッシュのステージの優勝候補にあげておきたいのはミケルフレーリク・ホノレ(実績では一番)、ナトナエル・テトファツィオン(ポテンシャルでは一番)、ジェイ・ヴァイン(勢いでは一番)の三人。ヴァインは、先日行われたオーストラリア選手権個人TTで優勝し、昨年のブエルタの山岳ステージでの優勝経験からも力を感じる。総合優勝に推す声もあるが、同選手権のロードレースではいいところなく棄権もしているのは見逃せない。ステージ優勝をする力は大いにあるが総合を狙うにはムラがあり、チームのエースはジョージ・ベネットだと思う。テトファツィオンは、非常にスケールの大きいクライマーで、今年のブレイク候補と思ってる。どこで出てくるかわからないがギルマイに匹敵するほどの可能性を感じる選手なので覚えておいて損はない。他にパンチャー系で気になる有力選手は、マルク・ヒルシ、ドリアン・ゴドン、ルディ・モラール、ヴィクトール・ラフェ、マッティア・カッタネオあたりで、彼らはムラがあるタイプなので、その日の調子の見極めが必要。
他にチェックしておきたいのは、過去の大会で複数回総合トップ10に入り相性のいいルイスレオン・サンチェス、ドリス・デヴェニンス、ダリル・インピーはリストの上位に入れておきたい。特にインピーは過去2大会で総合優勝している実力派。ただし2023年いっぱいでの引退も発表し、38歳とさすがに衰えも見えていることから、イスラエルではサイモン・クラークがエースと見ている。
TTに強いのは(順不同)、ローハン・デニス、ルーク・ダーブリッジ、ルーク・プラップ、ジェイ・ヴァイン、サイモン・クラークのオーストラリア勢と、二ュージーランドのパトリック・ベヴィンも上位候補。Gトーマス、Eヘイター、マグナス・シェフィールドのイネオス勢、ロベルト・ヘーシンク、ヨス・ファンエムデンのユンボ勢もいいメンバーが揃っている。
◎過去の総合成績(2020年、2019年、2018年)
参考までに過去3年間の総合成績10位までと各賞(ヤングライダー/ポイント賞/山岳賞)を入れておく。所属チームは今季との比較も。なお2021・2022年はコロナ渦で中止になっている。個人でトップ10に複数回入っているのは、リッチー・ポート、ダリル・インピー、ディエゴ・ウリッシが3回、ローハン・デニス、ルーベン・ゲレイロ、ドリス・デヴェニンス、ルイスレオン・サンチェス2回。チーム別で好成績なのは、ジェイコ・アルウラ(ミッチェルトン・スコット=バイクエクスチェンジ)が5人、イネオスが4人、トレック、UAEチームエミレーツが3人。
過去の優勝経験者はダリル・インピー(2019年、2018年)、ローハン・デニス(2015年)、LLサンチェス(2005年)で、過去10年分の総合優勝者うち7人がオーストラリア人、5人はジェイコ・アルウラ(ミッチェルトン・スコット)なのは偶然ではない。
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