ティレーノ〜アドリアティコ 2023|リザルト
3月6日から12日まで開催された【ティレーノ〜アドリアティコ】は、グランツールを見据えた総合勢とエースクラスのスプリンターたち、ミラノ〜サンレモを狙うクラシックハンターたちと、バラテティに富んだ春の主役たちが多く参加した見応えあるレースが繰り広げられた。上位の選手たちの成績と予想結果を簡単にまとめた。
*レースリザルトの記事は《総合成績トップ10とステージ優勝者/自分の予想への評価(ざっくり)/雑感=レース中の出来事や気づいたこと・今後注目したい選手など》を、好き勝手に語る雑談となる模様。*表内の選手のUCI世界ランクと年齢は2022年12月末時点。
◎レース結果:総合トップ10
プリモシュ・ログリッチが復活勝利。得意のTTでも差は作れずまだ本調子とはいえない状態だったが、しっかりステージを勝ちきる勝負強さは凄みがあった。昨年の怪我後の復帰レースでこれだけ元気な姿を見せてくれたことにまずは安堵する。2位以下も実力者が並び、今シーズンの主役を張る顔ぶれ。総合成績には個人TTの影響が少なからずありながら、アルメイダ、ゲイガンハート、ケムナはTTのタイム差を活かした好成績。中でもケムナはちょっと驚いた。登坂力もTT能力も備えている選手だったが、全ステージを通した安定感(というかタフさ)に欠けていた印象も、今回は登りフィニッシュでほんの少し遅れた以外は乗り切った(その差が表彰台を逃したが)。ボーラはウラソフ、ヒンドレーと総合エースを二人入れていたが、彼らをアシストに使ってまでケムナの総合順位を守ろうとした。ボーラのこの経験は今後のグランツールに生きてくるはずだ。また結果としてはそれほど効果的ではなかったが、バーレーンとイネオスの戦力の充実ぶりも感じた。それぞれがあと少しレベルがあがるとユンボとUAEを崩す力は備えているはず(現時点では少し足りない)。トレック、モビスター、EFはこの大会でも存在感があった。この3チームは昨年のこの時期は出遅れ感が強かったが、今年はチーム全体で仕上がりが早い。またいろんなレースで積極的にレースを動かそうと仕掛けてくるのも好印象。「グランツールの総合は狙わない」と言っていたチッコーネも変なプレッシャーから解放されたのか、キャリアハイの成績を残しそうなほどここまでは順調である。昨年終盤に一皮向けた感のあるマスもそれなりに順調そうだし、ヒュー・カーシーも復活の気配であり、ラストシーズンのピノも悪くない。
◎ステージ優勝者
◆Stage1:3月6日/個人TT
優勝:ガンナ/2位:ケムナ/3位:シェフィールド
天気の変化も勝負を分けたポイントにもなった。雨模様のウェットな路面ではじまったレースは中盤には雹が降るほどの悪天候になり、終盤は晴れ間が見えてくる。ガンナはそれも味方にして2位以下に大差をつける圧勝。2位以下は総合勢がかなり頑張った印象。シェフィールドは悪天候時のタイムで表彰台にあがり、好天であったならガンナに迫るタイムを出していたかも。
◆Stage2:3月7日/丘陵
優勝:ヤコブセン/2位:フィリプセン/3位:ガビリア
予想通りの集団スプリントは上位3人がハンドルを投げ合う接戦に。ヤコブセンがフィリプセンを差し切って勝利。通算40勝目は意外にもイタリアでの初勝利。彼のファーストネーム『ファビオ』はイタリアの選手からもらったことを明かして、感傷的にもなるレースだった。
◆Stage3:3月8日/丘陵
優勝:フィリプセン/2位:バウハウス/3位:ギルマイ
フィリプセンが前日の悔しさを晴らした。それにしても勝ったフィリプセン以上に印象的なのは、凄まじいリードアウトを見せたマチュー・ファンデルプール。最後のカーブを先頭で通過し、残り100mまでフィリプセンを完璧にお膳立て。フィリプセンがゴールする前のフライングガッツポーズも含めて、見事な役者ぶり。アルペシンはチームの今シーズン初勝利だった。
◆Stage4:3月9日/丘陵
優勝:ログリッチ/2位:アラフィリップ/3位:Aイェーツ
ゴール前の短い急勾配は、やはりログリッチとアラフィリップが強かった。何度も見たこの二人のゴール前のアタック合戦、今後も繰り返し観れることを願う。3位以下はタイム差なしで総合上位勢が続いた。ユンボはファンアールトで勝負する予定だったが、ピドコックと絡んで落車。怪我の功名でもあった。先頭グループでゴールしたケムナがリーダージャージを得た。
◆Stage5:3月10日/山岳
優勝:ログリッチ/2位:チッコーネ/3位:ゲイガンハート
強いログリッチが帰ってきた。強風により山頂ゴールを短縮され、道中も常に向かい風になる苦しいレース。最後の登りは向かい風になり、クライマーたちによるアタック合戦が繰り広げられるもスローモーション映像を見るような厳しい戦いに。小集団での登りスプリントでログリッチが差し切り、リーダージャージも手にした。
◆Stage6:3月11日/丘陵
優勝:ログリッチ/2位:ゲイガンハート/3位:アルメイダ
最大勾配20%超のパンチのある街中の坂は周回する度に選手をふるい落とし(ファンアールトの牽引がすさまじい)、最終的には総合勢の生き残り合戦に。ログリッチが3日連続で登りスプリントを制してステージ3連勝。ボーナスタイムも加算し2位以下に差を広げ、総合優勝もほぼ手中に。
◆Stage7:3月12日/平坦
優勝:フィリプセン/2位:フルーネウェーヘン/3位:ダイネーゼ
集団スプリントに持ち込まれるも各チームの隊列はバラバラに。最後はスプリンターたちのスピード勝負で、フィリプセンが2勝目。
◎予想結果:総合優勝候補ほか
予想としては、いまひとつか。トップ10の5人は予想通り、次点で選んだ10人から4人。各チームのエースはほぼ読み通りだったけど、サブエースとみなした選手や、想像よりはTTの成績が大きく影響があった(天候の影響もあったか)。優勝は狙わないはずだったログリッチが結果的に総合優勝したのもある意味的中ともいえる。最終的に落車によりリタイアとなったが、ケルデルマンのアシストぶり(とファンアールトとのコンビネーション)はログリッチの成績に大きく寄与した。総合表彰台にあがったチームのユンボ、UAE、イネオスと、ボーラ、バーレーンはチームとして複数の総合上位者を出して、グランツールでも上位を争うチームになることが想像される。他はAG2R、トレック、モビスター、EF、グルパマが総合上位をうかがい、他のチームはスプリントに徹するわかりやすいチームの構図だった。総合勢以外ではマチュー、ピドコック、アラフィリップのストラーデビアンケからのミラノ〜サンレモ組も調子を上げている様子も見えてクラシック戦線も楽しみになってくる。
◎予想結果:スプリンター
*表のリザルトはポイント賞の順位。
フィリプセンが2勝、ヤコブセンも1勝と、この二人は少し別格だった。クイックステップのトレインが万全ではなく、アルペシンはマチューが驚異的なリードアウトをしていたところの差が出たかんじ。他はギルマイ、フルーネウェーヘン、ガビリア、バウハウス、コンソンニあたりは勝負に絡んでいてあと少しといったところ。有力者では、カヴェンディッシュ、ニッツォーロ、サガンはあまりいいところなく終わった。今年はかなり苦労しそうな雰囲気が漂う。
◎その他雑感
ログリッチは攻めた走りをするでもなく、落ち着いてレースを展開していたのは印象的だった。3つのステージ優勝も単独アタックして勝利を狙ったものではなく、流れに任せて結果的にゴールの直前で差し切ったもので、無駄な出力を避けるスマートな勝ち方だった。おそらく本調子には程遠いのだろう。それでいてこれだけの走りを見せるからには、完全復活時には以前よりも強くなりそうな予感もあり、楽しみである。つにのレースはカタルーニャで、すでに参戦表明しているレムコとの直接対決はブエルタのリベンジマッチでもあり、ジロの前哨戦としてワクワクする。そのあたりの考察はパリ〜ニースの結果も踏まえてグランツールの展望記事として近々アップ予定。
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