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ロードレース観戦ガイドのブログ

ジロ・デ・イタリア 2023|成績まとめ(最終成績)

 

ジロが終わった。やはり、と言っていいのだろうか。ジロには逆転というドラマチックな展開が得てして起きるのだ。悪天候感染症によって多くのリタイア者を出し荒れたレースも、最後は主役たちが活躍して大団円(という言い方には語弊もあるが)。完走した全ての選手とチーム、いや、リタイアした選手の無念も含めて、感謝をして称賛したい。ありがとう。お疲れさま。

*表内の選手のUCI世界ランクと年齢は2022年12月時点。

 

 

 

 

◎総合成績上位

正直なところ、最後の個人TTは上位3人にはそれぞれに思い入れもあって、全員勝って欲しくて、見ていて息苦しくなった。そして一番速かったのは間違いなくグリッチで、多くのスロベニア国旗がはためく大観衆の中、彼が一番勝者に相応しかったとも思う。バイクに込めた戦略もはまり(あやうく事件になりかけたが)、逆にそのメカトラさえもドラチックな演出にも感じるほどのエピソードも(メカトラ時に坂の上から駆け降りてログリッチを押した赤いシャツの観客はスキージャンパー時代のチームメイトだった)不運が多かったログリッチへのロードレースの神様からのギフトのようにも感じたのも僕だけではないと思う。

惜しくも総合2位になったGトーマスが見せた熱い走りも大人の粋な対応も、全てに拍手したい。イネオスのチームリーダーというよりもプロトンのリーダーの風格すら感じられて、Gにはもともと多くのファンがいるがこのジロでさらに彼のファンは増えたと思う。レース後のインタビューで「あと2年もレースをすることはない」なんて寂しいことも言っていたけど、まだコンディションさえ合えばトップ中のトップレベルであることを印象づけた。3位のアルメイダも彼に今できる全ての力は出し尽くしただろう。誇っていい総合3位だし、stage16の難関山岳ステージでは登坂でのアタックからのステージ優勝も見事だった。stage18と19の厳しい山岳でも遅れはほんの少しだったし、そのわずかの差を彼なら改善できるはずだ。彼はまだまだ強くなる。

上位3人からは少しタイム差は開いたとはいえ、最後の山岳TTでも上位に入ったカルーゾピノのベテラン二人も誇っていい好成績。2位のGも含めてベテランたちの円熟味を感じる大会でもあった。山岳TTで二つ順位を下げたが総合7位に入ったダンバーは移籍後一番の好成績。最終盤に優勝候補たちに互角といえるほどの登坂力を見せたのも明るい材料で、何と言っても今季低迷しているジェイコに大きなポイントをもたらしたという意味において、彼の功績は大きい。GCライダーとしての適性をここまで見せたのはダンバー本人にとっても今後のレースへのはずみになったと思う。

この中でイネオスのデプルスの好成績に驚いたのは僕だけではないだろう。3週目の厳しい山岳も黙々と力強く牽引する姿は、山岳アシストの鑑のような働きぶりで、ゲイガンハートシヴァコフという重要な二人を失ったイネオスの危機を彼が救ったといっても過言ではないとさえ思う。6位に入ったアレンスマンも見事だが、彼は昨年もジロで総合18位、ブエルタでは総合6位だったほど力は持ち合わせている。ただ、個人的には今回はゲイガンハートに大きく期待していただけに、残念であった。

レックネスンマリアローザを5日間着用し、その後も大きく崩れることなく総合8位に入ったのは彼にとってもチームにとっても大きな自信になる。惜しくもトップ10には届かなかったが、山岳ステージで優勝して登坂能力を見せつけたルビオブイトラゴの二人のコロンビア人クライマーは、もはやポスト・キンタナを担うほどの選手になれると言っても大げさではないかも。エースのレムコを失ったばかりかたったの二人のチームになった中で最終盤のクイーンステージでも総合上位勢に食い込んだヴァンウィルデルの根性にも大きな拍手を送りたい。普段はレムコのアシストとして完全に黒子に徹しているが、レムコのアシストをこなせるということはこれだけのスキルを要しているのだと理解させるのに十分なパフォーマンスである。

他にも超一流の山岳アシストとしてさすがの登坂能力を示してログリッチの総合優勝に大きく貢献したクスピノを影でずっと支えながらマリアローザに袖を通したフランスTT王者アルミライル、イタリアチャンピオンジャージで母国ジロのステージ優勝を飾ったザナ、残念ながらトリロジーは達成できなかったが果敢なチャレンジを何度も見せたバルギルと、印象的な活躍をしたメンバーが上位に顔を並べた。

 

 

◎各賞上位

 

各賞の5位までを表にした。

ポイント賞はstage2で勝利後も安定してポイントを重ねて、マリアチクラミーノを最後まで着続けたジョナサン・ミラン。強力なライバルたちがリタイアしたとはいえ、初めてのグランツールでこの成績は立派と言うほかない。またバーレーンにとってもグランツールのポイント賞は初。弾けるような笑顔と、山岳ステージでは新城幸也と一緒にグルペットで走る姿も印象的だった。2位には逃げによるポイントをコツコツ稼いだデレク・ジーが入った。3位以降はステージ1勝ずつあげたマシューズカヴェンディッシュアッカーマンが続いたが、複数のステージ勝利をあげたスプリンターはいないという混戦でもあった。

 

山岳賞は、stage19で逃げて多くのポイントを稼いだティボー・ピノが逆転で獲得。ステージ優勝は惜しくも届かなかったけれど、そこがまた彼らしくもあり(積極的なアタックと抜群の登坂からスプリントで負けてしまうところまでセットで)、その情熱的な走りは多くの彼のファンの胸に刻まれたに違いない。そしてポイント賞同様に逃げで多くの山岳ポイントを稼いだデレク・ジーが2位に入る。ヒーリーはstage16で多くのポイントを獲得し一時首位に立ったが、その後はさすがに疲れからかやや失速。それでも初めてのグランツールで存在感は十分に示した。4位Dバイスも終盤のステージはなかなか逃げることができず、5位ルビオは山岳賞狙いよりも総合成績上位を狙ったため3週目はポイントを稼げなかった。

 

ヤングライダーは、総合3位に入ったアルメイダが獲得。山岳TTでも総合上位の二人に次ぐ3位に入り文句なしの成績。アシストとして重要な局面でも貢献したアレンスマンが山岳TTで逆転して2位に入り、3位には一時マリアローザも着用したレックネスンが厳しい山岳も粘って上位をキープ。4位ルビオ、5位ブイトラゴとどちらも山岳ステージで勝利をあげたコロンビア人がランクイン。これからの活躍が期待される若手クライマーたちが名を連ねた。

 

チーム総合は2週目で首位に立ったバーレーンがそのまま首位をキープ。リタイア者が続出した荒れた大会で8人全員が完走したこと、ステージ2勝したことも含めてチームとしては大成功といっていいだろう。そこには急遽参戦した新城幸也の貢献も見逃せない。グランツール16回目の出場、全完走。素晴らしい。ほんっとに。ちなみに125人が完走、ユキヤは123位だった(もうちょっとでマリアネラ=総合最下位)。2位以降は、イネオスユンボUAEと総合上位の3人がいるチームが入り、アシストも含めたチーム力の高さを見せつけた。イネオスに関してはゲイガンハートとシヴァコフのリタイアがなければ1位になっていたと思われる。5位には意外にもAG2R。特に好成績をあげた選手はいないのだが(総合ではAパレパントルの15位が最高)、地味に選手全員が頑張った結果といってもいいだろうか。

 

 

◎各ステージ優勝選手

 

3週目は総合勢がようやく動き、グランツール独特の緊張感のあるレースが続いた。最後の最後まで主役が

 

stage16(山岳)、3週目にしてようやく総合争いが始まった。総合争いをする3チーム(イネオス、ユンボUAE)が順番にメイン集団を牽引すると次々に有力選手たちが脱落し、逃げグループも吸収。マリアローザアルミライルが遅れると、さらに加速したアルメイダについていけたのはGトーマスのみ。最後は二人のマッチスプリントでアルメイダが勝利。実質総合3位につけていたグリッチも遅れ、この後に続く山岳ステージへの不安を残すことに。それでもクスの尽力もあって、逆に最小限のタイム差で凌いだという見方もできた。マリアローザGトーマスの手に渡り、総合優勝争いは実質3名に絞られる展開になった。

 

stage17(平坦)は、久しぶりの集団スプリント。逃げた4名をメイン集団は完全にコントロールし、逃げに乗ることを試みるマシューズらの危険な選手はバーレーン勢を中心に動きを封じられた。最終スプリントではDSMジェイコが絶好のトレインからエースを発射し、トレインを組めなかったミランは単独でゴールに迫る。3人横並びでのフィニッシュは写真判定ダイネーゼの勝利。昨年に続きジロでのステージ優勝を遂げた。2位に入ったミランが、マリアチクラミーノを実質決めた。

 

stage18(丘陵)は、山岳賞を狙うピノが逃げグループに入った一方、山岳賞トップに立っていたヒーリーは遅れてしまう。少数精鋭と言えそうな有力選手がそろった逃げグループでピノは着実に山岳ポイントを稼いでいく。最終登坂に向かい少しづつ人数が絞られていく逃げグループからイタリア王者のフィリップ・ザナがアタックし、ピノも一緒に加速。二人のマッチスプリントは早駆けしたピノをゴール直前でかわしたザナがグランツール初勝利。2位に入ったピノは山岳賞を大きく手繰り寄せるポイントを稼ぐことに成功。このステージも逃げグループに入ったデレク・ジーが有力クライマーたちに混じって4位に入ったのは驚いた。総合上位勢ではグリッチGトーマスが二人で抜け出し、アルメイダが20秒以上タイムを失う結果に。Gトーマスマリアローザをキープし、ログリッチが2位に上がる。

 

stage19(丘陵)は、チーマコッピの山頂フィニッシュになるクイーンステージは様々な選手の思惑が重なり、序盤から激しいアタック合戦が繰り広げられた。15名ほどの逃げグループでは最後の登坂で抜け出したブイトラゴが昨年に続きジロでステージ優勝。このステージも逃げグループに入ったデレク・ジーが1級山頂フィニッシュでも2位に入ったのは驚き以外の何物でもない。逆転は厳しいものの山岳賞とポイント賞争いでも2位につけた。総合勢ではイネオスのアシストたちによる牽引で集団は完全に破壊され、残り500mでアタックしたGトーマスグリッチが差し切り、3秒タイムを縮めて先着。総合3位につけているアルメイダは2日連続でおよそ20秒タイムを落とした。マリアローザはGトーマスがキープ。

 

stage20(個人TTは決戦の山岳TT。選手たちは中間地点でTTバイクを交換し、後半はおよそ8kmで900m以上登る激坂山頂フィニッシュ。総合上位につける3人のタイム差は1分以内で、トップ10以内でもそこかしこで順位が入れ替わる劇的なレースになった。暫定トップに立ったのは今大会最年少21歳のマシュー・リッチテッロ。特に後半の山岳パートでは圧倒的な登坂タイム(最終でも5番目の登坂タイム!)で才能の片鱗を見せたのは記しておきたい。総合トップ10のライダーたちが走り始めてからは次々にトップタイムを更新するめまぐるしい展開。ヴァインマクナルティクスが更新したタイムを、さらにTTが得意ではないピノ(!)も更新し、カルーゾも上回る。アルメイダが渾身の走りでさらにトップに立つが、グリッチは別格だった。多くのスロベニア国旗で声援を受ける中、すべての計測地点でトップタイムを叩き出す。が、なんとチェーンが外れるという最悪のアクシデントに見舞われる。それでも最後まで全力で駆け抜けてアルメイダを42秒も上回る圧倒的なTTを披露。最終走者のGトーマスがログリッチから40秒遅れて総合順位の逆転が決まると涙を流した。ステージ2位の好タイムで走ったGトーマスは敗れても彼の価値はさらに高まったと思っている。マリアローザはログリッチに。

 

stage21(平坦)は、華やかなパレードランでスタートし、ここまで過酷なレースを過ごした集団からはなごやかな雰囲気。ユンボはバイクやグローブなどのアクセサリーをピンクにしてログリッチマリアローザを祝った。個人的には最後は市街地のスプリントになるこういうグランツールの締め方は好きだ。

最後の集団スプリントも、なんとも劇的だった。残り3kmを過ぎて通常なら下がるはずの総合2位につけていたGトーマスが集団の先頭を牽引。なんとアスタナトレインを引いているではないか。そこから最後は、一週間前に今シーズン限りでの引退を表明したカヴェンディッシュがひとり突き抜けてゴール。「自分が勝てそうになかったから、古くからの友人を手助けしたんだ。今年で引退する彼に早めの餞別だよ」と語ったGに激しくハグするカヴも大喜び。38歳でのステージ優勝はジロ最年長というおまけも。ついでに言うと、これで現役最多の通算163勝で、ジロは17勝目、グランツールでは56勝。自身の最大の望みであるツールの通算最多勝利の記録更新も現実味を帯びてきた。


8人全員が完走したのは、ユンボバーレーンの2チームのみ。3週間に及んだ激闘のジロが幕を下ろした。

 

 

◎その他・雑感

3週目は2週目までの退屈さは影を潜め、これでもかというほどドラマチックな結果が続いた。それでも、敢えて書き残しておく。僕にとっては消化不良のジロだった。

逃げばかりの主役不在のレースが続き(*逃げについては別記事に)、有力スプリンターも不在で、総合争いも活性化されないばかりかマリアローザを譲り合う奇妙な展開。これは、僕が見たいと思うグランツールではない。もちろん選手たちに非があるわけではない。むしろ彼らはよく頑張ったと思う。そうなってしまった最大の要因として“コース設定はやりすぎだった”のではないかと個人的に感じるのだ。特に3週目は難易度も高く厳しいステージが続き、総合優勝を狙うチームは全てのチームが警戒し2週目までは穏便に過ごすことを戦略として選んだ。「どうせ最後の方に大変なステージがあるんだから、それまでのタイム差なんて大したことはない」と申し合わせたような状況に見えた。まるで最後に大逆転できるボーナスポイントがつくクイズ番組みたいな嫌らしさと言ったら穿ちすぎだろうか。

その厳しい山岳ステージが多いことに加えて平坦ステージも癖のあるコースが多いことからエーススプリンターたちは回避したし、さらに荒れた天候とCovid-19を含む感染症が追い打ちをかけた。雪によるコース変更はある意味ジロ名物のようなものなので致し方ないが、連日の雨はさすがに選手たちが気の毒だった。

今思えば、今季キャリアハイの成績を残していたチッコーネの欠場が決まったあたりから、不穏な空気に包まれていたように思う。ユンボも直前に大幅にメンバーチェンジを迫られたし、他にも少なくない選手が出場できなくなった(おかげでユキヤは出場できたけれど)。大会が始まっても、TTステージで2勝したレムコがマリアローザを着用したままCovid-19で去り(一番アグレッシブな走りが期待できたのに)、優勝候補の一角に数えられたゲイガンハートとウラソフもリタイアし(ゲイガンハートはstage1のTTで登り区間はトップタイムだった)、ログリッチも本調子ではなかった(僕が知ってる最強のログリッチはこんなもんじゃない)。

選手たちは本当によく頑張っていた。彼らがもっと輝くような大会を見たかった。

 

最後に、大会を通じて成功したと思うチームを記載する。

ユンボヴィスマ / UAEチームエミレーツ / バーレーン・ヴィクトリアス / ジェイコ・アルウラー / EFエデュケーション・イージーポスト / イスラエル・プレミアテック

◎合格点(まずますの成功)

イネオス・グレナディアーズ / グルパマFDJ / チームDSM / トレック・セガフレード / ボーラ・ハンスグローエ

 

選手もチームのスタッフも、本当にお疲れ様でした。

 

 

◎stage9までの成績まとめはこちらから

jamride.hateblo.jp

 

◎レース前の出場選手まとめはこちらから

jamride.hateblo.jp