チームと選手の成績チェック【5月終了時】
5月、グランツールのシーズンが始まった。5月はジロの成績が大きく影響し、好成績を挙げた選手やチームが躍進。ここまでの成績を集計し、チェック。好調なチームと選手を中心にコメントしていく。ツールの前哨戦の参考にしたい。
*表のUCIポイントおよび勝利数は2023年第21週(5月30日)までの集計。
◎チーム成績(UCIランク・勝利数)
クラシックレースの好調なチームが大きくジャンプアップしつつ、今季のチームの状態もより一層見えてきた。*表はUCIランク順で、ワールドチーム18チームと昨季上位の4つのプロチームで構成。UCIランクと勝利数は2022年分もグレーで表記。UCIランクは前月から上がったチームはピンク、下がったのはブルーにしている。
ランキングではジロで総合争いを演じたUAEチームエミレーツとユンボ・ヴィスマ、イネオス・グレナディアースの3チームが前月から引き続き好調をキープしている。UAEはアルメイダの総合3位以外にもステージ3勝し、ユンボはログリッチの総合優勝とステージ優勝以外にも総合14位のクスから、ボウマン(25位)、ヘスマン(33位)、オーメン(36位)、デニス(41位)まで上位に入りUCIポイント(以下ptと記載)を獲得。イネオスはステージ優勝こそなかったもののGトーマスの総合2位とアレンスマン(総合6位)、デプルス(総合10位)と多くのptを獲得した。バーレーンはカルーゾの総合4位とミランとブイトラゴのステージ2勝などでptを稼ぎ、チーム順位を前月から6つ上げた。グルパマもピノの総合5位と2回のステージ2位もあったが、ジロ以外のレースで若手を中心に軒並み好成績をおさめ(グレゴワールが初優勝を含む2勝ほか複数レースで上位入賞し、ペンウィットとデマールも優勝した)、こちらも前月から4つも順位を上げた。イスラエルもかなり好調だったと言っていい。総合順位ではデレク・ジーの総合22位が最高といまひとつではあるが、そのジーとフリーゴ、バーウィックらが逃げによって多くのステージで上位に入り、結果的に多くのpt獲得に成功。若い選手が中心になっての成果というのも好材料で(ジーの活躍は下の個人成績欄に記載)、ジロ以外ではニッツォーロもようやく優勝するなど(トロブロレオンの勝利がイスラエルの今シーズン初勝利だった)フルサン等ベテラン陣も調子を上げてきた。他にボーラ、ジェイコ、アスタナがジロではそれなりに好成績を残して前月から順位を上げたが、まだまだ物足りないとも感じる。
ロット、アンテルマルシェ、モビスター、コフィディス、DSMは可もなく不可もなく、というかんじか(厳密にはやや物足りないが、ほぼここまでの順位通りの成績という意味で)。ロットはいまやエースに成長したドゥリーが大怪我したのは痛い。代わりにユアンがようやく今季初勝利をあげ、調子をあげてきていることと離脱していたカンペナールツも帰ってくるのは好材料か。アンテルマルシェは春のクラシックシーズンでギルマイやタコさんを筆頭に多くの主力がケガをし離脱していたこともあり、今は辛抱の状態か。春先の好調だったチーム状態が戻ってくるともう少し飛躍しそうであり、個人的には応援している。モビスターは派手な好成績はないが、ヨルゲンソンやルビオを中心に成長中の若手が結果を出しはじめ、バルベルデの抜けた穴を埋めるという意味では健闘していると感じる。同様にDSMも若手が多いため成績にムラが多いが、彼らの成長ぶりを楽しめるチームではある。
一方、スーダル、トレック、アルペシン、EFは少し順位を下げた。それぞれレムコ、ピーダスン、グローブス、カーシーとジロでエースを担った選手たちがリタイアしたことがpt面では残念な結果になったのは致し方ない。
あまりいいところがないのはAG2Rとアルケア。特にアルケアはせっかく今年ワールドチームに昇格したが、ここ2-3年の好調さは感じられず(キンタナの離脱による穴が全く埋まっていない)、チーム成績だけでなくスポンサー問題もゴタゴタの気配がしてきた。昨年末で資金難から撤退したB&Bホテルズが来季からセカンドスポンサーになり“アルケア・B&Bホテルズ”になると発表された。うーむ、、、大丈夫か?
スポンサーといえば、ユンボ社が2024年限りでスポンサーを降りることがすでに発表されていたが(新スポンサーは未定)、トレック・セガフレードも長年サポートしてきたセガフレードが6月いっぱいで降りることが正式発表された。ツールからは新しいスポンサーを迎えて“リドル・トレック”として活動する(もしチームは6月30日から)。これから8月にかけては様々なスポンサー変更(チーム名変更)や選手の移籍も始まる。そういう意味でもチームの成績を注視が必要な季節でもある。エオロ・コメタはジロ期間中に来季以降のチーム力アップを狙って(準ワールドチーム化=プロチームで上位に入りワールドツアーに出場したい)スポンサー募集の告知がされたし、ウーノエクスもワールドチーム昇格を狙い(噂ではレックネスンが来季加入予定)着々とチーム力向上に励んでいる。
◎個人成績(UCIランク)
ランキング上位50名を表にした。ジロで活躍した選手たちが先月からランキングを大幅にあげた。以下コメントは特に気になる活躍をしている選手にのみ言及する。また活躍したレースが1〜4月中心の選手は下記リンクから辿ってください。
目立って順位を上げたのはジロ組で(名前をピンクにしている)、ログリッチ(12位→2位)、Gトーマス(?位→10位)、アルメイダ(27位→7位)、カルーゾ(52位→16位)、ピノ(34位→9位)など。またずっと上位に名を連ねているピーダスンとレムコも、ジロはリタイアに終わったがステージ優勝するなど好調はキープしたまま上位にいる。同様にヒーリー、ガンナ、ブイトラゴ、ゲイガンハート、ルビオ、ケムナ等も(リタイアに終わった選手もそれなりに)ジロでptを稼いだ。
この中で特筆しておきたいのは、26位ジョナサン・ミランと28位デレク・ジーだ。二人ともジロを見た方なら納得だろう。ミランはstage2で優勝すると、4つのステージで2位になり、マリアチクラミーノを手にした。もちろんキャリアハイの活躍で、彼が昨年一年間で獲得したUCIポイントのおよそ12倍のポイントをジロ期間中だけで稼ぎ、一躍注目のスプリンターの仲間入りをした。193cmで大柄な22歳のスプリンターは爆発的なスピードを誇り、パスクアロンが頑張っていたがトレインとしてはほぼ機能せず単独でのスプリント勝負が多かったことを思うと、強力なリードアウトを得てライン取りなどもっと改善されるなら、かなり勝てるスプリンターになれる。実際にトーマス・デヘントが「キッテルみたいなスプリントだ」とツイートするほどのインパクトがあった。噂では来季はトレック入りとも言われているが、今後も成長を見守りたい。
もう一人、シンデレラボーイとして、デレク・ジーはこのジロで最大級のインパクトを世界中に示したライダーなのは間違いない。25歳だが昨年までは下部組織のアカデミーにいたネオプロのカナダ人で、僕はこのジロまで知らなかった。めぼしい成績は昨年のカナダ選手権TTで優勝したくらい。昨年までの5年間で獲得したUCIポイントは181ptの選手が、ジロ期間中だけで990ptを得た。リザルトを見ると登りもこなせるルーラーという印象の成績だが、ジロのクイーンステージで2位になるというとんでもない登坂力(というか根性)を見せられると、かなりの伸びしろを感じる。同じイスラエルにいるカナダ人の先輩マイケル・ウッズのようなワンデーに強いクライマーを目指すのか、はたまたフルームのような総合系の選手を目指すのか、興味はつきない。
ジロ組以外で目立った選手は、46位に入ったロマン・グレゴワール。下部組織のデヴェロップメントチームから今年昇格した20歳のクライマーは、才能ある若手がどこよりも多いグルパマにおいても最注目の選手だ。初出場したストラーデビアンケでいきなり8位になるなど、新人離れしたレースセンスを見せると、5月はダンケルク4日間でプロ初勝利をあげ、その勢いのまま総合優勝もしてしまった。プロ1年目にも関わらず、ここまで25レースを走り、トップ10に9回も入る好成績。フランスでは“ネクスト・アラフィリップ”と呼ばれるようにアップダウンの激しいワンデーレースに強く、シクロクロスのU23フランス王者でもある(おそらく今後はロードに専念する)。個人的な印象ではアラフィリップとピドコックの中間のような雰囲気だ。覚えておいて損はしない。
チーム別ではユンボが6人と相変わらず別格の強さの中バーレーンも6人になり、UAEとグルパマが5人、イネオスが4人と続く。ひとりも入っていないワールドチームは、アスタナ、AG2R、アルケア。6月はツールの前哨戦のドーフィネとスイスが中心になるので、5月同様に総合系の選手(ジロ未出場のツール組)が躍進してくるか注目していきたい。
◎過去の月別成績まとめはこちら