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ツール・ド・スイス 2023|出場選手まとめ

 

6月11日からスイスで開催される【ツール・ド・スイス】。86回目を迎える伝統的な8日間のステージレースであり、開催中のクリテリウム・デュ・ドーフィネとならび、ツールの前哨戦として扱われる。とはいえ、ツールに出場予定の総合エースクラスはドーフィネにほぼ集まったため、こちらは少な目。初日stage1と最終日stage8と二つも個人TTもあるので、TTの得意な選手が多く集まった印象。そのため、総合争いは比較的穏やかになるかもしれない。しかし、パンチャーたちは元気な選手が揃っている。彼らの激しいステージ優勝争いはクラシックレースのような見応えがあるかも。期待したい(でも日本での中継はない…)。

*選手が変更の可能性あり。表内の選手のUCIランクと年齢は2022年12月末時点。

 

 

 

 

◎ステージプロフィール

◆Stage1(6月11日/個人TT):Einsiedeln  >  Einsiedeln

 距離12.7km|獲得標高76m

ど平坦な中距離個人TTは、パワー系TTスペシャリストが有利。それほど大きなタイム差にはなりにくいが、総合優勝を狙うクライマーはどれだけタイム差をつけられないで済むか、逆にあわよくば総合も狙いたいTTスペシャリストはどれだけタイム差を稼げるか。復帰レースとなるレムコがどんな走りを見せるのかも注目。

 

 

◆Stage2(6月12日/丘陵):Beromünster  >  Nottwil

 距離173.7km|獲得標高1893m

開始直後からゴールまで起伏はあるが、登坂は距離も短く傾斜もゆるやかなので、集団によるスプリント勝負と予想。スプリントトレインの出来も勝負を左右しそう。とはいえ、元気なクラシックハンターが逃げに乗ると逃げ切りもありそうなコース。逃げとスプリンターのいるチームでの追いかけっこも期待したい。

 

 

◆Stage3(6月13日/山岳):Tafers  >  Villars-sur-Ollon

 距離143.8km|獲得標高2617m

序盤にして、早くも総合争いに大きく影響しそうなステージ。中盤からの長距離登坂の1級山岳は勾配も緩くキュングなどのTTスペシャリストでも登れそうだが、その後の山頂フィニッシュは10km以上の平均8%ほどの勾配で、脱落する選手も出てきそう。初日TTでタイム差のついたクライマーはタイム差を詰めていくために攻めていきたい。総合順位はかなり変動があるだろう。

 

 

◆Stage4(6月14日/山岳):Monthey  >  Leukerbad

 距離152.8km|獲得標高2795m

獲得標高が3000mないとはいえ、終盤の60kmに登坂が詰めこなれているため、なかなかハードなコース。中盤までフラットな道を進んだ後に大きな登坂があるのはライダーには優しくない(こういうレイアウトが一番嫌だったと元選手が話すのをよく聞く)。後半の1級、3級、1級と続く山岳は傾斜はそれほど厳しくないが、高速牽引するチームがいると集団は破壊されるかもしれない。スーダルかUAEあたりが仕掛けそうなきがするがどうなるか。

 

 

◆Stage5(6月15日/丘陵):Fiesch  >  La Punt

 距離211km|獲得標高4654m

200km超えの長距離かつ獲得標高が4654mの難関山岳のクイーンステージ。フィニッシュこそダウンヒルだが、超級、1級、超級と超える3つの山岳はどれも標高2000m超えの高地で、逃げメンバーによっては序盤から厳しいステージになる。初日にTTで遅れたクライマーたちはここで優位に立ちたいため、有力選手が逃げると面白い。最後が登りフィニッシュでないことが総合勢のタイム差にどう響くのかも気になるところ。

 

 

◆Stage6(6月16日/丘陵):La Punt  >  Oberwil-Lieli

 距離215.3km|獲得標高3369m

逃げ向きのステージ。スタート直後からの1級登坂はスプリンターには厳しいが、その後のダウンヒルは距離も長く中盤はほぼ平坦路が続くため、クライマーが序盤に逃げ出しても道中は楽ではない。仮にスプリンターたちが追いついても160km以降は距離は短いながらも急勾配のアップダウンが続き、ゴールも登り基調なのでやはりスプリンターには苦しい。クラシックレースに強いタフなパンチャーたちの勝負になりそうだが、彼らが逃げに乗るかどうかも展開に大きく影響がありそう。

 

 

◆Stage7(6月17日/丘陵):Tübach  >  Weinfelden

 距離183.5km|獲得標高2453m

ずっとアップダウンが続く丘陵ステージは、スプリンターは中盤の登坂で遅れそう。最終日の個人TTに向けて総合上位勢は脚を休めたいところだが、TTが得意ではない総合優勝を狙うクライマーは、タイム差を稼ぐために勝負に出たい選手もいるはず。彼らがアタックすると総合争いも活性化するのだが、ここまでのタイム差次第か。

 

 

◆Stage8(6月18日/個人TT):St. Gallen  >  Abtwil

 距離25.7km|獲得標高363m

最終の個人TTは、終盤にそこそこの勾配の登りもあり25kmと距離もあるので、大柄なTTスペシャリストよりは総合勢のオールラウンダー向けのステージ。難易度は高くないが、ここまでの成績次第では総合順位がいくつも入れ替わる可能性があり、スリリングなレースになることを期待したい。

 

 

◎総合優勝候補

総合優勝は、二つのTTでのタイム差は大きく影響しそうだ。逆にTTスペシャリストもそれなりに登坂できれば総合上位に絡む選手も出てくる。総合優勝争いは若手の活きのいい選手が揃っていて、ツールを見据えてというより今後の総合エースたちの勢力争いとしてみてもなかなか面白いと思う。

TTが得意といえば、レムコ・エヴェネプール。ジロは残念ながら悔しい途中棄権に終わったが、Covid-19からの回復具合が気になるところ。体調さえ良ければレムコの独壇場になる可能性もある。しかし一部報道ではジロから帰宅直後は発熱や気管支炎の症状で苦しんでいたとも言われていて、チームもスイスは調整だと表明しプレッシャーをかけないようにしているが、彼が元気であるなら本命から外す理由はない。復調していることを願ってる。

他にはTTが得意なGCライダーが有利という面では、先日レース復帰したアユソヴァインは状態が良ければ総合上位にくる。どちらも登坂能力・TT能力ともに高めでポテンシャルは相当上のライダーだが、体調面での不安があり、最後まで問題なく走れるかどうか。スケルモースベン・トゥレットの若手二人は今季一皮むけて期待値高め。総合優勝に絡んでも少しも不思議ではない。スケルモースは昨年ブレイクした22歳(レムコと同い年)のデンマーク人で、今年はさらに好成績を連発し、登坂力が問われるアルデンヌクラシックは3戦ともシングルリザルト(今年唯一)。UCIランクも17位まで上がりトップライダーの一人と呼べる。ツールでもエースとして走る予定。トゥレットは今年一気にブレイクしそう。ハンガリー総合2位、ノルウェー総合優勝と好成績連発中の21歳のイギリス人。アルペシンにいた時から注目していたが、イネオスに来て2年目の今季は成長が著しい。若手では今大会最年少のアイデブルックスもかなり期待していい。ここまでカタルーニャ総合9位、ロマンディ総合6位とすでに結果を残した「ネクスト・エヴェネプール」と呼ばれる逸材は、次世代の総合エース候補としてレースに出るたびに成長を感じさせる。

クライマーでは昨年総合2位になったイギータ、実績はこのメンバーでは最上位にいるバルデ、今年はエースとしてツールでの過去最高の成績を狙っているビルバオの3人は、山岳ステージで好成績をあげれば他の選手にタイム差をつけるほどの力を有しているが、得意ではないTTでのタイム差をどれだけカバーできるかが総合成績を左右する。少し年齢による衰えも感じ始めたウランもコンディション次第では上位を狙えるが、EFではパウレスが実質総合エースを担うだろう。昨年から好調を維持しているが、アムステルでの落車から調子を落としていて、その回復具合が気になるところ。

ルイ・コスタフルサンのベテラン二人は過去に好相性のレースで調子がよければ上位候補。ルツェンコヨン・イサギレは総合上位を狙える実力者だが、今季は好不調の波が大きい。GCライダーとして成長中のガルクロンは(どちらも若手といわれにくい年齢になってきたが)ツールに向けて弾みがつくような成績をあげたい。母国レースで好成績を狙うメーダーシュミットも要注目。ユンボは怪我をしたクライスヴァイクの代わりにツールを出場予定のケルデルマンがエースを担うだろうか。

 

 

 

◎スプリンター & パンチャー

スイスは伝統的にピュアスプリンターには優しくない。山が多いのでしょうがない。そんな中、登れるスプリンターもしくはパンチャーには、クラシックレースにも強いタフな選手が揃った。ということで今回も有力スプリンターとパンチャーをまとめてリストにしている。有力スプリンターでは、メルリールデマールグローヴスと登りを比較的苦にしないスピード自慢と、クラシックハンターでは脚質分類不能のファンアールトを筆頭に、ピドコックギルマイガルシアクラーウアナスン、登りスプリントに強いパンチャーでは、ヘルマンスヒルシアランブルと多士済済といえる猛者が揃った。若手では先日プロ初勝利したばかりのグレゴワールも楽しみなアタッカー。山岳以外のステージでは日替わりで実力者が集団スプリント(及び小集団スプリント)で優勝を狙う見応えがあるレースを期待できそう。他にもヴァントゥリニコカールといった登りスプリントでは上位狙える伏兵も多数。そしてスイスとは相性がいいサガンの復活も応援。元気なサガンが見たい。

逃げに乗ると面白いメンバーも多く、バッティステッラクラーウアナスンクイン・シモンズヒルシ等はスプリントになるよりも逃げに入った方がステージ優勝を狙える。まあ、そういうメンバーは危険なのでなかなか容認されにくいと思うが。

 

 

◎その他の注目選手

この表の中では、過去に好成績を挙げているシャフマンキュングデニスと、シェフィールドソブレロあたりも展開によっては総合上位に絡むかも。またファンイートフェルトは、注目したい若手有望株。

チームとしてはQ36.5チューダーの二つの地元スイス籍のプロチームには元気な走りを期待している。総合上位はなかなか厳しいだろうけど、どちらも加入初年度にしては十分な成績をあげていて、日増しに存在感は高まっている好チーム。さらに来季は大物加入を狙っていたりと楽しみな動きもあり注目したい。デンマーク王者のカンプはプロトンでも目立つジャージだ。

個人TTの優勝候補は母国レースでモチベーションも高いキュング。同じくスイスのビッセガーも上位候補。他にはファンアールトシェフィールドアスグリーンデニスソブレロカッタネオアルント、(表には入れていないが)プリースパイタスンMファンダイケトゥーニッセンボドナルジョエル・ズーター(チューダー)も上位候補。総合勢でTTが強いのはエヴェネプールスケルモーストゥレットアユソヴァインシュミットも強い。ビルバオパウレスウランケルデルマンも最終日でも総合成績が良ければ上位を狙える力はある。stage1はTTスペシャリスト向きで、登りがポイントになるstage8は総合系がやや有利になる。

最後に(あまり触れたくない話題でもあるが)先日バーレーンに移籍したばかりのティベーリも出走が決まり、良くも悪くも注目されそう。知らない方のために記述しておくと、才能(ロードレーサーとしての)は間違いなくあり、今年の序盤はツアーダウンアンダー総合8位、UAEツアー総合7位と、飛躍の傾向があった21歳のイタリア人だが、今年の2月に猫を空気銃で殺害して罰金刑を受けると当時所属していたトレックは20日間の出場停止と猫の保護団体へのボランティア活動を命じ、獲得賞金を同団体へ寄付させた。しかし先月、休止期間中の活動がふさわしくなかったとしてトレックは解雇。こういう問題児がプロトンでどういう扱いを受けるのか、また彼を雇用したバーレーンの意図はどうなのか、その辺りは嫌が応にも注目されるだろう。

 

 

◎過去の総合成績(2022年、2021年、2019年)

参考までに過去3年間の総合10位までと各賞(ヤングライダー・ポイント賞・山岳賞)を入れておく。所属チームは今季との比較も。2020年は新型コロナの影響で中止された。個人でトップ10に複数回入っているのは、ポッツォヴィーヴォが3回、フルサンシャフマンが2回。あまり重複している選手はいない。

出場選手で過去の優勝者はルイ・コスタ(2014、2013、2012年)のみ。

 

 

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