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ロードレース観戦ガイドのブログ

ツール・ド・スイス 2023|リザルト

 

6月11日から開催されたツール・ド・スイス。レースを振り返りますが、ロードレース界にとっても非常に痛ましい出来事が起きた。バーレーン・ヴィクトリアスに所属するジーノ・メーダー選手が事故により帰らぬ人になった。

心からご冥福をお祈りします。

*表内の選手のUCI世界ランクと年齢は2022年12月末時点。

 

 

 

 

◎レース結果:総合トップ10

総合優勝したのはトレックの総合エースに成長したスケルモース。これがワールドツアーでは初の総合優勝だが、このブログを読んでくれてる方にはご存知の通り、昨年から僕は推しまくっている選手なので、総合優勝は「ようやくか」と胸をなでおろしている。むしろ世間の評価が今まで低すぎたとさえ思っている。これでツールに弾みもつくが、3週間にわたる激しいレースを乗り切るタフさ、強敵との駆け引きなどはまだまだ成長が必要。だが彼はまだ22歳。それにしても、ヴィンゲゴーといい、スケルモースといい、近年のデンマークからは有望なGCライダーが続々と出てきて羨ましい。これまではルーラー系の選手が多かったのが(山がないお国柄なので)これだけ優秀なクライマーが複数出てくるのは何か理由があるはずで、日本人選手の強化へのヒントもありそうに思ったりする。

個人的今大会の最大のトピックスはアユソの開花だ。もちろん、昨年初出場したグランツールブエルタでの快進撃も含めて最高レベルの才能があるのは理解していたが、そのポテンシャルの大きさは僕の想像を超える次元だった。“天才”が“怪物”であったことを証明したのだ。クイーンステージの登坂で一人抜け出すと、そのまま超強力な先頭グループをごぼう抜きし、総合上位勢による追走グループにも1分近く差をつけてしまうヒルクライムは圧巻。更に最終ステージの個人TTではレムコを軽く上回ってしまうという非常識な暴れっぷり。それも膝を故障した病み上がりでこのパフォーマンス。彼は間違いなく、ポガチャルとヴィンゲゴーを力づくで倒せる可能性がある。これで、まだ20歳。完全体になる頃はどんな選手になっているのか…。ロードレースファンとして残念なのは、アユソがUAEというチームにいることで、ポガチャルとの対決は望めないことだ。悩ましい。

レムコはCovid-19陽性からの復帰レースとしてはまずまずだろう。山岳ステージでは毎回遅れ、得意のTTでも抜かれたり(アユソを褒めるべきだが)、ジロの開始時と比べれば9割くらいの状態だったが、完全復活に向けての手応えは彼も感じとれたことでよしとすべきか。そして、そんな状態でのstage7でメーダーに捧げた勝利は、本当に本当に立派だった。4位ケルデルマンも状態は良さそうで、ツールでも重要な局面でヴィンゲゴーをしっかりアシストしそうだ。5位バルデ、6位ウランのベテラン二人も悪くない。得意ではないTTもあったためこの順位だが、山岳ステージでは総合上位勢の中で遜色ない走りを見せていた。ツールではもうひとつ上のレベルが求められるが、この二人はそれも織り込み済みだろう。7位アイデブルックスは見事と言うほかない。アユソよりもひとつ若い彼は、これで今年走ったステージレースは全て総合トップ10に入っているという驚異的な好成績。20歳で過ごすシーズンとしてはポガチャルに匹敵するレベル。グランツールデビューの今年のブエルタでは台風の目になるかもしれない。8位ガルも好調と成長を証明する成績。山岳は表彰台の3人と同レベルでこなしたが、TTで大きく差がついたのは課題。ツールではサブエースとしてオコーナーの強力な援軍になる。9位Dトゥーンスは、イスラエルに移籍後一番といっていい成績。彼もstage6のレース前にメーダーの母親とハグしていたし、昨年途中までバーレーンに所属していたのでメーダーにも感じる思いもあったと想像する。10位アロルド・テハダは個人的には予想外だった。アスタナに所属する26歳のコロンビア人はプロ未勝利ながら2019年のラヴニール総合優勝者で期待されつつ伸び悩んでいた印象。このスイス総合10位は現時点ではキャリアハイといえる成績だが、昨年はロマンディやポローニュなどステージレースで総合20位以内に入るなど上位に絡み始めていた。一皮むけるとアスタナにとっては嬉しい。

 

 

◎ステージ優勝者

◆Stage1:6月11日/個人TT

優勝:キュング/2位:エヴェネプール/3位:ファンアールト

ど平坦でパワー系TTスペシャリストが有利なステージは、キュングが母国最大のレースで念願のステージ優勝。2位に入ったレムコファンアールトよりも上という結果は、レムコが思ったよりも順調に回復しているのかファンアールトがいまひとつ不調だったのか、判断は保留。このライバル意識むき出しの二人によるベルギー選手権の直接対決が更に楽しみになってきた。

 

 

◆Stage2:6月12日/丘陵

優勝:ギルマイ/2位:デマール/3位:ファンアールト

ロンドで負った怪我から復帰したばかりのギルマイが、早速復活の勝利。ようやく調子を上げてきたデマールと、ツールに向けて調子を上げていってるファンアールトを向こうに回して堂々とスプリントで勝てる選手はそう多くない。ギルマイはかなり期待してもいいだろう。4位以降はビットナーサガンメーウスガルシアアランブルと続く。リーダージャージはキュングが継続。

 

 

◆Stage3:6月16日/山岳

優勝:スケルモース/2位:ガル/3位:アユソ

序盤にして、早くも総合争いが大きく動く。山頂フィニッシュは残り7kmをきってからレムコがアタックし集団がバラバラに。さらに2kmあたりからガルスケルモースが飛び出して他を圧倒。レムコは追走グループに吸収される。まだ本調子ではないのだろう。最後はガルも突き放したスケルモースがステージ優勝し、リーダージャージも手に入れた。2位以降は、ガルアユソレムコアイデブルックスと続き、5位までは全員ヤングライダーという新時代を感じさせるメンバーに。

 

 

◆Stage4:6月14日/山岳

優勝:ガル/2位:エヴェネプール/3位:スケルモース

前日果敢に登坂でアタックするもわずかに及ばなかったガルが山岳ステージでまたもやアタック。残り20kmでメイン集団を飛び出すと、その勢いのまま逃げグループをパスして単独で先頭に。メイン集団ではバルデが再三アタックし積極的に追走をかけるも、先頭に立ったガルのペースは衰えず、見事そのままステージ優勝。意外にもプロ初勝利を遂げ、2位以下の後続には1分以上のタイム差もつけてリーダージャージも獲得。2位は追走グループでのスプリントでレムコスケルモースアイデブルックスと若い子たちが連日の上位独占。

 

 

◆Stage5:6月15日/丘陵

優勝:アユソ/2位:スケルモース/3位:ビルバオ

この日のレースは様々な意味で決して忘れられないものになった。アユソの衝撃的な勝利。序盤から逃げた大きな集団が次第に人数を減らして19名の超有力な逃げグループを形成。そのまま誰かがステージ優勝してもおかしくなかったが、残り14kmでメイン集団から抜けだしたアユソが一人で全員を抜き去ってしまった。これは絶好調も時のポガチャルでもできるかどうか、そのくらいの走りで2位以下に1分近いタイム差をつけた。総合上位勢だけの追走グループから抜け出したスケルモースが2位に入り、再びリーダージャージを獲得。

忘れられなくなった、もうひとつの理由。ゴール前のダウンヒルでシェフィールドとメーダーが落車事故。シェフィールドは補助されながら自力で動き救急車で病院に運ばれて、メーダーは意識がなくその場で蘇生措置を行い救急ヘリで病院に運ばれたとアナウンス後、続報は途絶える。

 

 

Stage6:6月16日/丘陵

レースキャンセル(追悼集団走行)

レースが始まる直前にメーダーの訃報が入った。レース主催者はメーダーのご家族と協議し、レースを続行することを決定。メーダーの母国であることからも、希望したのだと思う。レースではなく、最後の20kmを集団走行することになった。

「We ride for you Gino!」というメッセージと笑顔のメーダーの写真を載せた大きなプレートの下をバーレーンのチームメイトたちが横に一列に並んでゴールした。

 

 

 

◆Stage7:6月17日/丘陵

優勝:エヴェネプール/2位:ファンアールト/3位:コカール

この日は、メーダーの所属したバーレーンアンテルマルシェチューダー・プロサイクリングの3つのチームが撤退を決め、その他のチームのレースを継続するかどうかを選手個人と話し合い、合計で37人が未出走となった。走ることも走らないこともどちらも難しい判断であり、選手本人の意思を尊重しなければいけない。

この日も基本的にレースはなく、ゴール手前25km地点でタイム計測し(最後のダウンヒルを除外する配慮)、ゴールを含むすべてのボーナスタイムを無くした。選手たちは集団で走ることを申し合わせて同タイムフィニッシュ。最後の25kmだけ成績に関係のないレースになった。パウレスのアタックで形成された10名強の先頭グループから残り19kmでアタックしたのはレムコだった。数人が反応するが構わず高速で走り続け、独走でゴールを駆け抜けた。

胸に手を当て何度も天を指差しゴールするレムコは、走っているというよりも祈っているようであり、彼はアルカンシェルを着るライダーとして全選手を代表し、また自身も崖から転落して九死に一生を得た一人のライダーとして、メーダーとその家族に勝利を捧げた。彼自分の虹のジャージでスイスを走る姿は、虹の架け橋として一番ふさわしい勝利だと思えた。

 

 

◆Stage8:6月18日/個人TT

優勝:アユソ/2位:エヴェネプール/3位:スケルモース

レース前は、総合首位にいるスケルモースから4位のレムコまでわすか46秒しか差がない状態。最後に走る4人とも総合優勝の可能性があることで、最後まで目が離せない緊張感のあるレースになった。他を引き離してトップタイムを出した元デンマークTT王者のスグリーンを、メーダーとスイス代表でチームメイトだったビッセガが抜くと、ファンアールトもそれに及ばない。そのビッセガーのタイムをレムコが15秒も上回るが、直後にアユソがレムコを8秒も上回り更新。最後のスケルモースが猛烈な追い上げでゴールしレムコにわずか1秒届かない3位ながら、タイム差を守り総合優勝を決めた。

 

 

予想結果:総合優勝候補 & その他

予想結果についての評価は今回は保留で。stage6はレースキャンセルになり、stage7以降はバーレーン、アンテルマルシェ、チューダーの3チームが撤退。他にも多くの選手がリタイアし、総合順位も純粋には見れないからだ。そんな状況ではあるが、トップ10のうち8人はリストアップし、スケルモースアユソレムコの上位3人は星3つつけた予想だった。イギータはかなり調子を落としているようで心配だ。パウレスルイ・コスタあたりもツールを控えて不安な状態。

 

 

 

 

◎予想結果:スプリンター & パンチャー

スプリンターが勝負できるステージは少なかったので、ある意味想定内の結果ではあります。ステージ優勝をしたギルマイは好調そう。ポイント賞を獲得したファンアールトもまずまずか。彼に求められるハードルは高いので、ツールに向けてはここからさらに状態をあげていきたい。ヘルマンスピドコックグレゴワール、アランブル持ち味を発揮していた。Dトゥーンスは総合9位と予想外に健闘。イスラエルは先日のジロからチーム全体が登り調子か。また最終的にリタイアしたが、デマールはツール欠場が決まった。ここ数レースは調子が戻りつつあったとはいえ、今シーズン前半は状態が悪かったこともたしかで、チーム内での不協和音も含めて今季いっぱいで退団予定と報道され後味は良くない。

*リザルトでブルーになっている枠はポイント賞の順位。0ポイントの選手はグレーで総合順位である。

 

 

◎その他・雑感

総合成績でも触れたが、今大会は個人的にはアユソが怪物になった大会として記憶しておきたいと思っている。そして、やはり、どうしても、このレースで起こった悲劇は語っておくべきだとも思う。バーレーン・ヴィクトリアスに所属していたジーノ・メーダーの事故について──。

stage5のゴール前のダウンヒルで高速で降りている途中、カーブを曲がりきれずにコースを外れて落車、意識不明のまま救急搬送され、懸命の治療と多くの関係者やロードレースファンの願いも虚しく、帰らぬ人となった。まだ26歳だった。

 

SNSを中心に多くの弔意と悲しみの声があげられる中、様々な意見も飛び交っている。中でも「ロードレースという競技の持つ危険性」については、多くの議論が起きている。

少しだけ私見を述べさせてもらう。

まず、ロードレースから危険性を完全に排除することは残念ながら無理である。ロードレースでリスクを避けることが全てを優先するならば、雨が降ったり風が強くなったりしたらレースは全部中止、それこそパヴェで有名なパリ〜ルーベなどは真っ先に廃止しなければいけない。僕たちは、そんなことを望んでいるのだろうか?

今回の事故も不運が重なって起きたものだ。“不運”の一言で済ますつもりはないけれど、じゃあ、同じ場所で同じように落車したシェフィールドとメーダーに生死を分ける“不運”以外の差はあったのか。

 

これらについては長くなるの別の記事を書いた。センシティブな内容も含むが、ロードレース愛情を注ぐ方には、できればご一読いただきたい。

 

 

最後に、ロードレースファンに向けて。

今回の事故で多くの方が精神的にショックを受けたと思う。もうレースを見たくないならば、無理はしないでほしい。見ないことも選択です。それでも、ジーノ・メーダーという聡明で勇敢な青年がいたこと、彼の笑顔や走りを記憶し続けてほしい。彼はロードレースという競技を愛していた。リスクも含めて。

だから、できればロードレースは嫌いにならないでほしい。

 

天国にいるジーノに、心からご冥福を祈ります。

 

 

 

◎レースプレビューはこちら

jamride.hateblo.jp