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クリテリウム・デュ・ドーフィネ 2023|リザルト

 

6月4日から開催されたクリテリウム・デュ・ドーフィネ】ツール・ド・フランスの前哨戦として、ツールに出場予定の選手を中心に成績を振り返る。現状のGC(ステージ総合)におけるチームの勢力図が見えた大会だったと思う。

*表内の選手のUCI世界ランクと年齢は2022年12月末時点。

 

 

 

 

◎レース結果:総合トップ10

総合優勝は昨年のマイヨジョーヌヨナス・ヴィンゲゴー。全く他を寄せ付けないほどの強さだった。得意のTTで優位に立つと山岳ステージでは自ら主導権を握り、すべてのステージの登りで別次元といえる登坂能力を見せつけた。二つのステージを勝ち、2位以下につけたタイム差は2分23秒になり、これはワールドツアークラスのステージレースにおける過去20年間で最大のタイム差である。2位アダム・イェーツ、3位ベン・オコーナー、4位ジェイ・ヒンドレーの3人はツールに向けて順調な仕上がり具合。ここから更に順位を上げるには、コンディションを整えることと各ステージでの戦略をどれだけ構築できるかにかかっている。5位ジャック・ヘイグは個人的にはサプライズ。なにしろ直前までジロを走っていて疲労が残っているとばかり思っていたので、これだけの成績を残したことは驚きであった。6位ギョーム・マルタン、7位ルイス・メインチェも調子の良さを感じさせた。どちらもそれほどTTが得意でないことを踏まえると、なかなかの好成績。8位のトーステン・トレーエンもサプライズ。27歳のノルウェー人は、今季バレンシアナ総合14位、アルプス総合10位と好成績を積み上げ、GCライダーとして成長中である。遅咲きの選手になれるか。ただしプロ未勝利でトップ10にすら入ることが少ない(今年はここまで31レースで総合を除けばトップ10以内は3回のみ)。優勝争いには絡まないが、終わってみるとそこそこの成績を残すというタイプ。何かひとつ勝てる武器ができると一気に成績は跳ね上がると思う。9位カルロス・ロドリゲスは怪我からの復帰レースとしてはまずまずといったところ。昨年のようなコンディションに戻れれば総合上位争いできる。10位にはジュリアン・アラフィリップが入った。昨年から不調が続いていたが、ステージ優勝もあげて、ようやく“らしさ”が戻ってきた印象。総合成績上位は狙っていたというよりもオマケみたいなものと思っているが、ツールを走るフランス人として華やかさが抜群の存在なので、人気者の彼が元気だとレースは盛り上がる。

ヤングライダーは総合9位になったカルロス・ロドリゲス、ポイント賞はステージ2勝を上げて春からの好調を維持しているクリストフ・ラポルト、山岳賞はクイーンステージの山頂フィニッシュを制したジュリオ・チッコーネだった。チッコーネはCovid+19陽性によって出場を断念したジロ後、好印象の復帰レースとなった。

チームとしてはユンボがステージ4勝と圧倒し、またフランス人とデンマーク人がそれぞれステージ3勝づつで、それも今年のレースの勢力図を感じさせる。

 

 

◎ステージ優勝者

◆Stage1:6月4日/丘陵

優勝:ラポルト/2位:トレンティン/3位:ヘレホーツ

最後までハラハラしたレースだった。優勝したラポルトには申し訳ないが、3位に入ったヘレホーツを応援していた。序盤から逃げた5人のうち4人は残り5kmで全員吸収されたが、ヘレホーツだけ必死に抵抗し、集団と5秒差になってからも粘って少しづつ差を広げていく。最後25mで集団に飲み込まれ3位に終わったが、彼のチャレンジは多くの観戦者が惹きつけられた。リーダージャージはラポルトが着用。

 

 

◆Stage2:6月5日/丘陵

優勝:アラフィリップ/2位:カラパス/3位:テスファツィオン

前日同様スプリンターは登り箇所で脱落。残った集団でのスプリント勝負となったが、登り基調のゴールで各チームのトレインは形を成さず混沌とした中、勢いよく飛び出したカラパスに食いついて後ろからするりと抜けだしたアラフィリップが見事にステージ優勝。4位に入ったラポルトがリーダージャージを継続。

 

 

◆Stage3:6月6日/丘陵

優勝:ラポルト/2位:トレンティン/3位:メンテン

スプリンターを抱えたチームがやる気を見せて、逃げを許さず集団スプリントに持ち込む。終盤は複数箇所で落車が発生し、最後に有利なリードアウトトレインを組んだのはボーラだったが、肝心のサム・ベネットに力強さが足りない。後ろから抜いていったのはラポルトで、見事なステージ2勝目。なお2着・3着でゴールしたサム・ベネットフルーネウェーヘンは、ゴール前での斜行と危険行為により降着扱いになったため、4・5着だったトレンティンメンテンが2・3位に繰り上がった。

 

 

◆Stage4:6月7日/個人TT

優勝:ビョーグ/2位:ヴィンゲゴー/3位:カヴァニャ

今季好調のビョーグが念願のプロ初勝利。終盤緩やかに登り続ける区間では誰も寄せ付けないタイムを叩き出し、過去U23世界選手権TT王者として本領発揮と言える印象的な好走だった。大柄なTTスペシャリストが上位の中心になる中、総合勢ではヴィンゲゴーがさすがの2位。5位オコーナー、8位アダムと、総合勢では好成績を残したが、それでもヴィンゲゴーとは30秒以上離されてしまう。リーダージャージはビョーグに移動。

 

 

◆Stage5:6月8日/丘陵

優勝:ヴィンゲゴー/2位:アラフィリップ/3位:Tヨハンネセン

ヴィンゲゴーが山岳ステージが始まる前に“動いた”。TTで大きく遅れたカラパスが最後の2級山岳で仕掛けて逃げグループを吸収、そのままヴィンゲゴーを引き連れてアタック。しかしヴィンゲゴーがもう一段ギアを上げるとカラパスは力なく遅れ、そこから残り16kmは独走。坂を下った後は追走集団が懸命に追いかけるが、ヴィンゲゴーは30秒以上のタイム差をつけてゴールし、マイヨジョーヌも獲得。2位には追走グループのスプリントでアラフィリップが入り、調子の良さを感じさせた。

 

 

Stage6:6月9日/山岳

優勝:ツィマーマン/2位:ビュルゴドー/3位:カストロビエッホ

本格的な山岳ステージが始まり、有力選手が揃った逃げグループをユンボは容認。逃げグループの中から最終的に抜けだしたツィマーマンに、ゴール直前でビュルゴドーが追いつくも、マッチスプリントでツィマーマンが勝利。メイン集団はユンボのペースアップで脱落する選手も出て、20人弱まで縮小。最後は総合上位勢を中心に集団でゴール。チッコーネオコーナーAイェーツが集団先頭でゴールして翌日以降への意気込みを感じさせた。ヴィンゲゴーがリーダージャージをキープ。

 

 

◆Stage7:6月10日/山岳

優勝:ヴィンゲゴー/2位:Aイェーツ/3位:ヒンドレー

獲得標高が4000mを超えるクイーンステージは、またもやヴィンゲゴー劇場に。最後の登坂でユンボベノートヴァルテルが牽引すると総合勢も次々に遅れていき、残り5kmでヴィンゲゴーが加速するともう誰もついていけない。この日も2位以下に41秒以上の差をつけてゴール。総合タイムでも2分以上の差をつける圧勝。2位以降はAイェーツオコーナーヒンドレープールと続き、総合順位も大きく変動。プールはヤングライダージャージを獲得した。

 

 

◆Stage8:6月11日/山岳

優勝:チッコーネ/2位:ヴィンゲゴー/3位:Aイェーツ

序盤から有力選手が揃う逃げグループが形成され、その中には誕生日を迎えたアラフィリップも。超級二つの登坂では逃げグループ、メイン集団ともにバラバラと遅れていく選手も。じわじわとタイム差を詰められていく逃げグループから、残り20kmでチッコーネが単独アタック。そのままゴールしステージ優勝、今季3勝目。メイン集団はゴール手前の1級山岳で総合上位勢に絞られて、最後の激坂でもやはりヴィンゲゴーが強かった。2位でゴールしたヴィンゲゴーはここでもタイム差をつけて、最後まで全く隙を見せずに余裕の総合優勝、3位以降はAイェーツオコーナーマルタンヒンドレーと続いた。

 

 

◎予想結果:総合優勝候補ほか

予想精度は、傾向としてはそれほど悪くはなかった(トップ20のうち13人はリストアップ)が、トップ10の7割くらいは上位10人に入れておきたかったところ。ツメが甘い・笑 ただし総合上位での落車や怪我のトラブルは少なかったのは予想面でも、この後に控えるツールを考慮してもよかったかな、と。ゴデュマスランダの不調は予想外で(これだけいれば一人二人は不調のライダーはいる)、カラパスヨルゲンソンの不調は予想範囲内で、ヘイグの活躍(ジロ直後でこの成績は凄い)と、レニー・マルティネスマックス・プールの活躍は想像以上だった。この後のツールを睨んだ予測については、後述する《その他・雑感》に記載します。

上記の総合トップ10に入ったライダー以外で目立った活躍に触れておくと、現在も“リハビリ中”である印象のベルナルも着実に復調気配。ロマンディ総合8位、ドーフィネ総合12位は少しも悪くない立派な成績。彼に今必要なのは何よりも“自信”と“時間”なのではないかと考えている。イネオスなので、その辺はぬかりはないと思うが。けが人続出の苦しいチーム状況の中で、ジロで大人の走りと頼り甲斐を見せたGトーマスベルナルの復活傾向は明るい話題。

 

 

予想結果:スプリンター & パンチャー

平坦ステージはなかったため、ピュアスプリンターにはいいところがなかった中、ステージ2勝をあげてポイント賞も獲得したラポルトは好印象。昨年同様ファンアールトと組んでツールでも大暴れしそうな気配はじゅうぶん。スプリンターではないが、トレンティン、ジングレ、ライトは何度もステージ上位になり持ち味を発揮していた。個人的に少し心配なのはサム・ベネット。今回ステージ優勝を狙うには厳しいコースが多かったとはいえ、この大会に限らず今季の状態は悪い。現在プロトン最強クラスのDファンポッペルのリードアウトが宝の持ち腐れ状態で、このままでは来季の契約も厳しい可能性が高い。応援している選手なので、ツールで奮起することを願う。

*リザルトでブルーになっている枠はポイント賞の順位。0ポイントの選手はグレーで総合順位である。

 

 

◎その他・雑感

今回の雑感は、この結果を踏まえたツール・ド・フランスについて。スプリンターはあまり参考にならないのでGCの感想。

まずはヴィンゲゴーの強さとユンボのチーム力の高さは際立っていた。ヴィンゲゴーは個人TTでの優位性をより強化し、自慢の登坂力も他の総合エースたちよりも一歩も二歩も上を行ってる印象。長めの登坂ではライバルたちはダンシングでも苦しむ中、自らシッティングで差をつけていく姿は一人だけ別次元にいるようで、激坂でのアタック能力も研ぎ澄まし、山岳ステージの終盤でも常に余力を残していた。ステージ2勝をして好調ラポルトと、ここに大車輪の働きをするファンアールトと最強山岳アシストのクス、スイスで総合4位に入ったケルデルマンが加わると思うと他のチームとは明らかに戦力が違う。また彼ら全員のフォア・ザ・チームの姿勢も違うレベルにある。レースの最終盤でヴィンゲゴーが自ら集団先頭で牽引してラポルトの勝利をお膳立てする様子は、彼のありあまる余力とチームメイトへの想いの強さに他ならない。

また対抗馬としてのUAEの強さも感じられた。ヴィンゲゴーに大差をつけられたとはいえ総合2位に入ったAイェーツと最終盤で彼を支えたイカも二人の調子の良さは大会ナンバー1といっていいし、ツール本番ではその二人がポガチャルのアシストになる。ステージ優勝をあげたビョーグの好調など、チーム全体での強さはユンボに匹敵する。トラブルがなければ、今年のツールはヴィンゲゴー(ユンボポガチャル(UAEの一騎打ちになるのはほぼ間違いない。

他のチームでは、オコーナーAG2R)、ヒンドレー(ボーラ)は総合上位を狙える調子の良さを感じ、マルタンコフィディス)、インチェ(アンテルマルシェ)も悪くない、というか調子は良さそうだ。チッコーネ(トレック)も病み上がりと思えばむしろ調子は悪くないし、そもそも彼は今年の初めに「グランツールでは総合は狙わない」と言っていて、トレックはスイスで総合優勝したスケルモースが総合エースになる。さらにピーダスンがマイヨヴェールを狙っていたり、注目度が高い選手が揃いそうだ。

少し心配なのは、ゴデュ(グルパマ)、ランダバーレーン)、マス(モビスター)。3人とも調子を崩していたのは明らかで、ツールに向けて不安を残した。最後までリタイアせずに走りきったのは救いだが、状態を上げてくることを期待したい。またここ数年グランツールでは常に王者として君臨してきたイネオスは戦力の未成熟さを感じざるをえない。病み上がりのカルロス・ロドリゲスベルナルに多くを期待するのは酷であるが、ダニエル・マルティネスの不調は失望レベル。今年は若手の戦力強化に充てると割り切っているのだろう。それはAイェーツとカラパスという二人のエースを昨年手放したことから想像はしていた。ジロではチーム全体で頑張った分、ツールはピドコックガンナ等を加えてステージ優勝狙いが精一杯かもしれない。他にはツール・ド・スイスに出場している選手として、ガルAG2R)、ビルバオバーレーン)、ウラン(EF)はツールも期待していい状態の良さを感じた。

なおジロ前に書いた記事だが、ツールに出場する選手の今季の成績についてはこちらも参考になると思う。

 

 

stage4の個人TTは、カヴァニャEヘイターネルソン・オリベイラトマヴァーノンが優勝候補。ビョーグポリッツダーブリッジカンペナールツクラドックラトゥールライトジングレファンバーレあたりも調子がよければ上位候補。総合勢ではヴィンゲゴーが頭一つ抜けて強い印象。他にはアダム・イェーツダニエル・マルティネスヨルゲンソンカルロス・ロドリゲスも上位候補になる。オコーナーヴァルテルも悪くはない。ゴデュマスもTTは改善傾向にあるのでちょっと期待したい。

個人TTについては、上記の通りかなり好予想だったかなと。予想精度があがってきたというか、まあ、順当な結果だったとも思う。

 

 

◎レースプレビューはこちら

jamride.hateblo.jp