ロードレースみるひと

ロードレース観戦ガイドのブログ

ツール・ド・フランス 2023|見どころ

 

7月1日から開催されるツール・ド・フランス。世界一有名なレースを4回にわたって紹介する第2弾は、レースの注目ポイントの紹介。見どころは数限りなくあるのだが、その中でもこれは外せないという部分、ライバル対決や期待される記録、見ておくべき選手などをまとめました。

 

◎出場選手まとめはこちら。

 

◎ステージプロフィールはこちら。

 

◎過去の成績まとめはこちら。

*選手のUCI世界ランクと年齢は2022年12月末時点。

 

 

 

 

◎ポガチャル vs ヴィンゲゴー

現役最強のGCライダー二人のマイヨジョーヌを巡る対決は、やはり今大会の最大の見どころ。世界で一番賞賛される黄色の名誉を、過去2年間に渡り彼らは分け合ってきた。2021年:1位ポガチャル・2位ヴィンゲゴー/2022年:1位ヴィンゲゴー・2位ポガチャルで、今年が3回目の対決。ともに総合系のライダーではトップクラスのTT能力に加え、歴代クライマーと比較しても上位に入る登坂能力、そして現在最強のチーム同士である。この二人は今後の成績によっては歴史に名を残す偉大なライダーになりえ、二人の対決は後世に語り継がれる名勝負になるかもしれない。

特にポガチャルの戦歴は華々しい。2020年初出場したポガチャルは当時最強と思われたログリッチを衝撃的な個人TTの走りで逆転して総合優勝を果たすと(おかげで少々悪役感も出ちゃったが)、その後は出場するレース全てで“無敵”状態でライバルたちを蹴散らし、ステージレースだけでなくクラシックレースでも大暴れ。リエージュロンバルディア、ロンドとすでに3つもモニュエントを手にしてしまった。現代屈指のパーフェクトなライダーといっていい存在。もはや人類では勝てないと世間も諦めはじめたところに、貴公子のような佇まいで現れたのがヴィンゲゴーだった(当方のイメージです)。2021年のツールで、前年のリベンジを期すログリッチのアシストだったヴィンゲゴーは、エース・ログリッチのリタイア後、総合2位まで成績を上げると、ついに昨年は力づくでポガチャルを倒して、ユンボに悲願のマイヨジョーヌをもたらした。

二人の特性と成績をチェックしてみよう。*主観に基づいています。

今季は二人とも絶好調である。ポガチャル14勝、ヴィンゲゴー12勝はお互いに勝ち過ぎと思えるほど。直接対決はパリ〜ニースのみで、チームTTだったstage3以外は全ステージでポガチャルが先着した。ライダーとしての純粋な能力では現時点ではポガチャルに分があるように思える。ただし、そこからヴィンゲゴーは順調にコンディションを上げて、前哨戦であるドーフィネでは2位に2分以上の大差をつける圧勝劇で仕上がりの良さを見せている。かたやポガチャルは春のクラシックに参戦しクラシックの王様ロンドを制するとアルデンヌ3連戦でもアムステル、ワロンヌとどちらも圧勝したが、最後のリエージュで落車し手首を骨折。スロベニアツアーを欠場するなど予定通りに調整できない不安があったが、先日スロベニア選手権に出場しRR・TTともに勝利して故障の不安はさほど感じられない。二人のアシストにも目を向けると、ポガチャルには過去2年に渡り苦しい最終局面を見事に支えたマイカに加えて(2022年はマイカのリタイアがポガチャルには痛かったとも思える)今季から加入しドーフィネで総合2位に入ったアダム・イェーツという心強い味方が増えた。ヴィンゲゴーには最強の山岳アシストのクスや脚質ファンアールトといった昨年のマイヨジョーヌを支えたメンバーが中心になり、こちらも文句なしの充実ぶり。監督含めスタッフにはややユンボの方が強みを感じるが、それほどの差はないと見ていい。総合争いは昨年と似たような展開が予想される。ボーナスタイムなども積極的に取ってリードを奪おうとするポガチャルに対して、ヴィンゲゴーは狙い澄ました一撃をどこかで放ってくる。ポガチャルはstage16の個人TTの前にリードをしておきたいし(可能ならば1分以上)、ヴィンゲゴーは逆に2週目のstage13〜15のアルプス三連戦で勝負をかけてきそうに思う。

この二人にアクシデントがなければどちらかが総合優勝で、他チームのエースたちは総合3位争いになると思っている。そのくらい二人は別次元にいる。その他の総合優勝候補は出場選手まとめのページを参照ください。

*追記:ブログを書いた後、ポガチャルの手首はまだ治りきってなく、UAEはアダム・イェーツとWエース体制になるとの報道されたが、それでもポガチャルは強いと思ってます。

 

 

◎ステージ優勝の最多記録

マーク・カヴェンディッシュ(アスタナ)にはツール歴代最多勝の記録がかかっている。ここまで積み重ねた勝利数は通算34勝で、御大エディ・メルクスに並んでいる。単独最多になる35勝目をかけて、最後のツール(彼は先日ジロ期間中に今シーズン限りでの引退を発表)に出場する。正直なところでいえば、勝てる可能性は決して高くない。カヴ自身もピーク時よりも衰えもあるし、アスタナのリードアウトは他のチームよりも数段劣る。ジロの最後のステージはドラマチックな勝利があったが(元チームメイトのGトーマスのゴール前での友情牽引!)、今年のジロとツールでは、はっきり言ってスプリンターのレベルが全く違う。ジロはサブエースクラスばかりで、ツールはトップのエーススプリンターばかりだ。カヴは今季57レースを走り(これは脅威的な数字だ)わずか1勝。トップ10に入った回数も8回しかない。他のエースたちを見てみると、フィリプセンとフルーネウェーヘンが6勝、ヤコブセンが5勝、ラポルト4勝、ピーダスン、コカール、ウェルスフォード、コルトが3勝をあげている。他にもファンアールト、ギルマイ、クリストフなどライバルになりそうな選手は枚挙にいとまがない。

思えば今シーズンも波乱の連続だった。前所属チームのクイックステップではヤコブセンがスプリントのファーストエースを担うため、ツールへの出場は実質不可能だったため、B&Bホテルズへ移籍を決めたが、チームは資金難により消滅。その頃は他のチームはすでに所属ライダーは決まり、空きがない状態。そこに舞い込んできた幸運は、アスタナにミゲルアンヘル・ロペスとの契約解除によって、その分選手の枠と資金ができたこと。さらにアスタナにはUCIポイントを稼げる選手が少ないことからカヴに白羽の矢がたった。もともとスプリンターのチームではないため、リードアウトは心許なく、ケース・ボルもカヴのリードアウト役として引き入れた。ツールに出場できるだけでもちょっとした奇跡なのだ。

だけど、思い出してみよう。2年前にカヴがツールに出場した時も、彼が勝てると思った人はほとんどいなかった。それが、なんとステージ4勝をあげた。最後まで諦めない不屈の闘志がある限り、勝利のチャンスはきっとあるだろう。

ちなみに、ツールステージ優勝の現役で2番目に多いのはサガンの12勝で(サガンも今年で引退)その次はポガチャルとファンアールトの9勝だ。彼らがその記録に追いつくには仮に毎年3ステージで優勝してもまだ8年もかかる。

 

 

◎至高のライバル対決(ファンアールト vs マチュー)

最高のライバル対決も見逃せない。シクロクロスも入れれば10年もの間、世界一を競う場面で勝ったり負けたりを繰り返しているワウト・ファンアールトユンボ)とマチュー・ファンデルプール(アルペシン)。今年のクラシックでの対決も本当に素晴らしかった。しかし、このツールではガチの直接対決はあまり多くない。それは二人の所属するチーム状況と彼らの役割に違いがあるからだ。

マチューにはかなりの自由があり、自らのステージ優勝のためにエースとして動く場面がある。登り基調のゴール、あるいはゴールの直前で激坂があってスプリンターが振るい落とされるようなステージでは勝利を狙うだろう。もうひとつの役割はチームのエーススプリンターであるフィリプセンのリードアウトだ。現在最強リードアウトはクイックステップモルコフ(エースはヤコブセン)とDファンポッペル(エースはサム・ベネットだが今大会は未出場)ということに異論はないと思うが、マチューはそれに匹敵する可能性がある。今年フィリプセンと出場したレースでは、何度も最高のお膳立てを見せている。

対してファンアールトユンボの総合エースであり連覇を狙うヴィンゲゴーのアシストという絶対的な使命がある。昨年はポイント賞を狙うと公言し見事に実行したが、ポイント賞と総合エースのアシストを同時に行うのは負担が大き過ぎた。今年はポイント賞は狙わないとすでに発言している。基本はあくまでヴィンゲゴーを守るため、山岳での登坂も含む下りでのアシストと、追走を行う時の牽引役が中心のはずだ。平坦ステージでは、ゴール手前3kmまでヴィンゲゴーを安全に運ぶことが最大の役割。その上で勝負できる展開ならスプリントに参加する(状況によってはラポルトでスプリント勝負)程度と予測される。他には登れるスプリンターが勝てそうなステージを積極的に狙っていくかんじか。TTも得意だが、今回は総合上位の選手たちに分があるコースだ。

そういった状況を踏まえると直接ステージ優勝を狙って対決するようなステージは、stage1・2・8くらいしかないかも。stage1は勝利=マイヨジョーヌであるため、二人ともかなり熱が入るだろう。他はstage12・19も展開によっては可能性があるか。そして、二人が勝利を狙うステージでは、ギルマイ、ピーダスン、アラフィリップ、ピドコックといった強力な選手たちも立ちはだかる。

 

 

◎ニューカマー

毎年、初出場の選手も大会の盛り上げにひと役を買う。なんといっても自転車選手なら誰もが憧れるレースで、出場するだけでも孫の代まで自慢できるほどの名誉だ。爪痕を残そうとする意気込みは推して知るべしである。

今年は32名がツール初出場(*6月26日現在)。最年少はカルロス・ロドリゲス(22歳149日/イネオス)、次いでマティアス・スケルモース(22歳278日/トレック)。ともにすでに総合成績上位を狙うほどの成績を期待される有望株で、堂々たるヤングライダー候補だ。ヤングライダーではないが、昨年のマリアローザジャイ・ヒンドレー(27歳57日/ボーラ)も満を持しての挑戦だ。他に総合系では、フェリックス・ガル(25歳124日/AG2R)も好成績を期待。

ステージ優勝の可能性があると思うのは(主観です)若い順に、コービン・ストロング(23歳62日/イスラエル)、ビニアム・ギルマイ(23歳90日/アンテルマルシェ)、アクセル・ジングレ(24歳195日/コフィディス)、サミュエレ・バッティステッラ(24歳229日/アスタナ)、サム・ウェルスフォード(27歳163日/DSM)、フィル・バウハウス(28歳358日/バーレーン)あたりか。人気者ではファンペドロ・ロペス(25歳335日/トレック)も昨年のジロのように暴れてほしい。。最年長の初出場者はエルマール・ラインダルス(31歳109日/ジェイコ)。こういう30歳を超えて初出場とかも夢があって、応援したくなる。

 

 

◎ラスト・ツール

前述したカヴェンディッシュ以外にも、今大会が最後のツールになるビッグネームが何人もいる。まずは、スーパースターのペーター・サガントタル)。殿堂入りクラスの活躍をしたちょっとやんちゃな人気者。ツールは今回で12回目。ポイント賞グリーンジャージ(マイヨヴェール)は7回も獲得した。この先破れることはないだろう。通算勝利数は129勝で、モニュメントは2勝(ロンド、パリ〜ルーベ)、そして世界一を3年連続。最強だった頃は今でいうファンアールトとマチューを足したようなライダーだった。トタルに移籍後はCovid-19に何度もかかりトップコンディションで走ったことがないほど苦難の時期を過ごしているが、集団の中でも存在感は唯一。華麗で天才的なバイクテクニックやファンサービスもあり、どこへ行っても人気者。昨年10月に突然新橋のSL広場に出現したときは日本でも話題になった(2時間ほどの差でニアミスした)。アンバサダーを務めるスペシャライズドのイベントで来日し、わざわざチームジャージ姿で都心を走ったのはまさに彼のサービス精神の賜物。まだ33歳という年齢での引退は惜しまれる。

 

二人目はティボー・ピノ(グルパマ)。フランスではおそらく一番の人気者である彼も(一番はアラフィリップかな?わからん)、今回で10回目のツール。2014年には総合3位になりパリで表彰台に上がって、それこそフランス中の期待を一身に背負うはめになった。しかし残念ながらそれが、彼にとっては不幸でもあったように思える。その後はトップ10にも入れず、DNFが3回、フランス国民からの期待に応えられず、心に大きな傷を負う。今年は総合成績のプレッシャーを感じることなく、楽しんで走ってもらいたい。それこそ、どこを走っても一番の歓声を浴びるだろう。総合は可愛がってる後輩のゴデュが表彰台を目指し、ピノはそのアシストだ。だが、ステージ優勝は狙っているはず。ツールのステージ優勝はこれまで4回。今年のジロは惜しい2位が2回もあった。ピノが今年もう一度勝てたら、たぶん僕は泣いちゃう。

 

もう一人はグレッグ・ファンアーヴェルマートAG2R)。ツールは今回で10回目の出場。今までステージは2勝している。通算42勝をあげた屈指のクラシックハンターは、ワンデーレースで無類の成績を残し、タフなレースほど強さを発揮した。代表格はパリ〜ルーベの制覇とリオオリンピックの金メダル。ロンドは優勝こそなかったが、4回も表彰台にあがった。東京オリンピックでのベルギー代表としてのあまりに見事な牽引はロードレースファンには記憶に新しいはずだ。前大会(五輪)の金メダリストでありながら、チームのエース(ファンアールト)のアシストとして一人で集団を150kmくらい引きまくった。また最近は良いパパのイメージがすっかり定着している(当社比)。

 

◎ファンアーヴェルマートの大好きなシーン。今年のパリ〜ルーベ完走後のパパ。

 

やっぱり、この4人(カヴ含む)が最後と思うとちょっと寂しくなっちゃうな。彼らの走りを最後まで目に焼き付けておきたい。

 

*追記:ブログを書いた後、ファンアーヴェルマートはメンバー変更でツールには出なくなったので彼も部分は削除すべきか悩んだが、今年で引退する彼へのリスペクトとして残しておきます。

 

ピノ(とゴデュ)については個人的に思い入れもあり、引退発表後にこんな記事も書きました。

jamride.hateblo.jp