ロードレースみるひと

ロードレース観戦ガイドのブログ

ツール・ド・フランス 2023|出場選手まとめ

 

7月1日から開催されるツール・ド・フランス。110回目を迎える世界で一番有名な自転車ロードレースは、今年もそれにふさわしい選手たちが揃った。活躍が期待される選手(覚えておいた方がレースを楽しめる)をピックアップした。今回はいつもと少し趣向を変えて、《総合優勝候補/スプリンター/パンチャー/クライマー/その他》というくくりで選手を選んでいる。

*表内の選手のUCI世界ランクと年齢は2022年12月時点。

 

◎ステージプロフィールはこちら

 

◎大会の見どころはこちら

jamride.hateblo.jp

 

 

 

 

◎総合優勝候補

優勝候補はポガチャルヴィンゲゴーの二人の争いになる(断言)。アクシデントさえなければ間違いなくその展開で、他の選手たちは総合3位争いになるだろう。そのくらい二人は別次元にいる。*二人の比較は「見どころ」紹介に記載。

その他の総合上位を狙う選手たちを見てみよう。今年のツールの大きな特徴として個人TTが1ステージしかなく、山岳が多いため、例年よりもクライマーが好成績を望めるステージ構成。バルデゴデュマスなど、あまりTTが得意ではない実績のあるクライマーはチャンス。

ツール前哨戦のドーヴィネで好調さを見せているライダーでは、オコーナーヒンドレーのオーストラリア人ライダー。オコーナーは3度目のツール。過去2回は総合4位とDNF。ドーフィネでは総合3位になるなど登坂での安定感は何よりも彼の武器。AG2Rでは成長中のガルも好調で上位を期待していい。昨年のマリアローザヒンドレーも調子を上げてきた。ドーフィネでは総合4位。ハマった時の登坂能力は他のメンバーに引けを取らない。サム・ベネットが直前でメンバーから外れるなど、ボーラは総合狙いにシフトしてきた印象。同様にデマールを外したグルパマも注目したい。母国フランスで人気の高いデマールを外したのは批判覚悟の布陣であり、ゴデュピノがわかりやすい結果を出さないといけない。総合とスプリントと二兎を追うより戦力を集中したのは、個人的には支持したい。ただ今季調子を落としていたとはいえ、長年チームに貢献したエースへの対応としてはデマールに同情もする。

チームとして面白いと感じるのは、バーレーンイネオスバーレーンビルバオランダWエース体制か、それともヘイグも加えたトリプルエース体制か。ビルバオはずっと好調を維持。スイスではメーダーの悲劇もありチームごとリタイアしたが、その時点で総合3位につけていて、33歳にしてキャリアハイのシーズンになりそう。同じく33歳のランダも今年はバスクカントリーの総合2位など6つのステージレースで総合トップ10に入る安定ぶり(ドーフィネだけ少し調子を落としていた)。だけど一番驚くのはヘイグだ。ジロを総合19位で完走後ドーフィネで総合5位に入り、そのまままさかのツール出場。どれだけ鉄人なのかと。イネオスは、カルロス・ロドリゲスがエースになると予想。とはいえ4月のレースでの骨折からドーフィネ(総合9位)で復帰したばかり。本来ならエースの働きが望まれるダニエル・マルティネスは不調が続き、かつてのマイヨジョーヌベルナルも完全復活にはまだ時間がかかる。現実的な目標としては総合トップ10以内とピドコックらのステージ優勝か。マスも今年で5回目のツールで、過去最高は総合5位。昨年終盤はポガチャルに勝つほどレベルが一段上がった雰囲気があったが、今シーズンここまではやや調子を落としている印象。特にドーフィネではいいところなく、コンディションに不安を残す。バルデは今回が10回目のツール。総合成績は最高が2位で、6回もトップ10に入っている。今季もスイスで総合5位になるなど決して悪くはないのだが、アシストも少なくトップ10以内が現実的な目標か。

台風の目になる可能性を秘めているのは、初出場のスケルモースアルデンヌクラシックでも結果を残し、前哨戦のスイスをレムコとアユソを下して総合優勝したのは大きな自信になった。何よりも積極的な走りは非常に魅力的。グランツールは昨年ジロに続いて2回目。普通ならまだ経験を積む段階だが、3週間沈まずに乗り切れれば総合上位も見えてくる。なおUCIランクは現在9位まであがってきた。実績では完全にトップライダーの一人である。ちなみにUCIランクで彼より上のGCライダーはポガチャルとヴィンゲゴーしかいない。好調であるチッコーネがアシストするのも好印象。

その他に総合トップ10候補になるエースは、マルタンウランメインティスサイモン・イェーツあたり。兄弟対決も楽しみなサイモンはロマンディで体調不良でリタイアしてからの復帰レースになる。前哨戦に出なかったのはあまりコンディションが良くないからか、総合よりは山岳ステージ優勝狙いを想像している。逆にドーフィネで総合2位に入ったアダム・イェーツは好調そうだが「ポガチャルのアシスト」を明言。同様にユンボケルデルマン(スイス総合4位)、AG2Rガル(スイス総合8位)もサブエースながら総合上位も期待できる。

◆総合優勝候補の優勝を予想するステージ:stage6・9・13・15・17・20

 

 

 

◎スプリンター

スプリンターも各チームのエースが揃い踏み。出場予定だったデマール(グルパマ)とサム・ベネット(ボーラ)はメンバーの選から漏れたが、スピード自慢のトップスプリンターたちは勢ぞろいといっていい。

フィリプセン(今季6勝:トップ10・10回/25レース*以下戦績は今季優勝数とトップ10回数)とヤコブセン(5勝:14回/41)がピュアスプリンターではトップ2か。フィリプセンは、パリ〜ルーベでも2位に入ったようにタフさにも磨きがかかり、速いだけでなくつよさを身につけている。トップスピードに乗ってしまえばヤコブセンに追いつける選手はいないが今季は集団に埋もれてしまうケースが少々目立つのは気になるところ。それに次ぐのが、フルーネウェーヘン(6勝:16回/45)、ユアン(1勝:13回/38)、バウハウス(1勝:11回/37)、ウェルズフォード(3勝:17回/39)、メーウス(1勝:16回/48)、若手ではストロング(0勝:10回/31)も注目している。しかし、マイヨヴェール(ポイント賞)争いとなると、ピーダスン(3勝:16回/32)が一歩リードか。それは“登れる”スプリンターとして、登坂基調のゴールや、ゴール前にスプリンターが脱落するようなステージでも好成績を残しそうだからだ。同様に登りもこなせるスプリンターでは、ライト(1勝:9回/33)、コカール(3勝:13回/49)、コルト(3勝:11回/51)、ラポルト(4勝:8回/17)、アランブル(0勝:11回/39)、クリストフ(2勝:8回/46)がいる。また調子があがってくればサガン(0勝:12回/40)も登れるスプリンターの元祖といえる存在だ。スプリンターではないが、ファンアールト(2勝:12回/23)とギルマイ(2勝:7回/29)も登坂がらみの小集団スプリントでは優勝候補であり、集団スプリントでも上位に入る力を有する。そして、カヴェンディッシュ(1勝:9回/64)には、歴代単独最多になるツールのステージ通算35勝がかかっている。ちなみにコルトはスプリンターのくくりではあるが集団スプリントよりは逃げグループでのスプリントで勝利するのが得意な勝ちパターン。ライトも同様。

集団スプリントでは、チームのトレインの完成度も勝敗に大きく影響する。最強リードアウト役候補を挙げておくと、モルコフ(エースはヤコブセン)、Dファンポッペル(メーウス)、マチュー(フィリプセン)、ストゥイヴェン(ピーダスン)、メズゲッツ(フルーネウェーヘン)、ヴァーレンショルト(クリストフ)などだ。ファンアールトラポルトの連携も強力。彼らはエースが埋もれたり遅れた時に、自ら勝負することもある。

◆スプリンターの優勝を予想するステージ:stage3・4・7・11・18・21

◆“登れる”スプリンターの優勝を予想するステージ:stage1・12・19

 

 

 

◎パンチャー

彼らもまたスプリンターと同じくらいステージ優勝を狙っている。登れるスプリンターと同じレースで勝負できるようなタイプとしてはマチュージングレピドコック。短距離の激坂ではアラフィリップDトゥーンスフライレラフェあたりが強い(激坂は総合勢のポガチャルスケルモースチッコーネ等も強い)。アップダウンがあるところで早めにアタックして逃げ切るのは、コスヌフロワクラーウアナスンモホリッチベッティオールベノートシモンズビュルゴドーティレルが得意。クラシックレースのようなアップダウンの続くステージは有力候補になる。

◆パンチャーの優勝を予想するステージ:stage1・5・8・10・12・14

◆クラシックハンターの優勝を予想するステージ:stage2・8・10

 

 

◎クライマー

ここで名前をあげるクライマーは、総合成績でも上の方にいてもおかしくない選手もいる。ルツェンコヨン・イサギレカラパスピノルイ・コスタバルギルチッコーネウッズは、総合でも実績のある実力者だが、今シーズンいまひとつ(総合では)成績がふるわなかったり今年はステージ総合は狙わないと公言しているので有料クライマーの括りに入れた。彼らはクイーンステージでも勝てるほどの力があり、早々に総合のタイム差が開くようだと逃げやすくなってステージ優勝には有利になるかも。(個人的にはカラパスは昨年のブエルタなどもそうしてステージ優勝を狙っていたと思ってる)。またクスイカは、難関山岳でも上位で走りきるトップクラスの登坂能力と経験値があるが、チームのエースのために登りの牽引をするため、ステージ優勝には縁遠く、総合ではそれなりに上位に入ることが予想される。ヘイグダニエル・マルティネスはどちらもアシストがメインになると思うが、実力が発揮できれば総合でも上位に絡む可能性もある。若手ではヨルゲンソンツィマーマンシャンプッサンファンヒルも成長を感じるクライマー。

この有力クライマー枠は、山岳賞の有力候補でもある。昨年惜しくも山岳賞を逃したゲシュケや、ベテランのLLサンチェスチャベスペドレロなども逃げに乗ると面白い。

◆クライマーの優勝を予想するステージ:stage5・6・9・13・14・15・17・20

 

 

 

◎その他の注目選手

個人TTでは、上の表に入れたメンバーがステージ優勝候補。各国のナショナル選手権TT王者も何人も名を連ねる。特に、キュングカヴャニャビョーグは好調を維持しているように見える。ただし、個人TTのステージは後半1/3は急勾配も含む登り基調。またグランツールの終盤にある個人TTは、総合上位勢の方がTTスペシャリストよりも好成績を出す傾向が強いのは、モチベーションの影響も大きい。今回も同様に(この表には入っていない)総合勢が優勝候補か。ヴィンゲゴー、ポガチャル、スケルモースカルロス・ロドリゲスケルデルマンイェーツ兄弟ダニエル・マルティネスは強い。スプリンターではコルトピーダスンライトもTT功者だ。もちろん、ファンアールトも強い。

◆TTスペシャリストの優勝を予想するステージ:stage16

 

最後に表の下部にアシストとしての最重要選手を表記した。総合成績も下から数えたほうが早かったりステージ優勝とは縁遠いが、チームに欠かせない功労者的な選手をどうしても名前を入れておきたかったのだ。汗かき役の働き者たちである。イネオスを支える何でも屋(褒め言葉)クフィアトコフスキ、昨年まではイネオスで4年連続してツールに出続け、今年は最強チームを屋台骨として支えるファンバーレ、チームというよりメイン集団の先頭でいつも牽いてる「トラクター」ことデクレルク、ワールドチームで平均年齢が一番若いチームで精神的拠り所でもある屈強な戦士デゲンコルプ。彼らはスポットライトを浴びたりしない。それでも彼らのような経験豊富な実力者たちが支えるチームが結果を残すのだ。

 

 

参考までに過去3年間の総合成績20位までと各賞(ヤングライダー・ポイント賞・山岳賞)をリンク先のページに記載した。情報量が多くなってしまったので別ページに。

jamride.hateblo.jp